「VRは失敗すらも楽しめる」VRの未来予想図も語られた開発者パネルトーク【CEDEC 2016】
2016-08-25 20:02 投稿
新しく語られた話題をチェック!
パシフィコ横浜で開催中の開発者向けカンファレンス”CEDEC 2016″。2日目の招待講演では、いま話題のVRに関するトークセッション“【VR Now 特別パネルディスカッション】 VR 最前線 「VR ビジネスの現在と未来」”が行われた。
パネルトークを行ってくれたのは、“VR ZONE Project I can”(以下、VR ZONE)の仕掛け人としても知られる、バンダイナムコエンターテインメントの小山順一朗氏と、同じく“VR ZONE”でディレクターを務めている田宮幸春氏、そして現在コロプラでVRコンテンツ開発を統括している小林傑氏の3名だ。
じつは3名とも、最近各所で開かれているVRに関するトークセッションに頻繁に登壇されている方々。過去の講演に関しては、以下のリンクを参照してもらいたい。
VR酔い対策は?今後の展望は? VR開発経験者が語るVRゲーム開発の極意に迫る
FOVE代表&VR ZONE Project i Canの仕掛け人も登壇!命綱必須のVRにおける予想外な出来事とは!?
VRの認知度は思ったより低い!?
まず気になる発言が飛び出したのは、VRの認知度について語るシーン。“VR元年”という言葉が生まれ、さまざまなイベントや体験会が開かれているものの、VRという言葉の認知度や、体験の認知度は、実際には一般層にまでほとんど普及していないという話だ。
バンダイナムコエンターテインメントが運営しているアミューズメント施設“VR ZONE”は、この認知度アップに貢献している展示イベントのひとつ。
田宮氏は、このアミューズメント施設を通して感じたことがあるという。
“VR ZONE”に遊びに来たお客さんは、プレイステーションVRをきっかけにVRに興味を持った人が多いようで、「なんだかVRが話題らしいけど、よくわからないから、ちょっと遊びに来てみた」という声が聞かれたという。そういった意味で、「PSVRの発表はタイミング的にありがたかったです」と、田宮氏。また、そうした一般ユーザーとの触れ合いの中で「ヘッドマウントディスプレイのことをVRだと思っている人が多いようです」と、意外な発見もあったようだ。
こういった新しい技術に関するワードが、勘違いを招きやすいのは世の常。Androidスマートフォンこそがスマホであり、iPhoneはスマホではなくiPhoneだと認識している人がいまだに多くいることからも、それは明白だろう。
VRでも同じことが起こっているようで、VR=Virtual Realityという技術の総称であることは、まだ広くまで行き届いていないようだ。
今後、VRヘッドマウントディスプレイが一般的にどういった呼称に落ち着くのかも気になるところだ。
これに関して小林氏は「いまのVR市場の在りかたは、スマートフォン黎明期に似ています。スマートフォンは便利だと聞いてはいるものの、実際にどういったことができるかも漠然としていて、使い心地もわからない時代。こういった時期だからこそ、我々開発者はしっかりとフィードバックを集めて、今後のコンテンツ開発に活かしていきたい」と語った。
まずは試してもらうことが大事
続いて興味深い話題が飛び出たのは、小山氏の口から。VRをエンターテインメントとして初めて本格的に商用として世に出した“VR ZONE”の企画について話しているときだった。
「私たちの会社のトップに立っているのは60代の人たちで、過去に一度VRにがっかりした世代なんです。90年代のVRブームの際に「こんなんリアリティでもない、ニセモノだ!」と思った、いわばVRがっかり世代。私も含めて(笑)。だから、(VR ZONEの)企画を社内で通すのはたいへんでした。社長は関心を示してくれたんですけど」(小山氏)
VRの企画を通す難しさについては、田宮氏からも「『高所恐怖SHOW』の企画書なんて、言ってしまえばネコを抱きかかえて助けるってだけのものですからね。ふつうだったらこんな企画書は通りませんよ(笑)。ですが、コンテンツができはじめて、いろいろな人、それこそゲームをあまりやらないような部署の人たちにも体験してもらって、そこで初めて社内の空気が変わってきたんですよね」といったエピソードも語られた。
やはり、VRは一度ちゃんとしたコンテンツを体験してみないと、その魅力がわからないもの。小山氏と田宮氏は、ゲームをあまり遊ばないであろう部署までをも巻き込んで、たくさんの人にまず体験してもらい、社内の空気を変えていったという。
「決め手になったのは、体験している人の様子を撮影した動画でしたね。若い子に遊んでもらったときに、たまたまその様子を動画に撮っていたんです。それをみんなに見せて回ったら、「これはおもしろそうだ!」となって。そこでポジティブな印象を持ってもらえるようになりました」と田宮氏は振り返っている。ちなみにこの経験をもとに作られたのが、VR ZONEのPVである。
