【ひらブラ vol.14】ワンフリ、ガンソ、Republique!人気アプリの「音」のヒミツ
2014-04-18 12:00 投稿
Uniteレポート(後編)をお届け!
前回の記事「お台場に1000人のスマゲ開発者が集結!? CRI Uniteレポート(前編)」に続きまして、その後編をお届けします。今回は「音」についてです。ゲームって、ついつい映像のほうばかりに目がいってしまうものですが、音って本当に大事なんです。
スマホゲームも初期の頃は技術的な課題もあって、音がまったく無かったり単調なBGMとシンプルSE(効果音)のみで作られたものが多かったのですが、最近のゲームはとても進化しています。
「な〜んだ、サウンドの話もあるなら参加したのにぃ〜」という方のためにも、本記事では実際のゲームでの事例とともに本格的なスマホゲームを彩る音声技術についてご紹介。もちろんゲーム開発者でなくても、自分の好きなゲームの音のヒミツが分かるかもしれませんので、ぜひお付き合い下さいね。
ちょっと専門的なトピックもありますが、なるべくわかりやすく解説します。
ワンダーフリックの場合
事例紹介の最初は、レベルファイブ社からリリースされている『ワンダーフリック』。前回の記事でも、動画演出を効果的に活用しているゲームのひとつとしてご紹介しました。今回は、同作の音について迫ります。
ワンダーフリックでは、サウンド全般に「ADX2」という音声ミドルウェアが使われていて、BGMやボイス、効果音などの各種サウンドデータを高音質のまま、高度に圧縮することに成功しています。
ほら、アプリってなるべくサイズが小さいほうがダウンロードも速いしスマホ内蔵のデータ容量も節約できますよね。でもゲームとしてはリッチなサウンド演出でプレイしたい。ボクもゲームをプレイするのが大好きですが、ユーザ心というのはつねにワガママなものです(笑)。
一見矛盾するようにみえるこの2つの「だったらいいな」を両立するのがサウンドミドルウェアの役割というわけです。
ワンダーフリックの場合、もともとのサウンド素材の合計データサイズが「約500MB」だったものが、なんと「48MB」にまで圧縮されています。音質を維持したまま10分の1にデータサイズを縮めることに成功しています(2014年3月末時点の情報)。
さらに、ちょっと専門的になりますが、ADX2の機能を使うと、ゲーム内に収録された音を「再生時に」変化させて再生することができます。ワンダーフリックでもこの機能を駆使して、収録された音素材の数をはるかに超えるサウンド演出のバリエーションを実現しています。
たとえば、実際の音素材は1つなのに、再生時にピッチ(音の高さのこと)を変えることでデータサイズを抑えながらもゲーム状況に応じたいろんなサウンドを鳴らすことができるというわけです。
ワンダーフリックのボス戦では、ボス側の残りHPによってBGMが変化する演出があります。これはAISAC(アイザック)という特殊な機能を用いることで、上記写真のように、複数トラック音楽の音量をリアルタイムに制御することで実現しています。
また、コンボ数に応じた音の変化やモンスターの巨大化に連動した演出といったものを実現しています。音の演出のバリエーションを、音素材を増やすことなく行っています。凄い工夫ですよね!
「ダッキング」って聞きなれない言葉かもしれませんが、ゲームや映画などの音の演出に不可欠なものなんです。ボクシングに詳しい人ならご存知かもしれませんが、ボクサーが身をかがめてパンチをかわす動きをダッキングといいます。ここでのダッキングも同じで、聴かせたい音を再生するときに他の音の音量をしぼることを指します。
ワンダーフリックでは、ボイスだけでなく、ダンジョンクリアや宝箱ドロップといったシーンでの特別なジングル(挿入される象徴的な短い音楽のこと)を目立たせるために、BGMや他の効果音の音量を一時的に下げる処理(=ダッキング)を行っています。
このダッキング、とてもユーザ思いの素晴らしい演出なのですが、反面、開発者泣かせでもあります。従来のように、ダッキングが必要なシーンごとにいちいちプログラマーが制御するやり方だと工数が増えてしまいます。
ここで役立つのがADX2のREACTという機能。詳しい説明は省きますが、その名のとおり、ゲームの状況に応じて音を変化(=Reaction)させることができる機能です。ポイントは「自動的に」その処理が行われるという点。ひとつひとつのサウンドに設定を行わなくても、サウンドをあらかじめカテゴライズ(分類)しておけば、複雑なダッキング演出もとてもカンタンに実装することができます。
夢中でゲームを遊んでいると気にならない演出かもしれませんが、この「気にならない」ことって実はスゴいことなんです!それだけ自然な演出ってことですからね。
ちょっとむずかしい言葉では、こうした”さりげないけれどユーザが気持ちよく遊べるような配慮を徹底的に行うこと”を「UCD(User Centered Design)」とか「優れたUX(User Experience)」と呼んだりします。
コンテンツの作り手は、ユーザの使いやすさ(遊びやすさ)と工数(コストや予算)との狭間で、難しい判断を迫られるものです。とくに、UXのためのチューニングには時間と手数がかかるものだったりします。それを両立できるようにお手伝いするのが、ミドルウェアというわけです(このブログでも再三同じことを書いていますけどw)。
…おっと、ワンダーフリックだけで、ずいぶん盛りだくさんになってしまいました(汗)。では、次の事例です。
ガンズアンドソウルの場合
事例のふたつ目は、スクウェア・エニックス社の「ガンズアンドソウル」です。(本作はUnity採用タイトルではありませんがADX2の導入事例として今回ご紹介しました。)
従来のスマホゲームの常識をくつがえす同作は、「feat. Song Summoner」の副題のとおり、音へのこだわりも徹底しています。BGMにはボーカルが入っていたり、メインストーリーはフルボイスで構成されているなど、とても気合いの入った作品です。
詳しくは上記スライドを参照して頂ければと思いますが、収録されている音データが多く、フルボイスで遊びたいプレイヤーのために、ストーリーのボイスはユーザが任意にアプリからダウンロードできるような仕組みになっています。
ADX2を用いて圧縮した結果、共通BGMは合計31MB、歌は全部で4MB、ボイス群は会話毎に1.5MBと非常に小さくなりました。思わず「これだけ小さくできるのであれば、一括ダウンロードにしても良かったかもしれない」という発言も、開発者の方からは漏れたそうです。
さらに、ガンズアンドソウルでは、ボーカル曲を採用していることもあり、効果音やボイスとBGMとの音量バランスの調整が重要になります。この調整を効率化するために、AtomCraft(ADX2に同梱のサウンドオーサリングツール)を使って、素材はそのまま、実際にツール上でプレビューしクリエイターが音のバランスを聴いて確認しながら調整を進めていったとこと。
こだわりと効率を両立し、よりクオリティの高いゲームを実現した好例、それが「ガンズアンドソウル」と言えるでしょう。
そして、最後の事例紹介は、こちら!
