【個人開発者のやぼうとげんじつ】第3回:勇者開発者は僧侶タイプ“八戸駿”

2012-08-08 19:00 投稿

●勇者開発者はこの人です!

今回登場するのは『ゆけ!勇者』を開発したシステムエンジニアの八戸駿氏。2010年の配信からコツコツとアップデートをくり返し、その丁寧な対応でファンの心を掴んできた八戸氏だが、ヒットアプリの開発者にも関わらず、北海道在住ということもあってメディアへの露出は少ない。数少ない“生の声”、必見ですよ。

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システムエンジニア
八戸駿(はちのへたかし)

――まずはこれまでのリリース本数を教えてください。

八戸 『ゆけ!勇者』1本……だったのですが、じつはつい先日こども向けアプリがリリースされて2本になりました。ただ、そのアプリはわけあっていったん公開を止めています。いまはちょっとその調整で忙しかったりします(笑)。

ゆけ!勇者

――おお、ついに2本目が! 1作を磨き続けるストイックな開発者って書こうと思っていたんですが……(笑)。いまはフリーのシステムエンジニアとして活動されているんですよね? どんな生活スタイルなのでしょうか?

八戸 『ゆけ!勇者』を開発したころは完全に不定期でした。数ヵ月間休みはとってなかったですし、睡眠時間も少なかったですね。 家庭の事情もあって最近は土日は休むようにしていますが、集中して作業したい時は家族と相談してまとまった時間を作って開発しています。そういうときはまた睡眠が不定期になって睡眠時間も少なくなります。大きな開発をするときは、集中するために実家に帰って合宿(里帰り?)するときもありますね。

――思ったよりもハードな開発環境なんですね。ではなぜ個人でアプリを開発しようと思ったのですか?

八戸 iPhoneを買ったことで増えた携帯の代金を稼ぎたいというのが最初の理由です(笑)。それまではパケット通信の放題プランを利用していなかったので、その料金を広告費で支払いたかったというのがきっかけです。

――それはちょっと意外な理由ですね(笑)。ではズバリ聞きます! そんなお小遣いレベルでよかったはずが、実際にはどれくらいの利益になっているんでしょうか……?

八戸 時期によってかなり差が出ますね。大きな開発をしていてダンジョンを追加できていないときや、イベントができないときなどは収入が下がるときもあります。月収で比較すると調子のいいときでサラリーマン時代の5倍くらいの月もあります。

――5倍……! やっぱりすごい。

八戸 短期的には十分稼げていますけど、将来はわかりませんよ。

――これから開発者を目指す人は、どうしたら食べていけるようになると思いますか?

八戸 作ってみようかと思ったらとにかく作ってリリースしてみることが大事だと思います。

――なるほど、作りきることが大事ということですね。八戸さんはどういう手順でアプリを作っているのでしょうか?

八戸 ほかの人よりは構想期間が長めかもしれないですね。「昔ゲームしたときは楽しかったなー」「こんなゲームがあったらいいなー」って思いふけることが多いです。『ゆけ!勇者』に関してはオンラインアプリなので、できるだけ低コストで運営できるように最新の技術を勉強して、実現できそうになったタイミングで一気に作りました。

――アプリを作るのに必要なスキルってどんなものなのでしょうか?

八戸 技術は幅広ければ広いほどいいですけど、それよりも“必要なときに足りないことをサクッと調べて吸収できるスキル”が大事だと思います。あと、“自分を信じ続けるというスキル”も必要ですね。作っているときって、迷ったり本当におもしろいかわからなくなったりしますけど、そこで止まってはいけないと思っています。でも私はまだまだそれが足りなくて「もういやだ!」ってなることも結構ありますね(笑)。

――アイデアはどんなときに湧いてきますか?

八戸 普通に生活してる時に突然湧いてきます。車を運転している時や街を歩いているときに思いつくことが多い気がします。もともと『ゆけ!勇者』は、私が会社で働いていた時に忙しい中でもゲームがしたかった、という思いがきっかけで作り始めました。時間を使わなくてもゲームができたらいいな、という単純な思いで作っています。

――どういうスマホアプリを作りたいと思っていますか?

八戸 優先順位の高い順で、“自分が使うかどうか”、“家族が使うかどうか”、“知り合いが使うかどうか”ですね。使ってくれなそうなものはだめですけど、自分が使いたかったらとりあえず作ろうと思います。

――『ゆけ! 勇者』は何度もアップデートや細かい調整をおこなってきたタイトルですが、自分の中では「イケる!」と思ったのに意外と反応のよくなかったことってありますか?

