『BLOODMASQUE』スクエニ渾身の1作で新たな市場を切り拓く
2013-08-01 10:00 投稿
内製チームで手掛けたスクエニ渾身の1作
スクウェア・エニックスがiPhone、iPod touch、iPad向けの配信している新作アクションRPG『BLOODMASQUE(ブラッドマスク)』。本作は、ヴァンパイアハンターの一員となったプレイヤーが、史実と少し異なる19世紀末のフランス・パリで、ヴァンパイアたちとの戦いに身を投じていく物語。主人公を自分そっくりに作れるフェイスメイキング機能が特徴的な要素のひとつとなっており、とりわけ海外では大きな反響を呼んでいる。
この作品を手掛けたのは、『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』や『超速変形ジャイロゼッター アルバロスの翼』、『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』など、家庭用ゲームやアーケードゲーム業界の一線で活躍を続けている市村龍太郎氏。そんな市村氏がどうしてスマートフォンゲームを手掛けることになったのか、また本作に賭ける意気込みなどを大いに語ってもらった。
※本インタビューは、週刊ファミ通 2013年8月15・22・29日合併号(8月1日発売)に掲載したインタビューに一部追記し、再構成したものです。
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スクウェア・エニックス プロデューサー統括部 マネージャー プロデューサー/プロデュースチームリーダー 市村龍太郎氏 Ryutaro Ichimura ※文中では市村 |
――家庭用ゲームを手掛けてきた市村さんが、なぜスマートフォンでゲームを作ることになったのですか?
市村 理由はふたつあって、まずは『Infinity Blade』との出会いですね。よくできていて衝撃を受けました。それで、「何でこの作品を作ったのが自分じゃないんだ、自分で作りたい!」と思ったことがひとつ。
もうひとつは、スマホ市場が見逃せない大きなものになっているということです。友だちや一般のユーザーの方とお話ししたときに、コンシューマーゲームだとハードを持っていない方がけっこういらっしゃるのです。でもスマホは多くの方が持っていて、「やってみてよ」と言ったときに遊んでもらえる。作ってみたいという欲と、大勢の方に触ってもらえるかもしれないという可能性がダブルで来たら、これはもう作らざるを得ませんでした(笑)。
――確かに。スマホならその場でダウンロードもできますからね。ちなみに、プロジェクトはいつスタートしたのですか?
市村 じつはこの作品の原型は家庭用ゲーム機で動いていました。そのため、世界観などはものすごく練りに練りまくって作りました。
――スマホ向けタイトルとしては、非常に凝ったストーリーだなと思っていました。
市村 かなりの時間をかけて、最初に“バイブル”という年表を作りました。僕らの知っている歴史がヴァンパイアの支配する世界だったら、どうなっていったかということを想像して、2000年くらいの年表を作ったのです。今回は、その歴史から一部を切り抜いた物語が描かれています。
――そのバイブルはもう完成しているのですか?
市村 もう完成しています。ですが、中身の話が濃くできている部分もあれば、出来事のみを連ねているところもありますね。今後、ゲームの続編や小説、アニメなど、さまざまな展開をすることになった場合は、バイブルのどこからでも切り抜いて使えるようにもなっています。
――家庭用ゲーム機からスマホにハードを変えて加えた要素などはありますか?
市村 家庭用ゲーム機でやろうと思っていたことがスマホでどれくらい表現できるだろうか、という基準で、企画をすべてやり直しています。ですので、追加した要素は相当なボリュームになっていますね。自分の顔を取り込むフェイスメイキングも、スマホ向けになってから考えた要素です。
――そうだったんですか。フェイスメイキングはどういうところから発想されたのですか?
市村 キャラクターモデルを作る際に、3Dスキャンを取り入れることになりました。コストダウンなども考慮してフォトリアルなキャラを作ろうと決まったときに、「自分の写真を使ってできないかな」と思ったことがきっかけですね。
――ですが、せっかく作り込んだシリアスな世界観に自分の顔が出てきたら、台なしじゃないですか?(笑)
市村 確かに、ぶち壊しなのですけどね(笑)。開発の中でも「え!?」という声はありました。ですが、そこはお客様の選択次第で、使う方はギャップを楽しんでほしいです。日本人の感覚だと、恥ずかしがってしまうのですが、海外でこの要素の調査をかけたら、ものすごくウケたんです。
それに、NPCは人間からスキャンして作った3Dモデルですから、その中に同じ人間として入ることになるので許されるところがあるのじゃないかなと思います。デザイナーがしっかりとデザインした美男美女のキャラクターの中に、自分の顔をしたキャラクターを突っ込むということだったとしたら、僕もそれは「ない」かなって思いますし(笑)。
――そういうことでしたか(笑)。
市村 それに察しのいい方は、「自分の顔じゃなくて、好きなものをはめ込めばいいんじゃないか」とすぐ気づかれて。イラストでもいいですし、そもそも顔じゃなくてもいい。表情は3パターン作れるので、そこでネタを仕込んだりして遊んでほしいですね。僕も開発中に、飼い猫の顔を入れたりして驚かせたりしていました。バトルに勝利して喜ぶ顔のところで、いきなり猫に(笑)。もし、おもしろいネタを仕込んでくれた方がいたら、ぜひ「ナイスバディ」ってやってあげてください。
主人公を貸し借りできるバディシステム
――自分で作ったの主人公が、ほかのプレイヤーに貸し出される“バディシステム”もユニークですが、どういう基準でマッチングされるんですか?
