モンスターたちの{起源/オリジン}第11回:設定盛りすぎモンスター“マンドラゴラ”は茄子だった!?

2018-08-09 18:00 投稿

TRPGデザイナーにして作家、朱鷺田祐介氏による連載作品集! クトゥルフやファンタジー作品について深い造詣を持つ氏ならではの視点で、ゲーム業界に深く関わる、クトゥルフ神話要素やファンタジー要素を掘り下げて紹介していく。

マンドラゴラって、どんな植物?

植物系モンスターの有名どころ、マンドラゴラ。その姿は、根っこの部分が人間の形をしている、根菜類のようなモンスターだ。今回はそんなマンドラゴラの起源を遡ってみよう。

まずマンドラゴラで有名な話と言えば、引っこ抜くと恐ろしい叫びを上げ、聞いた者は死んでしまうという伝説である。

これについて、「引っこ抜くと死んじゃうのに、なんでその姿がわかってるの?」という疑問を浮かべる人もいるだろうが、じつはちゃーんと手に入れる方法というのは確立(?)されているのである。

その方法というのは、犬を犠牲にするという方法。

具体的には、犬とマンドラゴラを結びつけ、少し離れたところから犬を呼ぶ。すると犬が走り出してマンドラゴラが抜けるという方法らしい。根っこが叫びを上げて犬は死んでしまうが、貴重なマンドラゴラは手に入るということのようだが……犬にとっては迷惑千万な話である。

ともあれ、昔の人、ファンタジー世界の人たちはそうまでしてでも、マンドラゴラを手に入れたかったようである。というのも、マンドラゴラという植物は、万病に効く霊薬なのだという。

マンドラゴラは、地面に埋まった人型の根に、冥界の女王ヘカテー由来の悪霊の力を持っており、あらゆる病魔を追い払うというのだ。

万病に効く霊薬であり、冥界の女王ヘカテー由来の悪魔の力を持ち、その叫び声は人を殺す。もう初期設定から完全にモンスター。起源も由来もクソもないな、これ。

夜に光るマンドラゴラ

もはや辿るべきモンスターとしての起源もなくなってしまったようなので、ここからはマンドラゴラについての豆知識やらをまとめていく。

冒頭ではマンドラゴラを手に入れる方法をまとめたが、その前にまずマンドラゴラの見つけかたを記したほうがよかったかもしれない。

異世界転生した際に、見つけかたを知っているのと知らないのとでは活躍に幅が生まれてしまうだろうから。

さて古文書によれば、マンドラゴラを探すのは難しくないそうだ。なぜならば、マンドラゴラは夜になると光るので、探すのは難しくないのだという。

それでも、毒性が強く直接触ると死んでしまうので、マンドラゴラを採取するのは、命がけである。また、地獄の女神ヘカテーが黒い犬を連れているという伝説から、その魔力を賜っているマンドラゴラを抜くには、犬、とくに黒い犬を使うのがよいとなったそうな。

よし、これでいつ異世界転生して「マンドラゴラを手に入れてこい!」となっても大丈夫だな。

絞首台の下に生える悪魔の草

マンドラゴラのもうひとつの伝説として有名なのが、絞首台の下に生えるというものだ。

……なんだよ、わざわざ夜中に森に行って、光る植物を探し回る必要なんてないんじゃん。

ともあれ、ヨーロッパの伝説によれば、男が犯罪者として絞首刑にされ、地面に精液や尿が垂れると、そこにマンドラゴラが生えると言われているようだ。

この伝説は、錬金術との関係で生まれたもの。マンドラゴラの人間に似た地下茎は、自然が生み出したホムンクルスであるということのようだ。

フランスの幻想小説には、ある不幸な過去を持つ隠遁した王妃が、マンドラゴラを大事に育てたところ、だんだん人の顔のようなものを持つようになり、ある晩それがベッドの中にまで入ってきたので、不気味に思って河に投げ捨てたという話が残っている。

なんかもう無茶苦茶だな! まず大事に育てている王妃にドン引きである。そしてベッドの中まで入ってくるマンドラゴラにもドン引き。極めつけは、それを掴んで河にぶん投げるという、王妃のたくましさたるや。

いやまぁ、マンドラゴラというのは、錬金術における人造人間“ホムンクルス”が自然発生したものという話から、こういった幻想小説が生まれたのだと思うが、いかんせん王妃がパワフルすぎて……。

マンドラゴラは実在する!用途は毒薬?それとも媚薬?

