【ひらブラ vol.2】 LEDで無重力をつくる話
2014-01-24 12:00 投稿
映画『ゼロ・グラビティ』を観ました。
スペースデブリとよばれる衛星軌道上の宇宙ゴミの来襲によって宇宙空間に放り出されてしまった宇宙飛行士と科学者が、次々と襲いかかるトラブルに立ち向かっていくサバイバルドラマです。
この映画でとにかくスゴいのは「無重力」表現のリアリティの高さ。「きっと実際の無重力ってこんな感じなんだろうなぁ」というシーンのオンパレード。まさに、”鑑賞”というよりも”体験”という感じの作品です。
無重力へのあこがれが、リアル派SF映画を進化させた
映画のなかでの無重力表現の歴史はけっこう古く、1968年公開の『2001年宇宙の旅』での表現は当時大変な話題になったそうです。45年以上経った今もリアルに感じられるからビックリ。
リアルさにこだわる場合、空気のない宇宙空間では光が拡散しないため、明暗がハッキリした映像作りが必要になります。それを地球上で再現するため、監督であるキューブリックは長時間露光という方法を使ったそうです。詳しく説明すると難しいのでカンタンにいうと、通常は一瞬しか開かないカメラのシャッターを約10分間も開放して撮影したそうです。たった1秒のシーンに4時間もの撮影が必要になったというから、ちょっと気の遠くなる話ですね。
1995年公開の『アポロ13』も、無重力のシーンが印象的でした。この作品の無重力がリアルなのは当然。なぜなら「本当の無重力」をパラボリックフライトという手法で創りだして撮影されたからです。KC-135という飛行機のなかで撮影されたのですが、1回の無重力はたったの約20秒、映画のシーンを完成させるために600回以上も繰り返したというからオドロキ。スタッフも俳優さんもタフじゃなきゃできませんね。
余談ですが、その名も”Zero Gravity”という会社がこの無重力体験を提供しています。計15回の無重力体験ができるサービスで約50万円だそうです(参考:日本語ページのある代理店サイト)。
この体験は実際に宇宙空間を体験するものではないのですが、同サイトには「弾道飛行宇宙旅行」や「国際宇宙ステーションへの旅」といったメニューもあり、それぞれ、1,100万円、52億円だそうです。…無重力くらいなら死ぬ前に体験してみたい(かも)!?
最近の作品にも、宇宙空間が舞台ではないのに「無重力」の表現がスゴいものがあります。2010年公開の『インセプション』という作品です。この作品では、ワイヤーと俳優の演技力によって無重力を実現しているそう。重力場がコロコロと変わっていく最大の見せ場のシーンでは360°回転する巨大水車にセットを設置して撮影したというこだわりよう。
こんな感じで、単なるCGのスゴさではなく映像のリアリティで勝負しているSF映画は「無重力のあこがれ」とともに進化してきたと言っても過言ではありません。
そして、その集大成ともいえるのがこの『ゼロ・グラビティ』という作品です。圧倒的な映像づくりのために、キュアロン監督は「技術がアイデアに追いつくのを待っていた」と話しています。
By Mario Antonio Pena Zapatería from Irun, Spain (Flickr) [CC-BY-SA-2.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons
キュアロン監督の構想を実現するのに不可欠だったその技術とは、なんと意外なことに「LED」とロボット工学だったそうです。
映画「ゼロ・グラビティ」を支えたブラックボックス
45年以上前のフィルム時代、キューブリックが長時間露光という手法で実現したリアルな宇宙空間。現代では、LEDとロボット工学によって宇宙空間で漂う人間の演技をリアルタイムに撮影することができるまでに進化したというわけです。どちらも、こだわりのポイントは「光」というところが印象的。
具体的には、4000個以上ものLEDライトを撮影用の箱に設置した、その名も「ライトボックス」という装置を開発し、宇宙空間でのあらゆる光源からの照明環境をつくり出せるようにしたとのこと。
メイキング映像を観ると理解しやすいですが、このライトボックスの最大のメリットは、カメラと光源と俳優をシンクロさせて動かすことができる点。やっぱり俳優さんは本当に大変そうですが(笑)ライブ映像だからこそ、リアルな映像を実現できたのだと思います。
映画を観ているときは、もちろんそんな「トリック」は気にもとめず、ひたすら夢中でスクリーンという宇宙空間に没入しているわけですが、観終わると皆、疑問に思うんですよね。「はて?どうやってあんな映像を実現したんだろう?」と。まさに、これもブラックボックス。…あ、でも、ライトボックスだから、ずいぶん明るいブラックボックスですけどね(笑)。
『ゼロ・グラビティ』という映画史に残るような作品が「アイデアと技術」の出会いによって実現され、さらにその「技術」はLEDとロボット工学という「技術と技術」の出会いによって、それぞれの技術が本来持っていた価値を超えて、新たな付加価値を産み出すことが出来るようになりました。
なんだか、ゲームクリエイターとゲーム開発技術の関係に似ています。ゲームの素晴らしいアイデアと優れた開発技術とが出会うことで、素晴らしいゲームが世の中に産まれる。さらにそのゲーム開発技術は、LEDとロボット工学のように、他の優れた技術と出会うことで、さらなる付加価値を産み出すことがあります。
