【ひらブラ vol.31】クリエイティビティの背後には「技術」あり
2014-08-15 12:00 投稿
最近、「陶芸」にハマっています。
といっても、収集家を目指しているわけではなく、土を練ったり轆轤(ろくろ)をひいたり焼いたりするほうです。まだ熟達しているわけではないですし、このブログで陶芸そのものについて書くのは、「10年はやい!」と陶芸の師匠にも言われてしまいそうなので、まだまだ先になりそうです(笑)。
ボクは他人からよく多趣味だと言われますが、いろいろと挑戦はしてみるものの、続けて取り組めるような趣味って、実はとても少ないんですよね。でも、陶芸とは(まだ始めて数ヶ月ではありますが…)とっても長いお付き合いができそうな予感がしています。
そう感じる理由を自分なりにずっと考えていたのですが、最大のポイントは「儚さ(はかなさ)」にあるということに気付きました。
「儚さ」による消費のサイクル
当然のことですが、陶芸を続けていくと、我が家は自然に自分でつくった作品に溢れていきます。食器が中心ではありますが、それ以外にも、一輪挿しや愛鳥の水浴器など。
当然、マンション住まいのボクは収納スペースにも限界があるので、増えすぎると家族内で問題になるのは明らかです(汗)。
でも、日常使いものって、必ず「壊れる」んですよね。
手作りの陶芸って(材料や作り方にもよりますが)市販されている大量生産の食器よりはむしろ丈夫なのだと、ボクの陶芸の師匠も言っていました。でも、当たり前のことですが、必ず壊れるときがやってきます。お気に入りの器であればあるほど、使う回数も洗う回数も出し入れをする回数も増え、壊れるリスクも増えるのは当然とも言えます。
そんな作品には「いままでお疲れさま、ありがとう!」と労いの言葉をかけてから、躊躇なく捨ててしまいます。そして、次回作への熱意が俄然湧いてくるというわけです。
もちろん、常識的に考えても「壊れる作品数<新作の作品数」ですから、自宅用にするだけでなく、実家の両親や友人知人などにも(ありがた迷惑にならない範囲でw)お譲りしたりしています。でも、まずは自宅の食器棚をぜんぶボクの作品で埋め尽くすのが目標です。
あ、ちなみに、ボクの作品をお譲りした方も、割ったり壊したりした方は遠慮なくぜひご連絡下さいね。こうした事情から、怒るどころか、むしろ喜んで代品制作に着手しますので(笑)。
「陶器は割れるからこそ美しい、人も同じだ」と言ったのは、「美味しんぼ」の海原雄山でしたっけ。確かに、考えてみれば、人の命もずいぶんと儚いものです。
この「儚さ」って、実はとっても大切な要素だと思います。
陶器のように物理的に壊れるものだけでなく、映画やゲームなどのような無体のコンテンツにも「儚さ」の要素が存在します。
特定の作品に興味を持ち、試し、ハマり、そしていつか、飽きるときがやってくる…。そうしてまた、次の作品に興味を持つ。コンテンツを「消費」することによって生じるこのサイクルこそが、コンテンツ産業が成立するための要であり、また、良いコンテンツや多彩な嗜好にフィットしたコンテンツが提供され続けるための条件になっています。
ミドルウェアにとっても、このサイクルはとても重要。日々たくさんのコンテンツが作られ、それらがどんどん消費されていくからこそ、ミドルウェアそのものも磨かれていくものだからです。
釉薬の役割
「釉薬」という単語の読み方を知っている方は、かなりの「通(ツウ)」だとお見受けします。これ、ゆうやく、と読みます。読み方を聴けば、なんとなく陶芸に使われるものだとお分かりになる方も多いのではと思います。
土を捏ねて、ろくろで形を整え、素焼きをしたものに、釉薬をかけます。陶芸を習う前までは、ペンキのように色を付けるためだけものだと思い込んでいましたが、実際には全然違いました。
陶器の表面は、通常、ガラス質の膜のようなもので覆われています。この膜の層を作るのが釉薬の大切な役割です。バケツに入った釉薬の見た目は液体そのものですが、素焼きの状態の器(これを「素地」といいます)を釉薬に浸けて取り出したやいなや、釉薬に含まれる水分は素地にあっという間に吸収され、陶器の表面で釉薬の成分が粉状になって付着します。
この釉薬に含まれる金属の成分によって、焼いたあとの色が変わります。面白いのは、釉薬の段階の色と、最終的に焼成後の色がまったく違うということ。金属の化学反応によって色が付くので当然といえば当然なのですが、最初はこのことに本当にビックリしました。
しかも、特定の釉薬を使えば同じ色や質感が得られるというわけではなく、焼く人や焼き方(温度や時間)などによって、大きく結果が異なったりもします。
陶芸をやっていていつも悩んでしまうのが、釉薬の種類。
その器の使い道や、使われる場面、使う人の性格や趣味などをいろいろ考えて、、、なんてやっていると、いつまでたっても決められない(笑)。