自然発生型ホムンクルスであっても、冥界の女王ヘカテー由来の魔力を持つ植物であっても、マンドラゴラは変わらず怪物である。

さてそんな怪物扱いされるマンドラゴラだが……なんと実在する植物である。そう、この地球にしっかり存在しているのだ。

自生地域は、地中海沿岸からアジア、中国にかけて。正式にはマンドレイクといい、ナス科マンドラゴラ属に所属している。

その形状からニンジンかダイコンの親戚かと思っていたが、まさかのナス科。ちなみにニンジンはセリ科、ダイコンはアブラナ科である。……いや、ナスではないだろう。だって、どう見たって根菜じゃん! しかし、私がどう思おうとも、こいつがナス科であることは揺るがないようだ。残念。

ちなみに、マンドラゴラ属は日本語でコイナス属というらしい。

もっとも古く、マンドラゴラが登場するのは、なんと旧約聖書の創世記と雅歌の章で、その際には、ヘブライ語で“ドゥーダ・イム”と書かれ、日本語では“恋なす”または“恋なすび”と訳されている。そのため、日本語の属名がコイナスなのである。

マジ?

現在は、毒薬系モンスターとして知られるマンドラゴラであるが、古代の世界では、主に、媚薬として珍重されており、『創世記』でも、恋を成就するために、マンドラゴラを用いたというのだ。

マンドラゴラという言葉も、ペルシア語で“愛の薬草”という意味。ギリシアでは“愛の林檎”、ドイツでも“魅惑の果実”と訳すことができる。

……マジで?

耳を疑いたくなるような事実だが、事実、マンドラゴラことマンドレイクは薬草であるという。

調べたところによると、根の部分にアルカロイド系の成分があり、麻痺効果があるので、麻酔、鎮痛剤として用いられるほか、下剤としても効果があるそうだ。

ただ、アルカロイド系の成分は神経毒の1種であり、毒性が強く、摂取すると、幻覚、幻聴、嘔吐、瞳孔拡大などを引き起こし、場合によっては死に至る。そのため、古代より薬草として珍重されてはいたが、同時に、強力な毒性があるため、錬金術や呪術の素材としても珍重されていたという。

あれ? 媚薬でもなんでもなくない? むしろなんか、盛ってヤバイ状態に陥らせて……みたいなものに聞こえてくるけど……。

マンドラゴラは走る……らしい

さて、冒頭でマンドラゴラも起源もクソもねぇと語ったが、ごめんなさい。起源はありました。ただ、マンドラゴラが怪物になった理由はその毒性のためではない。

なんと、伝説によると熟成したマンドラゴラは、地面から這い出してきて、暴れまわるそうなのだ。なるほど、それでモンスターとなったのか。

冥界の女王由来の魔力を持ち、叫び声は生き物を殺し、毒を持ち、薬にもなり、成熟すると勝手に地面から這い出してきて暴れまわる。設定盛り過ぎじゃない?

それに、そのうち勝手に這い出してくるのなら、わざわざ犬を犠牲にして引っこ抜かなくとも、待てばいいだけなのでは……? と思ったが、それはダメらしい。どうやら、成熟するころには、薬効成分も弱まり、ただの雑魚モンスターに成り下がっているというのだという。

んー、やっぱりちょっと設定盛りすぎじゃない……?

おまけの4コマ

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4コマ作:海野なまこ

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文:朱鷺田祐介

【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】

TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『エクリプス・フェイズ』、『シャドウラン20th AnniversaryEdition』。2004年『クトゥルフ神話ガイドブック』より『クトゥルフ神話』の紹介を始め、『クトゥルフ神話超入門』などを担当し、ここ数年は毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。

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