【個人開発者のやぼうとげんじつ】第1回:自信とセンスに溢れる学生集団“超水道”

2012-08-06 21:56 投稿

●意見をぶつけあって生まれる妥協なき作品たち

個人開発者インタビュー企画の最初に登場するのは、良質なノベルアプリを輩出する超水道。各自がペンネームで活動しているため、その正体はあまり知られていないが、じつは全員が現役の学生という彼ら。取材を打診すると、ミタヒツヒト、山本すずめ、佐々木ケイらメインメンバー3人が足を運んでくれた。

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※【個人開発者のやぼうとげんじつ】連続インタビュー企画 アプリをひとりで作るって、実際どうなの?

【超水道】
ミタヒツヒト(左端)
超水道代表。主にプロデュースとシナリオを担当。代表作は『森川空のルール』。現在大学生。課題の提出が危うい。

山本すずめ(右後)
超水道のメイングラフィックデザイナー。各種プログラミングも手がける。超水道作品のほぼすべてのイラストワークを担当。現在大学生。睡眠時間が危うい。

佐々木ケイ(真ん中)
超水道メインシナリオライター。必要に応じてグラフィックデザインも担当する。代表作は『ヴァンパイアハンターHIROSHI』シリーズ。現在大学生。講義の出席が危うい。

斑(右前)
超水道サブグラフィックデザイナー。2011年秋頃から地下帝国に送り込まれ連絡が取れなくなるが、無事生還を果たす。現在大学生。単位の取得が危うい。

――さっそくですがいままでに何本アプリをリリースしているんですか?

ミタ リリース本数は全部で4本です。その内1本が有料アプリになります。

――なるほど。いきなり下世話な質問になってしまいますが、どれくらい利益がでるものなのでしょうか?

ミタ 僕らは家が近所なので、近所のファミレスで打ち合わせと夕飯を済ませているんですが、その夕飯代で利益は使い切ってしまう程度です。ガッツリは稼げないですね。

――それは意外ですね。せっかくだからもう少し稼ぎたいという気持ちはありますよね?

ミタ そうですね、僕らは自分たちの好きなことで稼いでいきたいので、いまよりは稼げなきゃいけないと思いますね。稼ぐといっても「リッチになりたい!」ではなく、利益を得て生活していきたいんです。

山本 少なくとも、つぎの作品の制作資金になるくらいは稼ぎたいところですよね。

ミタ いまのところは、もっと稼ぎたいならアルバイトをしていたほうがいいという感じですね(笑)。

――なぜアプリを作ろうと思ったんですか?

ミタ じつはもともとアプリ開発がしたかった訳ではなくて、自分たちの得意なノベルゲームを多くの人に届けるには、スマートフォンアプリがいちばんよかったからなんです。ただ、いまはアプリの流通ルートが確立されていても、僕らの場合は利益を得る仕組みがまだ不完全なので儲けを出せていないという状態です。だからといって無理やり有料アプリを売ろうとするのも嫌ですね。

――自分たちがやりたいことを重視するスタイルなんですね。

ミタ お金についてもっと話をすれば、僕らもそれなりにダウンロード数はあるので、たとえば「売れているアプリの番外編を書きますよ」と出版社さんに声をかけたりすることもできます。ほかにも変わった試みとして、ユーザーの皆さんからカンパを募ってアプリを作るということもやってみました。この前は1週間でノベルアプリを作る企画があって、その最後にカンパシステムを盛り込んだんですよ。カンパしてくれた金額に応じた資料や特典をプレゼントするということをやってみましたね。

――無料アプリで稼ぐというと広告表示モデルがありますが、それはしないのですか?

ミタ “超水道”ではやらないです。たとえばすごく感動的なシーンで広告が流れてきたりしたら台無しになってしまうので……。ノベルアプリのなかでの導入は難しいと考えています

――では、いままでいちばんヒットしたアプリとそのダウンロード数はいくつですか?

ミタ いちばんヒットしたのは『ヴァンパイアハンターHIROSHI~Around the Clock Show!~』で、12万ダウンロードくらいです。

ヴァンパイアハンターHIROSHI〜Around the Clock Show!〜

街に現れるヴァンパイアを倒すヴァンパイアハンターとなってしまった青年の物語。イラストとBGMがところどころに挿入されているノベルアプリで、飽きることなく読み進めることができる。カバディやゴスロリオカマなど突飛な設定が散りばめられているが、それらを違和感なく取りまとめる高い文章力にストアでも好評価を得ている。

山本 ただ、それほど多くの方に認知していただけている感覚はまだないですね。有料で出したノベルアプリなんかはダウンロード数が5000前後でした。

――いやいや、十分ダウンロードされていますよ。ちなみに“超水道”の皆さんはどういう手順でアプリを制作されていますか?

