中国VR市場がアツい! キーワードは“モバイルVR”と“オフライン”【JVRS2】
VRゴーグル清掃の人件費で数千万? USJやジョイポリスのキーマンが本音トーク【JVRS2】
2016-11-16 22:22 投稿
VRアトラクションの現状がまるわかり!
2016年11月16日、VR技術がもたらす未来を切り拓くリーダーたちが集い、つながり、新たな市場を共創する場として、グリー株式会社と一般社団法人VRコンソーシアムが共同開催する日本最大規模のVRカンファレンス”Japan VR Summit 2″が、東京・水天宮のロイヤルパークホテルにて開催された。
“先駆者から学ぶ~VRアトラクション編~”と題した本セッションでは、Tokyo VR Startups取締役の新 清士氏をモデレーターに迎え、VRアトラクションを手掛けてきたパネリスト4人が、実際に企画・運営を行なっていく中で得られた知見を披露。
さらにセッション中盤からは、各々好奇心が駆られたのか、登壇者どうしでの質疑応答の応酬へと発展した。
本記事では、まさに“VRアトラクションの先駆者”である、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)、VR ZONE Project i Can(以下、VR ZONE)、東京ジョイポリスのキーマン4人が集結した、貴重な講演の模様をお届けする。
【講演のポイント】
・VRアトラクションはビジネスとして成功している |
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・ユニバーサル・スタジオ・ジャパン流の意外なVRアトラクションとの向き合いかた |
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・価格設定は安易に低くしてはいけない |
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・価格設定は安易に低くしてはいけない |
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・VRアトラクションにおける安全面の工夫 |
Tokyo VR Startups株式会社
取締役
新 清士氏
VRジャーナリスト。Tokyo VR Startups取締役であり、VRゲーム開発会社よむネコの代表としても知られる。また、よむネコ開発のOculus Touch対応VR脱出ゲーム『エニグマスフィア』が、Oculus Touchのローンチ日である12月6日にリリース予定。
株式会社バンダイナムコエンターテインメント
AM事業部エグゼクティブプロデューサー
小山 順一朗氏(写真左)
株式会社バンダイナムコエンターテインメント
AM事業部 VR部VRコンテンツ開発課 マネージャー
田宮幸春氏(写真右)
2016年4月15日から10月10日までの期間、お台場にオープンしていたVRアトラクション施設”VR ZONE”の企画・運営を行なってきたキーマン。それぞれコヤ所長、タミヤ室長の愛称でも親しまれている。
株式会社ユー・エス・ジェイ
コンテンツ開発室 室長
中嶋啓之氏
2016年の年始にUSJで行なわれたイベント”ユニバーサル・クールジャパン”をプロデュース。その中で、ライドアトラクションとVRデバイスを融合させた本格VRコースター”きゃりーぱみゅぱみゅXRライド”(2016年6月に終了)を導入した実績を持つ。
2017年には、『エヴァンゲリオン』を題材とした最新VRコースター“エヴァンゲリオン XRライド”の導入が控えている。
株式会社セガ・ライブクリエイション
取締役 施設事業推進部部長
速水和彦氏
東京・台場の屋内型テーマパーク“東京ジョイポリス”の運営会社であるセガ・ライブクリエイションに所属。
東京ジョイポリスでは、2016年7月より国内初となるフリーロームVRアトラクション『ZERO LATENCY VR(ゼロ レイテンシー ヴィーアール)』(以下、『ゼロレイテンシー』)と、ホラーVRアトラクション『VR生き人形の間』を導入している。
VRアトラクションで収益はあがっているのか?
