1. サイトTOP>
  2. モンスターたちの{起源/オリジン}第4.5回:へラクレスの対戦相手はだいたいでかい

モンスターたちの{起源/オリジン}第4.5回:へラクレスの対戦相手はだいたいでかい

2018-06-21 18:00 投稿

TRPGデザイナーにして作家、朱鷺田祐介氏による連載作品集! クトゥルフやファンタジー作品について深い造詣を持つ氏ならではの視点で、ゲーム業界に深く関わる、クトゥルフ神話要素やファンタジー要素を掘り下げて紹介していく。

デカブツキラー・ヘラクレス

モンスターってのはだいたいデカい。そりゃそうだ、デカさというのは強さを手っ取り早く表す、ひとつのシンボルなのだから。

私たちゲーム愛好者は、ゲーム世界の中でそうしたデカいモンスターをバッタバッタと倒して世界を守り、英雄となっていくわけだが、今回はその先人(?)たるデカブツキラー“ヘラクレス”の話をしていこう。

言うなれば、今回は“モンスターとして、デカさによる強さアピールをするものたちと、それに対抗するものたち”の起源の話となる。

モンスターの起源とは少し離れてしまうが、まぁちょっとした寄り道のような感覚で読んでもらえると幸いだ。

ヘラクレスの対戦相手はだいたいデカい

さて早速だが、ヘラクレスがいかほどのデカブツキラーかというと、戦った相手ほとんどの名前に“大きな”、“巨大な”という冠詞が付く。もう、むしろデカいやつしか相手にしていないレベルである。

ヘラクレスの有名な逸話の中に、10の難行というものがある。これは、ゼウスの浮気によって生まれたヘラクレスがヘラに呪いをかけられ暴走したことに始まる物語。暴走して自身の妻子を殺してしまったヘラクレスは、その罪滅ぼしをするために、10の難行を課せられるというものである。

うーむ……。ヘラの嫉妬がゼウスに行かずにヘラクレスに行き、ただ生まれてきただけのヘラクレスが呪いをかけられて妻子をみずから手をかけ、その罪滅ぼしを強制させられる……?

なんだこの泥沼! ともあれ、この意味不明な愛憎相関に飲まれたヘラクレスは、10の難行、実際にはふたつほどルール違反をしたので12の難行になったらしいが、とにかくこれをこなすため、デカいモンスターたちと戦うことになる。

デカいライオン、ヒュドラ(+大蟹)、大猪、巨大な人食い鳥、デカくて素早い鹿、巨大な牡牛、人食い牝馬の群れ、怪物ゲリュオーンと双頭の番犬オルトロス、100の頭を持つ守り手の龍ラドン、地獄の番犬ケルベロス

これらが、ヘラクレスが10の難行で相手取ったものたちとなるのだが……。まぁ、その名前からデカさは直接伝わってくる。デカい獅子、デカい蛇、デカい蟹、デカい牛、デカい鹿、デカい犬である。

こうして前振りのために改めてヘラクレスの戦った相手を見てみたが、やはりこう表現するのは間違いではないと、自信を持って言える。「ヘラクレスが戦ったやつは、だいたいでかい」。

ヘラクレスは対巨人決戦兵器!?

しかしいくらなんでも、このデカいものシリーズはちょっと節操がないように思える。が、それにはちゃんとした理由があるのだ。

ただただ「デカいものは強い! だから、ヘラクレスの強さをアピールするために、みんなデカくしちゃったZE☆」なんていう、アホっぽい理由からではない。

なんと、ヘラクレスはそもそも対巨人決戦兵器として生み出された、最強の英雄なのだ。つまり、正真正銘デカいもの討伐の専門家(スペシャリスト)なのである。

というのも、神々の王たるゼウスは、ギリシア神話の神々としては第3世代に当たる存在なのだが、彼らはタイタン12神という第2世代の神々との激闘に勝利し、その座に就いた経歴がある。

このとき、ゼウスらは単眼巨人のキュクロプス(サイクロプス)と百腕の巨人ヘカトンケイルの力を借りて勝利を収め、タイタンらを地底の暗黒世界タルタロスに封印したのだが、この事実を知った第1世代の女神ガイアが激怒し、ガイアは並外れた怪力を持つ巨人・ギガンテスを生み出し、ゼウスらに喧嘩をふっかけてきたのだ。

ゼウスらの戦力であるデカブツたちに対抗するため、ガイアもデカブツを持ち出したと、こういうわけだ。戦隊ものの敵が巨大化したら、こちらも巨大化or巨大ロボを呼び出して倒すという、あの手法は神話時代から続いていたことが確認できる。

ただ、このギガンテスは思いの外強く、オーバーパワーとも思える力を発揮する。なんと、神々の力を持ってしても、ギガンテスを殺すことが出来なかったのだ。

これでゼウスは大ピンチ! となったところに、我らが英雄ヘラクレスが登場する。ゼウスの策略によって英雄として生を受けたヘラクレスは、思惑通り最強の戦士へと育ち、神々ですら討つことができなかったギガンテスを、多数弓矢で射殺すことに成功したのだ。

すごい、すごいぞヘラクレス! それでこそデカブツキラーだ!!

