vol.1-2:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】

2014-01-16 12:00 投稿

前回は、飛行機のブラックボックスや、ちょっと不思議なホテル予約サイト、福袋など、世の中のいろいろな「ブラックボックス」と呼ばれるものを事例とともにご紹介しました。ソフトウェアのテスト手法のひとつである「ブラックボックス・テスト」についても少し触れました。

それでは、今回はいよいよ、話をゲームの世界に広げてみたいと思います。

みなさんもご存知のとおり、ゲームはプログラムのカタマリです。このゲームも、実は「ブラックボックス」とは切っても切れない関係にあるのをご存知ですか?ここからは、ゲームがブラックボックスに支えられている、という意味について迫っていきたいと思います。

現役ゲームクリエイターやプログラマを目指す学生でないかぎり、ゲームを楽しんでいるときに、そのゲームを構成している構造やプログラムの仕組みまで考える人はめったにいないと思います。コントローラや液晶タッチパネルからの入力に応じて、コンピュータ上でリアルタイムに「謎の処理」がなされ、ネットワーク対応ゲームやソーシャルゲームアプリであればインターネット経由でサーバとのやりとりを経て、TV画面や液晶パネルにゲームシーンを映し出したりセリフや音楽や効果音が鳴ったり、場合によっては振動が発生したりする、これがゲームです。

膨大な数の仕様書や設定資料、原画、プロトタイプ、ソースコード(注:プログラムのテキストそのもののこと)といった「内部構造」を意識することなくプレイヤーはゲームを楽しむことができます。

これがひとつめの「ブラックボックス」。広い意味でのブラックボックスです。

今度は、もう少しゲームの仕組み=内部構造に詳しく迫ってみたいと思います(つまり、広い意味でのブラックボックスの”中身”を覗いてみます)。

家庭用ゲーム機とスマホではちょっと仕組みが異なる部分もありますが、ゲームソフトやアプリは、「ハードウェア > 基本システム(OS) > ゲームアプリケーション」という構造で成り立っています。

今回はスマホを例にして具体的に説明すると、iPhoneやGalaxyといったスマートフォン本体がハードウェアにあたり、このハードウェアが、各種処理や画面出力、音声再生、タッチ入力認識、振動、マイク入力といったあらゆる機能を一手に引き受けてくれています。基本システムは、iPhoneの場合はiOS、Android端末の場合はもちろんAndroidです。これらはAppleのようにハードウェアを開発するメーカーやGoogleから提供されているもので、あらゆるアプリケーションはこのOSの仕組みやルールに従う必要があります。そして、このOSの上に作られるのがゲームを含むアプリケーションというわけです。

※実は、スマホアプリをもう少し細かく分類すると、「ネイティブアプリ」と「ブラウザアプリ」に分けることができます。ここでの説明はネイティブアプリに関するものです。詳しい説明は省きますが、前者はApp StoreやGoogle Playからダウンロードしてホーム画面にアイコンが並ぶようなアプリ、後者はSafariなどのWebブラウザからアクセスして利用するアプリ、という感じで理解してもらえればだいたいOKです。

 

ゲームのリッチ化や高度化が進むにしたがい、従来では不可能とされてきた表現や演出を行いたいというニーズが生まれてきます。どんな産業にも競争原理が働きます。スマートフォンの普及が本格化するにつれてゲームアプリの数も急増し、プレイヤーのニーズに応える形で、それぞれのゲームが差別化や独自性を求めるようになってきています。

膨大な数のゲームアプリのなかからプレイヤーに選んでもらうためには、個性の光る面白いゲームを創ることはもちろんですが、「週刊ファミ通」やこの「ファミ通App」をはじめとする各種ゲームメディアやアドネットワークを活用したプロモーションやパブリシティ施策、場合によってはTVCMなどの広告展開も必要になりますし、アプリを実際にダウンロードするチャネルであるiTunes App StoreやGoogle Playなどのアプリマーケットプラットフォーム上で、いかにゲームの魅力をアピールするかも重要です。

レビューで★がたくさん付いたり高評価のコメントをもらったり、さらには、facebookやtwitterといったソーシャルメディア上で話題になることもヒットのためには不可欠な時代になっています。ちょっと専門的な言葉ですが、このクチコミを活用した手法を、蜂がブンブンと飛んで情報が広がっていく様子にちなんで、業界内ではバズ・マーケティングと呼んだりします。

