モンスターたちの{起源/オリジン}第18回:衝撃の事実!メデューサは絶世の美女だった!
2018-10-04 18:00 投稿
ペルセウスのメデューサ退治
おそらくゲームに興味のない人にとっても、メデューサというモンスターはメジャーなものであろう。そう、あのギリシア神話に出てくる、髪の毛がヘビの女性型の化物だ。今回は、そのメデューサのお話をしていこう。
その前に、まずはメデューサ退治の顛末を復習しておこう。メデューサは英雄ペルセウスに倒された化物であるが、その話を具体的に知る人は、それほど多くないようだ。
なぜメデューサは殺されたのか?
ギリシア神話名物である“どこにでも入り込む浮気王ゼウス”が、地下室に閉じ込められていたダナエーのもとに忍び込んで作った子ども、それがペルセウス。
ペルセウスはその出自のせいもあり、母とともに島流しにされるが、なんとかセリーボスの島にたどり着いたペルセウス親子は、そこで国王に拾われて育つことになる。
その後、ペルセウスの母・ダナエーに恋をした国王は、ジャマ者となるであろうペルセウスを亡き者にしようと画策。国王は「今度結婚するから、なんか英雄らしいものを祝いにちょうだいよ」とペルセウスを焚き付け、怪物ゴルゴンの首を取りに行かせたのである。
うーむ、ギリシア神話ってまともな登場人物がいないな!
かくして、猪の牙を持ち、羽を持ち、髪の毛が蛇になっていてその姿を見るだけで石化してしまうという恐ろしい女性の怪物・ゴルゴンを倒しに出たペルセウスは、女神アテナや使者の神ヘルメスの手助けを受け、ゴルゴンの情報を得ることに成功。
ペルセウスが調べたところによると、なんとゴルゴンはじつは3姉妹で、上の姉ふたりは不死身だという。そこでペルセウスは、唯一不死性を持たない末の妹であるメデューサの寝込みを襲い、首を切り取り殺す計画を立て、見事これに成功する。
ちなみにメデューサを倒す逸話で「鏡のように磨き上げた盾にメデューサの姿を反射させ、メデューサを石に変えて倒した」というものがあるが、これは後世に作られた作り話らしい。
しかして、ペルセウスに倒された怪物・メデューサは、その後生首のまま「あ、こいつ盾に括り付けたらみんな石にすることが出来るし、くっそ便利じゃん」という最低な理由で、死後もいいように使われまくったわけである。ちなみに、このとき作られたのがアイギス(イージス)の盾である。
怪物・メデューサ誕生秘話
しかし、この話だけ聞くとメデューサにはどこも悪いところがない。寝ていたら、首を切り取られてしまった可愛そうな存在だ。夜中謎の男が家に忍び込んできて、「うーん、ほかは不死身だから妹でいいや」と首を切られるとか、はた迷惑な話である。いや、迷惑で済んでないわ。
だがじつは、当然と言えば当然だが、何の理由もなく殺されるような存在ではない。メデューサは、ペルセウスが誕生する前から女神アテナと因縁があったのだ。そしてその結果、英雄に退治される運命になったというわけである。
では、どのような因縁があったのかというと……女神アテナの嫉妬である。うわぁ……。でも、この辺が“THE ギリシア神話”って感じだよね! もうドロッドロ♪
そう、メデューサは絶世の美少女だったのである。とくにその髪は非常に美しく、本人もそれを自慢に思っていたようで、ある時「自分の髪は女神アテナ以上に美しい」と口にしてしまったため、女神アテナの怒りに触れてしまったのだ。
そして女神アテナはその怒りに任せ、メデューサの髪を蛇に変えてしまったのである。それを知ったメデューサの姉ふたりは、必死で彼女をかばおうとしたのだが、それでもアテナの怒りは収まらず、姉たちも怪物ゴルゴンへと姿を変えられてしまったのだ。
美しい髪を持つ美少女3姉妹が、髪、もとい神の怒りで怪物になってしまうとはもったいない話だが、これと同様に織物上手を自慢したら蜘蛛女にされてしまった、アラクネーの話もあるので、ギリシア神話の女神を怒らせるのは絶対さけた方がよさそうだ。
じつはもっとエロかったメデューサの罪
