スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第二十六回 「ガーディアン・クルス裏話」
2012-07-19 21:33 投稿
●第二十六回 「ガーディアン・クルス裏話」
みなさんご無沙汰しております。来年発売予定の新作の仕込みなどでバタバタしており、連載が止まってすみませんでした。仕込み中の新作はどれも新しいおもしろさに溢れている作品群ですので、このブログで追って紹介していきますね。
今日は先週のファミ通App人気記事ランキングで1位を獲得したわれらが新作『ガーディアン・クルス』(以下ガークル)の裏話をします。かなり身内の話になりますので恐縮ですが、そこから特モバイル二部の制作の雰囲気や、組織の動かし方がお伝えできればと思っています。
この作品は元々ひょんなことからスタートしたプロジェクトでした、2010年初頭から僕と、『ガークル』のプロデューサーである田付信一はFacebook向けのゲームの制作を開始しました。後に田付によって『ナイツオブクリスタル』と名付けられたこの作品は、GREEプラットフォームにも展開され2011年上半期のGREE Platform Award 優秀賞を受賞することになります。GREEでは、いまだに運営中の『ナイクリ』は我々にF2Pのサービスのやり方や、運営型ゲームの創り方に関して非常に有益なノウハウをもたらしました。『ナイクリ』で田付が考案した“アリーナシステム”は、『ガークル』のコロシアムの原型になっています。
ちょうどFacebook版の『ナイクリ』を創っている時に、互いに思っていたのが「バトルが簡素すぎて、つまらない」ということでした。当時最新のソーシャルゲームのトレンドを汲みいれたこの作品のバトルは、自キャラと敵がぶつかったらすぐに勝敗が決するというテンポ重視の内容。バトルボタンを押したらプレイヤーは、予め演算された結果から逆算されたプロセスを見ているだけ。ゲーム屋としてはテンポ重視とは言え、なんとかならんもんかと思案投げ首をしていたところ、「そういえば、スクエニにはバトルシステムのレジェンドがいるよね」という話になりました。ということで、『ファイナルファンタジー』のアクティブタイムバトルやガンビット、アビリティシステムやジャンクションシステムの考案者である伊藤裕之に相談に行ったわけです。
伊藤には数日間『ナイクリ』を遊んでもらい、その後「考えてみました」という返事が。嬉々として二人で馳せ参じたところ開口一番、実に意外な言葉が出てきたのでした。
「バトルシステムを考えていたら、まったくの新企画を思いついたよ」
そう、これこそが『ガーディアン・クルス』の雛形となる企画になるんですね。今読み返しても、おもしろさの骨子は全くブレていない精度の高いものです。以降、原案・伊藤裕之、プロデュース・田付信一で制作を進めて現在に至るというわけですね。
ところで、この田付信一という男は体育会系色の強い、特モバイル二部においては頭脳派の文化系。それでいて自分が良いと思ったことは全く譲らない、鼻っ柱が強く、それでいて理路整然としている大変めんどくさい人です。特におもしろさについては、上司の私にも頑として譲らないので、些細なところも含めて『ナイクリ』を共同プロデュースしているときはよくぶつかりました。歴代で一番大きな声が出たと思います。まさに文字通り怒号飛び交い、ぶつかり、もつれながらやってきました。
彼から事あるごとに、とにかく突き上げられていたのは「とにかく、自分一人でプロデュースがしたい」という強い、強い要望。“衝動”と言ったほうがいいかもしれません。この作品も、『拡散性ミリオンアーサー』の岩野と同じように20代の若者が、世界を敵に回してでも、一人で孤独に熱狂して制作されたプロジェクトです。こういった作品は最終的に言語化不可能な艶っぽさや、良い雰囲気をまとい、最終的には多くのお客様を熱狂させることになります。
話を元に戻すと、理路整然としながらも、まだまだ荒削りなところもある未完成な男なので、『ガークル』でもガッツリ入ってサポートしたい気持ちは強かったのですが、「そんなに言うなら徹底的に一人でやってみろ」、「その代わり、売れなかったら修行コース」、「売れたら、独立コース」という形で、男同士のコミットが成立したのでした。ですので、『ガークル』に関して私が行った最大のサポートは
