バンナムとドリコムの新会社BXDの社長を直撃!HTML5が生み出す新たなゲーム体験とビジネスモデルとは?
2017-08-10 18:30 投稿
手塚晃司氏に聞く、BXD設立の意図と展望
バンダイナムコエンターテインメントとドリコムの共同出資による新会社BXDが2017年8月3日に設立された。BXDは、HTML5を中核とする技術を活用したオンラインゲームおよび配信するプラットフォームの開発・運営を行う新会社だ。バンダイナムコエンターテインメントのIP(知的財産)プロデュース力と、ドリコムのHTML技術力を活かすとのことだが、その狙いについてBXDの社長に就任した手塚晃司氏に話を聞いた。
手塚晃司氏
『ドラゴンボールZ 』や『機動戦士ガンダム』など、人気IPのゲーム開発を手掛けるバンダイナムコエンターテインメントのプロデューサー。8月3日より、新会社BXDの代表取締役社長に就任。
ドリコム×バンナム HTML5を活用したゲーム開発・運営の新会社設立を発表 |
新会社BXDを設立した理由
――さっそくなのですが、新会社BXDを作ることになった経緯をお教えください。
手塚晃司氏(以下、手塚) そもそもバンダイナムコエンターテインメントは、ドリコムさんとは、もう5~6年くらい事業をいっしょにやらせていただいていて。内藤社長(ドリコム代表取締役社長・内藤裕紀氏)ともお話をさせていただく機会も多かったのですが、そんな中で「ソーシャルゲーム、ネイティブアプリ(※端末のマーケットプレイスからソフトをダウンロードして遊ぶアプリ。アプリの演算処理は端末内で行われる)ときて、スマートフォン市場でつぎにくるのはいったい何か?」という話をしたことがありました。
――興味深いお話ですね。
手塚 ええ。そこでもいろいろなものが候補に挙がっていたのですが、ちょうどそのころ弊社が研究をしていたHTML5に関する話をしたら、ドリコムさんも研究をなさっているとお聞きしまして。それで「どうせならいっしょにやってみましょうか」となったことが、HTML5を使った新規ゲームプラットフォームを提供する新会社BXDを設立することになった、いちばんのきっかけになります。
――BXDという社名にはどんな意味が込めれているのでしょうか?
手塚 Breakthrough X Digital lifeの頭文字を取ったものなのですが、Xには未知のものという意味があります。HTML5という技術を使い、“未知なるデジタルライフにブレイクスルーしていく”という理念を社名で表しています。
――「つぎに来るのはHTML5だ!」と思われた理由をお聞かせいただけますか。
手塚 いや、とくにHTML5に特化して研究をしていたわけではないんですよ。来るか来ないかはわからないけれど、可能性があるものは全部やるというのが我々のスタンスなので(笑)。何か特定の技術によらず、広く構えていた中のひとつ、という感じですね。
――ちなみに、共同開発や業務提携ではなく、ドリコムさんと新会社を設立した意図は、どのあたりにあるのでしょうか。
手塚 やはりスピードが大事な市場ですので、とにかく意思決定を早くしたかったという意図がありました。2社で分かれて事業を進めようとすると、各社それぞれで稟議を通して、それぞれの社内の意見をすり合わせて……というプロセスが入ってしまい、どうしても動きが遅れてしまいますので。
――それほどに意思決定のスピードを重視されているのですね。目指すところは、HTML5ゲームのプラットフォーマーとして成功する、ということになるのでしょうか。
手塚 そういった一面もありますが、そこよりも先に立つのは、新しいゲーム体験をお客様にお届けするということですね。新しいプラットフォームを立ち上げるということを全面的に打ち出すつもりはあまりなくて。たとえば、新しいゲームを遊ぼうとするごとに会員登録をしていただくより、ひとつのIDで遊べたほうが気軽じゃないですか。そんなふうに、ユーザー視点で考えていった結果、プラットフォームを共通化したほうがよいだろうと考えるようになりました。
――IDを取得するための会員登録は、ゲームを遊ぶ前に必ず必要になるのでしょうか。
手塚 基本的には会員登録をしなくても遊べるようになっています。遊んでいただく過程で、データを取っておきたい、課金をしたいと思ったタイミングで会員登録をしていただければと。そのタイミングもゲームによって調整していきたいと思います。
HTML5で実現する新たなゲーム体験とは?
