スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第十回 「スマゲ事変勃発」
2012-02-27 12:14 投稿
●第十回 「スマゲ事変勃発」
ちょうど去年の今頃。国内のAppStoreにおいて衝撃的な事件がありました。セガの『KingdomConquest(キングダムコンクエスト)』とアドウェイズの『カイブツクロニクル』の登場。この二タイトルは一気にトップセールスのチャートを駆け上がり、いまだにTOP10圏内に君臨しています。こうした流れにより、国内のスマートフォンゲームの主力市場が一気に“基本無料+都度課金”、いわゆるF2P(Free To Play)のビジネスに転換しました。あれから一年。今やトップセールスランキング100位の約75%がF2Pモデルです。一年前に同じく勘定したときは25%くらいだったので、ガラッと変わってしまったという表現が適切でしょう。
2010年の年間トップセールスが、カプコンの『ストリートファイターIV』。2位は僕が手がけた『ケイオスリングス』で3、4位も当社の『FFI』『FFII』でしたから、前述2タイトルの登場直前までは、まさに売り切りアプリの全盛期。売り切りアプリの代表格を手掛けた当事者ゆえに、『キンコン』『カイブツ』の登場はまさに“事変”と呼べるほどショッキングなものでした。何といっても僕の想定よりも半年くらい早い登場だったのが驚きでした。特に『キンコン』の本格的な内容にはビビったなー。
そして現在、2012年2月。日本のAppStoreに再び大きな変化が起こっています。いよいよ始まった2012年の“スマゲ事変”。この数週間で本当にいろいろな動きがありました。で、今回の事変のポイントはどこなのか? ざっくりと独断のランキング形式で、まとめてみました。
■第五位 『ねじ巻きナイト』基本無料+都度課金へまさかの変身!
スマホ持ってる人ならば、一度はやってほしい強制横スクロールアクションの名作『ねじ巻きナイト』(アメリカのROBOT invader社の作品)が、170円売り切り(Androidは元から基本無料)モデルから、F2Pモデルへと変身。アメリカでもすでにランキング上位のほとんどがF2Pモデルですので、これも象徴的な事件ですね。売り切りアプリとF2Pアプリでは初期設計の仕方が違うので、後からこういった再設計をするのは意外と難しいのですが、本作は前述の通りAndroid版で着々とその準備をしていたタイトルでした。売り切り時代に既に100万DL以上の実績がある同タイトルの売り上げが、どう変わっていくのかに期待。ちなみにこのゲーム、ファミ通Appのイチオシゲームでした。最近では『Fantasy×Runners』もおもしろかったし、ファミ通App編集部のアプリ目利きは信頼できると思いますよ。
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■第四位 『三国志コンクエスト』リリース! コンクエストもの百花繚乱か?
『キンコン』の次は『サンコン』登場! 切り口や世界観が変わるとゲームへのモチベーションも変わるという好例ですね。特にアクションシーンは『三国無双』っぽく感じられるという不思議。洋ゲーチックな『キンコン』はちょっと……という歴史好きにはたまらん感じでランキングでも健闘していますね。それにしても前回取り上げたグリーの『ドラゴンアーク』といい、プレイステーション Vitaで発売予定の『サムライ&ドラゴン』といい、まさか『キンコン』のシステムが“カードバトル系”のようにバンバン横展開されるとは……。けっこう独特のシステム故に驚きです。でも、よく考えてみるとブラウザゲームでも『トラビアン』以降、『ブラウザ三国志』そして当社の『戦国IXA』など、都市育成&領土拡大シミュレーション、いわゆる“村ゲー”はたくさん切り口を変えてリリースされています。『キンコン』も、育成パートはまさに“村ゲー”ですから横展開に向いているのかも知れませんね。いったい次は『何コン』?(戦国コンクエストに1万ガバス)
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■第三位 『Infinity Blade Cross』、Mobageより登場! その意外なる盲点
ついに出た。家庭用ゲーム機級グラフィックスとソーシャルゲームの“積集合的”コンテンツ。ありもののゲームをソーシャル化したとは言え、SNSゲームにも遂に“アンリアルエンジン”が導入されているかと思うと新世代到来な感じがあります。それにしても『Infinity Blade』をソーャルゲームのクエストによくぞレベルデザインし直したなーと思います。クレジットを見ると日本の開発会社イニスが創ったようですね。コンシューマーで『Lips』『押忍!闘え!応援団!』などの名作音ゲーを手掛けた彼らが、家庭用ゲーム機制作のノウハウをもってして実現した見事な再構築だと思います。
今のところセールス的にはまだまだこれからのようですが、レビューを見ると衝撃のコメントが。「300円のガチャガチャを2回引くと、本家『Infinity Blade』が買えます」……! 確かにそうだけど、これって「たばこを80歳まで吸い続けると、手頃なマンションが買えます」的な? いや違うか。“本家”があのクオリティーで500円という思わぬ相対的評価のジレンマに、あらためて“ものの価格”について深く考えさせられました。『Cross』と“本家”はまったく違うサービスなんですが、そう思うお客様がいる以上、きちんと対応を考えていかなければいけないのが最新型スマゲサービスです。
と、まだまだ手を入れるところはありそうですが、スマゲ黎明期によくぞこのスピードで、あの内容のものをリリースしたことに最大級のリスペクトです。僕も“家庭用ゲーム機の良さ×ソーシャルゲームの良さ”を同じく標榜していますので、勝手に同志と思って今後も期待して遊びたいと思います。どんどんおもしろくして、このクオリティーの延長線上にあるものがみんなに愛されなければ……困る!
