スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第二十四回 「実録、スマゲの創り方。~会議編~」
2012-06-12 19:21 投稿
●第二十四回 「実録、スマゲの創り方。~会議編~」
まずは告知から。2012年3月から全4回にわたってお送りしたスマゲ紹介番組『シシララ!』。装いも新たに『シシララ プラス!』として5月24日から復活しています。金曜日の19時からニコニコ動画で“毎週”放送中です。今週も先週に引き続き『拡散性ミリオンアーサー』でモルゴースのCVを担当していただいている声優の明坂聡美さんがゲスト。
前回のオンエアでは、熱狂的な『ミリオンアーサー』のプレイヤーであることが判明した明坂さん。プロデューサーの岩野がガチンコで質問攻めにあったり、開発中のチャット画面やデッキ編成画面が公開されたり、賑やかな展開になりましたね。
それにしても開発中のデッキ、どんだけ神デッキやねん。うらやましすぎるわ。
今週は『ミリオンアーサー』からはいったん離れて、明坂さんと番組パーソナリティーであり声優の瀬戸麻沙美さんと、「声優さんが遊ばずして誰が遊ぶ?」……その昔、スクエニ社内で熱狂的な盛り上がりを見せたiOS向けアプリ『ボイスファンタジー』をプレイしようと思っています。また、ゲーム企画会議の公開放送『迎夢作郎Z』のコーナーでは明坂さんが創りたいゲームについて徹底的に会議したいと思っています。『ミリオンアーサー』を通して骨太ゲーマーであることが判明した彼女が、どのような新企画を思いつくのか? お楽しみに。
それにしてもCVをオファーした声優さんに、ゲームを遊んでいただけるのは開発者冥利に尽きるというか、本当にうれしいことです。明坂さんとは再度『ミリオンアーサー』についてじっくり話をする機会が持てたらと思っています。視聴とタイムシフト予約はこちらからどうぞ。
さて今回は、集中連載『実録、スマゲの作り方。』の“会議”編となります。およそ知的生産労働に欠かすことのできないステップ。それが打ち合わせや会議です。週のほとんどの時間が会議で占められている方も多いのではないかと思います。会議と言っても十把一絡げにできないほど、いろいろな種類があります“企画会議”、“報告会議”、“委員会”、“分科会”……会議という体裁をとっていても実際はアイデアを出し合うブレストの場だったりもします。今回は会議を“ゲーム制作を進行させるための打ち合わせ”と定義します。また、会議は人や組織によってそれぞれのプロセス・進め方が全く違いますよね。ですので、あくまで“私のやり方”ということになりますが、いろいろ思うことを書いてみたいと思います。
■会議とは決断をするところ
当たり前のことですが、これを忘れてはいけません。私のゲーム制作スタイルの場合、決断者はプロデューサー。つまり私であることがほとんどです。なるべく“持ち帰って検討”ということが無いように、会議をしていない時は会議の時に決断がすぐにできるように“準備”をしています。ゲーム内容に関わる会議だと、「AというアイデアもBというアイデアもどちらも面白くて、売れそうであるが、どちらにすべきか?」という決断に迫られることが往々にしてあります。その場合の準備とは、とにかくいろいろなパターンを事前に頭の中でシミュレートしておくこと。シンプルですがこれにつきます。
また、なぜプロデューサーがなるべく“持ち帰って検討”しないほうが良いのか? それは、そうすることで開発部隊に“待ちの状態”が発生してしまうからです。ゲーム制作は、他のモノづくりに比べて“いざ間に合わない”状況のリカバーに、たいへん時間がかかるという特徴があります。例えば明日が納期(締切日)の場合、音楽や漫画であれば増員をかけて徹夜をすれば、なんとかなる事もあるかと思います。ゲームの場合、明日までに創らなければならない、(仮にRPGでダンジョンや街やイベントとしましょうか。)が、できてない場合。1000人増員したところで、なんともなりません。それどころか、数ヵ月、数年単位で完成が延期してしまうことが普通に起こり得るのです。スマゲやソシャゲの時代になって、少人数でスピード感が早いモノづくりになってきたとはいえ、依然として複雑なプロダクションの構造を持っているのがゲーム制作です。ただでさえ遅れる性質を持ちやすいプロジェクトに“待ちの状態”を与えるのは、制作のサポート役であるプロデューサーが、まさに足を引っ張ることになるので禁じ手なのです。ですから、極力防がないといけません。
おそらく、こういった性質のことは数多あるビジネス書などに記述されていると思います。ですので、その他、会議をする際に現場の制作者(ゲームプロデューサー)として心がけている事を次に書きます。
■会議は必ず制作会社で行う
