この記事に関連するゲームIngress Prime(イングレス プライム)
位置情報アプリが目指す理想のカタチ
2024年9月21日(土)・22日(日)、Nianticが開発運営する位置情報アプリ『Ingress』最大規模のリアルイベント・アノマリーとミッションディが北海道・函館市を舞台に開催。
連日多くのエージェントが函館市内を散策。SNSの地域トレンド入りするほどの盛り上がりをみせた。
本記事ではどのようにして本イベントが実現したのか。そして、今後『Ingress』をどのように発展させていくのかを開発陣に直接聞いてみた。
“そんなことまで”
思わず驚いちゃう自治体へのプレゼン方法にも注目だ。
▲左からNiantic 日本法人社長:村井説人氏。Niantic 副社長:川島優志氏。『Ingress』ディレクター:ブライアン・ローズ氏。シニアプロジェクトマネージャー:中島真由子氏。
昨年の経験から涼しいエリア選び
――『Ingress』を象徴するリアルイベント・アノマリーを実現させるには、開催地とその自治体、PoCと呼ばれるエージェントたちなど、多くのサポートが必要不可欠です。そこで、まずこの北海道・函館を舞台に選んだポイントをお聞かせください。
ブライアン・ローズ(以下、ブライアン)
我々はできるだけ多くの地域でイベントを開催することを目標にしています。そして『Ingress』のアクティブユーザー数がもっとも多い日本はとても重要な存在です。これは単にユーザー数だけではなく、X(旧Twitter)などSNS上での動きが活発なのもポイントのひとつ。皆さんに国内でいろいろな地域を旅してもらうそのきっかけを作ることができればとつねに考えています。
――昨年の神戸アノマリーから約1年というタイミングですね。
ブライアン
去年学んだことのひとつとして“非常に暑かった”という経験があります。そこで今回は涼しい地域がいいなという想いから函館を選びました。もちろん涼しい場所というだけではなく、皆さんが滞在できるだけのホテルがあるのか、交通機関は整っているのか、そして該当エリアの自治体に協力していただけるのかなど、さまざまな側面からしっかり検討を重ねています。
▲『Ingress』を通じていろいろな地域を旅してほしいと話すブライアン。実際にアノマリーやミッションディに背中を押されて北海道に初上陸なんてエージェントも多かったはずだ。
川島優志氏(以下、川島)
今回、函館市のバックアップがとても素晴らしいんですよね。函館観光部観光復興課の課長である成田晃浩さんにはソーシャルメディアを活用して積極的に拡散していただきました。また、アノマリー終了後の公式パーティには大泉潤市長が登壇してくださるなど、全面的にこのイベントを応援してくたことを心から感謝しています。
――こういった自治体のサポートは国外でもよくあることなのでしょうか?
ブライアン
この規模のサポートは経験がありません。大泉市長や成田さんはもちろん、地域の皆さんがポスターを貼ってくれるなど、街ぐるみで今回のイベントを支えてくれています。
中島真由子(以下、中島)
自治体の皆さんはもちろんPoCを担当してくださる各陣営のエージェントさんたちの協力が必要不可欠です。函館をどのようにフィーチャーすればさらに輝くのか。どんなポスターが必要でどんなハッシュタグが使いやすいかなど、『Ingress』を通じてひとつでも多く知っていただくことが目標でした。これはブライアンも言っていた通り、日本の皆さんはX(旧Twitter)を使った会話も多く、函館での体験をポストしていただくことで世界中に拡散するサポートができればとも考えていました。
▲日本のエージェントはSNSを使って訪問した地域の魅力を積極的に推す傾向がある。そうしたアクションこそが地域活性につながるのだと中島氏は語る。
世界に拡散するエージェントのチカラ
――Nianticのどのタイトルよりも『Ingress』が説明するのが難しいと思うのですが、今回どのようにプレゼンをしたのでしょうか?
村井説人氏(以下、村井)
まず、大泉市長に『Ingress』そのものをご理解いただく必要がありました。我々Nianticがやりたいことはグローバルなものであること、今回に関して言えば函館からはじまりシアトルにつながる世界規模のものだという概念から説明をしました。
――が、概念!?