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※『Infinity Blade Cross(インフィニティ・ブレード・クロス)』がMobageで配信中!
■第二位 『真・戦国バスター』『関ヶ原演義』など、側(がわ)ネイティブ全盛!
去年の夏(確か2011年7月末あたりだったと記憶しています)に『探検ドリランド』がAppStoreに登場し、長らく王座に君臨していた『キンコン』『カイブツ』からトップの座を奪取したのは、去年下半期のスマゲ事変として印象的なトピックでした。側(がわ)ネイティブ(詳細は第九回を読んでね)がイケると見るや、やはり半年以内でやってきました側ネイティブの攻勢。上記タイトル以外にも『不良道~ギャングロード~』などがトップ10圏内に入ってきています。
個人的には、「本格的なゲーム表現がなされたアプリに慣れ親しんだお客様に、ガラケーの延長線上にあるゲームは、そこまで受けないのではないか?」「ドリランドのアプリでの成功は、ガラケーでも圧倒的な登録数を誇るモンスタータイトルなので例外じゃないのか?」と思っていたので、側ネイティブのここまでの大健闘は予想外でした。
改めて時間を拘束するタイプの“ガッツリ遊ぶゲーム”と、空いている時間に差し込める“ながらゲーム”とではプレイ用途も、顧客層も全然違うことがハッキリした格好。ビジネスマン安藤としては四の五の言わずに創っときゃよかった。一方、ゲームプロデューサー安藤としては“もっと本格的なゲームで、楽しませたい”という気持ちも大。(故に『Infinity Blade Cross』には首位を取ってほしかった) でも結局、この二者は質も違えば、『どっちもプレイ用途に合わせてアリ』なので、第七回に書いたように、お客様が求める限り、できる人はどっちもやるっていうのが、現時点での“ひとつの答え”なんでしょうね。
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■第一位 これが次世代型スマゲ? 『パズル&ドラゴンズ』開始3日で首位奪取!
そんな中、今までとは少し違うアプローチで鮮やかに時代を切り取って見せたのが、この『パズドラ』。ブラウザベースのSNSゲームの良さとネイティブアプリの良さを、実に絶妙なバランスで融合させています。ガンホー・オンライン・エンターテイメントは『ケリ姫クエスト』でも、売り切りアプリの良さと都度課金の良さを模索した良作をプロデュースしていましたから、これらのチャレンジが遂に、しかも一気呵成に結実した感じですね。実際、このアプリはとてもおもしろいです。『ビジュエルド』的パズルと『ドラコレ』的ソーシャル。しばらくは、このくらいの塩梅の組み合わせの作品がどんどん増えそうですね。『パズドラ』は組み合わせだけではなく、システムやバランスのデザインも秀逸で、やはり“おもしろくないと支持されない”のは不変ですね。
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いよいよ、今年も本格的に変貌を見せ始めたスマゲ市場。近々、スクウェア・エニックス“チーム安藤”も第二次スマゲ事変を起こすべく参戦します。業界全体でグーの音も出ないくらい、おもしろいゲームを、携帯電話で創っていきましょう。負けませんよ!
■追伸
前回、土田さんへの熱い思いを書きましたが、早速「よかったらお食事でもご一緒にどうですか?」とのお返事が。さすがレジェンドクリエイター。このスピード感こそ、スマゲ☆革命! 超・絶・エキサイティング!
つづく
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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