帰国直前に滑り込み! 『スキタイのムスメ:音響的冒剣劇』開発者インタビュー!

2012-07-03 17:00 投稿

●『スキタイのムスメ:音響的冒剣劇』誕生秘話にクローズアップ

先日行われた日本語版リリースの発表で大いに盛り上がりを見せた『スキタイのムスメ:音響的冒剣劇(以下、スキムス)』。日本での発表会を終え、開発者であるクレッグ氏とクリス氏は、週末には自国へと帰ってしまうと聞きいた我々は「この機を逃す手はねぇよ」とばかりに、帰国寸前の二人を呼び止め、インタビューを敢行! 『スキムス』はなぜ生まれたのか? どんなこだわりが秘められているのか? 根掘り葉掘り聞いてみた。なお、通訳として『スキムス』のローカライズを行ったハチノヨンの代表、源紘子氏にもご参加いただいた。

●日本のゲームに影響を受け、音楽から生まれた大作『スキタイのムスメ:音響的冒剣劇』

ハチノヨン(写真左)
代表
源紘子氏
Capybara Games(写真中央)
クリエイティブディレクター
クリス・パトラウスキー
Superbrothers(写真右)
代表
クレッグ・D・アダムス氏

――独特の雰囲気を持ったゲームですが、どういう経緯で『スキムス』は生まれたのでしょうか?

クレッグ・D・アダムス氏(以下、クレッグ) まず、このゲームは通常のゲームの作り方とはチョット違った形を取っています。たとえば、このゲームを作るうえで、最初から決定していたのは「どういった雰囲気にするか」という抽象的なものと、ジム・ガスリーさんが音楽を担当するということくらいです。「キャラクターがいて、そのキャラクターが謎解きを突破して、洞窟の中に入って、宝物を得て」くらいの構想はあったのですが、具体的なイメージはありませんでした。そこから、この大きな絵を具体化していって、世界観を構築し、アートワークを作り、そして最後にスクリプト、シナリオを作るといった具合です。というのも、開発に至ったコンセプトには「ゲームらしいゲームではなく、リラックスしながら遊べるタイトルを作ろう」というものがあったので。その後、2か月くらいかけてなんとなく出来上がったプロトタイプを、GDC(Game Developers Conference)に持って行きました。プレイした人からは「テキストはないが、音楽からストーリーを感じられた」といった声が寄せられ、かなり評判がよかったんですね。で、そこで集まった意見を持ち帰り、そこからゲームのサイズを決定し、本格的な制作に移りました。

――本作を制作するにあたって、影響を受けた日本のゲームはありますか?

クリス・パトラウスキー氏(以下、クリス) もちろんです。『スキムス』を見てもわかっていただけるんじゃないかと思うのが、『ゼルダの伝説』。あとは、ゲームのムードやキャラクターの個性、女性であるという部分は『メトロイド』に、そのほか『ICO』と『ワンダと巨像』からも雰囲気や色使いの影響を受けています。

クレッグ  『ゼルダの伝説』では、とくに『ゼルダの伝説 風のタクト』からの影響を受けました。水口さんが作られた、SEGAの『Rez』というタイトルからも、リズムコンバットという点で影響を受けていますね。探検のシステムでは『悪魔城ドラキュラ』からの影響が強く反映されています。それと、さきほど『メトロイド』が主人公に影響を与えているという話しましたが、最初は主人公を男にするか女にするか、決まっていなかったんですね。ですが、話し合いを進めるにつれて、そして当時付き合っていた彼女からのインスピレーションを受けるにつれて、主人公は女性にしようと決定したんです。『メトロイド』のサムスもそうですが、彼女は作中で「私は女です」という大々的なアピールはしてませんよね。セクシーなアピールもありませんし。だけど、強い女性というものを感じる。そういった、サムスのクールな生き様や態度というものを意識して、『スキムス』の主人公を作りました。
もうひとつ、私の会社名である、Superbrothersというところからも察していただける通り、『スーパーマリオブラザーズ』からの影響も受けています(笑)。

▲こちらの画面を見るとピンっとくるかも!?

クリス  『メトロイド』を参考にしているとは言ったけれど、『メトロイド Other M(以下、アザーエム)』だけは別ですね。『アザーエム』だけは、女性を感じさせるアピールが多く、従来のシリーズ作とは真逆にあるように思えたので(笑)。

――ゲームをプレイしてみて、音に対する強いコダワリを感じたのですが、『スキムス』にとって音楽とはどういう意味を持っているのでしょうか?

