【超会議2016】『Ingress』&『シーマン』生みの親が語る未来のカタチ

2016-04-30 19:53 投稿

思わぬウラ話も飛び出したトークショウ

現在、千葉・幕張メッセで開催中の“ニコニコ超会議2016”。その初日である4月29日に、Niantic,IncのCEOジョン・ハンケ氏と、ゲームクリエイター斎藤由多加氏によるトークショウが実施された。

ジョン・ハンケ氏は、“生身の群衆、ゲームの群衆”と題して、世界をゲームの舞台にした拡張現実を楽しむ『Ingress』の生みの親。

 
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ゲームクリエイター斎藤由多加氏は、大胆なコンセプトとデサインな斬新さで多くのユーザーを驚かせた『シーマン』を出掛けたことで有名だ。

 
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本記事ではそこで語られた、両作誕生の経緯から今後のゲームについて紹介していく。

 
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ふたりが手掛けてきた作品

これまで“群衆”を作るゲームを多く手掛けてきた斎藤氏は、自身が手掛けた『ザ・タワー』を使って、人々の生活から生じるインフラ、渋滞をどう解消していくのかをひとつのテーマとしていたと説明。

また、『シーマン』では人間の人格を作ろうと考え、音声認識機能を使うことで対話を実現。お茶の間を画面の中から覗き込んでいると感じてもらうことが、ひとつのテーマだったと語る。

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▲餌にまで顔をつけたのは、ただ気持ち悪さを出したかったからと語る斎藤氏。当時、このインパクトは大きな話題となった。

斎藤氏はこの日、ゲーム制作から離れていた5年間に、『Earth BOOK』というツールを作っていたことを明かした。

日本史と世界史を個別の授業で受けていた我々にとって、時系列で把握しにくかった歴史の歩み。そうした空白にも感じた部分を地球上で統括、地図を使って追いかけることのできる、とても興味深いツールだ。

 
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▲試作段階ということでリリーズについては未定。これがあれば、苦手だった歴史も世界規模、映画のように楽しむことができそうだ。

一方、ジョン・ハンケ氏は“Google Earth”から『Ingress』を生み出した。ゲームから地図を作った斎藤氏とは正反対の歩みにも見えるが、ハンケ氏はもともと世界初のMMORPGとも言われる『Meridian_59』を手掛け、ある種の革命を起こした人物だ。

同世代で共通点の多い両名の話は、お互いが考えるゲームのありかたについて掘り下げられていった。

 
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▲1996年に始まった世界最初のMMORPG。会場にいるみんなは、きっと生まれてないよね、とジョン氏。

90年代をともに生きたクリエイターたちの想い

「Google Earthを使ってゲームを仕掛ける」ということに魅力を感じたハンケ氏は、位置情報やそれまで蓄積してきた同社の技術を使って『Ingress』を開発した。

本作は、ユーザーが介入することでゲームをより深く構築していくもの。ラスボスもいなければ、ゲームオーバーもない。とくに90年代からゲーム制作に関わる斎藤氏からは、ゲームらしくないものを手掛けた理由が知りたいとハンケ氏に問いかけた。

それに対してハンケ氏は、「新しい技術がさまざまなことを可能にしてくれた」のだと解答。ゲームを電源から抜き、外に出て楽しめるものを考えたとき、携帯電話にGPSが搭載されていることに注目した結果が『Ingress』につながったという。

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コンピューターゲームを作ってきたクリエイターは、いかにユーザーをテレビの前に釘付けにしようかと考えるのがセオリー。それをあえて覆す、ゲームデザインにおける発想の転換は、Googleにいたことが大きいのかと斎藤氏は問う。

それについてハンケ氏は、自身の子どもたちがゲームに夢中で外に出なかったことに触れ、「外に連れ出し、現実世界で新たな発見と感動を提供できるツールを生み出したい」という想いが原点なのだと語った。

 
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▲ゲームからたくさんのことを学べるとしたうえで、斎藤氏が制作している『Earth BOOK』を含め、子どもたちに伝えるツールとしてゲームは有効であるとハンケ氏は語る。

ゲームを作るうえで斎藤氏が考えるテーマ。それは、視点を変えさせることであり、紙媒体にはできないことだという。

その原点にあるのはMacintosh版の『シムシティ』。本作品は「○○をこうしろ!」と命令することがなく、プレイヤーの頭の中で、「こうしたらいいな」と思わせる力があった。

本は直接書くしかないが、コンピューターゲームにはプレイヤーを能動的に動かす力があり、まったく違った視点から物事を考えさせることができる。そう感じたのが『シムシティ』だったようだ。