村井
我々はつねにふたつのテーマを説明することを心がけています。ひとつ目は“地図ベース”であること、つまり多くのユーザーが開催地を散策するという結果につながる。そしてもうひとつ、『Ingress』のストーリーが重要なんです。これをしっかり伝えることができるとみなさん驚くわけです。たとえば『ポケモンGO』ならポケモンと出会う、『モンハンNow』ならモンスターを狩猟するなど目標がありますが、『Ingress』の場合は“そこにストーリーがある”というのが大きな特徴です。XM(エキゾチックマター)とは何なのか、それを浴びると人々はどうなるのか。改革派のエンライテンドと保守派のレジスタンス、各陣営に所属する世界中のエージェントが戦っているというストーリーラインを含めて丁寧に説明しています。
▲村井氏が語るストーリーとは『Ingress』の世界観だけでなく、エージェントがその地で体験し心に刻む個々の物語も指している。ゲーム画面の外に目を向けて歩く機会が多いからこそ、見せる世界が違うということだろう。
――想像していた以上にしっかり説明するんですね!
村井
『Ingress』ってそんな世界観なんだと理解していただくことが大切なんです。そしてその先にこうしたイベントを実現することでどれだけ多くの人が街を歩き、経済効果を生むのかというポイントをより明確に伝えることができるようになるわけです。
――そのときだけのモンスターや素材が得られるのとは違い、訪れた地域での体験自体を目的としている『Ingress』だからこその魅力ですね。
村井
その通りです。1度では体験しきれなかったものを目的に再び訪問するきっかけを作れば、それは観光施策の一環としても価値が出てくると感じてもらえる。
――これまでの開催地でもXMの概念から話していたのですが?
村井
もちろんです。ここで難しいのが、多忙な市長様や担当者様にどうご理解いただくのかという点です。その点、今回は大泉市長のご理解が非常に早く、『Ingress』が生み出すストーリーこそが観光促進のとてもいいヒントになっているんだとおっしゃってくださいました。その結果、大泉市長からスペシャルタスクのようなものを用意していただき、函館空港のポスターや函館市電のラッピングなど全面的にご協力していただくことができたというわけです。
中島
エージェント(PoC)の皆さんが観光課まで足を運んで話してくれた多くのストーリー、プレゼンはとても説得力があり我々にとってもすばらしい財産になっているなと感じました。
ブライアン
エージェントの皆さんは開催地で食べたもの、見てきたものを丁寧にX(旧Twitter)で拡散してくれますよね。これは観光促進を目指す自治体にとっても大きな魅力です。こうしてお話しているいま(9/21)も北海道のトレンドに『Ingress』が入っているのは皆さんのおかげです。
▲大泉市長や自治体の皆さんが積極的に関わってくれたこと。その行動力があってこそ今回のイベントが成し得たと川島氏。
▲函館空港にはこんな立派なポスターが設置されていた。
▲大泉潤市長はじめ、観光課の皆さんが公式アフターパーティに登場。『Ingress』を単なる観光ツールとしてではなく、その世界観とストーリーを理解してくれているのだと実感できたのは、エージェントのひとりとしてとてもうれしい。
市電がNL-1331Hになった日
――XMの調査を目的とした車両ことNL1331が今回、函館市電とコラボして市内を走行することになりました。これはどなたから提案だったのでしょうか?
中島
(しずかに手を上げ)はい、じつは乗り物が大好きなんです。函館にとってこの市電はアイコニックな存在なのでこれがアノマリーで……
川島
市電からXMを感じたと?
中島
そう!それで函館市の皆さんに相談したら、これまた快く貸し切りというカタチでご協力いただけることになったんです。
村井
イベントを開催するにあたってとても重要になるのが、“どんな支援をいただければ喜んでもらえるのか”という点です。そのノウハウが『Ingress』には12年分あり、今回は“こんなことをしたい”という我々の提案と函館市の皆さんのギアがキレイに噛み合った瞬間がありました。
――それが函館空港の広告や市電のラッピング、多くの店舗で行われた企画につながっていったわけですね。
村井
その通りですね。観光のシーズンオフに入ったタイミングで、『Ingress』が函館市という街の魅力を発信するにはちょうどよかった。ブライアンも言っていた通り、エージェントの皆さんが観光につながるポストをたくさんしてくれるのもうれしいポイントだとおっしゃっていましたね。
▲アノマリーの翌日、9月22日(日)に計3往復したNL-1331H。外観はもちろん、内装まで『Ingress』仕様でとても思い出に残る体験になった。
CEOから託された青函フェリーの旅
――今回、川島さんは青森から青函フェリーに乗って函館入りすることになりました。これはもともとジョン・ハンケCEOから託された提案だったと伺っています。ぜひ、その経緯を教えていください。
川島
じつはジョン、この函館アノマリーに来る気満々で行くならフェリーだという想いがずっとあったみたいなんです。しかし彼がスケジュールを勘違いしていて参加できなくなってしまった。それならフェリーの話も……と思っていたら「優、フェリーはどうした?」と聞いてくるんです。そこで「なるほど自分は来れなくても私には乗ってほしいいんだ」と理解し、ブライアンにも声をかけて今回の青函フェリールートを選ぶことになりました。
――ジョンはもともと船が好きとか?
