モンスターたちの{起源/オリジン}第22回:猫の妖精(!?)長靴をはいた猫は超弩級の詐欺師だった

2018-11-01 18:00 投稿

TRPGデザイナーにして作家、朱鷺田祐介氏による連載作品集! クトゥルフやファンタジー作品について深い造詣を持つ氏ならではの視点で、ゲーム業界に深く関わる、クトゥルフ神話要素やファンタジー要素を掘り下げて紹介していく。

ケット・シーは不吉な猫妖精

今回は、モンスターというよりも妖精として知られる“ケット・シー”をご紹介。

ケットが猫、シーが妖精を意味する、そのまんま猫妖精である。また、ど直球にキャット・シーと呼ばれることもあるようだ。ちなみに、犬の妖精はクー・シー。こちらはあまりメジャーではないかも?

ともあれ、今回はケット・シーのお話。ケット・シーはケルト神話に登場する妖精で、犬ほども大きい黒猫で、胸に白い斑点があるのが特徴。後ろ足で立ち、他の猫たちを従えるため、“猫の王”とも言われている。

なにやら野良のボス猫っぽくて可愛らしい感じだ。と思ったが大間違い! 騙されたらいけない。こいつは、フワフワキラキラとした妖精のイメージを全力疾走でぶち壊しにくるほどの黒さを持つ存在でもあるのだ。

なんと、ケット・シーは天に召される前の魂を葬式中にかすめ取るという、とんでもないことをやってのける存在なのだ。危ない危ない。黒猫がたくさんの猫を引き連れてニャーニャー行進してるところを想像して気を許すところだった。

とまぁ、そんな悪事(?)を働くため、スコットランドでは葬式の前に棺桶の見張りをして、黒猫が近づかないようにするのだそうだ。黒猫が不吉のアイコンになっているのには、ちゃんと根拠があるのである。

さてそんな一方で、ケット・シーは家に憑く妖精の一種でもあり、毎日一皿のミルクをお供えしておけば、その家を守ってくれるという逸話もある。

魂を横からかっさらったり、家を守ったり、そのコロコロと態度が変わる様はまさしく猫だな。ライオンも所詮はでかい猫だという話をする人もいるが、妖精になっても猫は猫のままのようだ。

さてそんな猫妖精ケット・シーだが、なんと魔法の呪文で呼び出せるという。詳しい方法は不明だが、近代魔術の達人アレイスター・クロウリーは、魔法の儀式でケット・シーを呼び出し、使役したという。

正直眉唾ものの話ではあるが、猫の妖精を呼ぶ呪文はちょっとうらやましいな。

猫しかもらえなかった三男坊の話

さて、ケット・シーの話はこれで終わり。超メジャーな存在なのに、意外とネタはなかったようだ。ということで、ここからは同じ猫つながりでちょっとしたお話を。

日本やアメリカでアニメ化もされた名作童話『長靴をはいた猫』である。二足歩行で人語を解し、長靴を履く猫の話である。うん、ここまでくればもはや妖怪とか妖精とかのレベルだな。よし、問題なし!

さて、『長靴をはいた猫』のあらすじはこうだ。

父親が死んで、農家の三兄弟は遺産をもらうことになったが、末っ子の三男坊は猫しかもらえなかった。これを受けて三男坊は嘆いた。

「猫では、食べてしまったらそれで終わりだ……」

いやいやいやいや、食べないで!

この背筋も凍るような嘆きに猫も「こりゃやべーぞ」と腹をくくったのだろう。猫はすくっと立ち上がり、「袋と長靴をくれれば、あなたがもらったものはそんなに悪くないことがわかります」と、三男坊に語りかけた。三男坊は話す猫に驚きつつも、言うことに従い、袋と長靴を渡したのだ。

さっきまで非常食としてしか見ていなかった存在が、急にしゃべりかけてきたのだ、そりゃ素直に従うって。

そして、袋と長靴を装備した猫は、王様に謁見し「カラバ侯爵からの献上品です」と捕まえたうさぎを献上。猫はこうして王様への献上をくり返し、王様と仲良くなっていく。

王様への謁見のセキュリティの甘さや、王様の単純さについては、この際触れないでおこう。突っ込みだしたらキリがない。

そんなこんなで王様とマブダチになった猫は、ある日王様が通りかかる道中にある小川で三男坊に水浴びをさせる。そして、王様がそこを通りすがるタイミングを見計らい、「カラバ侯爵が水浴びの途中、服を盗まれてしまった」と言い、裸の三男坊と王様を引き合わせるだけでなく、立派な服をせしめることに成功したのだ。

こうして、猫を介して王様と出会った三男坊。しかし猫の行動はこれだけに収まらず、王様が三男坊を助けている間に、近くの百姓を脅しにかかる。

「この土地の持ち主を聞かれたら、カラバ侯爵のものだと言え。言わねば細切れにするぞ」

ちなみにその土地はオーガ(人食い鬼)の土地。キモが座ってるとか、そういうレベルじゃねぇ!

こうして根回しを完了した猫は、王様を城に招くことに。もちろん、招くのはオーガの城である。猫は、王様一行よりも先乗りし、オーガを騙してネズミに変身させてぺろりと食べてしまう。そのとき王様一行はと言えば、道中の農民たちから「この土地はカラバ侯爵様の土地」と聞き、その領土の広さにすっかり感心中。

ボスモンスター的存在であるオーガが一瞬にして食われたとはつゆ知らずである。

と、そうこうしてる間に立派なお城に到着した王様は、お姫様をカラバ侯爵こと三男坊に嫁がせることを決定。めでたしめでたし。

って、いや、猫すげぇな! あきらかに超一級の詐欺師。悪魔と言われても納得できるぞ。

おまけの4コマ

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4コマ作:海野なまこ

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文:朱鷺田祐介

【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】

TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『シャドウラン 5th Edition』、『エクリプス・フェイズ』。その他の著書に『クトゥルフ神話ガイドブック』『魔法使いの嫁 公式副読本 Supplement Ⅱ』『超古代文明』『図解巫女』など。毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。

書影

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