【ひらブラ vol.55】快適な音ゲーをAndroidでも実現するための試み(Part.2)『遅延の自動推測(ADX2新機能)』
2015-02-27 12:00 投稿
今回のひらブラは、Androidの音声再生レイテンシ問題の話。当ブログでも何度も採り上げているテーマです。このたび、この問題の解決のための助けとなる「新機能(β版)」が今週から提供開始となりましたので、ご報告を兼ねて、再度採り上げたいと思います。
有難いことに、「ひらブラで見たんですけど〜」というお問い合わせが増えています。
ひらブラ経由でお付き合いが始まるケースは大きく分けて3つあります。
1つは、まったく新しい業界のお客様。CRIから見ると、いわゆる「異業種」と言われる業界からのお問い合わせです。数は少ないですが、とても貴重な接点です。もう1つは、すでにCRIのお客様ですが、新規の技術についてご興味を頂くケースです。ひらブラでは、なるべく最新の技術動向をお届けしたく、研究開発中の技術やサービスについても積極的に触れるようにしていますが、そうした記事に敏感に反応して頂くことも多く、筆者冥利に尽きます。そして3つ目が、CRIが事業展開している領域だけれど、まだ当社との取引が無かった方からのお問い合わせです。
ここ最近ウェアラブル系のネタを頻繁に書いていたので、ウェアラブルやIoT関連のお問い合わせが多かったのですが、じつは、ずっとコンスタントにご注目を頂いているのが「Androidの音声」に関する記事です。
注目の高い「音ゲー」関連のエントリ
下記は、ひらブラがお世話になっている「ファミ通App」さんのアクセスランキング。毎日再集計されるので累積計算ではありませんが…
1年前&半年前に更新した記事が、PV(=アクセス数)でなんと「トップ2位」内に入っています。いずれの記事も、サウンドの発音タイミングやその遅延が音ゲーにとって大きな問題点となることについて触れたエントリでした。
…やっぱり、皆さん、苦労されているんですね…(汗汗汗
ゲーム専用機での「音ゲー開発」とおなじ感覚でスマホの音ゲー開発をはじめると・・・地獄が待っていると、よく耳にします(汗
テクニカルな事情をあまり考慮せずに、音ゲーやリズムアクションゲーの「企画」や「プロジェクト」が始動してしまい、その結果、理想と現実(=現時点での技術的限界)の狭間で悩まれている開発者の方も多いようです。
そんな方にとって、今回のエントリが少しでも役に立てればと思います。
復習:スマホで音ゲーにとっての課題
スマホ上で音ゲーを開発するにあたって直面する課題をまとめると、
【スマホで音ゲーを開発する際の3つの課題】 (a) 再生時刻と聴こえる音のズレ (b) タッチ操作の判定遅延 (c) タッチ音の再生遅延 |
の3点になる、と以前のエントリでもご紹介しました。詳細については、過去記事をぜひ併せてご参考下さい。
参考リンク: 【ひらブラ vol.7】スマホで「音ゲー」3つの課題(ハマるな危険!アプリ開発の落とし穴) https://app.famitsu.com/20140228_324435/ |
そのなかでも、とくに大きな問題となるのが、Androidにおけるサウンドの遅延問題。端末細分化(いわゆるAndroid端末のフラグメンテーション問題)ともあいまって、開発者の方の頭を悩ませる要因になっています。
CRIでは、こうした課題の解決に少しでも繋がるよう、「音ゲー対策委員会」と銘打って、日々、研究開発を進めています。
遅延推測という試み(Android音声遅延)
そうした研究開発のひとつの成果として、ひらブラvol.35 でご紹介したのが、下記の動画です。
この動画では、Androidの実機を用いて「サウンド再生遅延(レイテンシ)」を“見える化”しています。視覚的に、音のズレを認識することができるようになっています。
さらに、ADX2の新機能(ベータ版)によって、端末のサウンド再生遅延を自動推測するデモンストレーションを行っています。
自動推測で得られた遅延の度合いを補正に使用することで、ほぼズレを感じないことがお判り頂けるかと思います。
これらのデモの詳細については、過去記事をご参考下さい。
参考リンク:【ひらブラ vol.35】快適な音ゲーをAndroidでも実現するための試み(シリーズ) https://app.famitsu.com/20140912_439209/ |
この「サウンド再生遅延推測」機能をぜひ使いたい!というお声をたくさん頂きましたので、このたび、ベータ版として今週から提供を開始することになりました。
サウンド再生遅延推測を試してみよう!