ミタ すごく単純にいえば「○○な物を作りたいね」って話になれば、じゃあそれを作ろうという流れですよ。

山本 つぎはどういった作品を作るかの企画があがってから、実際形になるまでのセオリーは決まってないんです。最初にキャラクターデザインに手をつけるかもしれないし、ストーリーを緻密に作りあげてからデザインをおこすときもあるのでとくに決まった手順はないですね。

ミタ ただ、すべてに唯一共通なのは、作業が終盤になったころにつぎの作品の話が出ることです。いちばんたいへんな時期に、つぎの作品の構想を話し出すんですよ。

――つぎの作品の話が出るのが早いですね! では配信段階で自分たちなりに満足いく作品が出来あがっていますか?

ミタ リリースの日にちに追われて見切ることも少なからずあります。でも大体がプログラム方面でこれ以上はやめておこうという場合ですね。機能などは最初の半分くらいに収まりますね。

山本 なんでもかんでも詰め込めばいいって問題でもないと思うので。

――なるほど。ではいまはどのような生活スタイルで過ごされているのでしょうか?

ミタ 昼はふつうの大学生、それが終われば夜はアプリ開発ですかね。

山本 会議があればまたちょっと変わってきますが、ほとんど毎日がそんな感じですね。

ミタ “超水道”は4人しかいないので、そうやって学校以外の部分を全部使わないと開発できないんです。それでもライフワークとしていまの生活が成り立っているのは好きだからこそですね。

――メンバー内で喧嘩とかはしないのですか?

ミタ 喧嘩はします。でも、逆に「喧嘩しないでいい作品が作れるのか?」とも思います。喧嘩というか意見のぶつけ合いですよね。

――では、もととなるアイデアはどんなときに生まれますか?

ミタ つらいときがいちばん多いですね。つらいときにこんな物があればいいなという救いが自分の作品なんです。

山本 あとはある程度追い込まれないと出てこないというのもありますね(笑)。

――『HIROSHI』は最初はパソコンでのリリースでしたが、今後は基本的にスマートフォンだけで展開していく予定ですか?

ミタ そうですね。色々手を広げるとデバックがたいへんなんですよ。そんな理由でAndroidにもまだ手を出せません。

――スマホアプリということで、特段意識されていることはありますか?

ミタ とにかく親切にすることです。要は誰でも簡単に楽しんでもらえるようにしたいんです。僕らは、ノベルゲームでは珍しく、チュートリアルでセーブ方法やひと通りの操作方法を覚えてもらうゲームっぽい手法をとっています。

山本 わかりやすくするために、ノベルゲームでは栞をつけたりするケースが多いと思うんですが、僕らは読みながら2本指でタップすればセーブできるようにしています。簡単にしたつもりなんですが、従来のノベルゲームを親しまれている方には逆に分かりづらいかもしれませんね。

――いままで4本のアプリをリリースされていますが、自信作だったけど成果がついてこなかった作品はありますか?

ミタ この前1週間企画で作った『’99』ですかね。個人的には思ったより人気にならずに残念でしたね。

’99〜恐怖の大王と放課後の女神〜

超水道×ゲームキャストのコラボで行われた1週間でアプリを開発するという企画ものアプリ。ノストラダムスの大予言をテーマに描かれる不思議で引き込まれる“ダーク・ジュブナイル”。

山本 1週間企画そのものはかなり注目されていたと思うのですが、App Storeでは残念な評価も多くてなかなかきびしいなあと。

――なるほど。インパクトだけでは難しいということなのですかね…。皆さんはいまは学生ですが、今後の進路はどうされる予定ですか?

ミタ せっかくここまで来たら、“超水道”としての可能性を考えていきたいですね。アプリだけでなく、出版社さんで原稿を書いたりする道も模索しています。

――ではもし企業に声をかけられたどうしますか?

ミタ 喜んでついていきます(笑)。

――それがもし個別にかけられたとしたらそうしますか?

ミタ 個別だったらか……。完全に引き抜かれるわけでなければ問題ないですね。そうしないと個人の知名度もあがりませんしね。なんだかんだの野望として“超水道”を大きくしていきたいということがあります。

山本 街中でもっと“超水道”の名前に触れる機会を増やしたいというのが、いまの第一目標です。

――では今後“超水道”のメンバーを増やす予定はありますか?

