【ひらブラ vol.34】スマホは人を「行商」にする
2014-09-05 12:00 投稿
係 員:『これは何だ?(英語/以下同)』
ボ ク:『ゲーム機です』
係 員:『このゲーム機は知っているが、ちょっと色や形が違うぞ?』
ボ ク:『あ、あの、開発用の特別なモデルなんです…』
係 員:『うーん、怪しい。ちょっとこっちに来なさい!』
ボ ク:『え〜(汗』
ボクが20代のさなか、まだ海外出張にも慣れていない頃に、ロンドンで行われたゲーム開発者向けのクローズドイベントで、自社ブースを構え、CRIのミドルウェア技術をデモンストレーションする機会がありました。
上記のやりとりは、現地空港で実際に行われたやりとりです。
社名パネルやテーブルや椅子などの調度品、TVモニター(注:当時はブラウン管が主流でした)といったものは現地業者に手配を依頼していましたが、ゲーム機本体だけは手持ちで、しかもスーツケースではなく手荷物として運びます。
壊れたらオオゴトなのでエアクッションで本体をグルグル巻きにしていたのですが、係員からすると、とても怪しい物体に見えたのかもしれません。
しかも、通常お店で売っているモノとは「微妙に」色などが異なる開発者向けのものだったので、不審人物としてマークされてしまったわけです(海賊品の運び屋だと疑われたのか、はたまた爆弾などの危険物だと思われていたのかは分かりませんが…汗)。
スマホはエヴァンジェリスト!?
ご存知の方も多いとは思いますが、ゲーム機向けのコンテンツを開発する場合は、原則として、開発許諾契約と「専用の開発機材」が必要になります。開発機材は、時期がはやいほど外観は最終製品から程遠く、サイズも大型であることが多いです。ゲーム機の発売日が近付くにつれて、開発機材の外観も実際に発売されるものに近くなっていきます。
また、開発機材のほかに、専用のデバッガーにお願いして製品テストをしたり、発売前のゲームイベントや展示会、ゲーム店での試遊会などで使うための「デバッグ専用のモデル」というものも存在します。ゲーム機のなかには一般売りされているモデルを使ってデバッグ出来るものもあります。
ミドルウェアのデモをゲーム機で実演する場合、開発機材もしくはデバッグ専用モデルを使っていました。当時、ロンドンに持参したのは、後者でした。
結局、拙い英語ながらもていねいにデバッグ専用モデルがどんなものかや渡航の目的を説明しつつ、参加予定のイベントの入場パスを証拠品(?)として提示し、無事に入国することができました。
従来、CRIのミドルウェア技術をデモンストレーションしようとすると、
ゲーム機本体(デモプログラムが動くもの)
コントローラ
外部モニター(TV)
電源
が必要でした。なかなか気軽に持ち歩けるものではないので、年に数回しかないイベントやカンファレンスなど、披露する機会も限られてしまいます。
デモを動画で撮影して、ビデオデータで配ったり動画共有サイトでPRする方法もあります。ただ、ゲーム系のミドルウェアというのは「ライブ感」や「レスポンスの速さ」「インタラクティブ」といった性能部分が注目されるので、リアルタイムにデモンストレーションを見たり体験してもらうことが重要です。
もっと手軽に、ミドルウェアの魅力を伝えることはできないか?
スマホの登場によって、状況は一変しました。
ほとんどのCRIの技術は、スマホを使ってデモンストレーションすることが出来るようになりました。客先でも、イベント会場でも、飲み会の場でも、ポケットから取り出すだけで、ミドルウェアのデモが出来るようになりました。
初対面のお客様や、知人友人などから「ミドルウェアって何ですか?」と尋ねられたときは、とにかくスマホで実際の技術デモを見て頂いてから、説明するようにしています。ミドルウェアというものを理解してもらうまでの時間や深さも、段違いだからです。
電源も、コントローラも、もちろん、TVも不要。たった1台で大活躍してくれます。ボクの名刺には、肩書きに「エヴァンジェリスト(=伝道者)」と書いていますが、どちらかというと、デモアプリがインストールされたスマホこそがエヴァンジェリストなのかも?、と最近思ったりします(笑)。
体験の即時共有がビジネスチャンスを拡大
仕事柄、未発表のゲームタイトルに触れる機会は多く、開発初期のプロトタイプから完成間近のバージョンまで、その中身はいろいろです。
企画書や仕様書を見せて頂くこともありますが、やっぱり、実際のアプリを目にする体験とは比べものになりません(これは、ミドルウェアも同じですね)。
多くの企業では、スマホゲームの「GO/NO GO」の経営判断を、ある程度プレイアブルなプロトタイプを見て行っていますので、そうした厳しいプロセスを経てボクが目にするものは、自ずと素敵で新鮮な驚きのあるアプリばかりになります。
ゲーム機向けコンテンツ開発の経験もある某プロデューサーは『(スマホゲームは)開発中のバージョンにたいする意見や評価がとても集めやすい』と仰っていました。特別の機材を必要としないので、いつも持ち歩いているデバイスで、いつでもどこでも体験を提供することが出来るからです。
「いつでもどこでも遊べる」というエンドユーザのメリットは、コンテンツを産み出すクリエイターのメリットでもあるというわけですね。
開発現場や協力会社から最新バージョンが上がってきたときも、職場/自宅/出先を問わず、すぐにインストールして成果を確認出来ることも、開発効率の向上にとても役立っているとのことでした。(自宅でも仕事ができてしまうのは良し悪しだとも言っていましたが…汗)
また、アニメやキャラクターを起用したコンテンツの場合、当然、版権交渉やタイアップ交渉が必要になります。初めから座組みが決まった状態でプロジェクトがスタートする場合もありますが、まずプロトタイプを作り、それを先方に見せて交渉するケースもあります。
クオリティが高いプロトタイプであれば、その場で決断!なんてことも珍しくないようです。
そんなときも、分厚い企画書や提案書の代わりに、ポケットからサッとスマホを取り出し、多くを語らず、まずはとにかく実物(=アプリ)で語る。そんな交渉シーンを想像すると、ちょっと胸がアツくなりませんか?
