vol.1-3:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】

2014-01-17 12:00 投稿

前回は、ゲームの内部構造に潜むブラックボックスに注目しながら、F2Pアプリが主流となってきたスマホゲーム業界においてプレイヤーに選んでもらうために「独自性」が重要であることについて触れました。また、ユーザエクスペリエンスやUCDという考え方をご紹介し、独自性の具体的な内容についても説明しました。スマホゲームのリッチ化がますます進んでいくなかで、費用対効果を高めながら独自性を追求していく方法として、ゲームエンジンやミドルウェアの存在がポイントになるとお伝えしました。

今回はいよいよ、この『ゲームエンジン』や『ミドルウェア』について、迫っていきたいと思います。

ゲームエンジン』という言葉は、わりと慣用句的に使われているものなので、使われる場所や文脈によって若干その定義が変わる場合があります。ここでは、なるべく最近一般的だと思われる捉え方にしたがって、『ミドルウェア』との対比のなかで理解が深まるよう、説明したいと思います。

『ゲームエンジン』は、ゲームを開発するためのエンジンとなるものです。…って、そのまんまですね(苦笑。でも、ズバリ、このとおりの理解で正解なんです。ゲームは、2D・3Dオブジェクト、スクリプト、モーション、物理演算、操作制御、サウンド、動画、通信など、本当にさまざまな要素が集まってつくられています。ゲームエンジンとは、こうしたさまざまな要素を統合的に扱うことのできる開発支援システムです。

すでにスマホ向けにもさまざまなゲームエンジンが提供されていますが、その代表格といえるのが、Unity Technologies社の「Unity」、そして オープンソースの「Cocos2d-x」です。

ミドルウェア』は、ゲームエンジンと比べるとちょっと聴きなれないし分かりにくい言葉かもしれません。簡単にいうと、ハードウェアとアプリケーション・ソフトウェアの間(=ミドル)をとりもち、従来は難しかった複雑な処理を低負荷で行ったり、OSや機種ごとに最適化や作り分けが必要な処理を共通の仕組みで実現できるようにするものです。

ミドルウェアは、ハードウェアやOSのメーカーが提供することもありますが、それを除くと、ゲーム開発企業内で独自に開発されたいわゆる「インハウスツール」と呼ばれる社内ノウハウとしてのミドルウェアと、ミドルウェアの研究開発そのものを事業とする企業が提供するミドルウェアの2種類があります。

前者は、その企業のなかだけで利用される門外不出の”秘伝のタレ”ですので、まさしく競争力の源泉とも言えます。後者は、独自の圧縮技術や高度な数学的アルゴリズムといった、唯一無二のコア・テクノロジーをベースにさまざまな企業に提供されますが、多くのゲームに採用されている実績そのものが信頼と安心感につながると同時に、無数のゲーム開発者の要望を採り入れた使いやすい環境を低コストで導入できるというメリットがあります。当社CRIの「ADX2」や「Sofdec2」「ファイルマジックPRO」といったミドルウェア製品も、このジャンルに属するものになります。

『ゲームエンジン』と『ミドルウェア』に共通している大きな有用性(導入によるメリット)のひとつが、「クロスプラットフォーム対応」といわれるものです。プラットフォームとはハードウェアの機種やOSのことで、スマホの場合は、おもにiPhoneとAndroid端末のことを指します。より多くのプレイヤーに遊んでもらいビジネスチャンスを拡げるためにはiPhoneとAndroidの両方にゲームをリリースするべきなのですが、実際には開発環境も開発言語も違うので、そうカンタンなことではありません。ちゃんと工夫をしないと、異なるOSへの移植作業に新規にゲームを1つ開発するのと同じくらいの費用がかかってしまうこともあります。ここでいう”工夫”のひとつが、ゲームエンジンやミドルウェアを使ってゲームを作ることです。

ゲームエンジンやミドルウェアは、いちど作ったゲームの資産(アセットと呼んだりします)を流用できるように設計されていることがほとんどです。極言すれば、ターゲットとなる機種やOSを選択して「ビルド(各機種で最終的に実行可能なファイルを生成する命令のこと)」を実行すれば、自動的に各機種やOSの特性に合わせた最適化が行われ、実際に遊べるゲームが出来上がってしまうわけです。凄い!(自画自賛?)

先ほど、インハウスツール(自社内製のミドルウェア)の話をしましたが、最近は、頻発するOSのバージョンアップや多様化して次々に増えていく端末にキャッチアップしながら、継続的にインハウスツールの研究開発をしていくことが予算的にも工数的にも難しいケースが増えているようです。むしろ、そうした部分は業界内でなるべく共有化して、ゲーム企業はゲームの面白さや表現手法などのクリエイティビティの部分に集中していくべき、という考え方が世界的にも一般的になってきています。このことを、ボクがお客様に説明するときは「餅は餅屋」っていう表現をよく使っています。(今年のお正月も、”おぞうに”を食べ過ぎて餅太り…ってカンケイないかw)