さて、上でメデューサは髪自慢をした結果、女神アテナの怒りに触れたという話もあるが、彼女の罪はそれではないという話もある。
その話でも、メデューサが非常に美しい女性であることに変わりはないのだが、そこでメデューサは、女神アテナの神殿に仕える巫女であるという話になっている。しかし、メデューサは巫女であるはずなのに、あるとき海神ポセイドンに見初められ、アテナの神殿の隅っこでポセイドンと合体に及んでしまったのだという。
ところが、アテナは処女神と言われるように、誰かと恋愛関係にもないし、ポセイドンとはたびたび領土争いをしてきた犬猿の仲である。
そんな相手と自分の神殿で合体とは、さすがにこればかりは許されなかった。超激怒したアテナは、メデューサを姉妹もろとも醜い怪物に変えて追放したのだ。追放されたメデューサは、恋人のポセイドンを頼って地中海の島へ移り住み、そこで姉妹で住むことになったのである。
ペルセウスの活躍の際、女神アテナが彼の手を導き、メデューサ殺しを手伝ったのは、積年の怒りがあったからだ。まぁ、こちらの話に関しては女神アテナの怒りももっともだろう。
しかし、その首をみずからの盾に組み込んだのだというのは、恐ろしい話だ。女の恨みはかくも恐ろしい。みんなも肝に銘じておくといい。
メデューサは美女か怪物か?
さて、ここまでメデューサに関する逸話を簡略化してお伝えしてきたわけだが、ではメデューサの起源というのはどこになるのか?
もともと、メデューサという名前は“女王”を意味し、姉のステンノーは“強い女”、エウリュアレーは“速く飛ぶ女”という意味になる。で、どうやらこの3姉妹は、ギリシア先住民にとっての女神だったようだ。
そしてその当時では、ポセイドンは地震を支配する大地の神で、メデューサも、ポセイドンの妻として信仰されていた大地の女神だったという。
またペルセウスの神話では、首を切られたときに流れ落ちた血からペガサスが生まれたという話があり、もっと古い神話では、ポセイドンとメデューサは、ペガサスと黄金の剣を持つ巨人クリュオサルを生んだという話もある。
ではギリシア神話にあるペルセウスのゴルゴン退治は、そこで作られた話なのかと思われるかもしれないが、じつはこの話も、別に古くからあったようだ。これを描いた浮き彫りには、まるで獅子舞の獅子のような顔をしたゴルゴンが描かれている他、いくつかの浮き彫りでは、魔除けのように壁や盾に獅子舞めいたゴルゴンの顔が彫り込まれている。
どうやら、昔のギリシアあたりにいたライオンへの恐怖から生まれた怪物がゴルゴンの原型のひとつとなっていたようだ。そしてその力強さから、怪物ゴルゴンという存在は、魔除けにも使われていたのである。
そこへ、女神アテネや雷神ゼウスを信仰する古代ギリシア人が入ってきて、都合のいいように、神話が混ぜ合わされ、美しい大地の女神は、醜い怪物にされてしまったのである。メデューサもまた、歴史の被害者なのかもしれない。
おまけの4コマ
4コマ作:海野なまこ
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文:朱鷺田祐介
【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】
TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『シャドウラン 5th Edition』、『エクリプス・フェイズ』。その他の著書に『クトゥルフ神話ガイドブック』『魔法使いの嫁 公式副読本 Supplement Ⅱ』『超古代文明』『図解巫女』など。毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。
朱鷺田氏翻訳の最新TRPGルールブック『シャドウラン 5th Edition (Role&Roll RPG)』発売中。
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