市村 自分のキャラクターを作ったときにサーバーにデータがアップされていますので、その時点で誰かに雇ってもらえるチャンスがあります。お互いにフォローすれば優先的に表示されますし、facebookで連動させれば友だちが出てくるようになっています。
――海外の方もマッチングされるのですか?
市村 今回はリージョンを3等分していて、日本だとアジア全域とつながっています。言語によって絞り込むようにしていますので、日本語で遊んでいる人どうしでマッチングされることが多いと思いますね。バディの候補に漏れてしまったら、ほかの地域のキャラクターが入ってくるという感じです。
――アジア全域なら、いろいろな顔が並びそうですね。
市村 だと思います。テスト環境でもすごい顔が並んでいましたから。「おもしろい顔だから連れていこう」みたいなことも多いです。
――自分が主人公になるのもうれしいけど、他人の顔を見て楽しむというところも大きいわけですね。
市村 そうですね。戦闘中、バディの顔がアップになったりしますから。その部分は、わざわざ「ここはスローで見せてね」など、指定して作っています。ここドヤ顔タイムだからって(笑)。テスト中に社長の顔をしたバディを連れていたのですが、社長の顔がバーンと表示されたときは爆笑してしまいました。なぜか女性の姿でしたし(笑)。
――いつでも性別を変えられますからね(笑)。
市村 その日の気分で性別も変えていただければと思っています。まさしく自分の分身といったキャラクターや理想のキャラクターが作れるように、パーツを豊富にそろえていますのでいろいろと試してほしいですね。
『ドラクエIX』のときにも感じたのですが、ユーザーの方が自由に遊びを作れるような下地を作れるかというのは、非常に大切なのだと思います。すれちがい通信のような、奇跡が起こりそうな要素として、今回はこれを用意した感じですね。
――バトルの見どころを教えてください。
市村 僕の方針としては、とにかくシンプルな操作に集約したかったのです。タップで攻撃、スワイプで回避。操作はこれだけなのに、どれだけテクニカルに奥深く作れるというところに特化させています。上下にスワイプしたり押しっぱなしにしたり、認識方法はたくさんあるので、操作を複雑にしようとしたらいくらでもできると思います。ですが、せっかくお手軽にプレイできるタッチインターフェイスなのですから、複雑にしたくはなかったのです。なるべくカジュアルな人にも遊んでもらいたかったですし。今回の360度のバトルフィールドは、スワイプでくるくる回転しながら動くのがけっこう気持ちいいんですよ。当初は、スタミナを設けて回避に制限を加えようとしていたのですが、ストレスになるので取っ払ってしまいました。いくらでもくるくると回避してほしいです。
後は敵の攻撃パターンをどう読むかです。かなり忙しく判断を要求されるので、攻撃と回避しかなくても、いろいろとやっている気分になると思います。回避して攻撃を繰り返すうちに、今度は必殺技が発動できるようになりますので、ここではやりたい放題に超連打をしてストレス解消していただけたらなと思います。
――バトルフィールドの話が出ましたが、パリの街並がすごくキレイに作り込まれていますよね。どうして探索パートを設けたのですか?
市村 通常のスマートフォンのゲームであれば、探索などせずにミッションを選んでいきなりバトルをするパターンだと思いますが、あえて探索するように作りました。360度見渡せる美しい街並みを再現してあって、歩いて人と話すこともできますし、アイテムを見つけ出すこともできます。いままで家庭用ゲームを作ってきた制作チームが、本気でアプリの世界で戦うという意思表示の意味合いもあるかもしれませんね。
――では、最後に読者へのメッセージをお願いします。
市村 この作品は、スクウェア・エニックスの内製チームでガッツリ作った本気のタイトルです。アプリとしては大きなボリュームの濃厚なゲームになっていると思いますので、それを体感してほしいですね。クリアー後の仕掛けも用意してありますので、ぜひ最後まで遊んでみてください!
もうひとつ。現在は無料の波が強すぎるので、これからの市場を変えなくてはいけないと思っています。もちろん、それはそれでいいのですけど、最初にお金をいただくというビジネスが成り立てば、商売として非常にゲームが作りやすくなります。お客様にはハイクオリティーなゲームが手元で遊べるという贅沢感を味わってほしいと思っていて、それを継続するにはビジネスとして成功させなくてはなりません。ある程度ビジネスとして成り立てば、いろいろなメーカーさんも参入してきて、さらにおもしろいゲームが生まれるはずです。業界発展など偉そうなことを言うつもりはありませんが、僕らが挑戦することが、新しい市場を作る切っ掛けになればいいなと思っています。
BLOODMASQUE(ブラッドマスク)
- メーカー
- スクウェア・エニックス
- 配信日
- 配信中
- 価格
- 600円(アプリ内課金あり)
- 対応機種
- iPhone4S以降/iPod touch第5世代以降/iPad 2以降
- コピーライト
- (C)2013 SQUARE ENIX CO.,LTD. All Rights Reserved.
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