話題沸騰コンテンツ『Fate/Grand Order』(FGO)開発者が“非常識”な企画の秘密を語る【CEDEC 2016】
2016-08-25 19:57 投稿
『Fate/Grand Order』の人気の秘訣を暴露!?
CEDEC 2016の二日目に行われた講演“Fate/Grand Orderを支える、“非常識”な企画術。”では、いま絶大な人気を誇っているスマホアプリ『Fate/Grand Order』(以下、『FGO』)の秘密が語られた。
ここでは、そのセッションの内容をまとめてお届けしていこう。
『FGO』は人気IP『Fate』シリーズを題材としたスマートフォン向けRPG。昨年7月30日にリリースされて以降、根強いファンに支えられ、コンテンツは着実に成長。2016年8月時点までで600万ダウンロードを達成している。
本講演を行ってくれたのは、ディライトワークス株式会社執行役員にして『FGO』 Projectでクリエイティブディレクターを務める塩川洋介氏。
講演に当たって塩川氏は「『FGO』の開発・運営方針で重視している部分がいくつかありますが、今回はその中からとくに重視しているものを3つのキーワードにまとめてご紹介していきます」と伝えつつ、「現在の話をするので、リリース直後に行っている話とは異なる部分もあるかもしれません。そこはご容赦ください」と笑いを誘っていた。
原作者が最大の指標!
まず語られたキーワードは、“KPIより、TPI。”というもの。KPI(Key Performance Indicators)とは、重要業績評価指数の英略語で、ユーザーの課金率などをまとめたデータを指す。
通常スマートフォンゲーム、とくにソーシャルゲームと呼ばれる部類のゲームでは、このデータを非常に重要視しており、意思決定はもちろん、採算性などの計算にも用いられる重要なデータとされている。
しかし、塩川氏は『FGO』の運営にあたってこの数値を否定。変わりにTPIという独自の指標を掲げ、コンテンツの開発・運営を行っていると語った。
「TPIとは、TYPE-MOON Performance Indicatorsの略。つまり、原作者であるTYPE-MOONの皆さんが、どれだけ楽しんでくれるかを指標化したものです」(塩川氏)
曰く、TYPE-MOONの皆さんこそ、『Fate』を誰よりも愛している人で、重ねて『FGO』も誰よりも愛してくれている超コアユーザー。このコアユーザーたちを盛り上げることができるのなら、『FGO』ユーザーの多くも盛り上がるに違いない、ということだ。
具体的にどのようにしてTPIを上昇させたのか、その例として、有料ガチャの恒久的な値下げや、ユニット所持枠の拡張が挙げられた。
一見すると無謀な行為にも思われるこの行為。一般ユーザーからも「閉店セールでは!?」と不安を寄せられたと塩川氏。だがこの行為には、ちゃんとした意味があるという。
「どういうことをしたらユーザーが死ぬほど驚くかというのを考えたら、こうなりました。所持枠の課金要素撤廃に関しては、あるときふと「冷静に考えて、こんなところに課金させるってあり得ないよな」と思って撤廃しました」(塩川氏)
つまり、ユーザーを驚かせたうえで、喜んでもらうために取ったアクションだという。
塩川氏がその例として挙げたのが、『FGO』で屈指の人気を誇るキャラクターの水着ユニットを無料配布したときのこと。
通常だったら売り上げにつなげられることでも、ユーザー満足度が下がるような施策なら採らない。重要なのは、ユーザーが驚いて喜んでくれることだという強い意志が感じられた。
なによりも世界観を大切に
ふたつ目に挙げられたキーワードは、“ソーシャルより、パーソナル。”というもの。人どうしのつながりがあるものではなく、私的な楽しみを重視するということのようだ。
この理由として塩川氏は「『Fate』作品のいちばんの魅力は、世界観と物語、そしてキャラクターです。『FGO』ではこの魅力を大事にしたかったんです」と述べている。
『Fate』作品には、たくさんの魅力的なキャラクターがおり、誰がどのキャラクターを愛するかが重要。他プレイヤーとの関わりを強く持たせるような要素を取り入れて世界観を壊すのは絶対に避けたかったようで、その想いから、この考えに行き着いたらしい。
そして、プレイヤーがキャラクターをしっかりと愛せるようにも配慮をしているという。
たとえば、レアリティや性別による優劣を作ってしまうと、自分の好きなキャラクターが不遇になってしまい、好きになりきれないという場合が出てしまう。これを排除するために、どんなキャラクターでもしっかりと作り込み、どんなキャラクターでもバトルで活躍できるようにしたというのだ。
塩川氏はここでもユーザーの目線に立ち「『FGO』ユーザーがうれしいと感じてくれるかどうかが最大の判断基準になります。強引なコラボをやらない理由もそこにあります。変にコラボをしたら、『Fate』の世界観が壊れてしまいますから」と強い想いを示した。
同時に「ひとりで『Fate』の世界観に浸れるか、それにどれだけ貢献できているかが重要なんです。壊れた世界観には浸れません」と“ソーシャルではなく、パーソナル。”の意をまとめてくれた。
ユーザーに衝撃を与えてこそ
最後に挙げられたのは“継続運営より、新規開発。”というキーワード。
塩川氏によると、『FGO』は他社のコンテンツと比較すると、驚くほど宣伝を行っていないという。しかし言われてみればその通りで、広告をあまり目にすることはない。
だがそれでも600万ダウンロードを突破し、いまになっても、いやとくにいまになって大きな人気を得ているように感じる。それは何故なのだろうか?
「『FGO』では、ネタの衝撃度合を重要視しています。そして、そこから生まれるユーザー内での反響と、その伝播で人を惹きつけているのです」と塩川氏はコメント。
その意図こそ汲み取れるが、ネタの衝撃度とはどういったことなのだろう?
曰く「イベントをルーチン化、パターン化させず、必ず新しいインパクトを与えていく」、「ユーザーに 「お?」 と思わせる、一石を投じるようなネタを、毎アップデートに仕込んでいく」ということらしい。
つまり、毒にも薬にもならない、ただ場を引き延ばすためだけのアップデートやイベントに意味はないということ。
こうすることで、イベント・アップデートごとに大きな話題と期待感を持たせることができる。さらにうまくフックすれば、話題性にもつながり、それが盛り上がりへ直結していくというのだ。
もはやソーシャルゲームの基本とも言える常識、タイトルの延命措置を施さず、ユーザーにインパクトを与えることに終始している姿は、控えめに見てもチャレンジングと思える。
「開発はたいへんだけれど、それでもユーザーの皆さんには新鮮な楽しさを味わってほしい」と語る塩川氏の熱意には、凄まじさも感じられた。
最後に塩川氏は、こういった“非常識さ”を採用した理由について「『FGO』は、『Fate』のIPを借りたソーシャルゲームではなく、TYPE-MOONが送る新作RPGなのです。ならば、ただ純粋におもしろいゲームを作ろうと。そうした結果、ここに行き着きました」
あくまでも、無茶をしたら成功したのではなく、そもそも無茶でもなんでもない、ただ『Fate』の新作をおもしろくしようとしたら、ソーシャルゲームの教科書にそぐわない形になっただけだという。
いまでこそ非常識というモノサシで計られてしまうこの企画方法が、いつの日か伝播し、スマートフォンユーザー全体に衝撃を与えるコンテンツ作りが広まったらと考えると、少しワクワクしてくる。
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