リア充ほどVRにハマる!?お台場VR ZONEの仕掛け人がVRの知見を大公開【CEDEC 2016】
2016-08-25 22:35 投稿
爆発的人気を誇る”VR ZONE”、その人気の秘訣
パシフィコ横浜で開催中の、コンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2016”。
“VR ZONE Project i Canの知見全部吐き出します!!”のセッションでは、お台場のVRアミューズメント施設”VR ZONE Project i Can”(以下、VR ZONE)の仕掛け人としても知られる、バンダイナムコエンターテイメントの 小山順一朗氏と田宮幸春氏が登壇。
両氏がVR ZONEの企画・運営していく中で得られた多彩な知見を、ユニークな語り口で紹介してくれた。
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VR ZONEのメインターゲットはリア充層!?
「VRエンタメで世の中を沸かせてみたい、可能性を追求してみたい」。そうした熱い想いを持って、VR ZONEの企画を立ち上げた小山氏。しかしながら、VRはまだまだ世間から見ても認知度の低い業界である。小山氏は「会社の上層部はVR絶望世代。この人たちを納得させるのが、ほんっとうにたいへんでした」と、当時を振り返る。
では、どのようにして上層部を納得させるのか? ここで小山氏が考えたのが“消費者の反応で、人気と儲けの可能性を証明する”というものだった。
そのために小山氏は、VR ZONEのメインターゲット層を策定する際に意外な選択を採った。通常ならば最先端好きの30~40代男性をメインターゲットとするところを、VR未体験の18~30代男女、いわゆる”リア充グループ”をメインターゲットに設定したのである。
最先端好きなコア層ではなく、20代男女のような一般層に受け入れられれば、世相も傾く。小山氏なりの考えあっての行動だ。
だが、そうした一般層をターゲットとするとなった途端に大きな壁となったのが、プレイ料金だという。田宮氏からも「VRは無料で体験できるイベントが多かったので、お金をいただくというのは、中々ハードルの高いことでした」といった補足説明もなされた。
しかしそれでは、小山氏が掲げた“(VRの)人気と儲けの可能性を証明する”ことにはつながらない。また、「無料で体験できてしまっては、VRの価値を下げることにもつながります」と小山氏。
そこで小山氏は、アミューズメント施設に根付いている“ゲームは1回100円”という概念をリセット。さらに運営してみないことには現地で何が起こるか分からない状況から、完全予約制を採用した。またVR ZONEが立地する場所は、観光地のひとつとしても知られるお台場。来場する敷居の高さも加わり、これはなかなかハードルが高い。
「VRに関心のないリア充層に観光地のスポットに来てもらい、完全事前予約制の場所で3000円以上利用してもらう。このハードルをクリアーすれば、さすがにVRの可能性を誰も無視できないでしょう」(小山氏)という結論に至ったようだ。
“さぁ、取り乱せ”のキャッチコピーがアクティビティの人気に影響!?
ここからは実際にどのようなコンテンツを提供するかといった話題に。小山氏は「アトラクションでもなく、ゲームでもなく、大人がやりたくてもできない体験を実際に体験できるようにしたかったんです」と、その当時を振り返る。
田宮氏も「宇宙飛行士になりたかった人が大人になったいま、VRで宇宙飛行士になれてしまう。大人になると諦めてしまう夢とか好奇心を、VRでなら叶えられる。そんなコンセプトからProject i Can(≒私はできる)と名づけているんです」と、VR ZONEの名前の由来も語ってくれた。
では、実際に運営をしてみてどうだったのか。両氏が公開してくれたデータによると、メインとなる来場者の年齢層は20代~30代と、狙い通りのターゲット層が来場していた。
また、90分の体験時間中にひとりあたり3000円前後は支払っているようで、こちらも狙い通りの結果に。700円~1000円というプレイ料金に対しても、高評価を得られたようだ。
さらにアクティビティの人気ランキングを考察する中で、両氏は想わぬ事実に気づく。
小山氏によると「キャッチコピーの”さぁ、取り乱せ”のインパクトが強かった」のだという。事実、『高所恐怖SHOW』や『脱出病棟Ω』のように、“いかにも取り乱しそう”なアクティビティが人気を博していた。
田宮氏は、「キャッチコピーで”取り乱せ”と言っているのに対して、わーきゃー言いたい方々が来場してくださった。そのあたりのニーズに答えられるアクティビティが人気なのかなと」と説明。
だがこれだけだと、「そもそも人気のないアクティビティは、それ自体がイマイチなのでは?」と想う人も多いことだろう。この点についてもすでに両氏は裏を取っていた。
この”キャッチコピーの魔法”を解いた事例として、両氏は現在namcoラゾーナ川崎店に試験的に設置されている『リアルドライブ』を紹介。『リアルドライブ』はVR ZONEにおいては人気が低いアクティビティだが、いわゆる”ふつうのアミューズメント施設”に設置したところ、家族連れやカップルが長蛇の列を形成しているのだとか。
Project i Can流VRの考えかた
ここからは田宮氏がメインとなって、Project i Can流の考えかたを披露。
“VRの恐怖に個人差はどこから来るのか?”、“ゲームとVRの違いの本質”について語られた。
VRの恐怖は経験の豊富さに起因?