――新しいゲーム体験とは、具体的にはどういったものになるのでしょうか。
手塚 いくつかありますが、ネイティブアプリなどと比較して大きく異なるのは、友だちとゲームのおもしろさを共有できるまでのスピードでしょうね。これは劇的に違います。ネイティブアプリは、友だちにオススメされてから、ストアで検索、ダウンロード、インストール、そして初期アセットのダウンロードが入って、そこでようやくプレイにたどり着くので、どうしてもおもしろさを感じるまでに時間がかかってしまいますよね。
――たしかに、最近のリッチなものだと10分以上かかってしまうこともザラですね。
手塚 それがHTML5を使ったブラウザゲームになると、URLにアクセスするだけで遊べるので、ダウンロードの時間が不要になるわけです。もちろん、その場で検索してもいいですし、LINEなどにURLを貼ったり、QRコードなどを使って簡単に家族や友だちとゲームを共有して、遊ぶことができると。
――最近のネイティブアプリは、協力・対戦プレイをウリにしたタイトルが非常に多いですが、HTML5でも実現できるのでしょうか?
手塚 可能です。作り方にもよるのですが、ターン制のものでしたら、相互のコマンドを読み取って反映させていくだけですので。協力プレイも同じですね。URLを共有すれば、すぐに同じクエストやバトルに駆け付けることもできます。
――なるほど。それは便利ですね。しかし、HTML5を使ったブラウザゲームというと、現状ではかなりカジュアルなゲームというイメージが強いです。このマーケットで、多くのプレイヤーが熱狂できるリッチなコンテンツは作れるのでしょうか。
手塚 確かにそうしたイメージは強いですよね。ドリコムさんと一緒にここ数年のあいだに行ってきたHTML5の技術開発は、まさに「どうすればリッチな表現ができるか」という点に重きを置いてきました。そして、その研究成果として発表したのが、先日行いました発表会でもお見せした『ワンピース トレジャークルーズ』(以下、『トレクル』)などの弊社ゲームのHTML5移植版というわけです。研究の結果、2Dのネイティブアプリであれば、HTML5でほぼほぼ完全に再現できるようになっているので、リッチなコンテンツも作れます。
――では、3Dのゲームに関しては、まだ研究段階ということでしょうか。
手塚 3Dのゲームに関しても、完全とは言えないまでも、ある程度の再現は可能になりました。いま、いちばんのボトルネックとなっているのは、端末のスペック不足です。ですがそれも、性能が足りないため描画が満足にできないという状態ですので、今後端末の性能が上がっていくに連れ、この問題は解決していくのではないかと考えています。
――ゲームがリッチ化すると通信量も気になるところです。
手塚 そこはしっかり対応しています。たとえば、キャッシュをうまく使って再読み込みの数を減らしたり、データのダウンロードを分散させたり、そういった技術開発をしてきました。ですから、月間の通信量はネイティブアプリとさほど変わりません。当然これからも、できるだけ容量を軽くできるようにと調整を続けていくので、ご安心ください。
――ゲームのレスポンスの面はいかがでしょう? とくにアクション性が高いゲームとなると、レスポンスのよさも求められます。
手塚 実際見ていただいたほうが早いのですが、レスポンスも問題ありません。『トレクル』にはリズムゲームの要素も入っているのですが、そこも完全に再現できて、問題なくプレイできるようになっています。
(発表会でデモプレイが紹介されたHTML5版『トレクル』を5分ほど試遊)
――確かに、触ってみるとキャラのアクションや挿入される演出が想像以上に滑らかで、ネイティブアプリ版と感触が変わらないですね! この感触が実機でも再現でき、友だちにもすぐに共有できるとなると、新たなゲーム体験になる気がします。ちなみに、セーブに関してはどうなるのでしょうか。
手塚 それも、いまのネイティブアプリのゲームと変わらないですね。HTML5のゲームでも、サーバ側でつねに最新の進行状況を保存できますので、セーブも問題ありません。
ブラウザゲームで実現する新たなIP戦略
――BXDさんが提供されるゲームは基本無料とお聞きしているのですが、マネタイズはどのように行っていく予定ですか?
