スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第一回 「革命開戦☆」

2011-09-16 12:00 投稿

●第一回 革命開戦☆

パッケージのゲームが5800円、8800円で売れる幸福な時代は……終わった。
そのくらいの事を考えながら、ゲームを創っています。

ヘビーメタルサンダー!(みなさん!こんにちは!はじめまして!)

スクウェア・エニックスでゲームプロデューサーをしている、安藤武博と申します。

僕はここ数年、iPhoneをはじめとしたスマートフォン向けのゲームを主戦場に作品を送り出しています。結果、スマフォにはゲームプラットフォームとして、とてつもない可能性があることがわかってきました。

一方で、積極的に闘い、切り開いていかねば、決定的な未来も見えてこない実に混沌とした状態でもあります。その様相は、まさに乱世。黎明期の正邪さだからぬエネルギーに満ち溢れています。既成概念がものすごいスピードで破壊され、明日に燃える新参者とチャレンジャーが、日々何かを覆し、塗り替えていっています。

家庭用ゲーム機が四半世紀を経て爛熟していく中、スマートフォンの登場によって密やかに、しかし着実に。ゲーム業界は“革命の時代”に突入したのです。

この連載では、10年間、家庭用ゲーム機のソフトウェアを創ってきた僕が、ひょんな事から携帯電話のゲームを創ることになり、そのおもしろさと可能性に目覚めた体験を元にして、スマフォゲームの面白さと、未来を書いていきます。

コンシューマーゲームの優秀なクリエイターと。また、勢いのある新規チャレンジャーと。“スマフォをひとつのゲームプラットフォーム”として捉え、おもしろい作品を創ること。そして、お客様に“スマフォのゲームっておもしろいね”と感じていただくこと。そもそもスマフォであることを意識しないようにすること。これがおもなねらいです。

とくに家庭用のゲーム機で、優れた作品を送り出してきた、偉大なるクリエイターの皆さん。僕は貴方と、スマフォのゲームが創りたい。

だから、はじめに言っておきます。

「スマートフォンのゲーム創りは、めちゃくちゃ面白い!」

携帯電話のゲームを「もしもし」という蔑称で呼ぶ時代は、完全に終わっていますよ!

さて、話を最初に戻しましょう。パッケージのゲームが5800円、8800円で売れる幸福な時代は……終わった。

現在もパッケージゲームを多くの皆様に愛していただいているスクウェア・エニックスの一員として、随分乱暴な言い草です。厳密には“一部のゲームを残して”パッケージのゲームが5800円、8800円で売れる幸福な時代は“終わった”と言えるのかも知れません。

ゲーム以外のサービスでお客様から8800円もいただける娯楽商品が他にあるでしょうか。単純比較は難しいですが、CDは2000円ほど。3枚で1500円の時とかもあります。デジタル配信の時代が到来し、1曲150円から買えます。DVDも1000円~3000円。映画は1500円。ディズニーランドで一日遊んでも5000円ちょっと。

思い返せばスーパーファミコンの時代は、ゲームソフトの価格が1万円以上なんてこともありました。それらが、数百万本売れた。つまり、それほど家庭用ゲーム機登場のインパクトは大きかったということです。登場から25年以上もブランド品であり続け、それほどの価格で、多くの人に愛され続けた、怪物級のスーパーコンテンツがゲームソフトだったのです。

この幸福な25年間に、優れたクリエイターによって送り出された素晴らしい一部の作品は、今後もブランド品であり続けるだろうと思います。ブランド品とは例えば、CHANELやPRADAのバッグです。単純にカバンだけの機能を求めるのであれば500円のビニールバッグでも良いわけですが、それらは10万円であっても購買される。

品質の高さ、たゆまぬ“おもてなし”の積み重ねによって、その世界観は羨望され、ライフスタイルに大きな影響を及ぼします。繰り返しますが、これからも8800円で売れるパッケージのゲームソフトは存在し続けるでしょう。ですが、昔より確実に少なくなるはずです。とくに新規タイトルに関して、ブランド品の仲間入りをさせる事は、超級の難易度となっています。

CHANELやPRADAの横に突如、新規ブランド“ANDO”が出現したとして、そのカバンを同じようにお客様が10万円で購入することはありません。新規タイトルを、パッケージできちんと売る仕掛けは年々複雑になってきています。“道・天・地・将・法”すべてを綿密に構築した上で、多額のお金がかかる場合がほとんどです。ですので、仕掛けるための気合や度胸も並大抵のことではありません。