そのひとつが、「ミドルウェアとゲームエンジン」の出会いです。
スマホ時代の寵児的ゲームエンジン「Cocos2d-x」
今回は、その事例として、当社ミドルウェアである「CRIWARE」とゲームエンジン「Cocos2d-x」との出会いをご紹介したいと思います。
ミドルウェアやゲームエンジンについて詳しく知りたい方は、当ブログのバックナンバーをぜひご一読ください。下記の事例をより理解しやすくなると思います。
「Cocos2d-x」は、スマホゲーム開発者への採用がどんどん広がっているゲームエンジンです。個人開発者やインディーはもちろん、大手ゲーム会社やSAPにも普及が進んでいます。
『cocos2d-x入門(リックテレコム)』や『cocos2d-xによるiPhone/Androidアプリプログラミングガイド(マイナビ)』といった開発者向けcocos2d-x関連本の著者であり日本cocos2d-xユーザ会の代表も務める清水友晶さんに、このブログのためにコメントを頂いたのでご紹介します。
cocos2d-xはマルチプラットフォーム開発を行うことができるオープンソースの2Dゲームフレームワークです。iOSやAndroidなどのモバイルプラットフォームはもちろんのこと、WindowsやMacなどデスクトッププラットフォームにも対応したアプリを創り出すことができます。
ブログ記事「vol.1-3」でも説明されていましたように、cocos2d-xをブラックボックスとして利用して頂いてもいいですが、オープンソースですので自分に合ったフレームワークに改修することもできますし、ソースを追っかけて技術を学ぶこともできます。
(中略)
先日、cocos2d-xとCRIWAREの連携についてデモを拝見させて頂きましたが、cocos2d-x上で快適に動作する様子はとても素晴らしかったです。cocos2d-xだけでは動画音声周りの細かな処理は難しいですが、CRIWAREによりcocos2d-xを更に拡張してくれことがわかりましたし、ゲームの可能性を大いに広げてくれるものでもありました。ぜひ利用してみたいですね。
(日本cocos2d-xユーザ会代表 清水友晶)
清水さん、ありがとうございます!
さらに『cocos2d-x開発のレシピ(秀和システム)』の著者であり株式会社シュハリの代表取締役、松浦晃洋さんにもコメントをお寄せ頂きました。
Cocos2d-x を使用する利点としてはクロスプラットフォーム開発が可能なことはもちろんですが、それ以外にも無料で使える、実装が簡単、動作が軽い、開発サイクルが早い、などがあります。またオープンソースなのでいざとなればフレームワークに手を加えることも可能です。ゲーム制作に必要となる物理エンジン、タイルマップ、パーティクルなどがひと通り揃っているのも魅力のひとつです。
私と Cocos2d-x の出会いは2年前の2012年3月でした。情報がほとんどないため、Cocos2d-x のソースを解析しながらの手探り状態での開発でした。自分で地雷を踏みつつ調べた情報を共有したいという思いで、日本初となる Cocos2d-x の本「Cocos2d-x 開発のレシピ」を執筆しました。開発者の皆さん、ぜひ Cocos2d-x を使用して面白いゲームを開発しましょう!
(株式会社シュハリ代表取締役 松浦晃洋)
※長文のコメントをお寄せ頂いたので、その一部を抜粋して掲載しています。
松浦さん、分かりやすい説明をありがとうございます!
さらにさらに、大型ゲームアプリでのCocos2d-xの導入を手掛け、自社開催の開発者向けイベントで大きくCocos2d-xの話題を取り扱うなど、Cocos2d-xに非常に精力的な株式会社gumiの執行役員CTO、田村祐樹さんからもコメントを頂きました。
10年近くコンシューマーゲームの開発をしてきた身として「ブラックボックス」というのは胸をくすぐられるものがあります。ゲームを作り始めたとき、ゲーム機とは「謎」そのものでしたし、画面を出すのすら一苦労だったからです。Cocos2d-xを見て初めに思ったのは「ゲームを開発しているときに、こんな便利なものがあったら良かったのに!」ということでした。それほどCocos2d-xは便利なもので、ゲームをつくりたい皆さんの役に立つものだということです。
1本1本のゲームを作るために、すべてのプログラムを1から構築していくことは効率的ではない時代がやってきました。iPhoneやAndroid毎にソースコードを書くこともそうです。 要するに「Cocos2d-x」がやってくれることは、「あなたはゲームをつくることに集中してください。私がハードウェアの面倒は見ますし、よく使う機能は用意しますから」ということなのです。
幅さんたちがつくられている「CRIWARE」も、「Cocos2d-x」と同じように非常に強力な縁の下の力持ちなのです。その力は「ムービー」や「サウンド」などでいかんなく発揮されます。「Cocos2d-x」が提供するのは「鳴らすためのオーディオ」ですが「CRIWARE」が提供するのは「魅せるためのオーディオ」なのです。「ムービー」も同様で、パラパラアニメを滑らかにするには限度がありますが、それをより滑らかに表現するのが「CRIWARE」のムービーなのです。
(株式会社gumi執行役員CTO 田村祐樹)
田村さんは家庭用ゲーム系開発のご出身であることもあり、ますますリッチ化するスマホゲームの未来を見通した鋭い洞察を頂いています。じつは対談の機会も頂いたので、次回以降のブログ上で、その一部始終をお届けしたいと思っています。