「徹底的に任せきる」
「田付がやりたいといったことは、すべてやらせる」
という事に尽きます。このプロジェクトに関しては一言一句、何も言っていませんし、すべて田付がやり遂げたことなんですね。私もいまだに現場のいちプロデューサーとして、口出ししたいことはもちろんあったのですが、決めた以上は任せきりました。これには、尻の穴がムズムズしましたな。もっとも田付が立ち向かったことは非常にリスクを取るチャレンジでしたから、親心としては当然です。これを我慢するのが一番大変でしたね。
“ガチャ無し”、“オリジナルタイトル”、“3G回線ではダウンロード不可”、“カルドセプトもまっ青の硬派イラスト”、“ゲームシステムがFPS”、“ローンチから『FF』とタイアップ”、時代のトレンドに真っ向から挑戦状を叩きつけつつ、芯の通ったおもしろさを仕掛けた、これらのプロデュースをやってのけた挙句、現在のApp Storeでトップセールスの3位を獲得するというのは、非常に高難度なことだと思います。そう簡単に誰でもできるようなことではありません。これは同じく『拡散性ミリオンアーサー』の岩野にも言えることだと思います。手前の話ながら、心底そう思います。サポートするはずが、若者二人に逆に教えられることの方が多かったですね。
というわけで、当初の約束通り、田付信一は晴れて特モバイル二部を卒業。チーム田付が結成されモバイル事業部に転籍。初の卒業生となりました。岩野は一緒にやっていたほうが、お互いにとっていいことがあるので引き続き特モバイル二部にいます。田付には、よい意味でのめんどくささだけ残して、これからもおもしろいゲームを創ってもらいたいものです。彼は最終的にはコンシューマー機でブロックバスター級のAAAタイトルを創るそうです。『スカイリム』のようなインパクトをいつの日か期待しています。その頃には「遊べたらどのハードでもいい時代」になっていると思いますので、スマホでゲームを創り続けるのは良い経験になるでしょう。次回作もおもしろいことを考え始めているようですよ。もちろん『ガークル』も充実のアップデートを予定しています。
思えば、特モバイル二部をさかのぼると、岩野と田付の三人でスタートした“チーム安藤”が原点ですから、2012年3月からの『ケイオスリングスII』(安藤)、『拡散性ミリオンアーサー』(岩野)、『ガーディアン・クルス』(田付)の三連発で、それぞれ違う遊び、すべてオリジナルタイトルでトップセールスの2位、1位、3位を獲得したこと。運営系の2タイトルに関してはランキングの上位に常駐していきそうなことを考えると、“スマゲ☆革命”がみなさまの支持もあって着々と進んでいる感じがあります。私以外にも革命を起こすプロデューサーを排出することも、私のひとつのプロデュースですから今後ともこの三名の作品にはご期待下さいね。
我々三人が来年以降に向かって現在創っている新作は、“ガチャ無し”、“コンソール機級品質”、“新しい遊び”の三拍子が揃っているもので、本格的な革命は2013年だと思っています。その前に、まもなく岩野と私の共同プロデュース作品『星葬ドラグニル』が発売されますので、こちらもお楽しみに。現在いよいよアップルの審査中です!
■追伸
『ミリオンアーサー』については限界突破の導入が賛否含めて大きな話題になっていますね。チーム一同、皆様の反応を真摯に受け止めています。岩野曰く、「限界突破は、いろいろな目的を持ったものですが、なにより、ひとりでも多くのお客様に、魅力的なカードや強いカードを手に入れて欲しいという意図が一番強いです」とのことです。また、寄せられている要望にはできるだけ答えていくとのことでした。
例えば、限定イベントで手に入れた希少カード(第二型フィオナーレなど)については、今後、先行して手に入れたプレイヤーの方が納得できるような運営やイベントを行っていくとの話をしていました。ナカマップや2ちゃんねるをガン見しながら、全力で運営制作をしていますので、引き続き叱咤激励をよろしくお願いします! それではまた。
つづく
【ガーディアン・クルス】
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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