それらを仕掛けて、さらに! ようやく! 時代の潮目がやってきた時! もしくは潮目をみずから引き寄せるまで、勝つまでひたすら続けることで、ようやく新規タイトルはブランドとなります。おお大変。えらいこっちゃ。近年でこれをやってのけた『モンスターハンター』シリーズのスタッフのかたや、レベルファイブの日野社長のようなかたはまさにスーパーです。孔明です。人か魔です。

僕にはこれができませんでした。

2005年にプレイステーション2で『ヘビーメタルサンダー』というゲームを、大勢の豪華スタッフを迎えて製作、販売しました。その内容はWikipediaに大変詳しく書いていただいますので、そちらをご覧いただくのが良いと思いますが、改めて自画自賛させていただきますと……、“BECK”のハロルド作石先生が描くキャラクターを、“創聖のアクエリオン”のサテライトがアニメで動かし、古谷徹さん大塚明夫さん大塚周夫さん千葉繁さん銀河万丈さん冬馬由美さんといった豪華声優陣が熱演、バックではSEX MACHINEGUNSの楽曲でマイケルシェンカーがギターを弾き倒し、メガデスのマーティ・フリードマンが相川七瀬さんと競演、EARTHSHAKERは時任三郎さんと競演、ムービーは笹原和也さん在籍時のアニマと白組、美術設定にウサビッチの富岡聡さん、実写で熊田曜子ちゃんが登場、ワイルドアームズのメディアビジョンがゲームパートを担当。総合演出を秘密のケンミンショーやタモリ倶楽部のハウフルスが担当し、あげく小野ヤスシさんに愛川欽也さんに劇団ひとりさんも乱入する、などなど!などなど!ブラブラブラ……それはそれは、超絶ハイテンションのロボットレスリングゲームで、なんか凄いことだけはわかるでしょ。

ハアハア(息)

書いていて、改めて思いますが、このエネルギー……。もうちょっとなんとかならんかったかなー。ちゃんとプロデュースできんかったかなー。6800円で売ったこの作品。全然売れませんでした。ぶっちぎりの個性で、“ある意味ゲームの歴史を塗り替える”しつに良いものになったのですが、僕のプロデュースで、あさっての方向に大砲をぶっぱなしてしまったために、全然売れませんでした。

残ったのは多額の赤字。

会社の偉い人から「二つある臓器、ぜんぶ一つ売ってでも返せ」「借金、返すまで絶対逃がさん」と言われました。

一見オソロシーこの発言。

つまり、「返すまで、創れ」とチャンスを貰ったんですね。ええ会社や……。

強面のこの方は、私が敬愛する、日本を代表するプロデューサーのひとりです。
(その後、幸運にも借金は無事返すことができました。)

同じタイミングで、仲の良い同僚とは

「安藤さんのゲームはおもしろいんだけど、6800円では買わないよ」
「いくらなら買う?」

「500円」
「!?」

というやりとりもあったりして、ゲームの価格設定に関してはこの頃から、どうしようかな?と考え始めていました。新しい価格で売れる、新しいマーケットや方法はないのか? と。

そもそも、“無料”という考え方もあるよな……。と。

僕の体感だと、2003年頃からPCのネットワークゲームで“基本無料+追加課金”の考え方が、出てきたように思います。それから10年弱。PCや携帯電話において、基本無料のゲームは普通です。携帯電話がスマフォのようにゲーム機とほぼ同等の性能を持ち始めたとき、いよいよ家庭用ゲーム機の本体価格も、“パッケージは別物だから”と看過できない状況になったと思います。

さあ、どうしようか。新しいマーケットで、新しい価格でゲームを創ってみようじゃないか。2009年が明けてすぐの事。僕は新しいチャレンジを思いつきました。僕のゲームを500円だったら買うといった、同僚に(その頃彼は、仕事上の良き相棒になっていました)そのチャレンジ内容を告げると、「それならいける!」と言ってくれました。

タッグを組むのは、『ヘビーメタルサンダー』を共に制作したメディアビジョン。4年ぶりの再会です。

iPhone専用アプリとして開発がスタートした新作ゲーム。

その企画書の表紙に僕は、

『ケイオスリングス』というタイトルを付けました。

つづく

安藤武博
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。

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