『ポケモンGO』ヒットを経て見えたAR(拡張現実)の課題をナイアンティック川島氏が語る
2017-04-26 15:30 投稿
『Ingress』を気軽に楽しむための遊びも提案
ナイアンティックはAR(拡張現実)を使った新たな体験と外に出る楽しみを伝えることをテーマに、2013年にオンライン位置情報ゲーム『Ingress』をリリース。地球全土を遊び場に変え、これまで数多くのイベントを成功させてきた。そのノウハウを生かし開発された『ポケモンGO』も世界中で大ヒットし、月間アクティブユーザー数は6500万人に達成したと報じられている。一方で同社は、現実世界におけるARの扱いについて、いまも多くの課題に向き合っている。
今回は、先日ファミ通Appで公開した2本のインタビュー記事
『Ingress』と『ポケモンGO』今後の展望についてナイアンティックのキーパーソンを直撃
『Ingress』約1ヵ月半におよんだ世界規模の戦いと気になるウワサの真相を開発陣に聞く
に続き、『Ingress』と『ポケモンGO』のARがもたらした経験と課題について、川島優志氏(アジア統括本部長、文中は川島)と須賀健人氏(アジア統括マーケティングマネージャー、文中は須賀)に聞いた。
【Ingress記事まとめ】
イベントレポートや取材記事も
●ARがもたらす問題に正面から向き合い新たな可能性を見た1年
●陣取り以外の面から『Ingress』の遊びを伝えたい
●『Ingress』エージェントを動かす原動力とは?
●エージェントが体現したARがもらたす可能性
●ゲームと現実世界に共通する発見のよろこび
ARがもたらす問題に正面から向き合い新たな可能性を見た1年
──『Ingress』の正式提供が始まった2013年から今年で4年目、そして『ポケモンGO』は今年の夏で2年目を迎えます。とくにこの1年は変動の年になったと思いますが、ARが世界に与えた影響と御社が向き合った課題、ふたつの側面からARとはどうあるべきと感じているかお聞かせください。
川島 『Ingress』と歩んだ4年はあっという間でした。以前、これまでを振り返る対談企画を設けてもらいましたよね。あのとき、あらためて4年間を振り返ることができたのは、大きな学びのあった貴重な時間だと感じました。とくに、『ポケモンGO』をきっかけにARに触れた人にとっては、ゲームをするために外に出る、現実世界に触れる新しい体験になったと思います。
──『ポケモンGO』に関してはとくに多くの報道がありましたよね。
川島 一般的に、世の中に新しいテクノロジーが生まれたとき、そこからさまざまな意見・反応が出ることは自然な流れだと思います。我々ナイアンティック社では、お客さまのさまざまなお問い合わせやご要望を、会社として真摯に受け止めていて、関係各所と連携して安全性に配慮していきたいと考えています。
──議論が出るということはそれだけ力を秘めたテクノロジーとも言えますね。
川島 テクノロジーとの付き合いかたについて、いろいろな人が議論することに意味があると感じています。我々ナイアンティック社では、「Adventures on foot(みずからの足で冒険する)」という言葉をミッションとして、プレイヤーが実際に外に出て、いつもと違う路地に入ると小さな置物だったり、史跡を見つけたり、身の回りにある世界を広げて現実世界のおもしろさに気づいてもらう、といったような体験の提供を目指していますが、引き続きプレイヤーの皆さまにはルールとマナーを守って遊んでいただけるよう、周知に努めていきたいと考えています。
──それでも提供する側と受け手で食い違う事例も多く、1部分を切り取って間違った内容が拡散されることある。とくに『ポケモンGO』ではそうした面がクローズアップされやすいですよね。
川島 ただその一方で、東尋坊で自殺者が0になったとか、自閉症の子どもたち、病院生活を送っていた子どもたちが外に出る、明るい気持ちになってくれたといったようなお話が届いたことは、大変嬉しかったです。人々がどうテクノロジーをうまく使っていくのかを、社会全体で議論が進んだことはよかったと思いますし、我々がどうARと歩んでいくのか、世界から問われているのだと感じています。
陣取り以外の面から『Ingress』の遊びを伝えたい
──『ポケモンGO』の前身である『Ingress』は、陣取りというひとつ大きなテーマを持っていますが、新規で始める方にとってはハードルの高い遊びに感じてしまうことも多いようです。そこで、これまで私が取り上げるときは、陣取りがメインになるアノマリー記事であっても、地域に触れるタウンガイドにもなるという魅力を全面に推してきたのですが、川島さんはこの課題をどうお考えですか?