手塚 いまの主流であるゲーム内課金が最初の柱になりますが、BXDではまったく新しいビジネスモデルの創造も考えております。
――それはどんな内容なのでしょうか。
手塚 バンダイナムコグループは、ゲーム以外でも、フィギュアやカードなどのグッズ、店舗サービスなど、さまざまなコンテンツを提供しておりまして、それらと連携したモデルとなります。たとえば、お客様が実際に購入できるジュースやお菓子にコードを付け、そのコードを読み取ったらゲーム中に活かされるといった仕組みですね。
――なるほど!
手塚 バンダイナムコエンターテインメントが得意とするIPを活用したビジネスのノウハウを使ってゲームマーケット外に多くのタッチポイントを作り、集客や収益につなげられればと。これは、既存のネイティブアプリでは、実現しにくいビジネスモデルなのですが、ブラウザゲームでは実現可能です。これもまたHTML5の利点ですね。
――既存のゲーム内課金と合わせて、ゲーム外からの課金を収益のひとつとしてシステムを作っていくというわけですね。
手塚 はい。現実に売られている商品の購入が、ゲーム内にも活きるという部分を新しいビジネスモデルにしていきたいと考えています。そしてこれは、IP商品の扱いに慣れた弊社ならではの施策ですので、他社にはマネできない大きな強みにもなると信じています。
――マネタイズでもあり、IP戦略の新たな形ということでもあるのですね。
手塚 はい。イメージとしては、HTML5のゲームがひとつのハブとなって、いろいろな商品をつないでいくという形になります。これが実現できれば、「こういったタイプのお客様は、こういった商品を好む」といった、ある種のビッグデータも蓄積されるので、それを使った商品開発も考えられると思います。ニーズに合わせた商品開発を進めていく助けにもなるシステムとなれば、お客様にとっても有用性のあるツールに成長できるのではないかと期待しています。
プラットフォームにはサードパーティーの参加も?
――BXD設立発表会では、「移植はしない」という旨の発言をなされていましたが、これはアプリでもブラウザでも遊べるという形にはしないということでしょうか?
手塚 そうですね。そもそも、ゲーム体験としてネイティブアプリとは違うものを目指しておりますので、今のところアプリでもブラウザでも遊べるというタイトルを作る予定はありません。
――同じく発表会で、『ドラゴンボールZ』、『ファミスタ』、『アイドルマスター』の新作3タイトルを2018年春にロンチリリースするという発表がありましたが、プラットフォーム内で他社タイトルを扱う予定はあるのでしょうか?
バンナム×ドリコムの新会社“BXD”が『アイマス』や『ファミスタ』、『ドラゴンボール』新作を発表!スマホ向けブラウザゲームを来春展開 |
手塚 当然、オープン化は想定しております。ですが、セキュリティーの問題など、万全な対策が必要になる部分もありますので、まずは自社のタイトルのリリースを優先して、サードパーティーが参加できる環境を整えていく予定です。
――今回のお話をお聞きすると、ネイティブアプリとも競合しそうな気もします。その点については、どうお考えなのでしょうか。
手塚 ネイティブアプリとは違う方向性でHTML5の市場を成長させていこうと考えているので、とくに競合するとは考えていません。あくまでも、違うアプローチで、違う遊びをお客様にお届けしていきたいなと。すでに2018年春のタイトル配信を発表しておりますが、スピード感を持って臨みますので、どうぞ今後の展開にご期待ください。
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