川島
そうなんです、サンフランシスコのオフィスまで毎日バークレーから船で来るくらいなので身近なものなんでしょうね。私自身も船が好きなので、本人は来れなくなってしまったけどとてもいい旅になりそうだと自然と楽しみになっていたのを覚えています。
――そして実際にXで呼びかけてみたと。
川島
ひとりかふたり、本当に数名参加してくれるエージェントがいるかもしれない。それくらいの気持ちでポストしてみたら、なんと30人前後の方が現地に集まっていたんです。しかも船内でエージェントによる茶会が開かれたり、わざわざ函館から1度青森に来ていっしょに青函フェリーに乗ってくれたエージェントがいたりと、想像していた以上に思い出深い体験ができて、これこそまさに『Ingress』だなと改めて実感することができました。
ブライアン
船上という密室でエージェント、プレイヤーの皆さんとゆっくり話ができたのは貴重な体験でしたし、こんなことができるのも『Ingress』だからだと想います。
【当日の様子をポストするブライアン】
ハンドブックを実装した真意
――『Ingress』も13年目を迎えるというこのタイミングで、新規開拓を目指すように“ハンドブック”という機能が実装されました。こちらは、どういった意図があるのかを教えてください。
ブライアン
これは新規の方にもわかりやすく情報を発信する皆さんからインスパイアされて作りました。SNS上でわからないことを聞ける人もいればそのまま聞けずに辞めてしまう人もいる。そんなとき、スキャナを通じて気楽に調べられる機能があれば悩みを解決できるかもしれないと考えたんです。
■新機能ハンドブックガイド
――13年目にしてやっと基礎ガイドの実装というのは遅すぎたという印象があります。また、現状のものは公式サイトのヘルプセンターにある“初心者向け”というカテゴリに直接アクセスできるだけの簡易的なものに感じるのですが。
ブライアン
じつは英語版では情報が更新されているんです。そこには現役のエージェントが読んでも“お、これは”と思っていただけるものが書かれていたり、隠されたメッセージがあるのでいずれそうした要素も皆さんにお届けできるようにしたいと考えています。
――過去のものを流用して終わらないと信じていいですか?
村井
はい、ご期待ください!
――サブスクリプション“C.O.RE.”加入者を対象に、所持しているポータルキーの一覧から対象ポータルが確認できる機能が追加されました。こちらの意図もぜひお聞かせください。
ブライアン
我々は“C.O.RE.”に加入してくださっているエージェントに少しでも新しい体験をしてほしいとつねに考えています。今回の機能に関しては作戦を考えるとき、これまでの旅を振り返るときなど、いろいろな方法でぜひ活用してほしいですね。
▲“C.O.RE.”に加入していてよかったと感じてもらえる機能を今後も検討しているとブライン。現状インテルマップを介するものばかりなので、できればスキャナ内で利用できるものも期待したい。
このインタビューの最後に村井氏は、Nianticにとって『Ingress』は“ハート&ソウル”であること。すべてのタイトルの基盤でありこれからも育てていく大切なものだと話してくれた。
また、ストーリー性とゲーム性のいずれもが一級品であり、未来永劫続けていくものだと会社全体で考えていると明かしてくれた。
言葉を選ばずにいうなら、『Ingress』の開発陣とエージェントの距離感はおかしい。
そのおかしさもまた本作が長く愛され、Nianticの理念を体現し成果を残す重要なひとつのピースなのだと思う。
この世界を永続させるには何が必要で我々に何ができるのか。
ぜひ今後も互いに手を取り、陣営の垣根を越えてこの世界を守っていきたい。
▲こちらは9月21日(土)、函館アノマリー公式アフターパーティでのオフショット。各イベントの様子は後日それぞれ記事にまとめるのでぜひそちらもお願いします!!
Ingress Prime(イングレス プライム)
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配信日
2018年11月6日
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