誌面(?)の関係で、せっかくお寄せ頂いたコメントですが、それぞれ、その一部を抜粋してお届けしています。コメントを全文お読みになりたい方は、ぜひ、『ひらブラ』の公式facebookページ( http://www.facebook.com/open.blackbox )をチェック。ついでに「いいね!」もお願いします(笑)。
さて、清水さんや松浦さんも書かれているように、cocos2d-xはオープンソースであることが大きな特徴のひとつです。ご両名が出されている書籍を含めさまざまな解説本が発売されているので、これからゲーム開発を始めようという方も使いやすいですし、もちろんベテランのゲームクリエイターの方にとっても重宝する、とても懐のひろいゲームエンジンです。
実際、どんなアプリがcocos2d-xによって開発されているかというと…
『ブレイブフロンティア(Alim)』
『三国志パズル対戦(Cygames)』
『ファンタジスタドール ガールズロワイヤル(Drecom)』
『Reign of Dragons/神縛のレインオブドラゴン(Drecom)』
『LINEバブル(NAVER JAPAN)』
『Plague Inc. –伝染病株式会社–(Ndemic Creations)』
えっ?これもcocos2d-xだったの?…ってアプリもあるかもしれません。もちろんこれらはごく一部で、ほかにも既にたくさんのアプリがcocos2d-xによって開発されています。さらに知りたい方は、cocos2d-xの公式サイトをチェック!
さて、いよいよ、このcocos2d-xとCRIWAREの出会いによって、どんなことが出来るか?をご紹介する時が来ました!
…と思ったら、エッ!?
もう文字数を大幅にオーバーしてるですって?(滝汗
ファミ通App編集部の女尻笠井さんや馬場園さんたちが、スゴい形相でこちらを睨んでいるので(汗汗)、今回はこのへんで…(無念・・・
…でも、
…それじゃ、
…あんまりなので、
…来週まで待てない!というステキな読者の皆さんのために、
「CRIWARE with cocos2d-x」のテクニカルデモンストレーション動画を、ドーーーーンと一挙に「先行公開」しちゃいます!
技術デモ映像を「先行公開」!必見です。
以下の動画に登場するデモ映像は、実はまだどこにもお見せしていません。まさに「出来たてホヤホヤ」のピッチピチに新鮮な映像です。皆さんに一日もはやくお届けしたい一心で作りました。動画の編集って実はまだ慣れていないのですが(汗)、休日返上で頑張って作ったので、ぜひご覧くださいね。
…これらの動画に登場する技術のくわしい解説は、来週金曜日の更新でお届けする予定です。お楽しみに!
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【バックナンバー】
※vol.0:創刊準備号ということでジコショーカイ【CRI幅朝徳のひらけ!ブラックボックス】
※vol.1-1:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】
※vol.1-2:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】
※vol.1-3:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】
※vol.1-4:福袋も飛行機もゲームも?ゲーム開発を支える”黒い箱”とは【ひらけ!ブラックボックス】
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幅朝徳(はば とものり) 株式会社CRI・ミドルウェア 商品戦略室 室長、CRIWAREエヴァンジェリスト。学習院大学卒業後、CRIの前身である株式会社CSK総合研究所に入社。ゲームプランニングやマーケティング業務を経て、現CRIのミドルウェア事業立ち上げに創業期から参画。セガサターンやドリームキャストをきっかけに産声を上げたミドルウェア技術を、任天堂・ソニー・マイクロソフトが展開するすべての家庭用ゲーム機に展開。その後、モバイル事業の責任者として初代iPhone発売当時からミドルウェアのスマートフォン対応を積極推進。GREE社やnhn社といった企業とのコラボでミドルウェアの特性を活かしたアプリのプロデュースも行う。近年は、ゲームで培った技術やノウハウの異業種展開として、メガファーマと呼ばれる大手製薬会社のMR(医療情報担当者)向けのiPadを使ったSFAシステムを開発、製薬業界シェアNo.1を獲得しゲーミフィケーションやゲームニクスの事業化を手掛ける。現在、さらなる新規の事業開拓や未来のサービス開発を担当する傍ら、ますます本格化するスマホゲームのリッチ化を支援するためにモバイルゲーム開発者におけるミドルウェア技術の認知向上のためエヴァンジェリストとしての活動に注力中。
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趣味は、映画鑑賞とドライブ、クロースアップマジック、デジスコによる野鳥撮影、コンパニオンバードの飼育、そしてもちろん、ゲーム。
CRI・ミドルウェア ウェブサイト
http://www.cri-mw.co.jp/
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