新氏から最初に提示されたお題は、“VRアトラクションで収益はあがっているのか?”というド直球な内容。
その質問に対して小山氏は「(VR ZONEは)あくまでVRの研究施設として立ち上がったものなので、そこで得られた知見に価値があんです!」と、さらりと受け流してみせる。だが新氏から追及されると、代わりに田宮氏が「当初見立てていた予算目標は超えています」と、プロジェクトが成功に終ったことを明らかにした。
同様の質問を振られた速水氏は、「(『ゼロレイテンシー』は)想定の倍以上の数字になっていて、予約も連日満席です」と好調ぶりをアピール。だが速水氏は「ジョイポリスの園内にあったのが大きい」と付け加えた。
そもそも東京ジョイポリスでは、園内に入るために入場料が必要だ。さらに『ゼロレイテンシー』を遊ぶためには、入園料のほかに体験料金(1800円~)も追加でかかる。
そのため速水氏は、『ゼロレイテンシー』の成功は”ジョイポリスの入場料+αの料金かかる”ことが最大の要因であると考察。「『ゼロレイテンシー』の体験料だけだったら、ビジネスとしては非常に厳しいものになっていた」と本音を明かした。
登壇者も注目のUSJ”きゃりーぱみゅぱみゅXRライド”制作秘話
来場者はもちろん、登壇者たちからも注目の的となっていたのが、USJにおけるVRアトラクションの取り組み。
先ほどの速水氏の話に続ける形で、中嶋氏は東京ジョイポリス同様、USJも入園料がかかることに言及。そのうえで、「USJでは、テーマパーク内のいちアトラクションとしてVRアトラクションを導入しています。ほかのアトラクションも遊べるというのが、そもそものベースにあります」とコメントした。
この“テーマパーク内のいちアトラクション”というのがポイントで、中嶋氏曰く、VRアトラクションとしての成功以上に、”ユニバーサル・クールジャパン”というイベントの成功が大前提としてあったのだという。
その目標に至るまでの手段として、VRアトラクションを導入。「当初の目標であったイベントの成功という点では、収益的にも成功した」と、中嶋氏。
だが、中嶋氏はVRアトラクションを導入するにあたってひとつの課題にぶつかったという。
テーマーパークとは、氏の言葉を借りるなら”物語の疑似体験をする場”だ。しかし物語の世界観を疑似体験することは、家庭用のVRデバイスでもできること。そこで中嶋氏は、“テーマパークにおけるVRとは何か?”という問題と対峙することとなる。
結果、「家庭ではできない広いスペースで、体感をともなう体験ができるのが、テーマパークにおけるVRではないか」という答えにたどり着く。
また、ハードや周辺機器を購入する敷居の高さを鑑みると、VRそのもののメインターゲットはコア層の男性である。USJは女性やファミリー層がメインターゲットだというが、VRの現状を考えると女性やファミリー層はコア層のフォロワーになっている。
しかし中嶋氏はあえてそこに注目し、「新しい経験をするなら、最初にする体験が非常に重要です。ならば我々のメインターゲット層でもあるVR未体験の方々に、インパクトのあるVR体験を提供してみようと思いました」と、企画立ち上げ当時の狙いを説明した。
つまり、USJ最初のVRアトラクションにきゃりーぱみゅぱみゅを起因した最大のポイントは、彼女が“女性に人気のある存在であったこと”が大きかったようだ。
事実、中嶋氏によると「利用者の7割が女性で、きゃりーさんの世界観を体験したいという人が多数派でした。全体的に”VRが遊びたくて来た”という人は少なかったですね」と、狙い通りの着地をしていた。
大型IPとの連携となれば、交渉のしかたも気になるところ。中嶋氏はその点について「ロイヤルユーザーを尊重しつつ、テーマパークという特性から、エントリーユーザー層の獲得にもつながるということをお話させていただいています」と明かした。
女性層を取り込む上での各社のアプローチ
そもそものメインターゲットをファミリー・女性層としていたUSJ。では、他二社の取り組みはどうだったのだろうか?
東京ジョイポリスにおいては、USJと真逆に「VRを進んで遊びたいコア層をメインに据え、そこから口コミでの拡散を狙いました」と速水氏。
VRアトラクションを好んで楽む男性をメインターゲットとし、そこからの展開を考案。それが功を奏し、コア層からの口コミが一般層にも伝播。ホラーVRアトラクション『VR生き人形の間』においては、女性層も増加傾向にあることを明かした。
一方、VR ZONEチームの考えかたは、USJのそれに近い。
田宮氏は「VRデバイスでお客さんを呼ぶことは無理だと分かっていた」という。その理由を「VRデバイスが一般家庭にも普及しはじめている昨今では、“VRデバイスが遊べる”というだけでは意味がない」と断言している。
企画初期段階から、“VRだからこれができる”、”VRならではの遊びを提供している”ことをストレートに伝える方針を決定。”VRに興味のない人(小山氏風に言うところの”パリピ層”)”を動かすために試行錯誤をくり広げたようだ。
その起爆剤となったのが、おなじみの”体験者が取り乱している”PV。
出演している人の多くが戦々恐々としている様子を見た一般層の人たちが、「本当にあそこまで取り乱すのか?」と、実際に確認をしに来る事態に発展したらしい。
▼VR ZONEのPV
安全面における課題
続いての議題は”VRアトラクションにおける今後の課題”について。
先陣を切る形で、小山氏から中嶋氏に対して、「ジェットコースター型だと、VRゴーグルが外れてしまう可能性もあったのでは?」といった質問が投げかけられた。
中嶋氏は「VRゴーグルが意図せず外れる可能性もあったので、お客様がVRゴーグルを被られた後に専用装置で固定をしていました」と回答。
