モンスターたちの{起源/オリジン}第13回:ケンタウロスは野蛮でスケベな問題児!?

2018-08-23 20:15 投稿

TRPGデザイナーにして作家、朱鷺田祐介氏による連載作品集! クトゥルフやファンタジー作品について深い造詣を持つ氏ならではの視点で、ゲーム業界に深く関わる、クトゥルフ神話要素やファンタジー要素を掘り下げて紹介していく。

半馬人ケンタウロスは雲から生まれた?

今回のテーマはケンタウロス。半分馬で、半分人間の種族ケンタウロスはギリシア神話でもおなじみのモンスター種族だ。どれくらいなじみのある存在かというと、射手座、ケンタウロス座という星座にもなっているほどである。

ちなみに、最近日本でも使われるようになったケンタウロスの別の読みかた“セントール”は英語読みのセントーアから来たものである。

さて、ケンタウロスは馬の首の部分に人間の男性の上半身がついた生き物であるが、いったい、なんでこんな生き物が生まれたのだろうか? 結論から述べてしまうと、それはケンタウロスの祖先であるラピテース族の王子イクシオーンのせいである。

イクシオーンは軍神アレスの血筋を引く者であったのだが、花嫁の父を火のついた掘に投げ込んで殺すという暴挙を働いてしまう。神々はこの許しがたい行為を働いたイクシオーンを責めたが、ゼウス神のもとに逃げ込んだイクシオーンはゼウスみずからの手によって罪を清めてもらい、事なきを得た。

が、その後神々の宴席に参加したイクシオーンは、ゼウスの妻である女神ヘラに一目惚れしてしまう。イクシオーンは、ゼウスがヘラを裏切って何度も浮気していたことを知っていたので、これを利用すれば思いを遂げられるに違いないと考えた。

浮気者には浮気でOK! クズとクズのコラボがここに爆誕!

しかし、イクシオーンのそういった下卑た考えはゼウスにはバレバレだったようだ。ゼウスは雲でヘラの姿を作り、酒に酔ったイクシオーンはこの雲を抱いた。その最中をゼウスに目撃されたイクシオーンは、罰として地獄の底にあるタルタロスに送られ、燃える車輪にくくりつけられ、無限に焼かれることになったのだ。

このとき女神ヘラの姿をした雲はネペレーと呼ばれ、ここから生まれたのが、今回の主人公であるケンタウロスである。誕生話めちゃくちゃだな!

ともあれ、イクシオーンのこの好色家の一面が遺伝したのだろう。このとき生まれたケンタウロスは、多くの雌馬と交わり、ケンタウロス族の祖先となったのだ。

ちなみに、残念なことにケンタウロス族は基本的に、男性しかいないとされている。まぁそんな乾いた環境だったら、好色家になってもしょうがないと思えなくもないが……。

昨今のアニメやマンガ作品で女性のケンタウロスが描かれるようになったのは、その後の彫刻家や画家たちの手によって、それが描かれるようになったからであり、神話には女性のケンタウロスというのは一切登場していない。

悪役軍団ケンタウロス

ギリシア神話で、ケンタウロス族は酒好きで女好きの野蛮人という悪役の扱いをされることが多い。

色好きというのは、先述の通り遺伝が影響しているものと思われるが、しかしそれだけで悪役、それも野蛮人という扱いになるのはいささか腑に落ちない部分がある。

だって、『ハリー・ポッター』ではケンタウロスは森の賢人のような扱いだったし。

だが、これにもしっかり理由がある。

神話の中にこんな話があるのだ。「ケンタウロスが女性を襲って、無理矢理に行為を働こうとする事件が頻発しているので、これを退治しましょう」と。

たとえば、熊に育てられた美貌の女狩人アタランテは、自分を犯そうとするケンタウロス族のロイコスとヒュライオスを返り討ちにしたことで名を上げる。またヘラクレスの最後の冒険では、ケンタウロス族のネッソスが妻を奪って逃げようとしたので、ヘラクレスはこれをヒュドラの毒矢で射殺している。

弁護の余地が見当たらない!

話はそれだけではない。ラピテース族との戦いでは、ケンタウロス族のその野蛮っぷりが凄まじい大騒ぎに発展している。

イクシオーンの出自であるラピテース族とケンタウロス族は、まぁ歪んだ誕生背景がありながらも親戚ということで、しばらく付き合いがあったのだが……。

そこはさすが止まらぬ性欲を持ったケンタウロス族。ケンタウロス族のエリュテイオーンが、ラピテース族のペイトリオス王の結婚の宴会に招かれた際、酔っ払って興奮したエリュテイオーンは花嫁を強奪しようとする。

それだけならばまだ先述のストーリーと大差ないが、このときエリュテイオーンは花嫁のみならず、参列者の女性たちを襲い、さらには男の尻すら狙ったとも言われているのだ。

……見境なし! そりゃ大騒ぎにもなるわな。

ケンタウロスは古代ギリシアのカウボーイ?

