ドラゴン退治の聖人と討伐された牛頭怪人!ゲオルギウス&ミノタウロス【しゃれこうべが語る元ネタの世界 第32回】
2020-05-27 12:00 投稿
退治する側される側のお話を
今回は諸事情で冒頭のボケもなしに本編入らせていただきますが、テンションはいつも通りでお届けします!
ってことで、今週もやってきました“元ネタの世界”!
怪物やら妖怪やらをご紹介してきた流れで、今度は怪物退治のお話をふたつほどご紹介します。
典型的なドラゴン退治の主人公・聖ゲオルギウスと、超有名どころのミノタウロスについて、いざいざ!
【目次】
・ゲオルギウス(ラテン語読み)は英語読みするとジョージ
・ミノタウロス、誕生
・英雄・テセウスとアリアドネの糸
・テセウスの船
・イカロスの翼
・次回は、騎士のお話……?
ゲオルギウス(ラテン語読み)は英語読みするとジョージ
まずお話ししますは、古代ローマの聖人である聖ゲオルギウス!
このお方、もはやテンプレかと言いたくなるほどに王道なドラゴン退治の主人公なのであります。
それは、リビアの小国・シレナでのお話。
この国の湖には1匹のドラゴンが住み着いており、その口から吐き出される毒気によって、シレナには疾病が蔓延していました。
※イメージです
人々は国の羊を生贄に捧げ、なんとかドラゴンをなだめていましたが、やがて羊の数も減っていき、とうとう人間を生贄に捧げることになってしまいます。
それからというもの、国中でくじを引いて生贄となる人を決めていたのですが、あるとき、王女が生贄となるくじを引いてしまったのです。
生贄の祭壇に連れていかれ、哀れ王女の首にドラゴンの牙が……、というそのとき、どこからともなく放たれた槍がドラゴンの眉間に突き刺さり、一撃で怪物の動きを止めます。
驚いた王女が振り返ると、そこには馬上で佇むひとりの男の姿。この男こそ、聖ゲオルギウスだったのです。
聖ゲオルギウスの手によってドラゴンは退治され、王女ともどもシレナの国は救われ、疾病からも解放されることとなったのでした。
~ めでたしめでたし ~
と、まさに“ザ・ドラゴン退治”なお話! 王女がくじを引くという公平性にも驚かされますね……!
しかしこのお話、地味~に別パターンも存在します。
そちらでは、聖ゲオルギウスがドラゴンを鎖で縛り上げ、生きたまま街に連れていくのです。
そして、ドラゴンにトドメを刺す前に、町の人々をキリスト教に改宗させたのだとか。
というアレな展開があったのでは、などと勘ぐってしまいますね……!
ちなみにですが、いわゆるドラゴンスレイヤーなお話は異教徒を改宗させる展開が多いそうで、ドラゴン自体が異教、あるいはその信仰対象を象徴している、なんて説もあるそうですね~。
ミノタウロス、誕生
続きましては、ドメジャーなミノタウロス!
ギリシア神話に登場する、人の身体に牛の頭を持つ怪物ですね~。
画像はないので自作! はいドン!
では、まずはこのミノタウロスがどのように誕生したかの、お話。
それは昔々のギリシア南方、クレタ島での出来事。
先王がなくなり、島では王位の継承を巡って争いが起きていました。
その王座争いに参加していた男たちのひとり、ミノスは海神・ポセイドンに祈り、自分がつぎの王に相応しい証として、白い牡牛を授けてほしいと頼みます。
王になったら牡牛をポセイドンに捧げると誓ったミノスは、願った通り王となりました。
しかし、あまりに立派な牡牛が惜しくなったあまり、ミノス王は別の牛を生贄に捧げてしまいます。
ポセイドンは約束を破ったミノス王に怒り、彼の妻であるパシパエに呪いをかけます。
その呪いは、彼女が白い牡牛に強く恋焦がれてしまうというものでした。
パシパエはどうにかして白い牡牛とひとつになりたいと望むようになり、名工・ダイダロスに命じて木造の牝牛を作らせます。
そして、木造の牝牛に入り込んで白い牡牛と交わったパシパエは、やがて白い牡牛の子を産むのでした。
こうして生まれたのが、人身牛頭のミノタウロスだったのです。
ちなみに余談ですが、ミノタウロスという名前は“ミノス王の牛”という意味だそうで、一応最初はアステリオスという名前があったそうですよ!
さて、妻が急に身ごもったと思ったら牛頭の怪物を生んでしまったという衝撃展開、ミノス王はどうしたかと言いますれば……?