このように、各種プロモーションやバズ・マーケティングを駆使して、なるべく多くのプレイヤーにゲームに触れてもらう努力をすることは大事なのですが、肝心のゲームそのものが、単にヒットしたゲームのクローンコピーやシステムを単純に流用してIP(=知的財産:ここではアニメやコミックや映画のキャラクターなどを指す)を載せ替えただけのようなゲームでは「継続的な成功」を収めることが困難になってきています。

繰り返しになりますが、何かこれまでにない独自性があったり、これまでのゲームには無かったような個性のあること、つまり、ゲームアプリそれ自体の「新たな魅力」がヒットのための大事な要件になります。

独自性や個性といっても、それはゲームのシステムや遊びそのものの「新しさ」ばかりを指すわけではありません。より優れたリアルな映像表現であったり、見たことのないような派手な演出表現であったり、あるいは、直感的で気持ちのよい操作感や、ローディングの待ち時間が気にならないことであったり、ダウンロードがすぐに終わる、なんてことも、実は独自性を構成するうえでのポイントになります。

 

ケータイがフィーチャーホンからスマートフォンになり、入力インタフェースがタッチパネルになったことで、ゲームとプレイヤーをつなぐ操作の部分のデザイン手法が一転し、家庭用ゲーム機のときとは違う「制約と可能性」が生まれました。スマホはゲーム専用機ではないので、タッチパネルという汎用的な入力インタフェース上でゲームを遊んでもらわなければなりません。こうした背景もあり、スマホの世界ではユーザの立場にたった視点での快適な体験(これを「UX=ユーザエクスペリエンス」と言ったりします)が実現されているか、という部分がより注目されるようになりました。

Web構築やシステム設計の世界でよく語られる概念のひとつに「UCD(User-centered design:ユーザ中心設計)」というものがあります。開発者側が決めたルールを一方的にユーザに押し付けたり覚えるまで教育したりするのではなく、ユーザがどう行動するかや感じるかを大前提にしてデザインや設計をしよう、という考え方です。ゲームの世界では、比較的古くからこのUCDの考えが浸透してきたと言えるのですが、パッケージに同梱された取扱説明書もなくコントローラもないスマホゲームの世界では、いっそうこの考え方の重要性が増してきています。

逆に、ゲームの世界で培った手法や技術を、Webサービスや企業向け情報システム、教育系のコンテンツで活用しようとする試みである「ゲーミフィケーション」や「ゲームニクス」という考え方もあります。こちらは、ぜひ今後の当ブログでも詳しく触れていこうと思っています。

 

さて、話をゲームの内部構造の話に戻します。

 

スマホで動くゲームアプリ(ここではネイティブアプリのことを指します)は、OSのルールや制約に従わなければならないという話をしました。ゲームの創り手は、OSの上で動くアプリケーションという枠内で、できるだけ高品質で独自性の高い面白いゲームを実現することになります。

当然、ゲームを提供する側も企業ですから、開発人員や予算、研究開発に割ける工数には限界があります。さらに、新しいOSへのバージョンアップや次々と発売される新しい端末(新機種ケータイ)で正常にかつ快適に動作するために、テストやデバッグに要する手数も増加傾向にあります。

また、最近のスマホゲームは、いわゆる「買いきり型(一度アプリを購入したらずっと遊べる)」よりも「F2P(Free-to-Play:無料でダウンロードして遊べるが、より深く遊ぶプレイヤーのためにアイテム課金等の仕組みを搭載しているものが多い)」が主流となってきているので、プレイヤーに遊び続けて(さらにはお金を投下して)もらうための「運用」の重要性がますます高まっています。アプリの初期開発よりも運用により多くの費用を充てる企業も少なくありません。

このように、有限なリソースや開発環境のなかで、ますます本格化する「スマホゲームのリッチ化」に対応するために不可欠となるのが、『ゲームエンジン』と『ミドルウェア』です。これらを有効に使いこなすことで、質的向上と効率化を両立させ、競争力を高めることができるようになります。とくに、スマホゲームの場合はパッケージレス&流通コストゼロですから、国際競争力という観点からも、技術動向のリサーチアンテナを全世界に広げておくことも大事です。

<<第3回につづく>>

【バックナンバー】

※vol.0:創刊準備号ということでジコショーカイ【CRI幅朝徳のひらけ!ブラックボックス】

※vol.1-1:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】

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幅朝徳(はば とものり) 株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。GREE社やnhn社といった企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュースも行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。現在、さらなる新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当する傍ら、ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。

 

趣味は、映画鑑賞とドライブ、クロースアップマジック、デジスコによる野鳥撮影、コンパニオンバードの飼育、そしてもちろん、ゲーム。

CRI・ミドルウェア ウェブサイト
http://www.cri-mw.co.jp/

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