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スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第二十三回 「実録、スマゲの創り方。~タイトル命名編~」

2012-05-28 18:30 投稿

●第二十三回 「実録、スマゲの創り方。~タイトル命名編~」


最近、「とみに『拡散性ミリオンアーサー』というタイトルはどのようにして名付けられたのか?」という質問を受けます。今回はゲームだけにとどまらず、あらゆるエンターテインメントで重要な“タイトル名の付け方”に関するプロデュースワークのお話を書きます。

まず『拡散性ミリオンアーサー』ですが、“命名:鎌池和馬であること”。とにかく、これにつきます。プロデューサーがお客様をびっくりさせるべく狙った“ワクワクポイント”として、“鎌池和馬の新作はライトノベルではなく、なんと!スマートフォンのゲームである”という仕掛けがありました。そのためには小説のタイトルを作家が命名するかのように、本作の世界観を構築した“原作者”である鎌池先生が名付け親になる必要があったのです。先生には、はじめに「ライトノベルのタイトルになっても不自然ではないタイトル」というオーダーを出しました。当然、こちら側は先生のこれまでの著作にならって『とある~』的なものを想像したのですが、我々の思い描くタイトルが、そのまま予想通りに当てはまるようでは、せっかく先生に依頼する意味がありません。結果、“拡散性”という、ゲームのタイトルとしては聞いたことがない、実に新しさに満ち溢れ、かつ鎌池先生の新作としても違和感のないタイトルが候補としてあがってきたのです。

プロデュースとは“時代を切り取ること”にほかなりません。そのために、プロデューサーは“時代を切り取っている”、“時代が切り取れる”人にクリエイティブを依頼します。“時代を切り取る” ……これは言語化できない、実に感覚的な領域です。その詳細を精密に必勝法にすることはできません。結果が出たあとに後からロジックをこじつけることはできても、結局は“直感”や“ノリ”がうまくいった。もしくは、ただただ“運”が良かったというだけの話だと思います。例えが乱暴かもしれませんが、「ディープブリランテがなぜ昨日の日本ダービーを勝てたのか?」、「低迷していたロッシがなぜフランスGPで2位を獲得できたのか?」。レース後にはめいめい、いろいろなことが言えますが、レース前に確実に言い切ることは難しく、また類推すること自体も困難であることと、よく似ているかもしれません。ただ、結果をより出しやすくするために動くことはできます。“今現在、すでにどこかで、時代を切り取っている人と一緒に組む”、これは私が必勝法として処女作の『鈴木爆発』から心がけていることです。ただ、それだけではゲームはおもしろく、かつ売れるようにならないのが、ゲーム作りの難しさであり、面白さなんですけどね。

今考えてみれば“拡散性”という言葉は、鎌池和馬氏にしか考えられない、実に時代の気分を読みきった良いタイトルです。タイトルというのは最初違和感があっても、どんなものであれ、じきに馴染むものなのですが、それにしても最初にこの言葉を見たときの電流の走り方にはゾクゾクするものがありました。Twitterの登場、スマートフォンとの組み合わせによって、情報の広がり方が“個人からの拡散”へと劇的に変化した2012年現在。表現の仕方も、商業誌からコミケへ。オーディション応募からニコニコ動画の“~してみた”へ。……このように“拡散”している“時代の気分”を見事に切り取っています。それでいて、ネーミングに良い意味での“けれん”や“艶っぽさ”があります。もっとわかりやすく言うと、実に“中二病”です。“拡散性”という、元来ウイルスの形容に使う言葉を用いているところが燃えます。……と、後からだとナンボでも言えるのですが、繰り返すとプロデュース的には、“鎌池和馬を起用し、先生に命名を依頼したこと”が全てとなります。

一方で、“拡散性”というワードに対して、“ミリオンアーサー”という言葉は、実はプロデューサーである岩野の命名なのです。私がプロデュースを行う際、必ず心がけるポイントとして“企画立案時点で、タイトル名は絶対に考えておく”というのがあります。しかも、立ち上げ用に中途半端に名付けるのではなく、最終的にそのままタイトルとして使われても良いように徹底的に考え抜きます。これは特モバイル二部のプロデューサーにも推奨しています。なぜその必要があるのでしょうか?

