モンスターたちの{起源/オリジン}第19回:ティアマトは、ドラゴンではなく海の女神
2018-10-11 18:00 投稿
ティアマトは、原初の海の女神
ティアマトの名前を冠したキャラクターはたくさんいる。しかしその姿は、美少女であったり、ドラゴンであったり、エロいお姉さんであったり、空を貫く彗星であったりと様々だ。
しかしどうしても、その語感のせいだろうか、はたまた何かしらの作品の影響だろうか。ティアマト=ドラゴンというイメージが強い。だが、じつは神話に出てくるティアマトという存在は、なんと原初の海の女神なのである。
神々を生んだ原初の女神ティアマト
ただそう言われても、これまでドラゴンというイメージが強かったせいか、いきなり「ティアマトは海の女神」と言われてもピンと来ないだろう。なのでまずは、「そもそもティアマトってどんな存在なの?」というところから話をしていこう。
まず冒頭でも語った通り、ティアマトは原初の海の女神である。またそれはただの女神ではなく、世界の形がまだはっきりしていないころから存在し、真水の神アプスーと交わって多くの神々や怪物を生み出した大いなる母神でもあるのだ。
このふたりの結婚は、ペルシャ湾で淡水と海水が混じること(汽水という)を表現すると言われている。そうして、そこから男神ラフムと女神ラハムが生まれ、さらにこのふたりが次世代の神々の始祖となる天のアンシャールと地の神キシャールを生み、この天地の神が、数々の神や怪物を生み出したのである。
ティアマトとアプスーから始まる神々の系譜は、こうして増えていったのである。メソポタミアの神話において、ティアマトはまぎれもなく原初の母神、ざっくり言ってしまえば、神々のひいおばあちゃん(曾祖母)みたいな存在なのだ。
ティアマトおばあちゃん、ブチ切れる
さて、そうして神々はどんどんと増えていき、世界は相当賑やかになっていったのだが、この賑やかさが原因で、神々の世界は急変する。
いや、正確には賑やかというレベルではなかったようだ。天空の神アヌが生み出した風により、ティアマトやアプスーが支配する水面はかき乱され、ふたりは夜も眠れなくなり、昼夜問わずその風に悩まされることになってしまったのだ。
子どもの声を騒音と捉え、幼稚園にクレームをいれるという、イチャモンレベルではない。イメージとしては、24時間家の前に暴走族がいて、しかもどこかに走り去るのではなく、家の前で延々と空ぶかしをしているイメージだろう。
たまったもんじゃない。
そんな状況に、神々のおじいちゃんであるアプスーはブチ切れ! 神々を世界から追放することを考えるが、やさしいやさしいティアマトおばあちゃんは、なんとかアプスーをなだめ、穏便にことを済ませていた。
しかしそんなある日、アプスーが側近にそそのかされる形で神々を追い払うことを決定してしまい、事態は急変する。
ひいおじいちゃんの突然の宣言に、若い神々はパニックに陥るのだが……知恵の神であるエアだけは慌てなかった。一考したエアは、水差しの水に魔法をかけ、それを飲んで眠りこけたアプスーを殺し、アプスーをそそのかしたムンムを地下牢に閉じ込めたのだ。
騒いで文句言われて追放されそうになったら、権利者を殺すとか、こええよ! 不良とかそういうレベルじゃないよ。
しかも、そうして世界からの追放を免れた若い神たちは一安心し、また以前と変わらぬ状態に戻ってしまったというのだから凄まじい。アプスーの死には何も意味がなかったことになってしまう。
ただ、これにはやさしいティアマトおばあちゃんも我慢の限界だったのだろう。ブチ切れる。原初の女神としての権能を使い、怒りに染まったティアマトは、ついに11種の怪物を生み出した。
角を持つ毒蛇バシュム、偉大なる龍ウシュムガル、毒蛇の頭と鷲の上半身とサソリの尾を持つ龍ムシュフシュ(シルルシュ)、巨大な天の野獣である大獅子ウガルルム、血の代わりに毒で満たされた七つ頭の大蛇ムシュマッヘ、獅子人間である狂犬ウリディンム、サソリ人間(ギルタブルル)、凶暴なる風の魔物ウーミ・ダブルティ、魚人間クルール、野牛人間クサリク、凶暴なる海魔ラハブである。
そして、ティアマトは息子であり怪物の筆頭である邪竜キングゥを夫にして、怪物の群れを率いさせた。その怪物たちは、誰もが見ただけで恐れおののくほどのものであったそうだ。
