スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第十一回 「スマホVS携帯型ゲーム機」
2012-03-05 13:04 投稿
●第十一回 「スマホVS携帯型ゲーム機」
タイトルで“VS”とアオッってみましたが、今回のコラムは特にこれらの対決構造を描くわけではありません。“VS”とつけると劇的な感じになるのでやってみました。余談ですが“ANDをVSに置き換えると無駄にドラマティックになる”というのはありまして、これは知人が“ロミオVSジュリエット”という、プロレス&演劇が合体した興行の企画をやっていたときに、ひらめきました。誰でも簡単にできるので、皆さんもぜひどうぞ。“ぐりVSぐら”、“サイモンVSガーファングル”、“花VSゆめ”、“山VS渓谷社”etc……。ちなみにみんなで考えて一番無駄にドラマティックだったのは“部屋VSワイシャツVS私”でした。まさかの三つ巴抗争。
閑話休題。家庭用ゲーム機とスマホ両方のゲームをプロデュースしてきた不肖安藤が、今日は両者の違いについて、まずは“インターフェイス”にフォーカスして書きたいと思います。ゲーム機にはABボタンや十字キーがありますが、スマホはフルタッチのインターフェイスなので操作ボタンがない。ゲームを遊ぶ上でこの差は非常に大きいと思います。これは極端な話、スマホがゲーム機を超えられない“永遠の壁”とも言えます。実際、スマホのゲームを長時間遊んだ後に携帯ゲーム機を持つと、ボタンがあるので安心することがあります。ボタンやレバーをポチポチ・グリグリやるのって、本能的に気持ち良いんですよね。ゲームにとって、操作ボタンの“押し込み幅”や“手に馴染んで操っている感”は非常に大事ですから、それを構造的に失っているスマホはゲーム機としてハンデキャップを持っているとも言えます。故にXperia PLAYやYDPG18昇龍版のような商品コンセプトが生まれるわけですね。後者はデザイン的に“ええんかな”、“いやアカンやろ”ですね。
特に、より動的な操作を要求する“アクションゲーム”に関してはスマホで快適に遊んでいただくことは無理なのではないか? と思っていた時期もありました。iPhone黎明期である2009年9月の東京ゲームショー直後に4Gamer.netさんから受けたインタビュー(※)でもはっきりと、そう言っていますね。この頃はすでに『ソングサマナー』と『ケイオスリングス』の開発が佳境でしたから、静的な操作のRPGではスマホでも快適にプレイできるインターフェイスを創れる確信がありました。この“スマホでアクションは無理”問題に関して、鮮やかな回答を出して見せたのが2010年3月に発売された『ストリートファイター IV for iPhone』でした。ボタンもレバーも無いのに、快適に昇龍拳が出せたあの日のこと……忘れません。
※当時、安藤氏は「ゲームとして本当に快適に遊べるのか?」という点で、スマートフォンのインターフェイスと、アクションゲームの相性を心配していた。
上記問題はiPhoneアプリ開発者の集いでも、当時しきりに(カプコンさんが出席しているのにも関わらず)発言していましたから、『iPhone版ストIV』を手掛けられた手塚武さんに「安藤さんの問題発言には、この作品を出すことで、答えとしたかった」という一言をいただいた時には、やられました。手がけられているアプリはすべからく、手触りの良いものになっていますし、私が手塚さんをゲーム製作者として尊敬しているのはこの一件があったからです。結果、『iPhone版ストIV』はその年、もっともたくさんの数を売り上げたアプリになりましたよね。手塚さんとは2012年3月29日発売予定のファミ通Appムック本第二号で“2012年のスマホ業界”について対談をしていますので、そちらもお楽しみに。セガの椎野さん(ミスター『Kingdom Conquest(キングダム コンクエスト)』)とアドウェイズの桑田さん(ミスター『カイブツクロニクル』)と四人で先週、お話をしてきました。
本能的な“ボタン快感原理”によって、相対的に比較対象をすると、どちらかと言えばボタンがある方がいいという人が、特にゲーマーの方には多いと思います。ですが、いつの間にか“ボタンが無いことを忘れさせてしまう”手触りを目指すというのは、強化ガラス一枚のインターフェイスに立ち向かうときに製作者が忘れてはいけないことです。手塚さんの『ストIV』と私の『ケイオスリングス』には、しっかりとそれがあります。ですが手塚さんと違って、不肖安藤。この件に関しては、一度“痛いしっぺ返し”を食らったことがあります。それは2008年12月にiOS向けアプリ『クリスタル・ディフェンダーズ』を移植リリースした時のことです。フルタッチのインターフェイスにも対応したバージョンを用意する前に、ソフトウェアコントローラーで操作する“縦持ちバージョン”だけを、まず発売しました。これは年末の商戦期に間に合わせるという、プロデューサー(売り上げ責任者)判断を優先したためのことでしたが、お客様からの反応は散々なものでした。App Storeのレビューで言うと☆1つや2つの評価が多数投稿され、その時のショックと申し訳なさは未だに忘れられません。