もうお気づきだと思いますが、ゲームエンジンもミドルウェアも、どちらも「ブラックボックス」的な存在だといえます。ソースコードの公開や改良を許しているオープンソース系のもの、たとえば先述のCocos2d-xのようなものは、誰でも中身を覗くことができるようになっている点では少し性質が違いますが、開発者がその中身を「意識したり調べたりしなくても」その使い方さえ知っていれば利用できるという点で、ボクはブラックボックスのひとつと言ってもよいと思っています。

先ほど「広い意味でのブラックボックス」、つまり、ゲームプレイヤーはゲームがどうやって動いているかを意識することなくゲームを存分に楽しめる、という点に触れましたが、ここでは、ゲーム開発者にとってのブラックボックス、つまり、ゲーム開発者はゲームエンジンやミドルウェアのメカニズムや複雑な信号処理技術を意識することなく面白いゲームづくりに集中できる、ということを説明してきました。これがスマホゲームにおける「狭い意味でのブラックボックス」です。ゲームって、実はたくさんのブラックボックスに支えられているんです。


ゲームエンジンやミドルウェアは、ゲームをつくるための”道具”や”パーツ”のような存在です。家を作るプロである大工さんが、自分の使うノコギリやカンナやノミを作るためにハガネなどの金属を鍛造することはほとんど無いですよね。大工道具を作るプロや専門の製造メーカーがあって大工さんのニーズに応える製品を提供しているわけです。もちろん大工さんには、良い道具を見極める目利きの力やそれを使いこなす技術が必要になります。

ゲーム開発の場合も、ターゲットプラットフォームや開発するゲームのジャンルや特性、開発チームの規模や予算感、狙おうとしている収益モデル、プログラマーの得意スキルなどの諸条件に応じて、数ある”道具”や”パーツ”のなかから適したものを選び、最大限に活用することが重要になります。

今回はゲームエンジンとミドルウェアを区別して扱っていますが、どちらも捉え方や解釈のしかたによって意味するところが変わってくる性質があります。ゲームエンジンはミドルウェアの集合体で構成されている、という表現も正しいですし、ミドルウェアはゲームエンジンのひとつである、という表現も間違いではありません。

でも、ここでは、長年ゲームミドルウェアベンダーで仕事をしてきた経験のなかで、わりと業界内で慣用的に通用している理解に基いて説明しています。

ボクの場合は、

ゲームエンジン」 = ゲームの根幹となるシステム系や描画系(ゲーム画面を生成するための画像処理に関する部分)をメインとする統合的なもの

ミドルウェア」 = ゲームの演出面を強化する音声系や特殊効果系、また物理演算や容量削減のための圧縮や減色技術など、ゲーム開発を部分的に強化・効率化するもの

という感じでご説明するようにしています。

ミドルウェアは単品で使われることもありますが、最近では、ゲームエンジンと一緒に利用されることも増えてきています。ゲームエンジン内に用意されている機能や性能をより強化したり拡張したりする目的でミドルウェアをゲームエンジンと併用されることもあれば、逆に、ミドルウェア(インハウスツールを含む)を活用してゲームを開発していた会社が新たにゲームエンジンへの移行することで併用の形になる場合があります。

もちろんゲームエンジンそのものがあらゆる機能をオールマイティに備えていればそこで完結できて便利なのですが、特定の機能や技術に長年にわたり専門特化して研究開発がなされてきたミドルウェアには”一日の長”があるので、クオリティや表現手法にこだわってより良いゲームを提供するために、ゲームエンジンとミドルウェアを巧みに併用するケースはますます増えてきています。


ちなみに、CRIのミドルウェアも多くのお客様からのご要望にお応えする形で、すでに「Unity」や「Cocos2d-x」といったゲームエンジンとの併用ができるようになりました。具体的な事例や、それぞれのゲームエンジンでの併用のメリットなどについても、今後、このブログでぜひご紹介していきたいと思います。

ちょっと専門的な話ばかりになってしまいましたが、要するに、ボクらがiPhoneでもAndroidでも共通のゲームの話題で盛り上がることができたり、古い機種でも最新機種でも問題なくゲームが遊べたり、家庭用ゲーム機と比べても遜色のないような本格的なゲームがスマホで遊べたり、操作やローディングやダウンロードにストレスを感じることなくゲームを楽しむことができるのは、ゲーム開発者のみなさんの日々の頑張りと、ゲームエンジンやミドルウェアといった「ブラックボックス」的な存在が陰で技術的に支えてくれているから、というわけなのです。

<<第4回につづく>>

【バックナンバー】

※vol.0:創刊準備号ということでジコショーカイ【CRI幅朝徳のひらけ!ブラックボックス】

※vol.1-1:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】

※vol.1-2:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】
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幅朝徳(はば とものり) 株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。GREE社やnhn社といった企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュースも行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。現在、さらなる新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当する傍ら、ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。

 

趣味は、映画鑑賞とドライブ、クロースアップマジック、デジスコによる野鳥撮影、コンパニオンバードの飼育、そしてもちろん、ゲーム。

CRI・ミドルウェア ウェブサイト
http://www.cri-mw.co.jp/

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