また、いまはとにかくたくさんの人に遊んでもらうことが重要だと小林氏。「8月頭から、テレビ局の夏のイベントとかで、たくさんVRの展示をさせてもらっています。VRに慣れていない方々は、コントローラのボタンの位置がわからなかったり、予想外な動きをされたりすので、そこで初めて気づかされることも多いですね。たくさんの人に触れてもらうのは、本当に大事ですね」(小林氏)と賛同を示している。
ゲーム性と没入感は両天秤
「ゲームとしておもしろいものをVRにしたとき、人ってゲームのルールに集中してしまうんですよね。そうすると、VRならではの体験が陰ってしまいます」
田宮氏のこの言葉を皮切りに、VR体験とゲーム体験のバランスについて語られ始めた。
ゲーム性を重視した作りにしてしまうと、ユーザーはゲームに熱中し、VR世界という没入感を無視してしまいがちになる。一方で、VR世界への没入感を大事にするとゲーム性を濃くできないというジレンマがあるのだそうだ。これは小林氏も強く感じているポイントらしく、力強く頷いていた。
小山氏も、このゲーム性と没入感とのバランスに関して思うところがあるようで「ゲームは勝ち負け、失敗成功という色が強いコンテンツです。すると、その結果にばかり目がいってしまい、体験の魅力が半減してしまいます。でも切り口をゲームではなく”体験を軸としたエンターテインメント”とすれば、VRならではの表現ができます」とコメントをしている。
加えて「緻密なゲーム設計をするのは一度やめにして、これを使ったときに人間がどんな行動をし、どういう行動を起こすのか、そういった心や頭の動きを優先するのが大切な気がします」(小山氏)とも述べた。
続けて田宮氏は、「ゲームだと失敗した経験は嫌な思い出として忘れちゃうんだけど、VRは失敗が楽しいですよね」と持論を展開。
VR ZONEのアクティビティ『脱出病棟Ω』では、ゲームオーバーになると瞬間にプレイヤーが凄惨な体験をすることになる。田宮氏が、無事クリアーした来場者にそのことを伝えたところ、「ゲームオーバーになっておけばよかった!」と言う人が多くいるのだとか。また、実際にゲームオーバーになった者どうしでも、そのバッドエンドについて話が盛り上がることもあるらしい。
▼『脱出病棟Ω』でゲームオーバーになったときのみぃこがこちら
通常のゲームでゲームオーバーになると、それは悔しい思い出として早々に忘れてしまうもの。だが、ゲームとしてではなく、ひとつのエンターテインメントとしてVRを捉え、その上での特殊な体験(ここで言うゲームオーバー)をすることは、また違った楽しみのひとつなのかもしれない。
最後に小山氏は、「”VRはゲームとは違うもの”と理解したうえで、ゲームとして通り一辺倒に捉えてしまうのはもったいない。VRの楽しさや特性をゲームのフォーマットに入れ込む前に、プレイヤーの心を動かすコンテンツにこそ、VRという表現が活きます」と、熱弁を振るった。
5年後のVRはどうなっている?
パネルトークのラストでは、5年後のVRの在りかたについて三者三様の回答が飛び出した。
スマートフォンは、黎明期を迎えてから3年ほどで大きな市場形成を始めた。この流れに則り、VRも3年後を目処に市場形成が始まった場合、そこからさらに先の5年後に、どのようなことが起こっているかを予想してもらおうという話題だ。
これに関して小山氏は「ネット環境と体感技術が進歩をすれば、あらゆる体験の代替品になる可能性がありますよね」とコメント。例として“VR ZONE”に足を運ばなくとも、それと同等の体験が家庭でもできるようになる未来を見ているようだった。
田宮氏は「家庭で気軽に楽しめるという方向性は、いろいろな問題を解決しつつ実現すると思います」としつつも、ネットで体験を共有するのと、顔をつきあわせて体験を共有したり、プレイしている人を見て笑ったりするのとでは、体験の質が異なるとし、さまざまな形態へと進化を遂げていくとの予想を聞かせてくれた。
小林氏は「一家に1台VR機器という環境にならないと、僕の仕事はなくなってしまいます(笑)」と笑いを誘いつつ、「スマートフォンがゲーム機としても活躍しているように、VR機器も複合的なデバイスでありながら、ゲーム機としての存在力も示すものになる」と予想。
各人それぞれに予想を語ってもらったが、そこに普及を疑う声はなかった。
まだ市場形成がなされていないVRという新しい技術。しっかりとした市場が作られていないため、コンテンツからの収益予想を立てにくく、企業も気軽にVR事業に参入できないのが現状だ。
されど今回登壇した3名の中では、VR普及に向けてのロードマップがしっかりと描かれているように感じられた。
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