川島 これも大きな議論があったポイントなんですよね。地域ごとのポータル(ポケストップやジム)をルールに沿って巡るミッションという要素。これを『Ingress』の本流ではないと言って避ける方がいる一方で、ミッションがあるから『Ingress』をするという方も多い。我々のスタンスとして、ミッションは大切な機能だという位置付けなんです。『Ingress』にとって云々というよりもナイアンティックにとって、プレイヤーの身近にあるたくさんのポータルにひとつのテーマを設け、それらを巡ることで地域を知ってもらうというアクションにはARだからこそできる大きな力があると考えています。しかも、ミッションはユーザー自身が作っていくものであり、我々も知らなかった世界の魅力を発信する重要な存在なんですよね。
──地元なのに知らなかったスポットをミッションで知る、旅行先で簡単なガイドとしても役立つ場合も十分にありますよね。
川島 そうなんです。たとえば、先日開催された福岡のミッションデイに参加したときも、福岡城跡などを巡りながら高台にある本丸跡とそこから見える眺めに感動しました。たぶん、私はミッションがなければ行かなかっただろうと思いますし、そうした魅力を秘めたポータルが世界中にたくさんあるんですよ。
──陣取りという戦いに関しては自然と身に付くものなので、きっかけのひとつとしてミッションを前提とした地域に触れ開拓していくプレイスタイルを今後も推していきたいですね。
川島 ぜひ! これは大きなヒントですね、真剣に考えていきたいポイントだと思います。“ここを見てほしい”、“触れてほしい”というプレイヤーの想いが詰まっているのがミッションであり、我々ナイアンティックでは構築できない、皆さんだからこそできるもの。『Ingress』の本流は戦うことにあると言われてしまいますが、おっしゃる通り、まずはハック(ポケストップをフリック)するだけでいいじゃないか、ミッションという機能を使って身近なポータルを巡ってみようよ、というPRもしていきたいですね!!
『Ingress』エージェントを動かす原動力とは?
──XMアノマリーと呼ばれる世界各地を舞台にした大規模な陣取り戦では、多くのエージェントが国境を超えて戦いに身を投じています。しかし、そうしたアクションは本来自宅でゲームをする人にとってみれば、それ自体が面倒なんですよね。そんな人の背中を押すきっかけになっているのは何だと思いますか?
川島 家でゲームをしていた人たちに対して、“外で楽しもう”というのは簡単ではないデリケートなテーマです。では、どうして『Ingress』のプレイヤーが外に出るようになったのか。そこには、本来人は運動をすることが好きだという性質があると思うんです。それに加えて地域を知る楽しさ、レジスタンスなら青、エンライテンドであれば緑といった具合に自分のテリトリーができていく。自分の陣営色を死守したくなることが外に出るひとつの原動力に、ミッションであれば探究心を掻き立てる力につながっているのだと考えています。
──本来、誰のものでもないポータルに対して自分のもの、自軍のものだと愛着が湧いてくる。人によってはそれが独占欲だったり、防衛本能だったりするというわけですね。
川島 建前とかは抜きにして独占欲が出てくることも人間が持っている根源的なもの。パーソナルスペースを侵されることが怒りの原動力に繋がるとも言われていますし、本能が刺激されることも外に出るきっかけになってるというわけです。
──『Ingress』にはそうしたアクション性の高い陣取り、ポータルに触れ地域を知るフィールドワーク、ふたつの側面から好きなプレイスタイルを楽しんでもらいたいですね。
川島 そうですね。また、先ほど話題に出たXMアノマリーを含め、ふたつの陣営に分かれる『Ingress』では陣営間の結束力も強く、世界中の人と交流するチャンスもたくさんあり、そこには言語や文化が違っても、ともに楽しもうとする力が大きく働いています。これからプレイされる方、興味のある方はぜひ、そうした一面も楽しんでもらいたいですね。
エージェントが体現したARがもらたす可能性
──パーソナルスペースを広げる楽しみ、地元を飛び出して周辺地域を散策したくなる探究心。そうした力を強く感じた瞬間、印象深い体験をひとつお聞かせください。
川島 細菌に感染したことで四肢が麻痺し、ふつうは人生悲観的になってしまいそうなときに『Ingress』に出会った方のエピソードですね。1日100歩くのが精一杯だったのが、3万歩も近く歩けるようになった。その後、GORUCK(両陣営のエージェントが互いに身体能力を競うブートキャンプのようなイベント)に参加するまでに回復したんです。そうやって自分の限界を押し上げていく方は、『ポケモンGO』を含めてとても多いんですよね。
──私自身、この4年間は自分でも想像していなかったくらい各地を巡りましたし、海外の方たちとの交流もたくさん経験してきました。もちろん、MMORPGなどでも間接的にそれはできますが、ARだからこそ、実際に触れることでしか成し得ない達成感があると実感しています。
川島 行きましたよねぇ、大嫌いだった飛行機にも乗りましたもんね。会場でお会いするエージェントの中には涙ながらにありがとうございますと言ってくださる方もいるんです。それは我々にとっても大きな励みになりますし、描いてきたテーマを達成できていると実感できる瞬間ですね。
ゲームと現実世界に共通する発見のよろこび
──『Ingress』で言えば、2014年から続いている東北を始めとする各地域のミッションを活かしたイベント。『ポケモンGO』では特定のポケモンを使った地域交流、復興支援の場が広がっています。近々、広島県の呉市ではスタンプラリーと『Ingress』を絡めたイベントも予定されていますが、こうした取り組みは今後も続いていくのでしょうか?
