スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第九回 「模倣は悪か?」

2012-02-20 12:00 投稿

●第九回 「模倣は悪か?」


先月末(2012年1月27日)、グリーからついに本格的なネイティブアプリ『ドラゴンアーク』がリリースされ、運営がスタートしました。グリーはこれまでも『探検ドリランド』などのネイティブアプリをiTunes Store上で発表していましたが、実際の構造は外側がネイティブで中身はブラウザゲームというものだったのではないかと思われます(ネイティブとブラウザ形式の詳細は第七回を読んでね)。業界ではこういう形式のことを“側(がわ)ネイティブ”といったりします。Mobageからは『忍者ロワイヤル』という、時期を考えるとかなりゲームっぽい挑戦的なネイティブアプリが既にリリースされていますが、両プラットフォーマー通じていわゆる“家庭用ゲーム”っぽさやPCの“本格ネットワークゲーム”っぽさがある(これをもって本格的と定義してみました)ゲームのリリースは初めてだと思います。

2011年は家庭用ゲーム業界で活躍をしていた多くの才能豊かなゲームクリエイターがGREEとMobageに移籍加入をした年でした。『ドラゴンアーク』は、名作『フロントミッション』シリーズをスクエニで生み出した先輩の土田俊郎さんが、グリーに移り手掛けられた作品とのこと。……ここで、いったん脱線して思い出話。『装甲騎兵ボトムズ』好きとしては、スーファミの『重装機兵ヴァルケン』(たしかレイノスっていうのもあったけど、メガドライブもってなかったんだよな)は思い出深い作品です。そしてスクウェアでの『ガンハザード』! 天野さんの絵とシナリオ・世界観が最高で、「『FF』と『ボトムズ』の融合や!」とか当時勝手に思っていました。ここまではシューティングだったんですよね。シミュレーションゲームになっても『1』『2』までは学生で時間もあったし、すげー遊びました。一回の戦闘に二時間とか全然苦じゃなかったな。土田さんと言えばシステム構築の鬼才というイメージでしたが、こうやって振り返ってみると『2』はキャラデザインが末弥純さんでアートの面においても、ファンタジーのイメージが強い人がメカSFの世界を描くという、実はすごく面白くて挑戦的なプロデュースをされていたんですね。『3』も山田章博さんでした。いやー、このあたりの方々の名前を書いているだけで、ご飯何杯でもいけるわ。

閑話休題。つまり今回の『ドラゴンアーク』のサービスインはそういった才能が動いた結果の嚆矢(こうし。物事のはじまりの意)だろうと思ったわけですね。綴りこそ違えど『アークザラッド』の『アーク』の文字も付いているし。早速、遊びこんでみたところ、グリーから基本無料でここまでのグラフィックと遊びが楽しめるゲームがついに出たかという印象。通信技術もしっかりしていないと、このクラスのコンテンツは円滑に運営できないですから、大きな問題もなく普通にサービスしているというのは実はすごいことです。絵が特にいい。コミュの盛り上がりもネトゲっぽい。面白く遊べる作品です。しかし、思うところもありました。ゲームシステムがセガの『KingdomConquest』に本当によく似ている……! それもそのはず。この二作品は同じ開発会社の手により創られたものだからです。

良く似たタイトルというのは、ゲームの歴史がはじまって以来ずっとあります。およそ創造に関して“真似をする”というのは基本中の基本。『インベーダー』がなければ『ゼビウス』もなかっただろうし、『スーパーマリオ』があったから『ソニック』が生まれた。『ウルティマ』や『ウィザードリィ』がなければ『ドラクエ』もなかった。『ドラクエ』が出たカウンターとして『FF』が出た。ですので、ざっくりと結論から言ってしまえば“模倣は悪ではない”です。

スマゲ☆革命ですから、携帯電話のゲームに焦点をあてましょう。このプラットフォームこそ、今もっとも「よく似たゲームシステム」のタイトルが非常にたくさんあります。特に“カードとガチャガチャ”で遊ぶ“カードバトル系”のタイトルはKONAMIの『ドラゴンコレクション』以降まさに玉石混淆(源流探しはナンセンスですが、当社の『ドラゴンクエストバトルロード MOBILE』が『ドラコレ』の前からあり、おもしろさや基本的なシステムの構築から言っても元祖“カードバトル系”だと思っているのですが、今現在のMobage、GREE隆盛を主語にすれば流れを作ったのは確実に『ドラコレ』でしょうね)。あまりに多くありすぎて、外側の絵さえ乗せ換えれば簡単にカードバトルゲームが創れてしまう“ソクゲー”なるエンジンまでもが登場しています。しかも、あけすけに“そのまま”真似ていても、それぞれが、それなりの(と言ってしまうと語弊があるくらい大きな)ビジネス的成果をあげています。

