スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第十四回 「『パルテナの鏡』はスマゲの何を映すのか?」

2012-03-26 20:41 投稿

●第十四回 「『パルテナの鏡』はスマゲの何を映すのか?」


本日は先週、任天堂から発売されたニンテンドー3DS専用ゲームソフト『新・光神話 パルテナの鏡』(以下、『パルテナ』)について書きたいと思います。まず早速、オチから言ってしまいますが、今回のタイトルに対して「『パルテナの鏡』には、スマゲの何も映っていません」 任天堂や桜井さんが携帯電話やソーシャルのことを意識してゲームを創っているはずなどありません。あくまで“スマゲ★革命”を標ぼうする私が、その鏡の方向を、携帯電話のゲームに無理やり捻じ曲げて、勝手に展開していきます。さてさてどうなるのでしょうか。

以前もここで『GRAVITY DAZE』のことを取り上げましたが、まず人様のゲームを論じるときには“最低でもクリアー”しないと失礼だと思っています。先週の木曜日に『パルテナ』を購入し、週末遊び倒せば月曜日には本作を論じられるだろうと思っていましたが、それは甘かった。正直申し上げると、“全然”クリアーまで行けていません。ソロプレイも半分行かず、途中で対戦にハマり、神器の融合をチクチクやったり、悪魔の釜のバランス調整ってどうなっているんだろう……とかやっていたら、あっという間に月曜日になってしまった。連載週刊化後、もっとも遅い更新になってしまったのは、全クリ前提でスケジュールを組んでいた私の安見積り。おそるべきボリューム。そしておそるべきおもしろさ。そのおもしろさについては、前述の理由により私はまだ語れません。だがとにかく「おもしろい」ことだけはお伝えしておきます。「ゲームってこういうことだぜ!」と、心底思います。

コンシューマーから携帯電話のゲームを創り始めて、従来のRPGなどの遊びのほかにソーシャルゲームも自らプロデュースするようになりました。基本無料の売りかたも自他問わずに遊んで、学び分析してきました。新しいプラットフォーマーやSAP(サップと読みます。ソーシャルアプリケーションプロバイダーの略。ソーシャルゲームを開発・提供している会社や個人のことです。業界では近年すごく良く使われるようになった専門用語のひとつ)の方々とお会いするなかで、“数字”、“お金”、“集客”など、いわゆるKPI(詳しくは第六回)史上主義なお話が跋扈しています。数字ばかりを追いかけていく中で、ソーシャルゲームが招いた害悪が“似たり寄ったり”のゲームばかりという現状。正直プレイヤーとしても、会ったことのないフレンドに「いいね!」とエールを送ってから寝る生活にも、“遊びが同じ”なので飽きていたところでした。そんな中遊んだ『GRAVITY DAZE』、手前味噌ながら『ケイオスリングII』と今回の『パルテナ』が、私をずいぶん浄化してくれました。次は今週(2012年3月29日)発売予定の『キングダム ハーツ 3D[ドリーム ドロップ ディスタンス]』が楽しみですね。あたりまえだけど、「ゲームって圧倒的におもしろくないとダメだな」と。

これまでの連載では、ソーシャルゲームも“おもしろくないと売れなくなってきている”と書きました。が、今一度考え直します。『パルテナ』の、このおもしろさはどうだ。“おもしろさ”について議論されている才能と時間の差が、“圧倒的”に違いすぎる。それをサポートするプラットフォーマーの姿勢が違いすぎる。体制も才能も経験も大きく変われば、スピードが命な携帯電話のビジネスとは構造的に違いすぎるかもしれませんが、お客様が受け止めるゲームの“おもしろさ”に、それは関係ない。故に自戒も込めて言います。「そのソーシャルゲームは本当におもしろいのか?」 大きく売り上がっていても、人が何百万人集まろうとも再度真剣に見つめ直さないと、エンターテイメントとして確実にバブルは崩壊、アタリショックが再来してしまう。

テンポがいい、リテンション(これもよく使われるようになりました。継続とか維持という意味で、ゲームを続けたくなったり、戻ってきたくなったりすることを主に指します)性が高い、システムの循環がきちんとできているetc……ソーシャルゲーム開発の必勝作法として良く語られていますが、そんなのゲーム創る際に、あったり前のこと。大事なのは、とにかく“おもしろい”かどうか。それも家庭用を含めたゲーム全体、さらにはエンターテイメント全体を見渡しても、おもしろいかどうか。今、ソーシャルゲームがあまりにも大きな利益を産んでいるため、“ソーシャルゲームがソーシャルゲームを参考にして”粗製濫造されている。お手本にしたり、参考になるのは、家庭用ゲームをはじめ他のエンターテインメントにしか無い。もはや完全にソーシャルゲームにお手本は無い。そのくらいのことを今、あらためて思います。携帯電話のゲーム業界でも、そう思っている人は結構増えてきているんじゃないでしょうか。でも、まだまだ足りないよ!

すみません。取り乱してしまいました。最近「このSAPは(儲けているから)、ここに創ってもらえれば企画はOKですよ」みたいな事を言われる方がいて、ビジネスとしては至ってロジカルだが、エンターテイメントを中・長期的に一緒にやっていくのは無理だな……。といよいよ思うに至ったので、いきおい書いちゃった。KPIをビリビリブリブリに破って飲み込み、以降まったく無視。大事なのは“おもしろいかどうか”だけ。そのくらいの心意気でチーム安藤、引き締めなおして新作を携帯電話に投入していきたいと思います。『ケイオスリングス』の続編は、いわゆる今語られている文法のソーシャルゲームにならないので安心してください。ちゃんとRPGにします。

一方で“おもしろさ”がさらに引き出せるならば、専用スタンドをつけます、拡張スライドパッドを発売しますといった姿勢があるのが任天堂の奥深いところ。“おもしろさのために”すべてがある。サポートがある。こういったこともゲーム屋の強みであり、携帯電話の世界にはないことで、ゲーム機と携帯電話の大きな違いのひとつですね。それにしても『パルテナ』専用スタンドの、このすばらしさはなんだ。

今回の記事。本来は、『パルテナ』の神器融合や、神器のタネ毎日配信、ネット対戦&奇跡ゲット→融合→ソロプレイ→融合→ネット対戦へもどる一連の流れ、ARおドール、ハート(ゲーム内通貨)の使い方などソーシャルゲームにある、おもしろさの“圧倒的バージョン”がこのゲームにはあるということを書く予定でした。なにより人とつながって“おもしろい”ものが、そもそもソーシャルであって、ガチャガチャとカードで儲けることではない。ということも書く予定でした。任天堂はとうの昔から、つながるおもしろさを標ぼうしていて『ポケモン』や『どうぶつの森』、『トモダチコレクション』以上におもしろいソーシャル要素がいまの携帯電話のソーシャルゲームにあるか? 儲かってるからいいんじゃなくて、ちゃんとこのおもしろさに挑戦して超えていかなければということを書く予定でしたが、無理やり捻じ曲げた『パルテナの鏡』に映った自分と、ソーシャルゲーム業界を見て、ちょっと感情的になっちゃいましたね。本当にお恥ずかしい。

鏡を捻じ曲げ無くても、しっかり“おもしろさ”が映り込むようなスマゲを創ります。かならず。
それではまた来週。

つづく

安藤武博
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。

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