特モバイル二部の制作スタイルの場合、外部の制作会社にクリエイティブを依頼することがほとんどです。つまり物理的に距離が離れている人と共同制作をするということになります。パっと思いつくだけでも初台、大塚、木場、中目黒、岩本町、池袋、渋谷、末広町、などなど……にある会社と打ち合わせをします。私たちは新宿にオフィスがありますが原則ここでは会議を行いません。シンプルに“開発者の移動時間がもったいない”というのが最も大きな理由です。移動する時間があれば、その分おもしろいものを制作していただきたいわけですね。
2番目の理由として“開発会社の雰囲気を細かく掴みたい”というものもあります。大変感覚的な話ではありますが、今現場がどんな感じになっているかという“気の流れ”みたいなものを感じ取るのは、複数の人間が創る“人によるものづくり”を進めていく上で、すごく大事なことです。みんなが順調に開発をしているのか、何らかの壁にあたっているのか、気力体力の状態はどうなのか等々……は毎週顔を付き合わせるだけでも随分つかめるものです。それによってお願いする内容や制作の進め方も変わってきます。クリエイターであれば休日返上で命懸けになるタイミングが必ずあると思いますが、そういった時の顔色は会えばすぐにわかります。そんな時に、お願いしていいことと悪いことがあります。しんどいのがわかっているのに、追い討ちをかけるようなお願いをして、結果気力を削ぐみたいなことは実にKYですから御法度です。こういった状況判断はメールだけでは絶対にわからない領域です。毎週定期的に開発会社に足を運んでいると、極端な話、オフィスに足を踏み入れた瞬間に現在昇り調子なのか下り気味なのかが直感的に分かったりします。それを感じるためだけにも、出向く価値があるといってもいいくらいです。なお、この直感は初めてその会社を訪れる際に、「本当にこの会社と組むとお客様が喜ぶナンバーワンのゲームが創れるのか?」を判断するときにも大事にしています。
また京都、大阪、台湾、中国……といった頻繁に直接足を運べない距離にある会社の場合は、それだけで大きなコミュニケーション的なハンデキャップがあります。ですので、なるべく毎日スカイプやTV会議をするよう担当は心がけています。もちろん、お互いのコミュニケーションが充実していれば、距離が離れていても直接会っていなくても、回数や直接コンタクトは必須条件ではありません。ですが、ゲーム制作においてトラブルの根源は大きく分けて“コミュニケーションによるトラブル”か“技術のトラブル”のふたつしかありませんので、これを未然に防ぐために、綿密に対話ができるプロセスはとても重要です。
また副次的なことですが、プロデューサー同士で開発会社に移動をしていると、その移動時間が打ち合わせの時間になります。ですので、移動の多い特モバイル二部には企画会議が公式には存在しません。移動時間にフラッシュアイデアを出し合ったり、そのリアクションを確かめたりします。移動しながらだと常に景色も変わって刺激があるので、煮詰まることも少ないような気がします。到着するまでに話をしなければいけないので、制限時間もあって締まります。そんな良いこともあったりしますね。最後に再度、一般論に戻ります。
■会議は短く、なるべく少なくしよう
これもどこかの自己啓発本に書いていそうな内容ですね。コミュニケーションを円滑に行うために打ち合わせや会議は行うべきなのですが、究極“しなくてもいい”くらいの“気持ち”でソリッドに臨むべきです。明確な目的がなくなったら、即刻廃止。まとめられるものはまとめる。原則人間の連続集中は二時間が限界。だらだらやらない。などを心がけて“会議のための会議”だけは絶対に避けましょう。
どのようなお仕事もそうですが、全ては“決断の連続”です。決めないと何も進まないですし、進まないとお客様に作品を届けることができません。“会う→決める→進める” 最低限これを心がけて私は会議や打ち合わせをしています。また人と人とのコミュニケーションは不規則であり、変化に富み、定義が難しいものでもあります。今回は現時点での会議を定義して記事を書いてみましたが、これも次々改良と進化させていきます。
今週金曜日19時~の『シシララ プラス!』では、ゲーム業界外の声優さんが奔放に出すゲーム企画のフラッシュアイデアを制限時間内に、検討可能な企画レベルまで持っていくという事をやります。どんな無謀なアイデアも形になるように、また、おもしろそうに見えるように決断していくことは可能です。オンエアをお楽しみに! 視聴とタイムシフト予約はこちらからどうぞ。
■追伸
先週、休載してすみませんでした。はやければ今週末~来週に前回の『シシララ プラス!』で紹介した『ミリオンアーサー』のアップデートができるかもしれません。アップルの審査が順調に行きますように。また新作『ガーディアン・クルス』も現在アップルの審査中です。こちらもお楽しみに。
つづく
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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