Republiqueの場合
昨年のUniteでは基調講演を行った、Camouflaj Production社のライアン・ペイトン氏によるゲーム「Republique」。据置ハイエンドゲーム機レベルのゲームをスマホで実現した野心作です。
本作に関しては、GDC2014でのライアン氏の講演内容がファミ通にも掲載されていますので、ぜひご覧下さい。
本作でも、ADX2が大活躍しています。3D音響の実現やインタラクティブサウンドなど、ADX2のなかでも先進的な機能をフル活用して開発されています。
…と4枚ほど講演スライドを連続掲載するという手抜き(?)をしてしまいましたが、うーん、音に関する演出や技法を、言葉と静止画でお伝えするのって難しいですよね…。
そこで、Uniteで行った講演から一部を切り出して「動画」でお届けすることにしました。ボクの手持ちのデジカメで撮影したものなので、音声面など聞こえにくい部分もあるかもしれませんがご容赦下さい。
動画では、Camouflaj社から特別に提供して頂いた「Republique」のゲーム内で実際に使用しているプロジェクトデータを使って、ライブでツールのデモを行っています。実際にどうやってサウンド演出を行っているかが手に取るように理解出来ます。
字幕もガンバって付けたので、ぜひ「字幕ON」でご覧頂ければ、分かりやすいかと思います。
Android向けモードとiPod音楽検知機能
実際のゲームタイトルで、どんなふうにサウンドの演出が行われているかをご紹介してきました。Unite講演では、ADX2の機能の補足として、Android用の低レイテンシ再生モードとiPod音楽検知機能をご紹介しました。
どちらもまだまだ開発中の技術ですが、もちろん実際のアプリで使って頂けます。
さて、2回にわたってお届けしたUniteレポート、いかがだったでしょうか。
ご質問やコメント、もっとここが知りたい!という部分がありましたら、お気軽に記事巻末の問い合わせフォームからご連絡下さい。ひらブラFacebookページからメッセージを頂いてもOKです。
今回ご紹介したゲームアプリについて
今回の事例紹介で取り上げた各ゲームアプリについて、ダウンロード情報などをまとめておきます。
記事を読んでから実際にプレイしてみると、どのような演出にミドルウェアが活用されているかが理解しやすくなると思います。
ワンダーフリック
- ジャンル
- RPG
- メーカー
- レベルファイブ
- 価格
- 無料(アプリ内課金あり)
- 対応機種
- iOS 6.0 以降/Android 4.0 以上
- コピーライト
- (C)LEVEL-5 Inc.
GUNS N’ SOULS(ガンズアンドソウル)
- メーカー
- スクウェア・エニックス
- 配信日
- 配信中(Android版は2014年春予定)
- 価格
- 無料(アプリ内課金あり)
- 対応機種
- iOS 5.0 以降。iPhone、iPad および iPod touch 対応。 iPhone 5 用に最適化済み
- コピーライト
- (C)2014 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Developed by SHIFT
Republique
- ジャンル
- RPG
- メーカー
- Camouflaj
- 価格
- 500円[税込]
- 対応機種
- iOS 7.0 以降。iPhone、iPad および iPod touch 対応。 iPhone 5 用に最適化済み
- コピーライト
- (C)2013 Camouflaj LLC
さて、今日のブログはここまで。
また、次回の更新でお会いしましょう!
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※【ひらブラ vol.11】長く遊べるゲームを低コストでつくるには(ナラティブなゲームってなんだろう?)
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幅朝徳(はば とものり) 株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。GREE社やnhn社といった企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュースも行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。現在、さらなる新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当する傍ら、ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。
趣味は、映画鑑賞とドライブ、クロースアップマジック、デジスコによる野鳥撮影、コンパニオンバードの飼育、そしてもちろん、ゲーム。
CRI・ミドルウェア ウェブサイト
http://www.cri-mw.co.jp/
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