そもそも「サウンド再生遅延」の問題がなぜ発生するかというと、サウンドに合わせて画面を変化させるような演出が必要な場合に、プログラム側ではサウンド再生の経過時刻に合わせて画面を動かしているにもかかわらず、聴こえてくるサウンドと画面演出のタイミングが合致しないからです。
遅延の幅が一定であればよいのですが、機種によって遅延の幅がバラバラなため、プログラム側でサウンドの経過時刻に「ゲタを履かせる」ことも難しい現状。うーん困った・・・となるわけです。
この問題とは別に、タップ音のようなユーザ操作によって発生する音が「遅れて聴こえる」のが気持ちが悪い、という問題もあります。こちらは前述のタイミングの問題とは異なり遅延推測で解決できませんが、ADX2に搭載の「Android向け低遅延音声再生」機能をぜひ使ってみてください(Android向けに特別に遅延を少なくする機能をご用意しています、ただしいくつかのトレードオフがありますので詳しくはADX2のマニュアルをご参考ください)。
さて、今回ご紹介する「サウンド再生遅延推測」機能は、いわゆる “サウンド再生遅延” のことを『プログラムが再生指示を出してから実際に端末のスピーカーから発音されるまでの時間』と定義しています。これを前提としてご説明します。
「サウンド再生遅延推測」機能を使うことで、アプリケーションが、機種ごとに発音時刻のタイミング調整をおこなう手間を簡略化できるようになれば、と考えています。
従来であれば、端末ごとに遅延の度合いに関するデータベースを作らなければなりませんが、「サウンド再生遅延推測」機能では、プログラムでその端末の遅延時間を動的に自動取得するので、データベース作成が不要になります(ただし端末によっては実際の時間と異なる結果が出てしまう場合もあるため、アプリケーションが機種ごとの調整をする際の参考値として使われることを想定して開発されている点を予めご了承下さい)。
なお、当機能の推測には、マイク機能は利用していません(遅延推測の具体的な仕組みについては詳細は省かせて頂きます)。
遅延推測機能を入手する方法
今回ご紹介した「サウンド再生遅延推測」機能を試してみたい!という方は、下記をご参考ください。
1.すでに CRIWARE SDK をご利用頂いている開発者の方 → ADX2のテクニカルサポートサイトから最新版SDK(Unity Plug-in)をダウンロードして下さい。 2.まだ CRIWARE SDK をつかったことのない開発者の方 → 試用申込フォームからその旨ご連絡下さい(“ひらブラ見た”とお書添え頂くとスムーズです)。 |
「サウンド再生遅延推測」機能は、「CRIWARE Unity Plug-in」の「iOS/Android」最新版に同梱されています。
当機能はデフォルトでは無効になっているので、Unity Editor側での設定と、スクリプト側での関数呼び出しが必要です。具体的手順は以下のとおり(開発者向け:2015年2月26日 現在)。
(1)Unity Editor のCRIWARE Initializer で [Initialize Atom] – [Android Config] – [[Beta] Enable Latency Check] のチェックボックスを有効にする。 (2)CRIコンポーネントが初期化されたあとに、スクリプトで CriAtomEx::GetEstimatedSoundLatency_ANDROID() を呼び出して、遅延時間の推測値を取得します。この関数の呼び出しはADX2初期化後、1秒程度経過したあとでないと推測値が安定しない可能性があります。 (3)推測値を取得した、または過去に取得した値をアプリ側で記録済みの場合は、スクリプトから CriAtomEx::SetAudioLatencyCheckEnabled_ANDROID() で引数 false を指定して、推測機能を無効にします。 |
「サウンド再生遅延推測」機能の詳細については、「CRIWARE Unity Plug-inマニュアル」内、「機種固有情報」>「Android固有情報」>「[β版] サウンド再生遅延推測について」をご覧下さい。なお、当機能はβ版としての提供になりますので、試用にあたっての注意点も同マニュアルの冒頭に記載がありますので、必ずお目通し頂けますようお願いします(当機能は法人開発者様向けのご提供となっております)。
ひらブラでは、今後も、スマホで音ゲーを開発される方々にとって有用な情報を引き続きお届けしたいと思っております。ご意見やご要望などありましたら、ぜひお待ちしております。
…というわけで、今週のひらブラはここまで。
それでは、また次回の更新でお会いしましょう!
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幅朝徳(はば とものり) 株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。GREE社やnhn社といった企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュースも行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。現在、さらなる新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当する傍ら、ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。
趣味は、映画鑑賞とドライブ、クロースアップマジック、デジスコによる野鳥撮影、コンパニオンバードの飼育、そしてもちろん、ゲーム。
CRI・ミドルウェア ウェブサイト
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