モンスターたちの{起源/オリジン}第4回:ベヒモスとバハムートはいっしょ?

2018-06-14 18:00 投稿

TRPGデザイナーにして作家、朱鷺田祐介氏による連載作品集! クトゥルフやファンタジー作品について深い造詣を持つ氏ならではの視点で、ゲーム業界に深く関わる、クトゥルフ神話要素やファンタジー要素を掘り下げて紹介していく。

苦労人・ベヒモスとエリート・リヴァイアサン

今回は、デカいモンスターたちの裏話に触れてみよう!

とくに今回扱うのは、強く、そしてデカいモンスターの代表格となることもある、巨獣・ベヒモス(ベヒーモス)と、巨大な龍(ドラゴン)として登場することの多いバハムートだ。

両者ともに『ファイナルファンタジー』シリーズに登場し、その強さとサイズとカッコよさで、プレイヤーに凄まじいインパクトを与える存在だが、じつはこのふたつの存在、起源が同じとされていることはご存知だろうか?

そう、今回は“ベヒモス=バハムート?”という話である。

もとはただのデカいカバ、ベヒモス

ベヒモス(Behemoth)とは、『旧約聖書』に出てくる河馬(カバ)のような巨獣のことである。まずこの時点で「カバなのかよ!」とツッコミたくなる人もいるだろうが、とりあえず落ち着いて続きを聞いてほしい。

ちなみにこの『旧約聖書』に出てくるベヒモスがどれほどのデカさを誇るのかというのは、ベヒモスの語源を辿るとわかってくる。

ベヒモスの語源は、ヘブライ語の“動物(Behamath)”の複数形。つまり「たった1匹なのに獣が大量にいるのと同等に扱えるくらい、ザ・デカい獣!」ということのようだ。あれ、いまいちわからないかも? ともあれ、とにかく1匹単位ではその大きさを伝えられないというほど、大きな存在ということだ。

この時点でもうすでにネタが満載のベヒモスだが、そもそも『旧約聖書』で登場するのも、話のネタでしかない。

この話の始まりは「熱心な信徒である、ヨブの信仰を試そう」とサタンにそそのかされた神が、ヨブの怒りに対応して顕現するところから始まる。その後、神は自分が行った世界創造という偉業がどれほどスゴイことなのかをヨブに語り聞かせるのだが、その1例として挙げられたのが、カバである……。

その内容が、骨が太いとか腰がごついとか、川や湿地で寝ているとか。念の為言っておくと、特定の宗教や宗派を否定するつもりはない。しかし、これでは神のスゴさは私には伝わってこなかった。

だって……ただデカいだけのカバの紹介だし。

それでもカバは、神様的には自信作だったらしく、神の創造した第一の存在で、多くの動物がこれを慕い、牛のように草を食い、ヨルダン川の水がその口にかかっても慌てることがないと、そのスゴさと特徴をこれでもかと語っている。が、やはりそれらはまさしく、ただのカバの特徴である。自慢のポイントが自慢になっていない気がしてならない……。

その後ユダヤ教の説話の中で、これがカバからベヒモスという獣になり、同じく『旧約聖書』のヨブ記に登場する巨大魚レヴィアタンとセットになって“黙示録の獣”として、巨獣としての大躍進を遂げることになる。

そこからの出世具合は凄まじく、中世ヨーロッパではサタンの化身とみなされ、テンプル騎士団が信仰したというヤギ頭の悪魔バフォメットとも同一視された。ただのでかいカバがサタンの化身にまでなるとは、人生(?)わからないものである。

そしてカバはバハムートへ

そうこうあって最初は巨大なカバのように描かれていたベヒモスだが、19世紀からは象の頭をした太った人間のような姿として描かれ、七つの大罪のひとつ、“暴食”を担当するようにもなった。

そんなベヒモスは、イスラム圏でまた別の運命をたどることになる。

なんと、ベヒモスがイスラム圏に伝わった際、なぜか巨大な魚バハムート(Bahamut)という存在になってしまったのだ。カバから悪魔の化身にまで出世したのに、ここにきてまさかの魚! ランクダウンも甚だしい……。と感じる人もいるだろうが、実際には栄転と言っても過言ではない。

ここでいう巨大な魚・バハムートとは、神が作った世界を支える巨大な魚=鯨(ヌーン、またはフート)のことであり、バハムートはあくまで添え名、別名なのである。

しかし、巨獣が魚に。この変化はあまりに大きい!

なぜ、でかい獣が魚になったかについては、同じヨブ記に、巨大な魚レヴィアタンに関する記述があり、これを混同したという説もあるし、レヴィアタンとベヒモスがそもそも同じ怪物だったからという説もある。つまるところ、なにか定説があるわけではないのだ。なので、今回ここでも「なんか知らないけど、獣が魚になったんだよ」ということで結んでおこう。

ともあれ、その後バハムートは、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』に巨大な龍のイメージで登場!