思えば、この“そのまま”真似てもOKの流れを作ったのは米国のZyngaが作り出したモデルのような気がします。『怪盗ロワイヤル』のアイデア元になったのはZyngaの『Mafia Wars』であるといわれていますが、そのZyngaのタイトルのほとんどには更に元ネタがあるといわれています。『Mafia Wars』の源流には『Mob Wars』という作品があり、『Cafe World』と元ネタの『Restaurant City』のインターフェイスも含めた酷似に至っては「ええんかな」「いやアカンやろ」といえるレベル。まずはマルっと真似た後に、改善を加えてより良くしたコンテンツを提供した結果、今のZyngaの存在感があるわけですから、これに影響を受けた会社は国内外問わずに多かったと思います(僕も2009年に最も良く遊んだのは『Mafia Wars』でした)。それが日本の携帯ゲーム市場でも“カードバトル系”においては、そのままはまったという感じでしょうか。

それにしても、この“模倣”の仕方というのはどこまでが良くて、どこからがダメなのかという線引きが難しい。エンターテインメントの原則はお客様をビックリさせて、ワクワクさせてナンボ。そのためには“見たことのない”“体験したことのない”切り口が必要です。一方、アクセルベタ踏みで、あまりにも新しすぎるとお客様を置いてきぼりにしてしまうという側面もあります。そこまで斬新なものは多くの人が望んでいないので、良い意味での“予定調和”や“どこかで体験したことがある”といったものが、想定通りにやって来るタイミングがあるというのは、実は気持ちの良いことです(水戸黄門で印篭が出るのが予めわかってるのに、それでも出るとうれしい感じ)。

結局はお客様が望んでいるものを、時代に合わせて適切に、新しく、時には予定調和を織り交ぜながら切り取っていく……という、なんとも言語化や数値化が難しいバランス。これに見事に成功したタイトルが“時代を切り取った”人気作になるのだと思います。この言語数値化が難しい領域というのが“おもしろさ”や“感動”といったことですが、ゲームを創りはじめたばかりの新進の会社が、こうしたロジカルに分析できない部分に投資するにはリスクが高すぎるのもよくわかります。あとは、創りたくても、やり方がわからないというのもあるかも。であればまずは真似てみようとなるのは論理的でもあります。まず真似てみるだけでも、“誰よりも早く”それをやれば、時代を切る取れる事があるからです。(前述のZyngaタイトルは半年以内でやっていました。)それで結果的には現在の玉石混淆になっているわけですね。すでに、“カードバトル系”のゲームでも売れているものは必ず、何かしらの新しい要素が一つはあります。しかもおもしろくないものは人気が出ない健全な状況になってきています。“おもしろさ”に対して何も考えていない、模倣だけの作品は売れにくくなってきたので、あらためて業界全体が“おもしろさ”“新しさ”に対して、いよいよ真剣に対峙し始めている印象があります。

一方でおもしろく、新しいものを創ってきた歴史のある、家庭用ゲーム機出身のクリエイターは違います。主戦場が携帯電話に代わっても、創るものは同じように“おもしろく”“新しく”あるべきだと思います。今の時点で土田さんのようなレジェンドクリエイターがパッケージゲームの成功体験から脱皮され、時代に合わせて早くもスマゲを創られていること自体がうれしく頼もしいことです。スピード感も大事な市場ですし、まずはローンチさせること、やってみることが大事な時期ですから、今は『ドラゴンアーク』も『KingdomConquest』に似ている部分が多いのかもしれません。運営でコンテンツはその色を変えますから、今後とも期待して遊びたいと思います。何より、この後に隠し玉が絶対にあるはずです。そのために前述の優秀なクリエイターたちが移籍をしたわけですから本当に楽しみですし、負けないように頑張ります。

もし、よければスクエニと“グリーの”土田さんとでスマゲを創りたいな。そんなことがあっても全然いいと思いませんか。絶対面白いゲームが創れると思います。テーマは21世紀型の『ヴァルケン』や『フロントミッション』のような骨太なメカものがいいですね。いつかご本人と未来のゲーム創りのお話ができることを楽しみしています。公開ラブコールで今週はおしまい!

■追伸
僕と一緒にスマゲでナンバーワンを取りたい人、沢山の応募ありがとうございます。
まだまだ募集しています。

 

つづく

 

安藤武博
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。

 

[バックナンバー]
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