モンスターたちの{起源/オリジン}第21回:ハロウィーンのランタンに使われていた野菜はカボチャではなく、カブ!
2018-10-25 18:00 投稿
キリスト教の祝祭“ハロウィーン”はケルト由来
ハロウィーンの季節がやってきた。さあ、子どもたちはおばけの格好をして家を回り、こう叫ぼう!
「トリック・オア・トリート!(お菓子をくれなきゃいたずらするぞ!)」
いつの間にやら日本でも定着した(と言っても日本のそれは西洋のものとはニュアンスが違うが)ハロウィーンは、キリスト教文化圏ではこうしたフレーズを口にする、お化けに扮した子どもたちがうろつき回る日となっている。
しかしよくよく考えてみれば、よくわからないイベント(?)だ。いったい、ハロウィーンとな何なのだろうか? まずはそこから紐解いてみよう。
ハロウィーンとは、キリスト教の祝祭で、万聖節の前夜を指す。
ローマ帝国がローマ神話の神々からキリスト教に改宗したことを祝う祭りで、本来は5月の祭日だったのだが、いつのころからか11月1日に移され、すべての殉教した聖人のための祝祭日になった。英語では「オール・ハロウズ・イヴ(すべての聖人の祝祭の前夜)」といい、これがなまってハロウィーンになったのだ。
……ということになっているが、実際には、キリスト教の祝祭というのは後付けに過ぎない。そう、これもまた異教徒を取り込むために、異教の文化をパクって作った祭日なのである。
では本来はどんな祭日なのかと言うと、ヨーロッパに古代から住んでいたケルト民族のお祭りである。ケルト文化ではサウィン祭りといい、冬の始まりを告げるお祭りだったのである。
ヨーロッパ版のお盆?万聖節には死者が帰ってくる。
そんな冬の始まりを告げるお祭りが、なぜ子どもたちがおばけの格好をして歩き回るの日となったのだろうか?
それは万聖節の翌日、11月2日が死後、煉獄で審判の時を待っている死者の魂のために祈る日、万霊節(オール・ソウルズ・デイ)とされているからである。
キリスト教では、人が死ぬとその魂は天国や地獄に直行するのではなく、まず煉獄に送られ、最後の審判の日が来たときに、清らかな魂だけが神の身元へと送られるとされている。そのため、キリスト教徒たちは、死者の魂が浄化されるようにこの日に祈りを捧げるのである。
それと同時に、煉獄にいる死者たちも、万霊節には地上に帰ってきて故郷や生家を訪れることが許される日ともされている。この死者を迎え入れるために、鐘を鳴らしたり、明かりを灯したり、パンやミルクを用意したりする。
季節の違いこそあれど、やっていることは日本とお盆によく似ている風俗だ。
またこの日はこうした祈りを捧げるほか、死者の魂を供養するために霊のパンを焼き、子どもたちに配るという習わしもある。このとき子どもたちが死者たちの代役を務めるので、おばけの仮装をするのだ。これが、ハロウィーン文化の根幹である。
しかし最近では大人も参加するコスプレ大会になっており、お化けつながりで、ゾンビや吸血鬼、フランケンシュタインといった現代的なホラー映画のモンスターに仮装する人から、ホラーとはまったく無縁なキャラクターやヒーローに扮する人も増えてきている。
ランタンのおばけは、本来はカブ?
さてさてハロウィーンとは何かを確認したところで、モンスターの起源に迫っていこう! 今回テーマとなるモンスターは、カボチャのランタンでもおなじみ“ジャック・オ・ランタン”。
“ジャック・オ・ランタン”は、アイルランドやスコットランドの沼地でよく見られる鬼火の妖怪“ウィル・オ・ウィスプ”の一種。沼地の瘴気に火がついた現象とも言われ、地方によってはイグニス・ファティウス、シルハムのランプ、エルフの火などとも呼ばれる。
日本では、人魂と呼ばれている怪異だ。
これらの現象には、しばしばさまざまな説明がなされるが、伝承によればジャック・オ・ランタンは、死んだ男の魂だとされている。
具体的には、つぎのようなストーリーがあり、それをモチーフにした妖怪である。
ジャックという名前の農夫が、「地獄にいかないで済むように」という内容の契約を悪魔と結んだのだが……。生前悪行を働いていたジャックは、死後、契約通り地獄にこそ行かなかったが、天国に行くことも許されなかった。
こうして、ジャックの魂は地上に戻り、鬼火となって居場所を探し、さまようことになった。ちなみに、ジャックはそのとき悪魔からもらった燃える石炭を、くり抜いたカブに入れて提灯のように持っているという。
カブ……? カボチャじゃなくて?
と思われるかもしれないが、そもそも、カボチャはアメリカ大陸原産で、大航海時代の前のヨーロッパには存在しない。
つまり、それ以前は別の植物で作っていた訳で、それがカブだったのだ。
カブと言っても、日本のスーパーでよく見るような小さいものではない。ここで言われるカブとは、人間の頭部ほどの大きさがある大型の品種で、西洋カブ、または、ルタバガ、ニープなどと言われるているものだ。
なお、現在のようなカボチャランタンとなったのは、アメリカ大陸に移民したアイルランド人が、アメリカ大陸にはないカブの代用品として、現地のカボチャで代用したためである。
しかしいまになって思ってみれば、カブの白い頭の方が怖いかもしれないね。ゲーム世界のカボチャ頭“ジャック・オ・ランタン”ってだいたいカワイイものが多いし。
おまけの4コマ
4コマ作:海野なまこ
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文:朱鷺田祐介
【朱鷺田祐介(ときた・ゆうすけ)】
TRPGデザイナー。代表作『深淵第二版』、『クトゥルフ神話TRPG比叡山炎上』。翻訳に『シャドウラン 5th Edition』、『エクリプス・フェイズ』。その他の著書に『クトゥルフ神話ガイドブック』『魔法使いの嫁 公式副読本 Supplement Ⅱ』『超古代文明』『図解巫女』など。毎年、ラヴクラフト聖誕祭(8月20日)および邪神忌(3月15日)に合わせたイベントを森瀬繚氏と共同開催している。
朱鷺田氏翻訳の最新TRPGルールブック『シャドウラン 5th Edition (Role&Roll RPG)』発売中。
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