モンスターたちの{起源/オリジン}最終回:大きくてこそモンスター!想像を絶する巨人たちの伝説
2018-11-08 18:00 投稿
世界はでかい巨人から出来た
数々のモンスターの起源を取り上げてきた本連載。今回のテーマは、巨人! それもただの巨人ではない、世界を作った巨人たちに焦点を当てていく。
さて世界中に神話として語り継がれている物語には、共通点がいくつもある。大洪水などの天変地異が等しく記されていたり、同じ特徴を持つ賢人がまったく別の時期、地域で知恵を授けてくれたりといった内容がそれだ。
このような、各神話が持つ共通点という話は挙げだしたらキリがないが、巨人が世界の基礎となったという話もまた、世界中に存在するものである。これは死体化生神話と呼ばれるジャンルで、原初の神や、それらに討伐されたモンスターの体、またはその一部が世界や動物を作ったという神話である。
連載第19回で紹介したティアマトも、その一種だ。
巨人だらけの北欧神話世界は巨人ユミルから出来た
北欧神話に登場する原初の巨人ユミルの物語もこのタイプになる。
世界の始まり、ギンヌンガ・ガップと呼ばれる世界のはざまから、原初の巨人ユミルは生まれた。ニヴルハイムの氷の中から生まれたとも、ニヴルハイムの冷気とムスペルヘイムの熱気の交わるところに生じたとも言われる。いずれの場合も、ユミルは原初の牛と言われるアウズンブラの乳を飲んで暮らしたとされている。
“原初の巨人”という割には、牛の方が先なんだな……。
やがて、ユミルの体から霜の巨人族が生まれ落ちた。しかしこの生まれかたは非常に妙である。
ユミルの左の脇の下から男女が生まれたとか、彼の足と足のあいだから、6つの頭を持つ息子が生まれたとか。これが霜の巨人族たちの発祥らしいのだが……。二本の足の間に息子が出来たって、どんなシモネタですか? 霜の巨人だからいいのか?
ともあれ霜の巨人たちは、ユミルの毒気を受け継いだ邪悪な者どもだった。彼らはユミルのことをアウルゲルミルと呼んだ。これは「耳障りにわめき叫ぶ者」という意味である。生みの親を耳障りとは、なんか反抗期を迎えた子ともみたいだ。
その後、原初の牛アウズンブラが塩っぱい氷を舐めていたら、そこから若い神ヴーリが現れ、その孫に当たるオーディン、ヴィリ、ヴェーの三兄弟がユミルを殺して、この世界を飾り立てたという。
さらに、ユミルが死んだとき、溢れ出た血潮が大洪水となって大地を覆い、霜の巨人たちは溺れ死んだとされている。生き残ったのは石臼にしがみついたベルゲルミルとその妻だけだったそうだ。
血潮の洪水で邪悪な巨人が絶滅とはスケールがでかい。ついでに、大洪水神話も巨人ユミルのせいになっている。完全にオーディン、ヴィリ、ヴェーのせいなのに……。
中国の神話世界も巨人・盤古から出来た
巨人神話というと、どうしても北欧神話などが注目されがちだが、じつはアジアにも似たような話があるのだ。
中国に伝わる創生神話に出てくる盤古の話である。この話では、最初に天地がくっつき、天の陽気、地の陰気が交わり、巨人の形をなしたとされている。これは天地が交配した結果と解釈する説もあるが、その真相は不明だ。
しかし、天地がずっとくっついていては、狭苦しかろう。それを解決した存在こそ盤古である。盤古は生まれてから毎日、すくすくと成長し、天と地のあいだを押し広げていったのだ。
その成長のスピードはすさまじく、盤古は1日に9回姿を変えながら、毎日1丈ずつ成長していったという。1丈とは、古代中国で使われていた長さの単位で、約180センチ。10尺に当たる。つまり、1日に2メートル近く成長していったというのだ。
ちょっとうらやましいな。いやそうでもないか。1週間後にはガンダムにも迫ろうという身長になってしまう。それだと目立ってしょうがないな。
盤古が誕生してから1万8千年が過ぎたころ、盤古の身長は9万里にまで伸び、こうして天地が大きく離れたという。
ちなみに古代中国では1里は約400メートルとされている。9万里と言うことは、このとき盤古の身長は3万6000キロメートルだったということだ。あれ、これ大気圏から軽く飛び出てない?
ともあれ、そんな盤古にもある日死が訪れる。盤古が死ぬと、その体は万物になった。左右の目は太陽と月になり、息は風に、声は雷に、手足と体は山に、血液は川に、肉は土に、骨は金属になったという。つまり、世界の万物は、盤古から生じたのである。
サイズがデカけりゃスケールもでかい。しかし、巨人の死体が世界を作るという神話は世界中にあるのだな。ということは、もしかしたらこれは事実という可能性も……? いや、やめておこう。
モンスターはでかい
さて、ここまでモンスターたちの起源を語ってきたが、じつは今回がひとつの区切りとなる。最終回だ。ということで、最後に、“モンスター”という言葉の起源をさかのぼってみよう。
モンスターという言葉は、ラテン語の怪物、魔物に端を発するもの“モンストロ”から来ているとされている。これは驚愕するような、グロテスクな怪物を指す言葉だ。またその語源としては、“見せる”や“出現する”、“警告”や“予兆”という意味合いもある。
より詳しく見ていくと、だいたい、以下の意味になる。
1.不運を警告する神の啓示、良くない予兆、警告
2.サイズや形状が異常な存在
3.恐怖や驚愕を引き起こすような存在
この連載から言えば、2と3の要素から、それが“モンスターかどうか”が決定されると言っていいだろう。“デカくて、異常な姿でこわくてヤバイやつ=モンスター”というところである。
さらにモンスターの起源をたどると、不吉な出来事を示す神々からの知らせとしてのモンスター像が浮かんでくる。災害の前に、怪物たちが出現し、人々に警告を与えたのである。考えかたによっては、モンスターにはモンスターとしての存在意義があったも言えるだろう。
いかがだっただろうか? 人の想像が生んだ怪物、モンスターにはそれぞれ起源があり、現代イメージされるそれらとは大きく姿が異なっていたのである。
べつに起源があるからどうという話ではないが、今後スマホゲームで新しいモンスターが登場したとき、これはもともとどのような存在だったのか、と想像を働かせてもらえるとうれしい限りだ。
おまけの4コマ
4コマ作:海野なまこ
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文:朱鷺田祐介
【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】
TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『シャドウラン 5th Edition』、『エクリプス・フェイズ』。その他の著書に『クトゥルフ神話ガイドブック』『魔法使いの嫁 公式副読本 Supplement Ⅱ』『超古代文明』『図解巫女』など。毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。
朱鷺田氏翻訳の最新TRPGルールブック『シャドウラン 5th Edition (Role&Roll RPG)』発売中。
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