ネタバレをしたほうが実在感は増す?識者が語るVR、ARの知見【TGS 2016】
2016-09-17 22:09 投稿
東京ゲームショウで語られたVR・AR
東京ゲームショウ2016会期中、基調講演“VRとARで迎えるゲーム新時代”が行われた。この基調講演は、リレートークを行った後にパネルディスカッションを行うという形式の講演。
主たる話ものはリレートークで語られていたので、今回はそこをリポートしていこう。
なお、登壇者はバンダイナムコエンターテインメントでお台場のVRアミューズメント施設“VR ZONE Project I can(以下、VR ZONE)”を手掛けた小山順一朗氏と田宮幸春氏、VR HMD”FOVE(フォーヴ)”の生みの親であり、FOVE CEOの小島由香氏、AR開発を行っているブリリアントサービスの杉本礼彦氏の4名。
ネタバレが実在感アップにつながる!?
まず最初のリレートーク話者は、小山氏と田宮氏。これまで数多くのカンファレンスに登壇してきた両名は、今回“ひと手間で劇的に変わる実在感”というテーマで話をしてくれた。
“ひと手間”の例としてまず挙げられたのが、説明による実在感の増加という現象。現在“VR ZONE Project I can”には、お台場のガンダムが動きだし、強襲をしかけてきたザクと戦う『ガンダム VR”ダイバ強襲”』というアトラクションが展示されている。
このアトラクションは、ガンダムとザクとのあいだで行われる戦闘に巻き込まれたプレイヤーが、ガンダムの手のひらに乗せられ、戦闘の行く末を見守ることになるというもの。
体験したらかなり盛り上がりそうなコンテンツに思えるが、このアトラクションをプレイする際、何も説明がないと利用者はあまり盛り上がらない(取り乱さない)そうだ。
逆に、“あらかじめネタバレにもなる事前情報をプレイヤーに伝えてからプレイしてもらうと、おもしろいほど取り乱して楽しんでくれる”という結果が出たとのこと。
田宮氏はこの実験結果を見て「事前情報を与えると、脳はその情報をもとに状況シミュレーションを行います。これにより、脳はある程度「このアトラクションはこういう感覚が生まれるものなんだな」という感覚の方向性を得るようです」とコメント。
つまり、あえてたくさんの情報を与えることで脳に体験をシミュレートさせ、感覚への準備が整えさせる。そして、その上でVR空間でシミュレーションを上回る体験が加わることで、実在感などが増幅するのではないかということだ。
この実験は人気アトラクション“高所恐怖SHOW”で行った場合でも同じ結果が得られ、説明が実在感を増すスパイスになることが明らかになったという。
自由度は与えるだけでは機能しない
続いて語られたのは“自由度の与えかた”というテーマについて。
VR ZONEには現在、『トレインマスター』という電車の運転を疑似体験するアトラクションと、スーパースターになりきってライブを盛り上げる『マックスボルテージ』というアトラクションがある。
想像のとおり、前者は座って遊ぶタイプのもので、後者は立って遊ぶタイプのものだ。
ここで小山氏が注目したのは“『トレインマスター』で遊ぶ人には、事前説明をしないとキョロキョロしてくれない”ということ。
『トレインマスター』では、後ろを振り返るとしっかり作り混まれた客車が見えるようになっている。だが、事前に説明しておかないとこれを見る人は少ないというのだ。
一方の『マックスボルテージ』は、何も言われずともほとんどの人がグルグルと周囲を見回し、その周辺環境を楽しむという。
この結果を小山氏はこう捕らえる。「気付いてもらえない自由度は、自由度が与えられていないのと同じなんですよね」。
VRアトラクションにおいて、行動の自由度が少ないよりは多いほうが感動が大きくなるもの。しかし、どれだけ自由度を高めようとも、そこに気付いてもらえないと意味はないのだ。言われてみれば確かにその通りと得心できる。
ただ、通常ならばこのおもしろい結果を見るだけで思考は止まってしまいそうだが、小山氏と田宮氏はさらに一歩踏み込んだ思考をしている。
田宮氏「同じソフトでも、自由度にうまく気付かせてあげることで、体験後の感想は変わってきます。なので、VRソフト開発においては、機能を拡張するよりもまず、現状のままでも“もっといろいろな行動をさせることができるのではないか?”という視点を持つことが重要です」。
自由度に気付かせることは難しいかもしれない。しかし、無意識のうちに自由度を感じさせる方法はある。それは、VR空間にプレイヤーの手や足を映し出してあげることだという。
VR ZONEの『高所恐怖SHOW』は、手と足にセンサーを取り付けることで、VR空間に擬似的なプレイヤーの手足を描画している。
実際、この手足がゲーム中で役立つことなどないのだが、“VR空間にも自由になる手足がある”と認識させることで、プレイヤーの行動の幅は大きく広がるのだそうだ。
前述の通り、『高所恐怖SHOW』で描画される手足は、ただプレイヤーの手足の動きが反映されているだけで、VR空間内で、なにか特別な機能を持たされているものではない。
「VR空間に自由になる手があるというだけで、人はおもしろいほど行動の幅が増えるんですよね。遠くにいるネコに手招きをしたり、エレベーターのボタン操作をしようとしたりね」(小山氏)。
「手を表示させるだけで、足下の木に這いつくばって動こうとする人も出てくるんですよね。手が表示されてなかったら、これは絶対にとらないアクションですよ」(田宮氏)。
