スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第二十九回 「もう、色モノとは言わせない。新定番ジャンル!」
2012-09-14 22:43 投稿
●第二十九回 「もう、色モノとは言わせない。新定番ジャンル!」
下はここ最近のApp Storeをキャプチャした画像です。みなさん、なにかお気づきでしょうか?
『暴走列伝 単車の虎』、『不良道~ギャングロード~』……。そう。いわゆる日本の暴走族や不良をテーマにした“ヤンキー系”ゲームが人気を集めているんですね。
『暴走列伝 単車の虎』(略して単虎:タントラ)に関してはGoogle Playにおいてもこの記事を書いている2012年9月14日付けで売り上げトップランキングの2位。1位がGREEのポータルアプリなので、ゲームだと実質堂々の1位。mixiアプリでも、常にTOP10内に入っています。スマホだけでなくフィーチャーホン、いわゆるガラケーでも、僕がよく行く飲み屋の人間なんかはこの『タントラ』の話ばかり。PCのMMO黎明期からネトゲに携わってきた人間としては『タントラ』といえば、ガンホーさんが2年前まで運営していた『TANTRA』を、つい思い出してしまいます。しかし、今『タントラ』といえば完全に『暴走列伝 単車の虎』のことなんですね。そういえば、先ごろ行われた2012年上半期のGREEアワードの総合大賞も『クローズ×WORST ~最強伝説~』でした。GREEにはオープン黎明期から『任侠道』という人気タイトルもあります。あまりメディアで取り上げられることがありませんが、この“ヤンキー系”ゲーム。日本の携帯電話ゲームにおいては、もはや剣と魔法のファンタジーやスポーツ、歴史モノなどと並ぶ一大人気ジャンルになっているんじゃないでしょうか。
実はヤンキーゲームに関しては不肖安藤、一家言を持っております。いまからさかのぼること約10年前の2003年5月~2004年12月と2008年12月~2010年4月の二期に渡って、ヤンキーをテーマにしたPCのネットワークゲーム『疾走、ヤンキー魂。』(略して『ヤン魂。』)を制作、運営していたことがあります。
2003年というと、国内においてはネトゲ黎明期。『ラグナロクオンライン』や『FF11』がサービスを開始した直後のことですから、その折に突然“ヤンキーのMMO”をリリースするというのは、世間的見ても実に酔狂なこと。飛び道具的な受け入れられ方をしました。簡単に言うと“バカゲー”として注目を集めた、完全に色モノの立ち位置でした。ですが、制作している自分は、“人とつながることを目的とした遊び”として、これ以上ふさわしいテーマは無いと思って、真剣に創っていました。ヤンキーといえば一見、暴力的な印象ですが、ギャグテイストのヤンキー漫画が多いように、実はお笑い成分も多分に含んでいるんですよね。『ヤン魂。』でもたくさんの馬鹿をやりましたが、これをやるときも100%全力。本気でやっていました。いまだに“ヤンキー”というテーマは高いポテンシャルを持っていると思うので、最近の“ヤンキー系”ゲームの隆盛には非常に共感できますし、素直にうれしいです。
『ヤン魂。』を制作運営してみて、とにかく強烈に印象に残っているのはプレイヤーのアツさ。これにつきます。『ヤン魂。』は一期二期とも、チャレンジが過ぎるところがあってゲームシステムとしてはお世辞にも良いものではない、かなりワイルドなゲームだったのですが、どんな状況でもゲームを自発的にドンドン盛り上げて、つながって、楽しんでしまう。この、プレイヤーの皆さんのテンションの高さというのは、いまだ他のゲーム制作では体験したことがないです。たとえば第一期の終了を発表したときは5000人を超えるプレイヤーからメッセージ付きの継続希望が書かれた署名が届いたことがあります。これはいまでもデスクに飾って宝物にしています。
このように“ヤンキー”というテーマは、面倒見が良い兄貴、姉貴肌のプレイヤー、絆を大事にするコミュニティーなど、作品や仲間へのアツさ、言わば“忠誠心の高さ”が特徴的です。前述した『単車の虎』のゲームシステムの中にも、最近流行りのレイドボス系のチーム戦があります。ですがプレイヤー同士の盛り上がりや、コミュニケーションの深さは、ファンタジー系のそれには無い独特の深さや絆があるように感じます。フリートゥプレイのゲームは、全体の1割~2割の有料課金プレイヤーがビジネスを支えるモデルになっていますので、こういった忠誠心の高いプレイヤーが集まりやすいテーマとは、たいへん相性が良いと思います。