八戸 新ダンジョンをリリースして難しすぎたときはかなり批判されました……。皆さんの声を聞きながらバランス調整をやり直したこともあります。

――そういう対応があるから、批判のあともユーザーが逃げないんだと思います。そういえば、いまさらなんですが“xHachiApps”という名前の由来を教えてください。

八戸 私はハンドルネームとしてthachi(T.HACHInohe)というのものを使っています。デザインまわりは奥さん(M.HACHInohe)がやっていますので、私と同じルールにするとmhachiになるわけです。そこで、ふたりのファーストネームのTとMをワイルドカードのxにして、“xhachi”。さらに、アプリを開発するので“xHachiApps”でいいかーってことで命名しました。売れるとは思ってなかったのですごく適当につけました(笑)。最初はかっこ悪いかなあと思っていましたが、いまは結構気に入っています。

――なるほど、そういう“x”だったのですね。ちなみに、いまはフリーでやられていますけど、企業に声をかけられたらどうしますか?

八戸 いまのままがいちばんいいと思っていますが、将来のことはわかりません(笑)。

――では、そんななかでも個人でやるメリットとデメリットを教えてください。

八戸 メリットはお金がかからないことです。なんと言っても人件費はひと家族分ですからね。会社で開発しているアプリより安く提供することができると思います。デメリットはテストプレイが不足しがちなことです。企業で行なっているような人数をかけたテストができない分、障害が発生する可能性は高いと思います。

――『ゆけ! 勇者』で培った自分なりのApp Store攻略法を教えてください。

八戸 アイコンと名前にはこだわってます。アイコンは、普通のゲームとは差別化してオシャレな感じにしました。名前も短くてインパクトのあるものを長い時間をかけて考えました。App Storeでは、見た目で目立つことがいちばん大事だと思います。もちろんランキングに載ることがいちばん目立つのですが、順位にかかわらず目立つことができれば強みになると思います。ただ、ランキングを意識しすぎるよりはブログやTwitterで紹介される方が効果があるので、そっちを重視すればランキングもついてくるのだと思っています。

――たしかにアイコンはかなり重要ですよね。では、いま注目しているゲームアプリを教えてください。

八戸 『Dungeon Raid』です。いろいろなゲームをiPhoneにインストールしてきましたが、いまでも時を忘れてプレイしてしまいます。あまりプレイしないようにしているんですが、それはたまにプレイするとすぐ寝不足になってしまうからです(笑)。

――現在、Androidアプリも配信されていますか?

八戸 Androidでも『ゆけ!勇者』を配信しています。Androidは普段は使っていないので、ユーザの気持ちがわからないときがあって苦労しています。いまのところダウンロード数はAndroidのほうが少ないですが、iPhoneのユーザーと同じくらいたくさんのご意見をいただいています。また、端末の種類が多いため、動作報告などもたくさんいただいてまして、それはすごくありがたいですね。

――ここでちょっと変な質問です(笑)。勇者が活躍するゲームを作られていますが、ご自分は何タイプだと思いますか? 勇者タイプ?

八戸 うーん……僧侶でしょうか。プログラムをバリバリ書くのが戦士だとしたら、自分はあまりプログラムを作るのに向いてると思っていませんのでそっち系はちょっと違いますね。 チームで開発していたころは、コードレビューしたり、バグで行き詰まったときに「ここが原因じゃない?」と原因を探すような役割が多かったです。最新技術を調べて紹介したり、ここでエラーが出そうだから直した方がいい、個々のコードはこうやって書いたら簡単ですぐ使えるよ、障害でデータが壊れた時に解決策を提示したり、といった補助する立場にいることが多かったです。勇者は闘いながらサポートもできるので、そういう人には憧れますね。私の場合、いまは戦っていると補助系がおろそかになってしまうことが多いので(笑)。

――八戸さんの今後の野望を教えてください。

八戸 ずっと楽しく作っていたいです。私は、自分が楽しくて余裕がある時じゃないと作っていて楽しくないんです。楽しい気持ちでゲームを作ることが、楽しいゲームを作る上でいちばん大事じゃないかと思います。

――たしかに! まずはそこですよね。ただ、ここ数年iPhoneのゲームってどんどんリッチなものになってきてますよね? 今後それに対して個人でどう戦っていこうと考えていますか?

八戸 『ゆけ!勇者』はとくにシンプルなので、今後も自信をもってその方向で進んでいくつもりです。見た目よりも使い勝手を向上させていく方向で対抗できればと思っています。ひと昔前のゲームのように、いつまでもプレイヤーが想像して楽しんでもらえたらいいですよね。

――では最後に『ゆけ! 勇者』の今後の展開を教えていただけますか?

八戸 いま『ゆけ!勇者2』を構想中&試作中です。あと、じつはゲーム以外のものを作っていて、数ヶ月以内に色々リリースする予定です。『ゆけ!勇者』に関しては『3』までは作りたいと思っています。

――うわ、楽しみだ!! ぜひ最新情報はファミ通Appまでよろしくおねがいします(笑)。今日はありがとうございました。

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