【企画連載】教えてponta先生!「『三国志』ってなぁに?」―第1回「そもそもどんな物語なの?」

2021-06-25 17:00 投稿

意外と知られていない、三国志のストーリーと主人公

ゲームでよく『三国志』(三国志演義)がテーマになったり、『三国志』のキャラクターが実装されたりしますよね?

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ですね。『三国志』をモチーフにしたものだと、コーエーテクモゲームスさんが有名ですよね。スマホゲームでも、僕が連載してた『三國志 覇道』がそうでしたし、人気アクション『真・三國無双』もそう。最近だと『三國志 真戦』っていうアプリも出ましたね。

そうなると当然ぼくたちも「このゲームのテーマ、題材は『三国志』だぞ!」っていうことを書くわけなんですけど

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はいはい。そりゃそうですね。

ここだけの話、『三国志』のことよくわかってないんですよね。

劉備とか諸葛亮とか呂布とか董卓とか、キャラクターの名前は知ってるけど、具体的にどんな物語で誰が主人公なのかとか、結末がどうなってるのかとか、まったくわからんのですよ。

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マジすか。あー、でもそういう人多いと思いますよ。

なので、この機にちょっと知っておきたいなと思って。『三国志』っていったいどんな物語なのか、教えてもらえませんか?

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しょうがない。せん越ながら、教えてあげましょう!

三国志とはなにか?

『三国志』とは、今から1800年くらい前の、中華英雄物語です。

一口に『三国志』といっても二種類あり、陳寿という人が書いた歴史書の『三国志』と、後世、羅漢中という人がまとめた小説の『三国志演義』があります。

陳寿の『三国志』じたいは優れた史料なのですが、いかんせん歴史書なので、紀伝体と呼ばれる全体の大きな流れが把握しづらい構成なうえに、公平かつ簡潔すぎて面白みに欠けています。

いっぽう『三国志演義』は、歴史小説ですから、エンターテインメントに振り切っており、善玉、悪者をハッキリ分けて書いたり、複数人の功績を整理してひとりのものにまとめていたり、史実ではほぼ皆無の一騎打ちシーンが頻出したり、要はわかりやすくておもしろいんですよ。ゲームでよくテーマになるのは、この『三国志演義』のほうですね。

『三国志演義』は、劉備という貧しい青年が乱れた世の中を救うために、関羽、張飛というふたりの豪傑と義兄弟のちぎりを結んで挙兵するところから始まります。

桃園の誓い

劉備は“黄巾の乱”という農民反乱を平定中に、曹操という野心溢れる有能な官僚と出会ってお互いを認め合い、ライバル関係となります。

またたく間に大勢力を築き上げる曹操に対し、劉備は中盤までかなり遅れをとるんですが、諸葛亮孔明という天才軍師を得て、やっと反撃の目が生まれてきます。

三顧の礼

天下統一を目指して大軍を進めてくる曹操に対し、劉備は呉の孫権と手を組んで“赤壁の戦い”で撃破し、その勢いで蜀の国を得て、天下三分に成功します。

その結果、大国の魏を支配する曹操と、難攻不落の蜀をおさえた劉備、そして長江の守りを得た呉の孫権、この3人の君主による三つ巴の争いがはじまります。

天下三分

ただ曹操は野心半ばにして病に倒れてしまい、劉備も義弟の関羽の弔い合戦で呉に敗れた直後に病死してしまいます。劉備の遺志をついだ孔明が引き続き魏への決戦に挑みますが、これまた寿命が尽きてしまいます。

孔明亡きあとの蜀はあえなく魏に滅ぼされ、魏もまた晋という国に乗っ取られ、呉はその晋に征服され、中国は晋一国となります。

これが『三国志演義』の大まかな、大まかすぎるストーリーです。

なるほど! そういう物語だったんですね!

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ただ、『三国志』は、三国が成立するまでの群雄割拠時代がいちばんおもしろいんですよね。有名な場面も、強烈なキャラも、だいたい物語の前半から中盤に集中しています。三国が成立する直前、赤壁の戦いをラストシーンにするアニメや映画とかも多いです。

三国志演義って誰が主人公なの?

ストーリーはなんとなくわかったけど、誰が主人公なんです?

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『三国志演義』には明確な主人公は存在していませんけど、序盤は善玉の劉備と悪玉の曹操を中心にして話が進んでいきます。中盤から終盤にかけては孔明の活躍が物語の主軸です。

本来、歴史には善も悪もないんですが、『三国志演義』はエンターテインメント小説ですからそこはきっちり書き分けています。

貧しい身分ながら正当な血筋を引いた劉備は善玉として扱われ、その劉備の敵であり、漢王朝を終わらせた曹操は悪玉として描かれます。

劉備を支える義兄弟の関羽と張飛はもちろん善玉であり、とくに関羽はその武勇と忠義心から後世、神として称えられるまでになりました。

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『三国志演義』から主要人物を4人抜き出せと言われれば劉備と曹操と関羽と孔明になるでしょう。3人なら劉備と関羽と孔明ですかね。ふたりに絞るなら劉備と孔明になります。

ただ「曹操より関羽が主要人物だ!」と断言してしまうと、通の読者には叱られるかもしれません。

『君主への忠義こそ最高の美徳!』だった時代はともかく、現代だと、合理的で野心と才能に溢れる英雄児・曹操のほうが人気は高かったりします。

確かに、持っている才能の大きさだけで言えば、曹操が三国時代の英雄の中でいちばん大きかったのは間違いありません。

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たとえば吉川英治の小説でも、横山光輝のマンガでも曹操はめちゃくちゃかっこよく書かれていますが、両作者とも”自然と曹操を主人公のように書いてしまった(劉備が主人公のはずなのに)”と伝えられています。それだけ彼の生き方が現代日本においては主人公的ということなんでしょう。

つまり『三国志演義』は劉備、孔明が主人公として書かれているけれども、読む人の価値観によっては曹操、周瑜、趙雲、陸遜、馬超、呂布などを推すこともできる、単なる勧善懲悪にとどまらない、深みのある作品なのです。

なるほど! 主人公は劉備だけれども、読む人によってそれぞれの推しが作れるんですね!