興味深いデータとしては2008年ごろに『ヤン魂。』のプレイヤーを対象に「1ヵ月で携帯電話にどのくらいのお金を使いますか?」というアンケートをとったところ、他のオンラインゲームに比べてダントツで1万円以上使用するという回答が返ってきたことがありました。携帯電話をかなり使用するプロファイルのプレイヤーが、スマホが世の中に無い時代から“ヤンキー”というテーマに興味を持っていたのです。「あれ、本当はPCゲームよりも携帯ゲームにしたほうが相性いいんじゃないか?」と当時思ったものですが、それがそのまま現在のヤンキー系ゲームの人気につながっていますね。
そのほか、スマゲ☆革命的にも『ヤン魂。』の制作は非常に大事なノウハウが蓄積されたプロジェクトでした。なんといっても一番大きかったのは、『ヤン魂。』の第二期で「はじめて基本無料のコンテンツを制作した」こと。ここで、アバター課金やガチャ課金、あと最近『パズル&ドラゴンズ』で脚光を浴びているコンテニュー課金など、さまざまなマネタイズにチャレンジすることができました。当時、クローズともタイアップしたんですよ。こういった動きも含めた運営のノウハウはこのときに、まず培われたように思います。坊屋春道の衣装なんかは、すごく人気で売れました。
そういえば『単車の虎』のアイコンにも出てくるヤンキー界の重鎮、岩橋さんとも『ヤンキー夜露死苦!!』というケータイ向けのヤンキーサイトでコラボしたことも思い出しました。現在でも『拡散性ミリオンアーサー』や『ロードオブヴァーミリオン・煉』などで他作品とのコラボをやっていますが、コラボレーションというのは運営において非常に有効な盛り上げ施策のひとつなんですよね。これはいまだに変わりません。
あとヤンキー系の良いところは、そもそもヤンキーという存在が非日常的でぶっ飛んでいるので、イベントを考えるのが非常に楽しく、また仕上がりもエンターテインメントとして実に面白くなるという傾向があったことです。ゲーム内、リアル問わずに縦横無尽にドライブするこの感じはヤンキーの魔力といっても良いかもしれません。たとえば『ヤン魂。』でおもしろかったのが、本物の改造バイクのホーンなどをデコったヤン魂。特注PCを限定で販売したら即完売ということがありました。
これ、起動するときに実際、めっちゃホーンが鳴ります。相当うるさいです。このPC、人気過ぎて私の手元にも無いんだよなあ。どなたか、いまでもお持ちの方おられますか?
今日は久しぶりに『ヤン魂。』の話が書けてうれしかったなー。ヤンキー系ゲーム、私にとっての『ヤン魂。』には本当に魔性の魅力があります。携帯とヤンキーの相性が良いのに、『ヤン魂。』をケータイ向けになぜ創らなかったのか? いろいろな理由がありますが、創るならば、私が思うヤンキーゲームを創りたいから……かな。いまのヤンキー系ゲームは、『ドラゴンコレクション』や『探検ドリランド』が源流のひとつに、あると思いますが、もっと色々な遊びができるのがヤンキーというテーマだと思います。『ヤン魂。』の良いところを残して、さらにアドバンスさせてケータイに持っていったらどうなるか……? ときめきますね! そういえば『ドラコレ』のさらなる源流のひとつに『Mob Wars』、『Mafia Wars』といった“海外のワル”をテーマにしたゲームがあるのも奇遇というか、興味深いですね。
特モバイル二部的には、関連したニュースもあります。『ヤン魂。』の二期で前述の運営やマネタイズを考案してきた伊勢友光(当時はゲームポット所属)が先日、特モバイル二部に加入しました。彼は日本でトップクラスの運営スペシャリストですので、われわれの作品をさらにドライブさせてくれることでしょう。
左が伊勢友光。ふたりにとっての『ヤン魂。』は特別な存在。まだ『ヤン魂。』に関して、具体的な動きはないですが、特モバイル二部の安藤と伊勢が今後なにをしでかすのか……?
『ヤン魂。』も、それ以外もご期待ください夜露死苦☆
つづく
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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