“人間は、その空間で自由に動く手があると認識すると、その手を勝手に使い出す”。この結果は、自由度に気付かせてあげるだけでなく、“あなたはこの世界に干渉してもいいんですよ”というシグナルにもなり、それが体験の満足度につながるのだと、両名は仮説をまとめてくれた。
マシンと脳への負荷を低減する、FOVEの技術とは
続いて登壇したのは、FOVE社のCEOである小島由香氏。同社が開発したVR HMD”FOVE(フォーヴ)”が有する、アイトラッキング(視線追跡機能)に関する話がメインで行われた。
VR HMD“FOVE”は、アイトラッキングという視線を追跡する機能を兼ね備えた画期的な端末。
このアイトラッキングというシステムは、やはりコントローラとしての活用が最初に想像されるが、このシステムが内包しているスペックはそれだけにとどまらないという。
その理由のひとつめが、アイトラッキングによる演出にある。人間の眼球は、どうやっても1点に焦点を合わせて対象を見るため、焦点周辺、とくに焦点から距離があるものほどはボヤけて見えるようになっている。
一方、VR HMDで描かれる世界は、遠近感が感じられるような作りにはなっているものの、実際そこには遠近などない。
両眼視差という錯視を利用して3D空間のように見せているが、客観的に見てしまえば、そこに描かれているものはやはり2Dモニタに描かれたものでしかないのだ。
そのため、VR空間ではつねに“近くにあるように見えているものに焦点を合わせても、遠くにあるはずのものにもピントがあってしまう”という矛盾が発生している。アイトラッキングは、これを解消できるというのだ。
2Dモニタに出力されているとはいえ、3Dゲームのほとんどは内部的には3D空間を作り出している。
アイトラッキングはそのシステム的に存在している3D空間と、視線から割り出した視界深度を連携させ、焦点が合っている部分はキレイに描画し、焦点が合わないような距離にあるものや焦点から遠くにあるものにブラー(ぼかし)をかけられるという。
この演出は、ただリアリティがより増すというだけでなく、さまざまなメリットを生み出すという。
小島氏は「FOVEは、視線が集まっているところだけをくっきり表示させることができるので、グラフィック処理にかかるマシンパワーが節約できます」と、FOVEの強みをアピール。
実在感を得るためにハイクオリティな描画を強いられ、そのために絶対的に求められていたマシンパワーが節約できるというのだ。これは非常に魅力的と言わざるを得ない。
この技術が発展してけば、可能性的には“ミドルクラスのラップトップでもVRが遊べるようになるかもしれない”という。
さらに、続けて小島氏は「焦点以外にブラーをかけることによって、目に入る情報も減らせるほか、現実との矛盾も解消できるので、脳への負荷も軽減できるので、酔い対策にもなるんです」と語り、アイトラッキングの魅力を伝えてくれた。
この技術がより研究され、発展していけば、VRが身近なものとなる時代は意外と近いものになるかもしれない。
ARは歩きスマホ問題の特効薬となり得るか!?
最後に登壇したのは、ARのウェアラブルデバイスの研究開発もしているブリリアントサービスの代表取締役、杉本礼彦氏。
氏は「最近はVRブームがあり、VRが大きく話題をさらっているが、『ポケモンGO』の登場により、ARも注目され始めている」と語り、セッションを開始した。
『ポケモンGO』は、AR技術を使うことで、現実に野生のポケモンが登場したかのような演出ができるゲーム。しかし、社会現象ともいえるほどのムーブメントを巻き起こったことによって、兼ねてからスマートフォン自体が抱えていた問題点、“歩きスマホ”負の面も大きく浮き彫りになってしまった。
いまや『ポケモンGO』と“歩きスマホ”は切っても切れない縁になりつつある。
この事実を受けて杉本氏は「正直、僕たちは歩きスマホという問題が大きく取り上げられたことをラッキーだと思っています」と驚きの発言。
続けて氏は「これまで、ARという技術やそれを使ったサービスは、流行りそうな風潮を見せたと思ったら消えていってという流れを見せていますが、この歩きスマホが問題になっているいまこそ、僕たちが颯爽と現れて問題を解決しないと。“mirama”なら、スマートフォンに目線を落とすことなくARコンテンツを楽しめます!」と力強く語った。
“mirama”とは、ブリリアントサービスが開発しているARスマートグラス“mirama one”のこと。透過グラスに情報表示を行うだけでなく、ハンドジェスチャーによる操作もできるという優れもの。
つまり、スマートグラスにスマホの画面を表示させれば、視界をさえぎることもないので、周囲の状況もちゃんと把握し続けることが可能。またハンドジェスチャー機能もあるので、端末を操作するために視界を外界から画面の中に移すこともないということだ。
『ポケモンGO』のシステムを、現在のARスマートグラスが完全再現できるのかは不明だが、それが実現できるのであれば、歩きスマホ問題が粗方解決するというのもうなずける話だ。
現在、AR技術、スマートグラス技術はさまざまなところでも研究されている。マイクロソフトのHoloLensは、その最たる例であろう。
VR熱の影で力と知見を溜め続けているARが、どのタイミングで世に大きくアプローチをしかけてくるのか、注目して見ていきたい。
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