クレッグ まず『スキムス』のプロジェクトを始めるまえから、アーティストのジム・ガスリーさんとは一緒に仕事をしていたのですが、その頃から「彼の曲にイメージを付けたい」と考えていたんです。それで、実際に彼の曲のイメージビデオを作成したりもしました。そういう経緯もあるので、音にはかなり大きなこだわりがあります。GDC用に作ったプロトタイプも、ジム・ガスリーさんが作った曲に合わせたものを作っていますし。音楽だけではなく、効果音に関しても、大きなこだわりがあります。昔『ゼルダの伝説 時のオカリナ』をプレイしていたときの話なのですが、仕事中に、墓地のシーンの音をずっと流して楽しんでいたことがあったんですね。でも、そのBGMがすごく短くて、カラスの鳴き声が頻繁にループしちゃってたんですよ。なので、効果音を配置する際には、ループのタームが長く、音を流しっぱなしにしていても、音を楽しめるように意識して作りました。

クリス 謎解きの部分も音を意識して作りました。作っている中でイメージも結構決まっていたのですが、ソーサリーの部分(※英語版のタイトルは『Superbrothers: Sword & Sworcery EP』)はどう表現しようか考えたときに、「クレッグさんが作ったきれいなビジュアルを、もっと引き立たせて、もっとみんなが注目できるようなものにしたい」という強い想いがあって、謎解きの部分では綺麗なビジュアルに注目を集めることを最優先に考えながら、音で引き立たせるような作り方をしています。

▲謎解きのシーン(ソーサリーモード)になると画面がズームアウトとして、グラフィックの美しさがより際立つ。

クレッグ  『スキムス』を作るうえでの最終目的として「みんなに楽しんでもらう」というのは、もちろんあったのですが、もうひとつのテーマで「ゲームを楽器に変える」というものがあるんです。これは、宮本茂さんもおっしゃっていたことなんですけど、それを我々も実現しようと思い、作ってみたという側面もあります。

――英語版が配信されて約1年後に日本語版がリリースされましたが、そもそも日本語版を出そうと思ったきっかけは何だったんですか?

クレッグ 色々な言語にローカライズして、たくさんの人に遊んで欲しいとは常々思っていたのですが、スクリプト、言い回しが独特な英語だったので、ちゃんと翻訳してもらえるのか、ちゃんと翻訳できる人がいるのかが、未知数だったんです。それと、コストの部分がネックでもあったんですね。そこで、ハチノヨンさんが単純なビジネスではなく、パートナーとして名乗りをあげてくれたんです。「これを訳してください」「わかりました、○○円です」というビジネススキームではなく、「翻訳して、お互いに頑張って売りましょう。売れたら私たち両方ともハッピー」というビジネスモデルを取ってくれたんです。いっしょに作り上げてくれるというモデルに喜びを感じて、ハチノヨンさんに依頼をしました。それに、ハチノヨンに務めているマークとは昔からの知り合いなんです。というのも、マークは昔アメリカのゲームメディアで働いていたんですよね。それと、先ほども申し上げた通り、『スキムス』は、日本のたくさんのゲームに影響を受けて作られたものなので、日本の人たちにも受けてもらえるという自信があったんです。なので、日本語へのローカライズはぜひしてみたかった。それになにより、日本語へのローカライズが叶えば、『ICO』、『ワンダと巨像』の上田文人さんだったり、宮本茂さんだったり、『メトロイド』の田中宏和さんだったり、日本の著名なクリエイターさんたちにも遊んでもらえるわけで。今は、夢が実現した気分ですよ(笑)。

――ローカライズでは、「シカト」や「ビビる」といった現代風の言い回しがたくさん使われていますが、これは元々の英語版のテイストを活かした結果なのでしょうか?