飲み会の場で偶然、ゲームのプロトタイプを版権元に見せたのがきっかけで、当初オリジナルを想定していたアプリが、キャラクターモノになったという事例も聞いたことがあります。まさに、これこそポケットのなかのエヴァンジェリストですね。
飲み会でのスマホを使ったミドルウェア営業は、ボクも、よくやります。
複数の方に同時にお見せする場合や老眼の方のために(ボクも最近めっきり視力が落ちました…汗)、持ち歩きやすくて画面の大きいiPad miniもつねに持ち歩いています(iPhone6が発売されたら1台で済むようになるのかなぁ!?)。
体験の共有がしやすくなると、ビジネスのチャンスも拡がっていく。
このことは、ボクらのようなミドルウェア企業にも、ゲーム企業にも、そして、ユーザにも共通することだと言えるでしょう。ユーザについては、ぜひ、バックナンバー(【ひらブラ vol.21】ゲーム実況について語ってみる)をご参照下さい。
ひょっとしたら「スマホは携帯電話なんだから、”いつでもどこでも” なんて当たり前じゃん!」って言われてしまうかもしれません。でも、あえて「当たり前」のことを見つめなおしてみようと思い、今回のエントリを書いてみました。
スマホゲームの世界でも、携帯ゲーム機のようにアドホックで通信するゲームアプリが登場し大ヒットしています。リアルにユーザが空間を共有しながら相互に繋がりゲーム体験を楽しむケースも、今後増えていくことでしょう。
「体験の共有」というと、ついネットワーク経由の共有をイメージしてしまいますが、今回触れたかった「共有」はオフライン、つまり人と人が同じ空間を共有すること、です。あえて日本風に言うなら、一つ屋根の下で同じ鍋をつつく感覚、とでも言えば分かりやすいでしょうか(笑)。
「このアプリおもしろいんだぜ!」
「そうなの?見せて!見せて!」
「どう、おもしろいでしょ〜!?」
「うん!さっそくダウンロードしちゃった」
今となってはとてもありふれたやりとりですが、これを実現してくれたスマホって、本当に凄いと思うんですよね。
ビジネスマンだけでなく、ユーザ全員が行商になれちゃうんですから!
というわけで、今週のひらブラはここまで。
また次回の更新でお会いしましょう!
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【バックナンバー】
※【ひらブラ vol.33】ゲームがアツい”秋”が到来!CEDEC & 東京ゲームショウ
※【ひらブラ vol.32】看護師不足をゲーム技術で解決する(CRIのヘルスケア事業)
※【ひらブラ vol.31】クリエイティビティの背後には「技術」あり
※【ひらブラ vol.30】「コントローラの正しい持ち方」を教えてくれた人
※【ひらブラ vol.29】ありえないほど近い!のススメ(オトナ向けシルクを観てきた話)
※【ひらブラ vol.28】Cocos2d-xに関するニュースと、大学で講義した話
※【ひらブラ vol.27】ウェアラブルで生活してみたよ(休日編)
※【ひらブラ vol.26】ウェアラブルで生活してみたよ(平日編)
※【ひらブラ vol.25】Google I/O に行ってきました!(読者プレゼントもあります)
※【ひらブラ vol.23】ゲームはタブレットをサポートすべきか(アンケート集計結果から)
※【ひらブラ vol.22】CRIロードマップを「ファミ通」読者さま向けに読み解いてみた
※【ひらブラ vol.20】認識系ブラックボックス最前線(Part-2)
※【ひらブラ vol.19】認識系ブラックボックス最前線(Part-1)
※【ひらブラ vol.18】アルファムービーってどうやって作ったらいいの?
※【ひらブラ vol.17】タブレット向けゲームに関する緊急アンケート(プレゼント付)
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※【ひらブラ vol.4】gumi田村さんに訊く「ズバリ!Cocos2d-xのココが魅力」
※【ひらブラ vol.3】ドラクエの起動画面のひみつ(続・Cocos2d-xとCRIWAREの話)
※vol.1-4:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは
※vol.1-3:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは
※vol.1-2:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは
※vol.1-1:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは
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幅朝徳(はば とものり) 株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。GREE社やnhn社といった企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュースも行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。現在、さらなる新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当する傍ら、ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。
趣味は、映画鑑賞とドライブ、クロースアップマジック、デジスコによる野鳥撮影、コンパニオンバードの飼育、そしてもちろん、ゲーム。
CRI・ミドルウェア ウェブサイト
http://www.cri-mw.co.jp/
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