それは“プロジェクトは目標に向かって進んでいく”という性質を持っているからです。タイトル名は、制作チームやプロデューサーが思い描く世界観や理想像そのものですから、冒頭から商品名がある方が、目的地がチーム全体に対して明確になり、よりコンセプトが実現する可能性が高まるのです。これを『Project-某』や『新規カードバトルRPG(仮)』などの社内向けのタイトルにすると、内輪向けの試作に向かって物事は進みますが、お客様に届けるという方向には行きづらくなります。こうした意思の違いが、はじめから商品名が付けられているものとでは格段に違ってくるため、私はそうしています。

このやり方は、プロデュースや制作プロセスによって千差万別ですから、あくまで私のメソッドということになりますが(偉そうに書いている他の事例も、すべてそうですからね)、企画立案時点で考えられたタイトルが、結局そのまま商品に適用されるということは経験上多いです。『鈴木爆発』、『疾走、ヤンキー魂。』、『ヘビーメタルサンダー』、『自動車王』、『ムーンダイバー』、『ケイオスリングス』……私が手がけた、これらの作品はすべて立ち上げ時の企画書のタイトルのままリリースされています。『ミリオンアーサー』に関しては、立案時に岩野が考えたタイトルと、鎌池先生が発明した“拡散性”なるキーワードが、最終的に鎌池先生の手により組み合わされたことによって化学反応が起き、新造語として大爆発したという、仕掛けの良い例ですね。ちなみに、あらかじめ立案時点で徹底的に考えたタイトルですが、商品が出来上がる前に、再度、「本当にそのタイトルで良いのか?」を目から血出るくらい考えて(by二丁拳銃嫁)、巡り巡った挙句に当初のタイトルに落ち着くというのが実際のところです。

一概には言えませんが、もうひとつタイトルを付ける時のコツがあります。個人的には“『ドラゴンクエスト』方式”と勝手に呼んでいます。それは“耳馴染みのいい言葉”と“あまり聞いたことのない言葉”のコラボで、ちょうど良い塩梅の響きを目指すというものです。『ドラゴンクエスト』が世に出た1986年当時。“ドラゴン”という言葉は連載開始直後の『ドラゴンボール』をはじめ、すでに一般的な単語でしたが、“クエスト”という言葉はあまり浸透しておらず、かつ新鮮な響きを持った言葉でした。このブレーキとアクセルの踏み加減を調整しながら、組み合わせの妙味を探り、時代の気分を切り取っていくというやり方ですね。エニックス時代に先輩に教えていただきました。

『拡散性ミリオンアーサー』も“ミリオン”と“アーサー”には耳馴染みがありますが“ミリオンアーサー”となるとなんだか新鮮。さらに“拡散性”とつくとよりいっそう新鮮。みたいな感じでしょうか。『ケイオスリングス』も日本人にはCHAOS=カオスという呼び方が一般的なところを、あえてネイティブの発音に近い“ケイオス”と呼ぶことで、引っ掛かりを持たせています。“リングス”はよく聞く言葉ですので、この組み合わせはまさに“『ドラゴンクエスト』方式”です。2012年6月サービス開始予定の『ガーディアン・クルス』(詳細は第二十一回)も本来、CROSS=クロスと呼んで良いところを、あえてクルスとしていますね。

タイトルはパッケージイラストやイメージイラストとあわせて、家で言うところの“表札”&“玄関”、人間で言うところの“名前”&“顔”に相当する、見た目・ファーストインプレッションを司る大事な入口です。ゆえに私は、命名を後手に回すのではなく、誕生時に名付けてこそ、“名は体を表していく”と考えています。また、それを積極的に仕掛けるからこそ、“仕掛け人=プロデューサー”なのではないかと思うのでした。いずれにせよ、タイトルの命名は毎回超絶カロリーを使う、ゲーム創りにおいて大変苦労する過程であり、その分、非常に楽しいポイントでもあります。今後もイカすタイトルが、私に降りてきますように。それではまた来週。

つづく

 

安藤武博
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。

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