モンスターたちの{起源/オリジン}第10回:魔女は豚に乗って空を飛ぶ
2018-08-02 18:00 投稿
魔女(ウィッチ)は賢い人?
魔女。それは強力な魔法の術者であり、また場合によっては智者として描かれることもある存在。
モンスターという括りでいいのかちょっと難しいところだが、魔女という存在はファンタジー世界をベースにしたRPGでは定番の存在と言えるだろう。今回はその魔女という存在の足取りを辿っていってみよう。
さて、さっそくだが語源からその起源を辿っていくことにしよう。
魔女を表す“ウィッチ(Witch)”という言葉は、もともと“賢い(Wize)”に近い言葉だという。なるほどたしかにこれには納得出来る部分がある。なんとなく似てるっていうか、頭2文字が同じだし。そしてこのWitchとは、もともと薬草治療をしたり、産婆を努めたりする、村の知恵袋的なおばあさんを指す言葉だったそうだ。
また同様に、魔法使いを表す“ウィザード(Wizard)”も“賢い(Wize)”を語源にしているという。
彼女(彼)らはキリスト教が広がる以前にヨーロッパで信じられていた、ゲルマンケルト系の神話や、樹木信仰、ドルイド教などの知恵を受け継ぎ、その土地土地の民間医療者としての役目を担っていたのである。
そう、いまでこそ悪のイメージが強い魔女、魔法使いという存在は、もともとはその地域の知識人であり、また同時に薬師、医師であったのである。ずばり、これが起源。あっさり!
なんともあっさり結論に行き着いてしまった。ので、ちょっとここからは魔女という存在を深掘りしていくことにしよう。
サバトはエロかわいい健全なお祭りです!
さて魔女といえば淫靡な集会として知名度を得ている“サバト(夜宴)”を連想する人も多いことだろう。何やら暗い場所で呪術的なことをしつつ男女が乱れるイメージや、何やら残虐な儀式が行われるイメージを持つこのサバトだが、それは中世のキリスト教がケチくさくて、エロにやたら厳しい宗教だったからに過ぎない。
中世のキリスト教というのは、性交渉は罪悪、女性は罪悪、少しでもエロを想像させることは罪悪とし、少しでも肌が見えたら、悪魔だ、魔女だと言い、対象を迫害していたのである。その割には「愛して、子を生み、地に満ちよ」とか矛盾することも言っているのだが……。
この矛盾は、どこぞの国で起きている状況に似ていないでもない気がする。
本来人間はエッチぃものであり、古来のお祭りでは、その年の豊穣を祈るために性的な動作をしたり、若者たちが山野で愛を語り合ったりしていた。そこで生まれる子供たちの世話も、年上の女性たちが経験則で世話をしていた。
魔女たちの集会も、もともとは、ゲルマンケルト圏ではギリシア神話の狩猟の女神ディアナやその眷属(狼や熊)を森の女神として信仰の対象としており、ただそれを祀っていたもの。ただ、エロOKな宗教に過ぎなかっただけなのだ。
また同じように、ギリシア・ローマ文化圏では山羊の下半身と角を持つパンという半獣人の半神を、ケルト文化圏では、角を持つ森の神ケルヌンノス(角を持つ男)を信仰の対象としていた。
しかし唯一の神以外を認めないキリスト教が浸透を始めていた当時、これらの存在はまさしく邪教であり、悪魔崇拝として取られてしまった。
その結果、サバトは邪教徒の祭りとして捉えられ、彼女らが信仰していた対象は邪神・悪魔として語られるようになってしまったのである。キリスト教における悪魔が、山羊の下半身と頭を持つ男として描かれるのも、こういった理由のためだろう。
狼男の回でもキリスト教の影響力を語ったが、こうして見ると現在モンスターや悪の存在として語られるものたちは、キリスト教の影響を受けてそうなったというものが多いようだ。
魔女とホウキと豚と棒
さて、魔女(ウィッチ)と言えば、そのまま魔法を使う女性というイメージだが、このイメージとはまた別にアイコニックな部分がある。それは、ホウキに乗って飛ぶイメージだ。スタジオジブリ映画でも有名な『魔女の宅急便』のキキもそうだった。女性ではないが、ハリー・ポッターもホウキで空を飛んでいる。
魔女に関する歴史を調べてみても、房の部分を後ろにした状態でホウキの柄の部分にまたがり、空を飛んでいる絵図が簡単に出てくる。それくらい、魔女=ホウキに乗って空を飛ぶというイメージは一般的なのだ。
では、この魔女=ホウキで空を飛ぶというイメージはどこから来たのだろうか?
これは、魔女はあくまでも一般家庭にいる主婦の振りをしながら、サバトの晩、ホウキに乗って飛んでいくというところから出たイメージらしい。(まぁ実際には諸説あるのだが、気になる人は調べてみるといいだろう)
が、調べてみると、魔女が飛行に使うのは、ホウキだけではなかったようだ。
まず、ホウキでの飛行術は、魔王サタンや悪魔から授かったものであり、その媒介物としては、ホウキの柄の他に、熊手やシャベルが使えるという。どうやら、長い柄があればいいらしい。
と思ったが、さらに調べてみると、山羊や雌牛、馬や狼などに乗って飛んだ例もあり、豚にまたがった魔女が飛んでいくという話すらある。ここで登場する狼や山羊は、悪魔が変身したものであるようだ。
ちなみに豚は聖書の時代から、悪魔の影響を受けやすいおろかな獣とされており、そこから豚に乗るという発想が出たようだ。
つまり、魔女が空を飛ぶには、何もホウキが絶対に必要というわけではなく、悪魔の力を媒介できる柄の長いものか、もしくは悪魔の影響を受けやすく、跨がれる動物ならなんでもいいわけだ。
いまの時代だったら、ちょっと長めの自撮り棒なんかでもギリギリ飛べそうだな。自撮り棒で空を飛びつつ自撮りし、魔法の力で写真修正をしてSNSに投稿する魔女。すごく現代っぽいけど、なんかこうモヤッとする……。
現代にも魔女はいる
さて、冗談めかして現代の魔女について語ったが、じつは現代にも魔女は存在している。大丈夫、変な薬をやっているとか、そういうことはない。いたって真面目な話だ。
魔女裁判が盛んになった中世ヨーロッパでは、ただ昔からの知恵を伝えていただけの女性たちを魔女として処刑した。『魔女に対する鉄槌』という本で「女性が悪魔と性交して魔女になるのは見逃すことは出来ない」と記されていたことからも、魔女狩り、魔女裁判が苛烈だったことが推測できる。
こうした惨烈な歴史を持っている魔女だが、彼女らはすべて処刑により滅ぼされてしまったのだろうか? いや、そんなことはない。
魔女裁判に関する法律が18世紀になって廃止されると、魔女を名乗る魔術結社が誕生し、近代魔術の一派として、過去の魔女たちが使っていた古代の信仰を復活させたのである。彼女らはみずからを魔女と呼ぶが、ウィッチではなく、ウィッカンと名乗ることが多い。
空を飛べるかどうかは分からないが、魔女の伝統を受け継ぐ人々は現代にも存在するのである。
おまけの4コマ
4コマ作:海野なまこ
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文:朱鷺田祐介
【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】
TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『エクリプス・フェイズ』、『シャドウラン20th AnniversaryEdition』。2004年『クトゥルフ神話ガイドブック』より『クトゥルフ神話』の紹介を始め、『クトゥルフ神話超入門』などを担当し、ここ数年は毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。
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