クレッグ それに関しては、まずシナリオの作成に関してからお話しますね。最初に、シナリオの草稿を書いてみたのですが、それがシリアスすぎて、シナリオが重くなりすぎてしまったんです。そこで、小島秀夫さんが書く『メタルギアソリッド』のスクリプトのように、シリアスの中にジョークを入れてみたんです。そうやって草稿を作り直しを繰り返した結果、シリアスと気のヌケタ部分とのコントラストが生まれたんですね。プレイヤーの中には、もっとシリアスなものがよかったと言う人もいるのですが、音楽、ビジュアル、ゲームのテーマがシリアスなものに仕上がっているので、スクリプトを軽いものに仕上げました。もともとある重いメッセージを、プレイヤーに重いまま渡したくなかったので、ライトな部分を含めるために、このような形をとっているんです。クレッグ それともうひとつ。ゲームの中にはアーキタイプという名のキャラクターが登場するのですが、彼は心理学者で、とても現代的なキャラクターです。その一方、主人公は剣と盾を持って、洞窟の中に向かっていくような古き良きアドベンチャー要素を体現しています。この古き良きアドベンチャーゲームの要素と、現代人との共演で表現できるものを表したく、こういったユニークなスクリプトを組んでいます。
▲彼がアーキタイプ。プレイヤーを物語へと誘うストーリーテラーでもある。

――なるほど。いま、世界でのダウンロード数はどれくらいなのでしょう?

クレッグ iOSだけだと約40万ダウンロード、PC版だと60万ダウンロードを記録しています。ただ、PC版は、ほかのゲームと一緒になったパックとして販売されたので、買った人すべてが『スキムス』を遊んでいるわけではないと思いますが……。とにかく、ダウンロード数の累計では約100万です。

――それはすごいですね! それだけのダウンロード数があると、続編を望む声も多いんじゃないでしょうか?

クレッグ もともと、プロジェクト自体が一本で完結させることを目標に動いたものですので、続編のリリースはありません。音楽から始まったプロジェクトという側面もあるので、強いて言うなら、個人的には今回発売されるリミックスアルバムが続編だと思います。それに、これからしばらくは、クリスさんのCapybara Gamesも、私のSuperbrothersも別々に活動をしようと決めているので。ただ、いま私が作ろうとしている作品には、今作『スキムス』のスピリチュアルなものが引き継がれているかと思います。きっと、Capybara Gamesさんが作るつぎの作品もスピリチュアルな部分では引き継いでいくものがあるかと思いますので、それらを楽しんでもらえればうれしいです。

――より多くの人に遊んでもらうために、Android版の『スキムス』をリリースする予定はないんですか?

クレッグ  『スキムス』は、iPhone用ゲームを作ろうという念頭の元に、作られたものなので、Androidで出す予定はありません。より多くの人が遊べるようにと、PC版をリリースしているというのもあります。iPhoneもiPadもPCもなく、『スキムス』が楽しめないという人には、音楽を聴いて『スキムス』の世界観などを味わってもらえればと思っています。

――最後に、本作を通じてプレイヤーに伝えたいことを教えてください。

クレッグ ビデオゲームというものは、音楽や本のように、自分の心と近しくなれるような存在でもあり、映画や書籍のように、知的な存在にもなりえるもの。それに、伝えたいメッセージがシリアスであったとしても、そこにジョークを交えてもいいものだと思っています。なので、みなさんにもそういった一面を感じ取ってほしいですね。

クリス 僕もそうだし、みなさんもそうだと思うのですが「小さいときに楽しめたゲームでも、今は昔と同じように楽しめなくなってしまっている」という現実がありますよね。『スキムス』は、そういった中でも楽しめるものを、大人のゲームプレイヤーでも楽しめるようなものを作ろうと、強く意識して仕上げた作品です。なので、大人のかたに遊んでもらいたいです。そして、『スキムス』にはクリエイターさんに向けたメッセージも含まれているんです。『スキムス』はたった5人の小さなチームで作りました。いまはダウンロードでゲームを提供できるという環境が整ってきていていて、小さなチームでもゲームを作れるんです。少人数なら個人の想い込めた作品を作りやすいですし、コストも低く抑えられるので、売上目標も高く設定しなくていい。そういう意味でも、いまの市場はとてもおもしろい時期だと思うんです。小さいチームでも、プロダクションのクオリティはグッと詰め込むことができますし、みなさんにも挑戦してみて欲しいですね。

スキタイのムスメ:音響的冒剣劇

メーカー
Capybara Games
配信日
配信中
価格
450円[税込]
対応機種
iPhone、iPod touch および iPad 互換iOS 3.2 以降が必要

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