ティアマトが、ドラゴンの姿に描かれるようになったのは、このあたりからで、七つ頭の大蛇ムシュマッヘは彼女自身のこととも言われている。
エアとマルドゥクの最悪親子
こうして顕現したティアマト怒りだが、エアはそれすらも陰謀に悪用した。エアは、天空の神アンシャールに「ティアマトが謀反を企てている」と嘘の情報を流したのだ。
騒ぎに騒ぎまくって、ブチ切れた相手が大きな力を利用しようとしたら、親に頼るクズですわ。
ただし、この目論見はいささか外れることになる。アンシャールはティアマトをなだめるために使者を送ることにしたのだが、その使者として選ばれたのがエアである。使者としてティアマトのもとに送り込まれたエアだが、激怒したティアマトを見て、恐怖のあまり何も出来ずに帰ってきてしまったのだ。
クズでビビリとか、もうほんとエアろくなやつじゃない。
ただ、やはりエアは悪知恵は働くようで、この状況を受けたエアは、海の底に隠れ住んでいたラフムとラハムに頼み込み、神々を集めて軍議を開き、そこで自身の息子であるマルドゥクを神々の大将に据えることに成功したのだ。
神の力を注ぎ込まれ、ほかの者の2倍の力を持つとされるマルドゥクは、その力をティアマトの討伐に成功してしまう。しかも、マルドゥクは死んだティアマトの頭蓋骨を砕き、動脈を切り裂いたというのだ。あの親にしてこの子あり、である。
死体は世界の材料に
そうしてバラされたティアマトの肉体は天地の材料となったのだが、その描写がわりとエグい。その内容を具体的に語ってしまうとちょっと生々しすぎるので、少し軽めになるよう努めてマルドゥクの世界創造を説明してみよう。
まず、怪物の体をはんぶんこにして、その半分で天を、残りで大地を作った。その後ティアマトの顔にちょっとした工夫を加えてチグリス川とユーフラテス川の水源を作り、体を改造したり、そのパーツをうまく使ったりして、山やら天の川を作る。
最後の仕上げに、ティアマトの足を地面にぶっ立てて天空を支えるようにして、はい完成!
……いや、やっぱグロいわ。
ともあれ、そうして世界を作り上げたマルドゥクは最高神になるのだが……そりゃそれだけの力を持って暴れる残虐な暴君がいたら、みんな付き従うしかなくなるわな。ちなみに、人間もマルドゥクが作った存在。神々の下で働く者を作り出すため、ティアマトの2番目の夫キングゥを殺して、それを材料に作ったのだという。
バビロンの神々、かなりブラックだ……(汗)
ちなみに、マルドゥクに殺されず捕らえられた怪物たちは、マルドゥクに降伏してその下僕になったという。
諸行無常である。
さて、かくしてティアマトの物語は終わりとなる。怪物の母とも呼ばれるティアマトだが、こうして原点に立ち返ってみると、なんら悪いことはしていない。どちらかと言えば、よいおばあちゃんだったと言えるだろう。
しかし子孫にはめられ、謀反を起こしたことにされてしまったため、このような悪のイメージがついてしまったのだと思われる。
ゲームの世界においても、ティアマトは凶悪なドラゴンのイメージが強い存在だが、今後はもう少しやさしい目線で見てあげたいものだ。ティアマトは、本当はめちゃくちゃやさしいおばあちゃんのはずなのだから。
※一部名称に誤りがあったためこれを修正いたしました。(2018年10月12日19時54分)
(×アスプー→○アプスー)
おまけの4コマ
4コマ作:海野なまこ
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文:朱鷺田祐介
【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】
TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『シャドウラン 5th Edition』、『エクリプス・フェイズ』。その他の著書に『クトゥルフ神話ガイドブック』『魔法使いの嫁 公式副読本 Supplement Ⅱ』『超古代文明』『図解巫女』など。毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。
朱鷺田氏翻訳の最新TRPGルールブック『シャドウラン 5th Edition (Role&Roll RPG)』発売中。
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