いよいよ本題である。なぜ巨獣が巨竜となったのか?

これは、バハムートがイスラム説話で“300の目を持ち、あたりをまぶしい光で照らしだす”と描写されていることが由来になっているという。『ダンジョン&ドラゴンズ』はこの描写からバハムートをオリジナルモンスター化し、カバのイメージを吹き飛ばしたのだ。

そしてここにさらに手を加え、巨龍というイメージを定着させた背景にあるのは、言わずもがな『ファイナルファンタジー』。『ダンジョン&ドラゴンズ』に影響を受けた『ファイナルファンタジー』が、バハムートを龍王として登場させたのだ。

この点についての由来や経緯については不明だが、これを機に、日本ではバハムートと言えば、巨大な龍の召喚獣というイメージが定着したのである。

こうして、ベヒモスとバハムートは、まったく別の生き物になってしまったが、もとを辿れば同じもの。そう、ただのデカいカバである。

リヴァイアサンはエリートモンスター?

ベヒモスと同じように、名前と姿が分離し、それぞれが乖離してしまうという運命をたどったモンスターがもう1体いる。巨大な魚リヴァイアサンである。

リヴァイアサンの起源は、『旧約聖書』によく出てくる巨大な魚の怪物レヴィアタンとされている。ただ、このデカい魚が、なぜかある時期を堺に、嫉妬を司る悪魔の一体レヴィアタンとして、魔導書(グリモワール)に登場するようになる。いきなりの大出世だ。カバが苦労人であったのに対し、こちらはエリートコースを辿るが如くである。

さて、リヴァイアサンとレヴィアタンは響きが似ているので、もとが同じであることはなんとなく察していただけると思う。リヴァイアサンが英語読みで、レヴィアタンがフランス語読みである。聖書などの記述も“レビヤタン”となっている。

このレヴィアタン、もともとはユダヤの神話伝承によく登場する巨大な魚で、“渦を巻く”を語源とする怪物である。さらに歴史をさかのぼると、レヴィアタンの起源はメソポタミア地域に住んでいたフェニキア人の神話に登場する巨大海蛇ロタン(“渦巻く海の蛇”の意)であるとも言われる。これは嵐の神バールと戦って殺された海の龍ヤムの部下の一匹だ。

なんだろう、この「僕は最初からエリートなんですよ」感。スタート地点からすでに龍とは、大物感がにじみ出ても仕方あるまい。このカバとの差よ……。

ちなみに、こちらもやはり巨大な海龍というイメージを現代日本人に植え付けたのは『ファイナルファンタジー』である。いや、こちらはもともと海中に住む巨大な蛇であったり、スタートラインが龍であったりといった経緯があるので、さほど大きな変化はない。あくまでもリヴァイアサンという存在を世に広めたのが『ファイナルファンタジー』である、といった具合だろう。

まさかの理論、ベヒモス=リヴァイアサン!?

さてそんなふたり、もとい2匹のモンスターだが、紆余曲折あって姿を龍に変えたこと以外にも、驚きの共通点がある。それは、この2匹はもともと夫婦であるという話だ。

『旧約聖書』によると、ベヒモスとレヴィアタンは神の創造の5日目に、1組として生み出された怪物で、ベヒモスが雄、リヴァイアサンが雌だとされている。この2匹は夫婦であったが、2匹ともがあまりに巨大であったため、海をあふれさせないように、その片方であるベヒモスが陸に住むようになったというのだ。

そういう話もあり、また単語としての“ベヒモス”は“でかい動物”という意味でしかないので、もしかしたら2匹とも正式な名称は、リヴァイアサンなのかもしれない。

ともに名前が変わり、姿が変わり、いまもなおファンタジーRPGで象徴的な存在とされるこの2匹に、これほどまでの共通点や意外な背景があったことを知る人は、なかなかいないだろう。

これを機に2匹の関係性や歴史を知ったという人は、それらを目にするたびに、カバから龍王への大出世や、エリート街道を驀進した海の巨大怪物の姿を思い描いてみると、また少し違った世界が楽しめるようになるかもしれない。

次回は、ベヒモスとリヴァイアサンつながりで“デカいモンスター”の起源に迫っていこう。題して『ヘラクレスと戦った相手はだいたいデカイ』。お楽しみに。

おまけの4コマ

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(C) 海野なまこ All Rights Reserved.

4コマ作:海野なまこ

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文:朱鷺田祐介

【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】

TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『エクリプス・フェイズ』、『シャドウラン20th AnniversaryEdition』。2004年『クトゥルフ神話ガイドブック』より『クトゥルフ神話』の紹介を始め、『クトゥルフ神話超入門』などを担当し、ここ数年は毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。

 
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