モンスターたちの{起源/オリジン} 第17回:アマゾネスを守護する女神アルテミスはおっぱい星人?
2018-09-27 18:00 投稿
アマゾンの語源は地名?
ファンタジー世界を舞台としたRPG作品に登場する女性戦士を表現する言葉として、アマゾン / アマゾネスという言葉がある。多くの人は、南米の大河やジャングル、密林に住む部族の女戦士をイメージするかもしれないが、起源はそことは別なのだ。
むしろアマゾネスこそ、地球に存在するアマゾン地方、アマゾン川の語源である、という説すらある。では、この女戦士として名高いアマゾネスの起源は、どこにあるのだろうか?
ズバリ起源は、ギリシア神話に登場する女性だけの狩猟騎馬戦士の国“アマゾン(アマゾーン)”。その国/土地に住む、女性戦士たちがアマゾネス(アマゾニス)と呼ばれたのだ。
さて、彼女らはギリシア神話の戦の神アレスの子孫で、コーカサス山脈から黒海の北側に住んでいた。今のロシア東端である。
彼女らは勇猛で、男性の権威を認めず、女王を頂点とした女性だけの社会を築いていたという話は有名なのだが、その女性社会の作りかたが、あまりに徹底されていたということを知る人は意外と少ない。
どれほど徹底していたのかというと……。血を絶やさぬために近隣の男性と交わりはしたが、男子が生まれると、殺すか奴隷にしていたというほどである。こわっ!
そんなアマゾネスのその勇猛さが有名になるのは想像にやすいが、記述によれば、乗馬技術や弓矢の扱いも非常にも非常に長けていたのだそうだ。そして、その技術は彼女たちの生命線でもあったのだろう。アマゾネスたちは、弓矢を射る際の邪魔にならないよう、右の乳房を切り取ったという伝説も残っている。
ちなみにアマゾンの名前も、“片方の乳房(マゾス)を除去した”という意味だという説がある。まぁ、最近では別の説のほうが有力らしいのだが、その徹底ぶりには恐ろしさすら感じる。それもまた女性の強さということなのだろう。
(兜を)脱いだら、すごい美人
アマゾネスは、ギリシア神話では恐ろしい隣人として描かれている。馬に乗り、弓矢の腕も強く、男はすべて皆殺し。そのためか、アマゾンの伝説は英雄たちとの対決と恋愛で語られるのだが、まぁ案の定と言っていいのか、つねに悲劇に終わっている。
たとえば、こんな話がある。怪力の英雄ヘラクレスは12の難業のひとつとして、アマゾーンの女王ヒッポリュテが持つ軍神アレスの帯を取ってくることを命じられた。ヘラクレスは友好的に振る舞い、女王も彼と相思相愛の仲になったが、些細な行き違いからアマゾネスたちと戦いになり、ヒッポリュテもヘラクレスに殺されてしまう、という話だ。THE 悲劇!
アマゾネスの女王の中で、もっとも美しいとされているペンテレイシアの話もまた、悲劇として描かれている。ペンテレイシアはトロイア戦争で英雄アキレウスと戦い、殺されてしまうのであるが、アキレウスは倒した相手の兜をはがした後、ペンテレイシアの死に顔のあまりの美しさに驚き、魅了され、その場で泣き悲しんだという。
後の祭りというが、このあたりの激情にもほどがある。
アマゾンが信仰したアルテミスはおっぱい星人?
さてさて、そんな感じで勇猛ながらも悲劇の女戦士でもあるアマゾネスについて、少しおもしろい話を見つけたので、それも紹介しておこう。アマゾネスと、彼女らが信仰していた狩猟の女神アルテミスの話である。
アルテミスは、若く美しく勇猛果敢な女性の狩人で、弓の達人である。ギリシア神話では、太陽神アポローンの双子の姉に当たり、月の女神でもある。ギリシア風の布を身にまとい、弓を持った姿で知られる存在だ。また、ローマではディアーネと呼ばれ、月の処女神として知られてもいる。
しかし、こういった比較的メジャーなイメージは、ギリシア神話が出来上がっていく中で固められたイメージに過ぎず、もっと昔の神話では、それはそれは偉い女神であり、旧石器時代から広く信仰されていた“森の獣たちの女主人”が原型なのではないかと考えられている。
たとえば、アルテミスを描いた絵画や彫像などには、熊や獅子を弄んでいるものが多い。手のひらに乗せていたり、獅子や熊をペットのように連れていたり、いっしょに昼寝したりしている。若く美しい女神が熊を“もふもふ!”と撫で回す、非常に心和む構図である。
だが、本来はもっと雑な扱いが多く、ひどい時には、「いま、狩って来ました!」という感じで、熊や獅子の首を持ってぶら下げているものもある。わーお、ご・う・た・ん♪
そう、昔の彼女は恐ろしい自然そのものを支配する女神であり、狩猟をする際には、彼女の許可を得なければならない、とされていた相手なのである。獣たちは、すべて彼女の子供たちも同然であり、彼女の別名に「乳を与える者」という母神の個性を表す者もある。あれ? 意外にアルテミスって、おっぱいキャラだったのか?
それを証明するように、勇猛な女狩人のイメージとは裏腹に、アルテミスとおっぱいとの縁の深さを示すものはたくさんあるようだ。アルテミスを描いたもっとも古い神像のひとつが、トルコで発掘されたエペソスのアルテミス像であるが、これがなんと、無数のおっぱいを体中につけたブドウのような姿をしている。
おっぱいキャラどころか、おっぱい星人である。おっぱいが好きな男性を揶揄する言葉ではなく、まさしく、である。うーん、まぁ率直に言うと、怖いよね。
おまけの4コマ
4コマ作:海野なまこ
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文:朱鷺田祐介
【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】
TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『シャドウラン 5th Edition』、『エクリプス・フェイズ』。その他の著書に『クトゥルフ神話ガイドブック』『魔法使いの嫁 公式副読本 Supplement Ⅱ』『超古代文明』『図解巫女』など。毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。
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