スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第十九回 「アソビズムというイズム」

2012-05-02 23:09 投稿

●第十九回 「アソビズムというイズム」


今回は『ドラゴンリーグ』や『戦国リーグ』といった作品を手がけているアソビズム(会社の名前ですよ)のお話を書きたいと思います。昨年(2011年2月)グリーに『ドラゴンリーグ』が登場した時の衝撃は忘れることができません。カードバトルゲーム全盛の状況は当時すでにあったのですが、ほとんどのタイトルが類似したシステムだったのに対して、『ドラゴンリーグ』は圧倒的にチャレンジングであたらしく、そしておもしろかった。特に1日4回行われる60分間のチームバトルは、その後の携帯電話におけるギルドバトルに大きな影響を与えたと思います。いや、いまでも唯一孤高と言ってもいいかもしれないな。PCネットワークゲームのギルド戦のおもしろさがガラケーに収斂されているすごさ。このおもしろさを伝えたいなと思い、昨年末のファミ通本誌での記事“プロが注目する○○”にも『ドラゴンリーグ』のことを紹介させてもらいました。『ドラゴンリーグ』のおもしろさは遊べばわかりますので、未プレイの方はとにかくやってみてください。
※『ドラゴンリーグ』の詳細はこちら

僕は自分でプレイしてその作品がおもしろかったら、機会をいただける限り、直接お会いして「おもしろかったです」とお伝えするようにしています。この連載で「おもしろい」と書くのも同じことです。世の中にあるゲームをすべて遊べるわけではないですし、現在の私を中心としたエゴイスティックな記事にもなります。ですので、大変偏りがあるのは承知の上ですが、それでも“おもしろいものはおもしろい”し、“おもしろいと思う人と僕が話をしたい”ので感想を伝えるようにしています。『ドラゴンリーグ』に関しても早速アソビズムさんに行ってお話をする機会をいただきました。以降、まだ短い期間ではありますが、すっかりアソビズムという会社に魅せられています。

まず、徹底した“おもしろさ”至上主義。これこそが僕が(勝手に)考えるアソビズムのイズム。ディレクターであり、アソビズムの“おもしろさ”の中心である森山尋さんと他誌で対談させていただいた時にも、終始その話で盛り上がりました。この連載でも度々書いている「KPI(※詳細は第六回)至上主義に、真っ向からおもしろさで対決する」という姿勢は、森山さんと話をして以降、よりいっそう強まりました。数字はあくまで数字。まずは隣の人を楽しませることから始めるという考えかた。奇しくもその後に対談した『パズル&ドラゴンズ』を創られたガンホーの山本さんも同じ質のことを言われました。コンシューマーのゲームでは当たり前のことなのですが、この二人の登場によって携帯電話のゲーム創りも一歩進んだように思います。森山さんも山本さんもコンシューマーゲームを手がけているからというのもあると思います。森山さんがニンテンドー3DSで手がけられた『いきものづくり クリエイトーイ』(※詳細はこちら)も新しいおもしろさに満ち満ちている作品です。おもしろいものを創るときに、最適なハードやプラットフォームをその都度選択していっている感じが良いですね。選択肢の中に携帯電話が完全に入っているのがさらに良いと思います。

森山さんの話で刺激を受けたのが、ゲームの創り方のお話。まず絶対実現したい“おもしろさ”を決める。いわば宮崎駿監督が、絶対に描きたいカットや絵から入るやりかたの“おもしろさ”版ですね。そのあとは毎日徹底的に実現したいおもしろさの“イメージ”をスタッフに伝えまくる、語りまくるというもの。“イメージ”を徹底的に伝えるというのが非常に共感できるところです。イメージというのは、言語化や数値化が難しい“質感”や“手触り”、“やり応え”なども入ってきます。そもそも再三書いている“おもしろさ”という概念も、大変ふんわりとしたものです。私もこれを説明するときには、擬音、オノマトペや身振り手振り全開でやります。ゲームとは一見関わりが薄いように見えるのですが、このイメージがしっかり入っていないと“仏作って魂入れず”。実に味気ないゲームになりがちです。おそらくガチャガチャで大きな収益を上げている会社も、ガチャの演出に関しては相当イメージを練り上げていることだろうと思います。イメージが共有され、魂が入った作品のガチャは、同じガチャでもうれしさや悔しさが全然ちがいます。パチンコのリーチ演出もそうですね。同じシステムなのに、良い台は“アツさ”が違います。