VRの恐怖について解説するうえで、田宮氏は”人間の認識”について紹介。VR ZONEのアクティビティ『スキーロデオ』で実際に起こった事象を例に挙げ、「雪景色というシチュエーション、動きに合わせて出る白い息、そしてマシーンからの送風。それらが組み合わさると、”寒い”と錯覚する人が出てくるんです」と田宮氏。
人は認識や判断を端折るものとし、いままでに得た経験や知識に似た環境下に陥ると、実際はそうでなくても無意識下で”そうである”と判断するのだという。そのため今回の事例の場合、雪原で風が吹くことで”寒空の下なら寒い”と身体が勝手に判断したようだ。
その知見から、田宮氏は「その人がいままで得た経験や知識によって、リアリティの感じ方が違ってくる」と分析。
そのほかにも「、『高所恐怖SHOW』が苦手な人の中には、鳶職の方や演劇の舞台装置を担当されているような方が多いんです。それは実際に高所に行ったことがあり、その恐怖を知っているから、『高所恐怖SHOW』の世界をよりリアルに感じるんです」(田宮氏)と、経験の豊富さが実在感に与える影響を紹介した。
それらの見地から、「リア充の方がVRを楽しめるとい言われていますが、それはリア充の方が経験豊富だからじゃないかな」と田宮氏はコメントしている。
ゲームとVRの違いの本質
ここからは、ゲームを”TVモニター向けのビデオゲーム”、VRを”VRゲームを含むVRコンテンツ全般”と定義したうえで、両者の違いについて解説。
田宮氏は、「昔『脱出病棟Ω』でHPゲージを採用していたんですが、襲われる直前までぎゃーぎゃー言っていた人が、襲われた瞬間に冷静になっちゃったんです。HPゲージは減っているのですが、これだと実在感が薄れてしまって何か違うなぁと感じました」と実例を紹介。
その結果、ゲームは旅番組を見る(三人称、感情移入して感動する)ようなもの、VRは旅行に行く(一人称、自ら体験して感動できる)ようなもの、といった考えに至ったのだという。
VRは、実際に体験する一人称的な楽しみかたがメイン。そのため、ゲーム特有の感情移入を前提としたお約束表現、たとえばHPゲージやカメラワーク、状態異常などが入ると、途端に異世界のような感覚が増長されてしまい、しらけてしまうのだとか。
またVRでは行動制限が難しい一方、「見回すとか、歩けるとか、それだけでかなりリッチな体験を楽しめる」(田宮氏)のが魅力とした。
そのため開発時には、「ルールの面白さにばかり頭がいってしまう人が多いと思います。でもそれはゲームで十分。それよりも“その場にいたら、ほんとうに起こったら、どんな体験が楽しいか”、その点を追求することがVRでは大切」と田宮氏は語った。
最後に田宮氏は「”百聞は一体験に如かず”と、よくVR未体験の方への誘い文句で使われますが、これはVR開発者も肝に銘じる言葉でもあります。コンテンツ制作をする際に”本当にこの状況になったら、体験したら”ということまでちゃんと考えることが大切です」と、同志である多くのVR開発者にエールを送った。
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