モンスターたちの{起源/オリジン}第20回:モンスターではないけれどモンスターでもある天使の原型に迫る

2018-10-18 18:00 投稿

TRPGデザイナーにして作家、朱鷺田祐介氏による連載作品集! クトゥルフやファンタジー作品について深い造詣を持つ氏ならではの視点で、ゲーム業界に深く関わる、クトゥルフ神話要素やファンタジー要素を掘り下げて紹介していく。

天使は天からの御使い

モンスターと言うには、はばかられる部分もあるが、天使もまたゲームによく登場する神話伝承上の存在で、困ったことにしばしば敵にもなる。そこでふと考えた。実際のところ、天使とはいったい何なのだろうか?

一般に天使と言われれば、それはキリスト教における天の御使いを指す。これはキリスト教の母体となった、ユダヤ教からの伝統的な存在で、その存在は同じ起源を持つイスラム教にも継承されている。

天使の起源を探ってユダヤ教の聖典である“旧約聖書”を紐解くと、彼らは、マルアフ(御使い)、ブネイ・エロヒーム(神の子)、聖なる存在(クドゥシーム)などと呼ばれ、唯一の神と人の間をつなぐ存在として無数に存在する。英語で天使を表すエンジェルは、このマルアハをギリシア語にしたアンゲルスがもとになっている。

最初は羽がなかった?

天使というと、たいていは、翼の生えた人間型をした清らかな存在というイメージがあるが、それらは中世以降に生み出されたイメージで、創成期に登場する御使いに翼はなく、ふつうの人型の存在として描かれている。

それがハッキリとわかるのが、ソドムとゴモラの話だろう。内容はざっくり割愛してしまうが、こんな感じ。

罪にまみれた都市ソドムが、裁きによって滅ぼされることが決定。預言者アブラハムはその預言を3人の御使いから賜る。それについてふとした疑問が生まれたアブラハムは、神と問答をする。その結果、ソドムは一時的に滅亡から免れることとなる。

このとき現れた御使いというのが、ふつうの人の姿をした存在だったというのだ。また創世記の別の話では、ヘブライ人の族長ヤコブのもとに遣わされた御使いは、完全にふつうの人型であったという。しかも、ヤコブと殴る蹴るの格闘を演じた後、関節を外す技まで見せる。

……どこの格闘家だ?

挙げ句の果てに、その御使いはヤコブの武勇をたたえ、ヤコブの子孫たちはこの戦いを忘れないために、御使いが触れた筋を食べないことを誓ったという。

いや、待て。なんか突然『バキ』(作:板垣恵介、出版:秋田書店)みたいな世界観になったぞ。

明らかに怪物的な外見の智天使ケルビム

一方、名のある天使の中には、異形の姿をしている者も多い。智天使とも呼ばれるケルビムは、4枚、なしは6枚の翼を持ち、その下に人と同じ両腕を持つものの、頭は4つあり、人間のものの他に、獅子、牛、鷲の頭を持ち、その全身に無数の目があるとも言われる。

明らかにモンスターである。それもラストダンジョンや隠しダンジョンで出てくる感じの凶悪そうなヤツ。

またこのほかにも、ユニークな姿形をした天使は存在する。座天使とも呼ばれるソロネもその一角だ。ソロネは、ケルビムとともに描かれることがある、燃える車輪である。

もう一度言う、燃える車輪である。燃える車輪を手にしているとか、燃える車輪に乗っているとかそういう話じゃない。まさしく、その姿は燃える車輪そのものなのである。

これもまた、見た目だけでいえば完全にモンスターだ。っていうか、そういうモンスター見たことある。

ちなみにこのソロネだが、神の移動を助ける役割を果たしており、そのために車輪の形で表わされるのだという。この姿は“エゼキエル書”に登場するもので、その描写は現代人が見たら、ほとんどUFOとしか見えないものとなっているので、気になる人は調べてみるといいだろう。

天使といえども、悪に落ちていく

さて姿形はどうあれ、天使=善というイメージは拭おうにも拭えない結びつきがある。しかし、そんな神の御使いである天使であるが、必ずしもそれが善とは限らなかったという。

シェミハザを筆頭とする天使の一団200人ほどが、神の許可を得ずに地上に降りて、禁断の知識を教えたほか、人間の女性と関係を持ち、ネフェリムという巨人族を生み出したという逸話がそれに当たる。

この結果、大天使ミカエルが出撃して巨人族を滅ぼした後、彼らの悪行を一掃するために、大洪水を起こして地上を一掃したのだ。このときの大洪水は、ノアの大洪水と言われる。そう、あのノアの方舟で有名なストーリーの裏側には、スケベな天使の存在があったのである。

あまり知りたくなかったな……。

愛らしいキューピッドはエロス

現代の価値観に照らし合わせてみれば、モンスターとしか思えない姿を持ち、また悪に堕ちることもあった天使たち。やはり昔の人間たちもその点に関して思うところがあったのだろう。中世以降、天使たちの姿は、清らかで中性的な人型に羽がついた姿へと変更されていく。

皆が思い描く天使像というのは、この時代に生まれたものなのだ。

そんな描写の中でも、とくに印象深い存在は、少年というか幼児型の天使だろう。これは、幼児や少年少女を清らかな存在と見る文化から始まった、いわゆるキューピッド型の天使である。キューピッドとは、言わずもがな、弓矢を手にした天使で、その矢に射抜かれたものは恋に落ちるという、あのキューピッドだ。

ちなみにこのキューピッドにも、ほかの神々や御使いたちと同様に、ベースとなった存在がある。ギリシア神話のエロス神である。

エロス神は、もともとはガイアなどと同じ原初の神で、その姿も青年であった。しかしいつの時代からか、戦の神アレスと美の女神アフロディーテの子供とされ、羽を持つ少年に変わったのだ。

なお、キューピッドの恋の矢システムも、エロス神の名残を受けたもの。エロス神は、当たった者を恋に落ちさせる金の矢と、当たった者が恋を拒絶するようになるという鉛の矢をいたずらに打っていたというのだ。

……清らかさを目指した結果、古代のエロスにたどり着いてしまうのは、なかなかに皮肉な話である。

おまけの4コマ

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4コマ作:海野なまこ

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文:朱鷺田祐介

【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】

TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『シャドウラン 5th Edition』、『エクリプス・フェイズ』。その他の著書に『クトゥルフ神話ガイドブック』『魔法使いの嫁 公式副読本 Supplement Ⅱ』『超古代文明』『図解巫女』など。毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。

書影

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