最近アソビズムのオフィスが移転して、パワーアップしたので遊びに行かせていただきました。アソビズムの名を体で表すような、遊び心満載のオフィスでした。備品への細やかな配慮やセンスは社長の大手さんからくるものでしょうか。有り体な言いかたをすれば、オシャレなオフィスでありました。形容が稚拙ですみません。特に僕が良いなと思ったのは、とにかく徹底的に“コミュニケーションを取るために、すべてが存在するオフィス”になっていた事。まず見晴らしがいい。全員がどこにいるかわかる。会議室がなくても、どこでも会議可能なようにホワイトボードや机が存在している。立ち話ですら打ち合わせになるようにレイアウトされている。森山さんが前述のようなイメージを伝えやすいようにきちんとなっているし、その光景が目に浮かぶような配置になっていました。僕はとにかくクリエイターは孤独にするべきではないと思っていて、いかに風通しの良いコミュニケーションを取れるかどうかが、おもしろいゲームを創りだす“鍵”だろうと考えてきました。これまでのパッケージゲームですと、比較的閉じた環境でも良い作品が創れたと思います。ですが、昨今の携帯電話のゲームはサービスの領域に入っています。孤独な環境は御法度です。サービスとは、人と人のコミュニケーションそのものだからです。制作スタッフ内できちんと会話が成立していない状態でリリースされた作品が、お客様と健全に対話できるはずがない。そう思います。アソビズムはスタッフの方も積極的に人と話をする“開いた”社員が多いのも印象的で、コミュニケーション至上主義であることもイズムだなと思います。

ピッカピカで遊び心満点の、できたてのオフィスを後にするとき森山さんがこう言われました。「1年後、また引っ越します」 本気か冗談かはわかりませんが、創り終わったら、それはもうおしまい。新しいものがはじまる、という事だと受け止めました。今後もこの会社からは成功体験に捕らわれたマンネリ作品はでないでしょうね。僕も作品を多くの方に愛していただいた時ほど、いかにしてその既成概念や成功体験をぶっ壊すかばかりを考える性格なのでとても共感します。そしてここ重要。いずれお互いのベストタイミングでアソビズムさんと作品を創りたいなと強く思ったのでした。今回も要するにラブコールの回でしたね。これこそ僕が連載で作品を褒めるのが、実にエゴイスティックな行為あると書いたゆえん。でも、おもしろい作品を皆さんにお届けできる可能性がある限り、どんどんやっていこうと思います。

■追伸
先週2012年4月25日に、特モバイル二部(通称:特モ二部)最新作『LORD of VERMILION(ロード オブ ヴァーミリオン) 煉』(※詳細はこちら)をサービス開始しました。チーム安藤はじめてのMobage作品であります。アーケード版のスタッフに大きな協力をしてもらって創った、『LoV』愛な作品になっています。また、特モ二部が擁する“拡散性プロデューサー集団(※詳細は第十五回)”の新たなる刺客。市川雅統プロデューサーのモバイルデビュー作品であります。こやつも長年家庭用ゲーム機のプロデュースをしてきた人間で、“おもしろさ”の目利きには信頼がおける男であります。

※タイキさんが『LORD of VERMILION 煉』のために最高のイラストを描いてくださいました。サキュバスの小悪魔さったらないですね。サイコーに萌えます。そして、燃えます。

さきほどの“イメージ”の話で言うと、『LoV』愛を実現するために大きな貢献を果たしたエピソードがひとつあります。

実は、開発会社にゲーセンで稼動している『LoV』の筐体をそのまま搬入して、いつでも遊べるようにしました。ゲーセンの『LoV』を徹底的に知らない人間が、携帯電話でおもしろい『LoV』が創れるか! という至極当たり前の考えかたです。大きな筐体が玄関から搬入できなくて、紐で吊って窓から入れたり、電源の電圧を特殊に確保したりと、開発会社のサンアートさんにはいろいろお手数をかけたのですが、筐体を搬入して以来、『LORD of VERMILION 煉』の品質がグっと上がったように思います。おもしろさの実現にはこういうことがすごい大事なんです。

僕にとっても『ロード オブ ヴァーミリオン』は中学校から同級生である柴貴正が創ったゲームですから、いろいろ思うところがあります。いままであえてコラボはしてきませんでしたが、本当に厨二病だった14歳のころくらいに、「大人になったら一緒にゲーム創ろうぜ」って話していたことが、本当に実現してしまった。はなはだ私事ではありますが、本作はそんなゲーム版『まんが道』、『バクマン』的な作品でもあります。彼におもしろくないと言われるとムカつきますし、大事な作品を育ててきた柴に対するリスペクトの気持ちがあります。ですので、大事に運営制作をしていきたいと思っています。これをきっかけにもっと本格的なコラボができればいいですね。『拡散性ミリオンアーサー』ともども、『LORD of VERMILION 煉』をよろしくおねがいします。ご意見どんどんくださいね。

つづく

 

安藤武博
スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。
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