ミタ ごくごくたまに入りたいとおっしゃっていただくことはあるんですが、失礼な言い方かもしれませんけどセンスの合う人がなかなかいないんです。実力というより人として僕らとセンスがあえば歓迎します。

佐々木 身内でというか仲良しでやっているので、いちばんは気の合う人がいいです。

ミタ そういう人が出てくるまではいまのメンバーのままでいきます。

――ではつぎに、いままで4本のアプリを出してみて、自分たちなりのAppStore攻略法は見つかりましたか?

ミタ App Storeというよりノベル・アドベンチャーカテゴリに関しては、個人製作っぽさを極力消すことです。大手メーカーの作品だと思われるように、アイコンや、紹介画像、テキストなどユーザーが触れる部分はしっかりと丁寧に作ります。ただそれだけでノベルカテゴリでは上位に入ることができると思います。

――では今注目しているゲームアプリはありますか?

山本 個人的な意見ですがカプコンの『ゴーストトリック』ですね。完成されたストーリーは、すごく勉強になります。あとはiPhone用への移植作品として、変わった操作感をうまくまとめているところなんかもさすがだなと。無料のノベルアプリもけっこうダウンロードして見てはいますがけっこうパソコンからの移植で、iPhoneならではの操作感を生かせてない作品が多いですね。

ミタ 逆にもしかしたらいつか僕らの作品も何かしらのゲーム機に移植されるかもしれないね。テレビでやってるかもしれない。

山本 そうなったらうれしいよね。

――ノベルではなくマンガなど、ほかの可能性は考えていませんか?

ミタ できることはできますが、ノベルの方ができることが多いんですよ。たとえばマンガで一日の話を書くと1冊分もないですが、ノベルならそこに音楽も詰め込めるし絵も詰め込める。まあ、マンガも描けといわれますけどね(笑)。

山本 マンガをそのままアプリ移植しているのもありますが、マンガに関しては、だったら本で読めばいいんじゃないかなって思うんです。アプリならではの見せかたもあるのはわかるんですが、個人的にはあまり必要性が感じられないんです。

ミタ シリアスな問題として、もし僕らがマンガである程度成功しても、そこにプロの人が参入してきたらまず勝ち目がないんです。でも、ノベルならまだ勝負ができるんじゃないかなと思っています。そこに関しては僕らは強い自信をもっています。

――それでは今後の配信予定を教えてください。

ミタ はい。『森川空のルール』の続編を夏にだす予定だったんですが、それはいったん延期にしました。そのかわりに『森川空のルール』を『ヴァンパイアハンターHIROSI』みたいなアドベンチャーゲーム形式でリメイクします。

森川空のルール

超水道が贈る“デンシノベル”シリーズ第一弾。ふつうの高校生の主人公が突然された告白にOKしてしまったことから始まるふたりのお付き合い。どこにでもあるような、ないような、正直で、偶にひねくれた、小さな恋愛物語。

山本 『HIROSHI』のインターフェースが横持ちでわかりやすいというのもあったので『森川空のルール』も同じ形で出力して、もう一度反応を見たいということがありますね。

――では、“超水道”として今後の野望はありますか?

ミタ それはもちろん“超水道”の活動だけで食べていくことです。今の形式だとまだ無理なので、売りかたや動きかたから見直さなければ無理ですね。知名度や販売方法がネックになると思いますが、かといって1話無料タイプでやっていくのも僕個人としては違う感じがしています。創作力はどこに行っても恥ずかしくないと思っているのでそれを武器にしていこうかなとは考えています。

山本 “超水道”がもっと世に出ることもそうですが、中の僕らがもっと有名にならなければいけない気がします。

――最後にファンの方に向けてひとことお願いします。

ミタ アプリのリリース日が延期ばかりでごめんなさい! でもクオリティーはどんどんあがっていくので期待してもらって大丈夫です! これからもどうかよろしくお願いします。

●『森川空のルール・再(仮)』最新情報!

インタビュー中にも出た『森川君のルール』のリメイク版が、『森川空のルール・再(仮)』。Windows専用ソフト及びiPhone/iPod touch専用アプリとしてこの夏に配信を予定しているとのことだが、本作のオープニングムービーのスクリーンショット及び製作風景を入手できたのでそれを独占公開しよう。

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