ハンケ氏も『シムシティ』を例に挙げ、人口が増えると電力が足りなくなること、渋滞が発生することなどを学べるのもゲームの魅力だとした。

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続いて、そうした考えの中から、どのようにして『シーマン』が誕生したのかという話題へ。

『シーマン』の制作においては、当時は当たり前だった“かわいい”の真逆を行くことや、ゲーム中のキャラクターがコマンドを出すシチュエーションを作ることなど、あらゆる面から逆転の発想を選ぶことを心掛けていたという。

しかし制作中、ヒットする理由が見当たらないという答えから銀行に融資を断られたと、ウラ話を披露する斎藤氏。だが、そんな苦難を乗り越え『シーマン』は話題を呼び、ヒットを収めた。そのような経験から、世の中の素人が「つまらない」と言ったもの=ヒットするヒントだと考えるようになったのだと語る。

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▲『シーマン』のスケッチを見た斎藤氏の奥さんから、気持ち悪くてゾクゾクするから作ったほうがいいと言われた。その言葉も大きな力になったそうだ。

心の鏡となるゲームに出会う大切さ

マンガやゲーム、映画などに触れて“なんだろう”とザワつく感情。そこから得られるものはとても多く、大切なものだ。もし『シーマン』にそれがあるとすれば、どんな点なのかというハンケ氏の問いに、斎藤氏はとあるゲームクリエイターとのエピソードを語ってくれた。

「よいゲーム=ユーザーに何かを教えてくれる」

そう考える斎藤氏にそのクリエイターは、「『シーマン』は恋愛相談もできれば占いもしてくれる。しかし、氏が好きな『テトリス』はなにも教えてくれない」と突っ込んだらしい。それに対して、“長い棒1本を待つことをやめよう”そう教えてくれたんだと答えたという。

世界的ミュージシャンであるエリック・クラプトンが目の前で子どもを亡くしたとき、しばらくのあいだ音楽活動を停止。そのあいだ、彼は『テトリス』をしていたのだとコメントを残している。そうした言葉に斎藤氏は、「良いゲームとは心の鏡、ダイナミックな変化をもたらすもの」であり、「悪いゲームというのはムービー」なのだと自身の考えを述べた。

ARとVRが与えるものとそれぞれの可能性

拡張現実のARと、バーチャルリアリティであるVR。斎藤氏はハンケ氏のこれまでのインタビュー記事から後者には否定的なイメージを持っていた。

その違いを問うと、現実から切り離すものがVRであり、ARは現実世界をよりよくするものだとハンケ氏は答える。もちろん、いずれもすばらしいものだが、VR装置を実際に経験しているハンケ氏は、そのクオリティの高さに依存しすぎる人が増えるのではと懸念。

そうした考えに共感する斎藤氏は、自身のスマートフォンをスクリーンに投影。まったくリアルではない画面のなかに、人という記号を多く表示し動かすことで、それがリアルに見えてくるのではないかと問いかける。

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▲モノクロームで簡素な画面だが、たしかに人が増えた瞬間からリアリティが増し、それを目で追いかけてしまった。

技術の発展が人々のつながりを弱めつつある。しかし、本来はそうしたものが人をもっと上手につないでいく手助けになるべきで、この日のイベントもふくめ、こうしてユーザーを外に連れ出すことを大切にしていきたいとハンケ氏は答えてくれた。

また、日々ゲームのクオリティの上昇に合わせて中毒性も増しているのも事実。そうした面から悪影響だと見られることもあるが、多くのことをゲームから学ぶことだってできる。

良し悪しを感じて体感してもらう、そうした場を提供することが我々クリエイターの責任であり、大きな課題なのだという。

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▲イベントの後半、斎藤氏の呼びかけでドワンゴの川上氏も登壇。VRには大きな期待を持っていて、没頭しすぎるであろうことをいまから悩んでいるようだ。

ちなみに、今回のイベントを見ていた著者も『Ingress』エージェントであり、『シーマン』シリーズを愛する1ゲーマー。
偶然にも相方にシリーズ2作を両方与え、現在進行形でプレイさせていたところだったので、この夢のようなコラボが実現した瞬間は本当に驚いた。

ゲームに対するマイナスの意見も多いのは昔から変わらない。
著者の幼少期にも、いまと同じことを大人に言われ続けてきた。

ハンケ氏や斎藤氏はそうしたイメージをくつがえす、すばらしいチャレンジを続けていること。
それが確実にカタチとなって楽しめるいま、かわらずゲーマーでいられたことを心からしあわせだと感じた。

P.N.深津庵
※深津庵のTwitterはこちら

Ingress(イングレス)

ジャンル
オンライン位置情報ゲーム
メーカー
Niantic, Inc.
配信日
配信中
価格
無料(ゲーム内課金あり)
対応機種
iOS/Android

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