英雄・テセウスとアリアドネの糸
妻が牛と交わり、さらには怪物を生み出したことに怒ったミノス王は、ダイダロスに命じ、巨大な迷宮を作らせました。
一度入れば脱出することは困難を極める迷宮ができあがると、ミノス王はその奥深くにミノタウロスを封じ込めてしまいます。
そしてこれよりのち、ミノス王は毎年(3年おき、あるいは9年おきという説も)7人の青年と7人の少女を生贄として迷宮に捧げるようになります。
生贄を捧げる街の人々は嘆き悲しんでいましたが、あるとき、テセウスという青年がみずから生贄に志願します。
テセウスも画像ないんですが、せっかくなので過去に作ったペルセウスの画像を再利用!
テセウスたちが生贄として到着すると、ミノス王の娘、つまりは王女のひとりであるアリアドネがテセウスの姿を見、ひと目で恋に落ちてしまいます。
彼がミノタウロスを倒すべくやってきたことを知ると、アリアドネはダイダロスの強力を得て、迷宮から脱出するための麻糸の玉と、ミノタウロスと戦うための剣を密かに用意してあげたのでした。
ちなみに『乖離性MA』ではアリアドナという非常にニアピンな名前のキャラがカード化されています! おそらく元ネタはアリアドネ……?
テセウスは、迷宮に入れられた際にアリアドネから受け取った糸を入り口の扉にくくり付け、帰り道がわかるように糸を垂らしながら迷宮を進んでいきます。
やがて迷宮の奥でミノタウロスと対峙し、剣でこの怪物を打ち倒し、ともに生贄となった青年、少女たちとともに迷宮を脱出します。
そして、テセウスたちは無事クレタ島から脱出し、無事にもとの街へと帰ることができたのでした。
~ めでたしめでたし ~
と! こちらも怪物退治に関してはけっこうあっさり!
アリアドネの糸、と言えば某迷宮ゲーでも脱出アイテムとしておなじみですよね~。
ところでこのお話、後日談にあたるお話も有名どころがありまして……。
テセウスの船
ミノタウロスを倒した英雄のテセウスですが、この名前を聞いて連想する言葉と言えば、やはり“テセウスの船”でしょう!
某マンガ、およびそのドラマ版のタイトルとしても有名な言葉ですが、もともとはミノタウロスを退治した後のエピソードが元になっているパラドックスなのです。
英雄・テセウスが帰還した際に乗っていた船は後世にまで保存されていたが、時が経つにつれて木材は劣化するもの。
そのため、朽ちた木材は逐次新しい木材へと置き換えられてく。
この置き換えが繰り返され、もとに使われていた木材がすべて別の木材に置き換えられたとき、その船は果たして同じ船と言えるのか、言えないのか……。
これがテセウスの船、あるいはテセウスのパラドックス! いや実際判断しがたい問題ですよね~。
イカロスの翼
そしてもうひとつの後日談が、イカロスの翼!
いま紹介した話にイカロスおらんかったやんけ、とお思いでしょうが、じつはちょいちょい登場していた名工・ダイダロスの息子がイカロスなのです。
テセウスの脱出を知ったミノス王は、ダイダロスが彼を手助けしたことを責め、その罰として息子のイカロスともども彼を迷宮に閉じ込めてしまいます。
が、名工という呼び名はダテではなく、ダイダロスは蝋燭で翼を作り、空から脱出するというチートを敢行!
この際、高く飛び過ぎれば太陽の熱で蝋が解け、低すぎれば海の湿気で翼がダメになる、と念押しをしていたのですが、息子のイカロスは浮かれて高く飛びすぎ、有名な歌にあるように蝋の翼を溶かされ、海へと落ちてしまった訳です!
ちなみに父親のダイダロスはと言えば、クレタ島から800キロ以上離れたシチリア島に辿り着いたとか何とか。スタミナすごすぎでは……?
以上、おまけ雑学でございました~。
次回は、騎士のお話……?
ってことで、今回は怪物退治のお話、というか後半はただの雑学コーナーでした!
改めて冷静に考えると、蝋の翼で空を飛ぶって胸筋の力とスタミナ半端ないですね……!
さて次回ですが、怪物退治の流れから、今度は『アーサー王物語』に登場する騎士たちのお話を紹介していこうと思います。
『アーサー王物語』の全体像やらについては本コラムの初期にもざっくり触れてきましたので、こちらもチェックよろしゅう。ってことで、また次回!
文/しゃれこうべ村田(@SRSWiterM)
参考文献
呉茂一(1979)『ギリシア神話(下)』 新潮社
荒川紘(1996)『龍の起源』 紀伊國屋書店.
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