おっと、話がズレてしまったので戻しておくとしよう。どうしてケンタウロスはどうして、あんな姿なのか?

これには、ギリシア人が馬を使う前に遭遇した、東方の騎馬民族スキタイをモデルにしたという説もあるが、近年で有力な説は、テッサリア地方の牛飼いがモデルだというものだ。そもそも、ケンタウロスという言葉の後半タウロスは、ギリシア語で“牡牛”という意味である。

ん? 牛? 半分馬なのに、牡牛?

そう、ギリシアで馬を指すのはヒッポ、牡牛を表すのがタウロスである。そういえば、迷宮に住む牛頭の怪物ミノタウロスはミノスの牡牛という意味だ。

では、ケンタウロスとはどのような意味かというと、“駆け回って牡牛を集める者”という意味になるという。どうやら、テッサリアの牛飼いたちは、西部のカウボーイのように馬に乗って牛を世話していたらしい。紀元前のカウボーイとはカッコいい!

つまりは、それがケンタウロスのモデルになったという説である。しかしカウボーイがそうであったように、当時のテッサリア地方の牛飼いもそうだったのだろう。気性が荒く、好色で酒を飲んで暴れる点も参考にされ、粗暴で好色なケンタウロスという怪物が生まれたという。

英雄たちの師匠ケイローン

ここまで読んで、あれ?と思った人も多いだろう。

ゲームやアニメに登場するケンタウロスと言えば、弓矢の達人で、非常に賢くて、英雄たちの師匠となり、死後は天に上げられて星座になる、というのがふつうである。ここまで説明してきたような、女好き、酒好きで粗暴なケンタウロスのイメージとはまったく反対の存在だ。

それは、ケンタウロスの英雄ケイローンのおかげなのだ。

そもそも、ケイローンはケンタウロスではあるが、イクシオーンの子孫ではない。クロノス神が、大洋の神オケアヌスの娘ピュリラーとのあいだに作った子どもである。このとき、クロノスは妻のレアの目をごまかすために、馬の姿に変身していたため、ケイローンも半人半馬の姿となったのだ。

ピュリラーはその姿を見て悲しみ、ゼウスに願ってその姿を菩提樹に変えてもらったという。ケイローンはその後、神々によって育てられた。太陽神アポローンから医学や音楽、予言を学び、狩猟の女神アルテミスから弓術を学んだのだ。

またアルテミスは兄に、同じく弓の名手であるアポローンがいる。この弓使いの兄妹に育てられたケイローンが弓の達人となったのは当然と言えるだろう。

幼少期をそうして過ごしたケイローンは、成人してからは山にこもり、薬学の研究をした。もともと神の子であるケイローンは、これによって賢人として知られるようになり、その後、英雄ヘラクレスやカストールに武術を教え、名医アスクレピオスに医学を教えた。アキレスを教育したのもケイローンであり、後にアルゴ探検隊を率いるイアソンを育てたのも彼である。

確実に賢人、英雄としての実績を重ねたケイローンは、神の子であるため不死であったのだが、とある事件で最期のときを迎えてしまう。ヘラクレスとケンタウロス族の戦争に巻き込まれてしまったのだ。

戦争の中でケイローンは、かつてみずからが武術を教えた、ヘラクレスの毒矢を膝に受けてしまう……。

数年前『The Elder Scrolls: Skyrim』のセリフネタとして話題になった「昔、膝に矢を受けてしまってな……」というセリフのもとはこれか!

ともあれ、不死身であるケイローンにとってこれが直接の死因にはならなかった。が、その傷は深く、延々と続く激痛に晒されたため、ケイローンはゼウスに願って不死の力を手放し、その命に終止符を打ったのだ。その後、ゼウスは彼の才能を惜しみ、ケイローンを天に上げ、射手座を作ったという。

かくしてケンタウロスは賢人、英雄というイメージが定着したわけだが、いっそ好色、野蛮でイメージが定着してもおもしろかったかもしれない。そうしたら、きっといまとは違った形でケンタウロスはゲームに登場していたことだろう。

おまけの4コマ

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(C) 海野なまこ All Rights Reserved.

4コマ作:海野なまこ

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文:朱鷺田祐介

【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】

TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『エクリプス・フェイズ』、『シャドウラン20th AnniversaryEdition』。2004年『クトゥルフ神話ガイドブック』より『クトゥルフ神話』の紹介を始め、『クトゥルフ神話超入門』などを担当し、ここ数年は毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。

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