最初のうちは、とにかく全種類の釉薬を片っ端から試してみようとして、師匠にも迷惑をかけてしまっていたのではないかと思います(汗)。最近では、自分では意識はしていないものの「オキニ」の釉薬が決まってきています。そうした作品を家に持って帰ると「またこの色ぉ?」なんて家族にツッコまれたりします…(ボクは一度気に入るとけっこう一途なタイプなんですよねw)。
不思議なことに、ボクは釉薬のことを考えていると、ついミドルウェアのことを思い出してしまいます。
轆轤は物理、釉薬は化学
陶芸のクライマックスといえば、やっぱり轆轤(ろくろ)をひいているときなんですよね。この時の自分の手の動きで作品のフォルムはほぼ決定してしまいます。旅行先などで人気の「体験陶芸」では、この工程まで完了したらそれで終了、あとは自宅で作品が届くのを待つだけというのも、なるほどという感じです。
でも、釉薬という存在があるからこそ、器を持ったときの手触りが向上し、さらに、多彩な色を目で見て楽しめるようになるわけです。多孔体である素焼きの器はそのままでは防水性がありませんが、釉薬とともに焼成することで、花瓶にも徳利にもなれるわけです。
これは、利用するクリエイターの数だけ可能性が無限に広がっていく「ミドルウェア」の存在に、とても近いものがあります。
器を使うエンドユーザは、ほとんどの方が陶器の制作プロセスには興味は無いと思います。ましてや、釉薬のことに想いを馳せるような方は、ごく一部だと思います。でも、陶芸家(=クリエイター)の方々は日々、理想の釉薬を求めて試行錯誤と研究を重ねています。
縁の下の力持ち、水面下の努力・・・そんな点でも、ちょっとミドルウェアに似ているなぁ、と。
要素技術って、どんな業界にも存在するんですよね。デジタルな世界だけではなく、あらゆる業界に。
陶芸を通じてそんな再発見をすることができました。
ボクの陶芸師匠の言葉ですが、「轆轤は物理」で、「釉薬は化学」だそうです。
高速で回転する轆轤に乗った土から任意の形を産み出すには、回転速度や圧力の加減、重心の位置や重力など、いろいろな要素を瞬時に判断する必要があります。土の薄さと半径の大きさとの関係に配慮しないと、重力に負けて土は崩れてしまいます(ボクも何度この失敗を繰り返したことか…)。別に計算式を解く訳ではありませんが、間違いなく、物理の領域のノウハウが必要になります。
そして、どのような成分を釉薬に含めると狙った質感や色の仕上がりになるかどうかは、まさに化学の領域。
学生時代に、物理も化学も、もっと勉強しておけばよかったなぁ、、、なんて後悔したりして。
このように陶芸では、良い作品を創りだすために、芸術的なセンスやクリエイティビティのほかに、物理や化学のノウハウが必要になります。
でも、何百年にもわたる先人の方々の試行錯誤と研究の積み重ね(そして良い師匠の指導)のおかげで、こんなボクでも、それなりに「いい感じ(自画自賛w)」な作品が作れてしまうわけです。
うん、これもミドルウェアっぽい(笑)。
というわけで、今回は、陶芸のブラックボックスに迫ってみました。
本記事のタイトルにある「技術」という言葉には、「Technology(技術)」と「Technique(技法)」という2つの意味を込めてみました。
お盆休みも残りあと僅か!という方も多いかと思いますが、みなさん素敵な夏をお過ごし下さい。今夜ご自宅にある陶器に触れたときは、ちょっとだけ釉薬の存在を思い出してみてください。ついでに「ミドルウェア」のことも(笑)。
では、また来週の更新でお会いしましょう!
※撮影協力:陶工房SORAHI
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幅朝徳(はば とものり) 株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。GREE社やnhn社といった企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュースも行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。現在、さらなる新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当する傍ら、ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。
趣味は、映画鑑賞とドライブ、クロースアップマジック、デジスコによる野鳥撮影、コンパニオンバードの飼育、そしてもちろん、ゲーム。
CRI・ミドルウェア ウェブサイト
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