そのほか、“待ち時間のあいだに取り付け方を徹底的にレクチャーする”、“VRゴーグルをきつめに装着するよう事前に注意喚起をする”、といったことも行っていたようだ。
だがそれでも「クルーの人数は相当増やした」と中嶋氏。”きゃりーぱみゅぱみゅXRライド”では、コースターが停止している状態ではなく、ゆっくりと動いている状態で来場者の乗り降りが行なわれる。そのため乗り降りの時間に制限が生まれ
・前の乗客がコースターを降り、VRゴーグルを外す。
↓
・次の乗客がVRゴーグルを被り、コースターに乗る。
これらふたつの動作を、限られた時間内で成立させる必要があった。そのため来場者のサポートをするためのクルーが、想定以上に必要になったらしい。
さらに”きゃりーぱみゅぱみゅXRライド”では、VRゴーグルを直接肌に触れる状態で使用。そのため「VRゴーグルの清掃を行うスタッフが常時十数人待機していて、その人件費だけでも何千万もの予算が掛かりました」と中嶋氏。
だがそれでも、期間中に約100万人が体験したというから驚きである。
また今後の課題というテーマに合わせて速水氏から挙がったのが、“VRの年齢制限”関する問題。
VRでは両眼視差を利用している関係上、成長途上である13歳未満はVR体験が行えない。だが、この問題について小山氏は「子供であればあるほど未体験な事象が多いので、VR体験時の現実感が非常に強い。だから大人に比べて、体験時の高揚感が高いんです」と、幼少期ならではのVR体験の魅力を説いた。
これに関しては田宮氏も同意見のようで、「親御さんの了承は必要だと思いますが、お子さんがどうしてもやりたいとなったら、少しでも遊べる環境づくりをしていきたい。年齢制限に関する問題は、業界全体で突破していければと思っています」とコメントした。
こうした年齢制限の話題から、アトラクションの危険性に関する話にも発展。
『高所恐怖SHOW』での経験から、「生き物としての防衛本能のように、危険なときに手を出したり、膝をついたりといった想定外の動きをするお客様が出てくる」と田宮氏。
続いて小山氏は「そうした安全面の対策も課題ですが、VRを遊んでいるときのそうした興奮は楽しんでいる証拠なんです」と持論を展開。安全面を考慮しつつも、どこか非現実な刺激を提供する必要があるとした。
田宮氏も「これまでは感動や驚きを中心にアトラクションの企画を組み立ててきましたが、今後は条件反射に訴えかけたり、リピーターが増えるようなコンテンツをベースに考えるターンにきている」と今後の展望を語った。
低い価格設定は娯楽の価値を下げる
アトラクションの価格問題についても議論が交わされた。
国内初のVRアトラクション専門施設としてスタートしたVR ZONE。当初1プレイ700円以上という比較的高価な印象を受ける価格設定で、業界に衝撃を与えたのも記憶に新しい。
その点について、田宮氏は「弊社はこれまで1プレイ100円のビジネスを行なってきたので、社内でも疑問視する声が多かった」という。
だが、価格設定を低くしてしまうと、VRアトラクションという娯楽の価値を下げることにつながる。そうした考えから、前述した価格帯に踏み切ったようだ。
価格設定が娯楽の価値に影響するという意見に、速水氏も同意見の様子。「ふだんやれないようなことを、現実味を帯びて体験できる。これはとても贅沢なこと。安くしてしまうとVRの価値が下がってしまう」と発言。
それに関連して、速水氏は海外での『ゼロレイテンシー』の展開についても言及。先日スペインにオープンしたものは、2種類の体験が一度にできる代わりに、約6000円ほどと日本の約3倍もの価格設定になっているのだという。
ただジョイポリスでの運営においては現状の価格を維持しつつ、「体験人数を増やすことが大切」とビジネス的な観点での意見を述べた。
一方、入園料が存在するUSJにおいては、入園料の値上げが近年話題になりがち。中嶋氏は「世界で見ると、日本のテーマパークが一番入園料が安いんです。値上げ自体は我々にとってもリスクが高いのですが、来ていただいた方には、値段に見合った最高のエンターテイメントやコンテンツを提供しています」とコメントした。
一般家庭への普及、理想のVRアトラクションの環境
最後に議題となったのは、一般家庭へのVRの普及による影響と、今後の展望。
一般家庭へのVRデバイスの普及については、四者とも競合とは考えていない様子。小山氏も「(VRアトラクション施設では、)家でできることをやってはいけない」ときっぱり。
速水氏も「一般家庭に普及すれば、施設に来場されたときに装着で手間取らなくなるはず。それはむしろよいことなのではないでしょうか?」と前向きな姿勢。だがそうした考えを持ちつつも、「差別化のポイントは”みんなで楽しめること”だと思います」と述べた。
また速水氏は、先ほどの入園料が売り上げに貢献している話を引き合いに出して、「ジェットコースターやおばけやしきといった、複合施設の中にVRがあるほうが定着させやすいのでは?」と持論を展開した。
中嶋氏も「USJに来たお客様を見ていても、“何を体験したか”よりも、”誰といっしょに行ったか”が思い出として残りやすいですね。VRはひとりの世界に向きがちですが、みんなと体験を共有できることがすごく重要だと思います」と同意見。「テーマパークに行く段階から、みんなで行こうよってなる場所が、ビジネスも成り立つと思います」と、自らの見解を示した。
最後に小山氏から「VRを使えば、今後いろいろなことできるようになると思います。本当の体験よりも、本当にすごい。それは市場が動く瞬間だと思います」と、VR業界の未来に向けたメッセージが贈られ、イベントは幕を閉じた。
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