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今だと、ゲームをやってて武将の能力が高くて気になったとか、ビジュアルが好みだとかで推し武将が見つかることも多いでしょう。さっき例として出した周瑜、趙雲、陸遜あたりはどのゲーム内でもチート級に強いですよ。イケメンですし!

三国志の魅力

いろいろわかったけど、ぶっちゃけ昔の歴史書をもとにした小説ですよね? それがなんでここまで人気なんです?

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『三国志』の魅力は、”多彩なキャラクターと、印象に残る数々の名場面”と一般的には言われています。それには異論がないんですが、私見をいえば史実がもともと物語化しやすい素材だったことと、要所要所で優れた書き手・作り手に恵まれたことが人気の要因だと思います。

誤解を恐れずに言うと、中国5000年の歴史の中には、曹操や孔明、関羽や張飛を超える天才や豪傑は珍しくないのです。

冷静に考えて、紀元2~3世紀にだけ優秀な人材が固まっている状態って、おかしくないですか?

ただ、ほかの時代を改めて眺めると、強い人材が一国に集まりすぎて、戦力が均衡せずあっという間に統一してしまったり、ライバル不在でドラマ性に欠けたり、情勢が複雑すぎて素人には理解しづらかったり、英雄が統一後に部下を粛正するようなサイコパス野郎だったり、物語として微妙に”惜しい”んです。

その点、『三国志』は劉備が貧しい家から志を立て、皇帝にまで成りあがった立身出世物語として、民衆に受けやすい要素があったのは非常に大きかったと思います。また、劉備配下の孔明と関羽が最後まで裏切らなかったのも、読者の夢を壊さなかったという点で重要でしょう。

敵役としての曹操の魅力や、物語が中だるみしたころ、孔明というチート級の新キャラが弱小勢力に加入するタイミングの良さも見逃せません。

赤壁の戦いという派手な番狂わせも中盤に用意されています。劉備が挙兵してから孔明が死ぬまでの50年間という期間も、初期人物の死にざまを見せるという意味でボリューム感的にはちょうどよかったと思います。

赤壁の戦い

このように史実の『三国志』は、物語化させるうえで、いろいろバランスが良いなと思います。

そしてなんといっても、書き手・作り手・翻訳者に恵まれたというのも大きいです。

まずもって、史書『三国志』を書いた陳寿が優れた書き手でした。料理に例えるなら、おいしい食材を適切に後世に保存してくれたようなものです。

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次に、裴松之という人が、陳寿が省略してしまった英雄たちのエピソードを注釈という形で残してくれました。料理に例えると、あぶれた食材を冷蔵庫のすみっこにしまっておいてくれたイメージです。

その裴松之が残したエピソードをもとに、おもしろい説話が民間でたくさん生まれたのですが、それらを羅漢中が『三国志演義』という小説にまとめました。つまり1000年熟成された良質な食材が、立派な料理になったようなものです。

歴史にIFはありませんが、陳寿がいなければ史料が失われていたかもしれず、裴松之がいなければ話が膨らまず、羅漢中がいなければ、『三国志』は単なる歴史書&バラの民間伝説どまりでここまでの人気は博していなかったかもしれません。

いっぽう日本でも、江戸時代に『通俗三国志』という忠実な翻訳が作られ、昭和には作家の吉川英治が『三国志』を書きました。細かいことは省きますが、この二つの質がめっちゃくちゃ良くて、現代日本で三国志が流行り続ける下地を作ってくれました。いわば、伝説の中華料理を日本人の舌に合うように最良のアレンジしてくれたようなものです。

忘れてはならないのがコーエー(現・コーエーテクモゲームス)の戦略ゲーム初代『三國志』です。吉川英治『三国志』の影響を色濃く受けたこの作品はロングヒットし、現在にいたるまで多くのプレイヤーを三国志沼に惹きつける、大供給源になってくれました。

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メイン画面

もちろん、ゲームというものは売れなければシリーズは続かないので、売れるための下地を作った『人形劇 三国志』とか、横山光輝のマンガの功績も偉大すぎるのですが……。

繰り返しになりますが、『三国志』の魅力は多彩な英雄や数多くの名場面にあるのは異論ありません。でもそういうものは長い中国史の中には珍しくありません。

ただその中で『三国志』が特出して現代に伝わり、いまだに人気を博しているのは、史実の物語化しやすさと、時代に合わせてブラッシュアップを重ねてくれた、数多くの名著者・名編集者・名作ゲームのおかげかなといったところです。

なるほど! つまり『三国志』はゲームやマンガなどを通じて、時代にあわせていまだに成長しているコンテンツということなんですね! 勉強になりました。

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『三国志』の魅力は登場人物たちの魅力あってのことなので、次回は人物に焦点を当てていきましょう! 今回はお勉強っぽくなったので、次回からちょっと柔らかめにいきますね!

文:ponta
企画協力・画像提供:㈱コーエーテクモゲームス

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