戦隊ものの花形である巨大合体ロボでも歯が立たなかったところに、博士が新たなマシンを投入して、それが大活躍する的な盛り上がりを感じる!

こうしてヘラクレスはデカブツキラーとしての第一歩を踏み出し、世界に平和をもたらした。しかし冒頭でも語った通り、ゼウスの浮気によって生まれたヘラクレスは、その後ヘラから呪いを受けて暴走し、妻子を虐殺することになってしまう……。

神々のために産み落とされて神々のために戦ったのに、とばっちりに近い嫉妬による呪いで妻子をみずから手にかけ、その罰すらも被ることになってしまうとは……。ふつうだったら、グレてアウトローへの道に行ってもおかしくないエピソードである。

しかしそれでも曲がらず英雄たらんとしたヘラクレスは、やはり根っからの英雄なのだろう。どんな苦難が立ちはだかろうと、デカいモンスターたちが迫ってこようとそれを討ち倒す。

もしかしたら、ヘラクレスはRPG主人公の起源という存在になるのかも……?

ちょっと掘り下げ:ヘラクレスの本当の存在意義は……?

話は一端終わったが、今回はここでヘラクレスの存在意義について掘り下げ、ちょっとした考察を披露してみよう。

さて、これまでの話を見ると、ヘラクレスはヘラという稀代の悪女によって翻弄された英雄にも見えてくるが、じつのところはちょっと違う。

この謎を紐解くには、我々が知る一般的なギリシア神話の、さらに古い部分に触れなければならない。

もともとヘラという女神は、地中海一帯で信仰されていた天空の女神。牛や獅子、蛇や鳥といった聖獣を従え、ギリシア全域で進行されていた存在だった。そして、いまではヒゲを生やして偉そうにしているゼウスは、若かりしころは優れた姉に従う出来の悪い弟か、女主人に使える若い愛人のように描かれていた。

その後、ギリシアは国家繁栄に伴い男女の地位が逆転。この逆転した文化風土と信仰とに矛盾をはらませないため、信仰対象であるゼウスとヘラの関係性も逆転し、ゼウスはふんぞり返って奔放の限りを行いはじめたのだ。

そうしてヘラは、その奔放の一端から生まれヘラクレスに呪いと難行を課したのだが……。その難行に登場する牛や獅子、蛇や鳥というのは、かつてヘラが頂点に立っていた時代、彼女の聖獣として活躍をしていたものたち。

こうした背景を考えると、ちょっとおもしろい仮説が見えてくる。ゼウスは、ヘラの聖獣たちを殺すためにヘラクレスを生み出したという可能性である。

立場が逆転し、居丈高と振る舞うようになったゼウスであるが、かつて自身より上位の存在ヘラの存在が怖かったのだろう。なにせ彼女の周りには牛や獅子、蛇や鳥といった強大な聖獣たちが控えている。

そう、ヘラクレスとはもともと、これらヘラの聖獣を殺すためだけに作られた存在であり、対巨人用決戦兵器という姿は、あくまでも表向きの姿であったと考えられるのだ。

そしてヘラもそれに気付いたため、ヘラクレスに呪いをかけ、自身の聖獣たちをヘラクレスにけしかけた。そう考えるとすべての辻褄が合ってくる。

ややこしくなってしまったので、戦隊モノで考えてみよう。

ゼウス博士が生み出した最強の決戦兵器ヘラクレスは、悪の軍団が生み出したギガンテスを討伐するために作られた。しかしその決戦兵器という姿は表向きの姿。本当の姿は、ゼウス博士の師匠にあたるヘラ博士の最高傑作・聖獣たちを屠り、ゼウス博士が世界を牛耳るための兵器だったのである!

な、なんとゼウス博士は世界平和を目指すふりをして、世界征服を狙っていたのだった!!

的な感じだろうか。ともあれ、ちょっと話を深掘りし、視点をちょっと変えるだけでこういった考察をすることができる。起源を辿る旅はおもしろいね!

おまけの4コマ

m04-5

(C) 海野なまこ All Rights Reserved.

4コマ作:海野なまこ

前へ次へ

文:朱鷺田祐介

【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】

TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『エクリプス・フェイズ』、『シャドウラン20th AnniversaryEdition』。2004年『クトゥルフ神話ガイドブック』より『クトゥルフ神話』の紹介を始め、『クトゥルフ神話超入門』などを担当し、ここ数年は毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。

 書影

ピックアップ 一覧を見る

最新記事

この記事と同じカテゴリの最新記事一覧