須賀 我々が地方活性化に取り組む理由をCRM(Customer Relationship Managementの略)、つまり、売上や収益性を考えたビジネス戦略的な観点で思われていることも多いですが、必ずしもそうではありません。まず、現実世界の情報(ポータルやポケストップなど)を取り入れていくということでゲーム自体がよくなり、ユーザーも喜んでいただけると考えています。これは、ゲーム盤を広げていく活動であり、拡大すればそれだけ多くの方に楽しんでもらえる、新たな地域を訪れるきっかけ作りにも繋がると思います。たとえば、最近発売された『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』をプレイしているのですが、あの世界ではシーカーストーン(携帯用端末)を片手に、未踏破の塔や祠を探し、地図にない場所を駆け回りますよね。
──『Ingress』に似たアクションではありますね。シーカーストーンが『Ingress』でいうスキャナー(スマートフォン端末)ってわけですね。
須賀 そうなんです。シーカーストーンを起動することでその地域を知り、もっと探索したくなる。そうした活動が『Ingress』ではARを使ったこの現実世界で体験できる。最初は遠いと思っていたエリアも1度訪れると身近なものになる、世界を渡り歩くことの楽しさはゲームもARも同じなんだと思います。
──『ゼルダ~』はとてもいいたとえですね。実際、私もプレイ中ですが何度も『Ingress』で経験している想像もしていなかった発見と体験がありますよね。
川島 そうそう、自分の足で歩いて行かなければいけないところは似ている。手元の地図には描かれていないエリアだけど、遥か先にうっすらとみえる塔、山のふもとにある町とか、あそこになるがあるんだろうという好奇心はまさに。一見するとムダに感じるそれらの体験も振り返ってみると大切な経験になっているんですよね。
須賀 目の前にある世界でありながら見過ごされているものに気づいてもらう。それこそが我々の活動目的であり、それが地方活性化につながっていくことが重要なことだと考えています。今後も両タイトルを使った各地域でのイベントは継続していきますのでご期待ください!!
▼合わせて読みたいインタビュー記事
『Ingress』と『ポケモンGO』今後の展望についてナイアンティックのキーパーソンを直撃
『Ingress』約1ヵ月半におよんだ世界規模の戦いと気になるウワサの真相を開発陣に聞く
ナイアンティックからのプレゼント!!
『Ingress』のXMアノマリーではおなじみ、ゲーム内で役立つアイテムが詰まったロードアウトカード(8枚1パック)セットを5つ。さらに、本作のプロローグを中心に描いたコミック『Ingress-ORIGINS-』(ジョン・ハンケ氏、川島、須賀氏を始めとするスタッフのサイン入り)を3冊、抽選で計8名様にプレゼントします。ご希望の方は、下記応募フォームよりご応募ください。(※応募締切:2017年4月30日23時59分まで)
P.N.深津庵(撮影協力:あしたづひむ)
※深津庵のTwitterはこちら
【Ingress記事まとめ】
イベントレポートや取材記事も
Ingress(イングレス)
- ジャンル
- オンライン位置情報ゲーム
- メーカー
- Niantic, Inc.
- 配信日
- 配信中
- 価格
- 無料(ゲーム内課金あり)
- 対応機種
- iOS/Android
- コピーライト
- (C) Niantic, Inc.
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