その後、制作会社と徹底的にインターフェイスの議論と制作を重ね、3ヵ月かかって完全にスマホのインターフェイスに適応した“フルタッチバージョン”をVER2.0としてアップデートしました。元々の“縦持ちバージョン”も、画面下にあるコントローラーの“操作時の反応”や“押しごたえ”にもこだわって創ったもので、ドットやマス単位で細かな配置を決めるタワーディフェンスという遊びにとっても、操作のし易いものになっています。ですので“縦持ちバージョン”は、そもそも結構な自信を持ってリリースしたものでした(“縦持ちバージョン”は“オリジナルモード”として、現在では好みに応じてどちらも選べるようになっています)が、“それだけ”では全く通用しないのがスマホ市場。どこか舐めていたところがあったのだと思います。EAの方の発言だと思いますが「iPhoneでのリメイクは“移植”ではなく、“改作”と考えないと失敗する」というのは言い得て妙だと思います。
いまだに、移植作品で“画面下がコントローラー”、“画面に半透明のコントローラーが出現する”ものがあります。リソースの有効活用や予算、開発環境の問題もそれぞれあると思います。ですが、是非フルタッチのインターフェイスを原則基準としたアプリ開発に挑戦してみてはどうでしょうか。それにより、ゲームの面白さは飛躍的に向上しますし、商業的な効果も十分にあると思います。ちなみに『クリスタル・ディフェンダーズ』は、フルタッチへのアップデートにより、週間の売り上げベースが約5倍になりました。さらにこのとき、お客様に投稿していただいた“レビューの重要性”も改めて痛感しました。以来レビューに目を通すことは私にとって最重要項目の一つですし、レビューの意見に応えていく姿勢は今後も続けていきます。これからも遠慮なくどんどん投稿してくださいね。時間がかかるものもありますが、応えられる限りアップデートしていきたいと思います。実は『クリスタル・ディフェンダーズ』も近日中にiOS版のみ“VER3.0”に進化しますので、マグロご期待ください。
フルタッチのインターフェイスは、iPhoneやiPadでAppleが構築した本体操作が非常に直観的かつ快適なため、次世代のインターフェイスとして万能なイメージがありますが、決してそうとは言いきれません。たとえば、『ソングサマナー』や『ファイナルファンタジータクティクス獅子戦争』のように斜め情報から画面を捕らえたクォータービュー(isometric view)を表現に使ったゲームの場合。この手法は実際の奥行きではなく、XYZ軸をそれぞれ(多くの場合120度)ずらして、いわば目の錯覚を利用して奥行きがあるように見せているため、フルタッチにするとプレイヤーは、うまく距離感を測ることができず、押したいところが押せないという問題にぶつかります。開発当初はフルタッチなので、押したいところが直観的に押せるから絶対便利だよね……! なんて言っていたのですが、創ってみるとそれは完全に幻想に終わります。そのため、「今、あなたはこの座標をタッチしていますよ」ということを明示する必要があり、押したところを中心に波紋エフェクトを出すことによってそれを解決したり……と、なかなか一筋縄ではいかないことが多いです。
スマホをやると携帯型(据え置き型)ゲーム機の物理ボタンの操作が、情報の入力をいかにバシッっと決めているのかというのが、かえってよくわかります。物理ボタンの呪縛から離れてフリーになったフルタッチインターフェイスですが、それゆえ「どこでも触れるので、どこ触っているのかわからない」。いわば「なんでもできるは、なんにもできない」という盲点も。故に挑みがいがあるのがスマホでのゲーム開発ですし、これを乗り越えるとボタンがある携帯型ゲーム機では実現できない、直観的でヌルヌル動く“セクシーなインターフェイス”が生まれます。これを創るのが険しくも実に楽しいです。
前述の『FFT獅子戦争for iPhone』はPSPのSELECTやSTARTボタンまでフルに使って操作をしていたものを強化ガラス一枚向けにインターフェイスを分解して再構築した実に難易度の高いものでしたが、ボタンで遊ぶならPSPやPS1で遊べば良いと思っていますので、徹底的にフルタッチにこだわって、やっています。レビューを見ると“まだ馴染みにくい”との声も、特に日本のお客様から寄せられていますので、改善できるところは今後も徹底的にやっていきたいと思います。
また、最近はブラウザ型のものからアプリへと転身するスタイルのものも増えていますが、“フルタッチになったこと”、“ネイティブアプリになったこと”を見直して、ブラウザではできない“スマホならではの操作とは何か?”を心がけてアプリを創っています。それぐらい“物理ボタンとゲーム機”、“ガラケーと5ボタン”、“ブラウザとマウス”は相性抜群の優れたインターフェイスということですからね。いずれのハードにせよ“それならでは”の快適な操作を追い求めることに、変わりはありません。それではまた来週。
つづく
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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