『天華百剣 -斬-』“サービス終了寸前だったタイトルを、その後3年4ヶ月にわたって生き長らえさせた手法とは?【CEDEC 2022】

2022-08-24 11:52 投稿

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天華百剣 -斬-

限られたコストでユーザーに継続的な期待を抱かせ続ける運営手法とは?

2022年8月23日に開催された、開発者向けカンファレンス“CEDEC 2022”にて、セッション“サービス終了寸前だったタイトルを、その後3年4ヶ月にわたって生き長らえさせた「未来への期待」を醸成するプロデュース術”が実施された。

本セッションでは、2021年8月にサービス終了した美少女剣撃アクションゲーム『天華百剣 -斬-』のプロデューサーであるナカムラ ケンタロウ氏が登壇。

『天華百剣 -斬-』がサービス終了寸前だった状態から3年以上も継続できたプロデュース手法についてや、それでもサービス終了へと至ったアプリゲームが抱える課題について、その具体例を語られた。

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【講演者】
ナカムラ ケンタロウ 氏
株式会社ディー・エヌ・エー
ゲーム事業本部ゲームマーケティング部
マーケティングプロデューサー

2013年にDeNA Games Osakaに入社。複数のmobageタイトルや『戦魂』などにプランナーとして参加。
2017年11月より『天華百剣 -斬』チームに所属し、2018年1月にDeNAに転籍。2018年4月に2代目のプロデューサー就任し、2021年8月のサービス終了まで務める。
現在は運用タイトルのマーケティングを担当している。

今回のセッションのモデルとなる『天華百剣 -斬-』は、ナカムラケンタロウ氏がプロデューサーを担当したKADOKAWA、DeNAの共同プロジェクト『天華百剣』のアプリ版となるタイトルで、2017年よりリリースされた。

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ナカムラ氏は途中から本作のプロデューサーに就任したが、2017年4月にリリースされたタイトルながら同年秋ごろにはコストダウンの話が浮上していたそうだ。そして、2018年には早くもサービス終了の危機を迎えていたが、結果的にはその後2021年までアプリは運営され続けた。

結果だけを見るとうまく回復した成功例のように思えるが、実情としてはサービス終了までの長期間にわたって、深刻な影響が続いていたという。

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『天華百剣 -斬-』がサービス終了間近まで追い込まれた要因の代表が、今回のセッションでは3つ挙げられた。

ひとつは、エンドコンテンツの不在。

アプリゲームを継続してユーザーがプレイするのに欠かせないエンドコンテンツだが、コストダウンの影響で実装が頓挫していたそうだ。似たような理由で、マネタイズの計画が破綻した状態が長期間続いたことも、大きな影響を及ぼしていたという。本来、月に新規キャラを8体リリースしていく計画だったが、サービス1年目の秋以降は、半分の4キャラしか制作できない状況がサービス終了まで続いたそうだ。

これらふたつの構造的な弱点を抱えていたため、大掛かりなプロモーションをしても効果を得られない=大々的なプロモーションを実施できないという経営判断も、サービス終了につながった要因になったという。

ユーザーを引き留めるコンテンツの不足、マネタイズ計画の破綻と問題はクリティカルな要因に見えるが、実際にはその状態から3年以上サービスが続いている。では、そのような状況でどのようにして、サービスを継続していたのだろうか。そこには、運営として大事にしていたベースとなる考えかたがあったようだ。

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それが、“未来に対する期待をどれだけ提供できるか”ということ。ナカムラ氏は『FF14』プロデューサーの吉田直樹氏の言葉である、「MMORPGって“未来に期待して今を遊ぶゲーム”なんです」という発言が、アプリゲームにも当てはまると考えたそうだ。

そこで『天華百剣 -斬-』でも、ユーザーに対して未来に期待を抱けるようなアプローチを仕掛けたことが、3年以上のサービス継続につながったという。

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サービス終了が噂されるゲームや、明らかに運営の動きがないゲームに対して課金を躊躇う人は多いだろう。実際にナカムラ氏はデータで示してくれたが、ゲームに対して期待できる要素があるときは課金するユーザーが増える傾向にあるようだ。

その差は顕著で、ゲームに対して期待できるアプローチを行えた時期と、そうではない時期では課金者数に明確な違いが生じている。そのアプローチのひとつにはリアルイベントの施策もあったようだが、『天華百剣 -斬-』の場合はコロナ禍の影響でそれらが実施できなくなり、最終的にはサービス終了に至ったという。

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未来に期待を持たせるとは?

実際にどのように未来に期待を持たせたのか、その具体例も語られた。

『天華百剣 -斬-』では、アップデートやキャラ追加などゲーム内コンテンツに対する期待と、ゲーム外にも波及する『天華百剣』というIPに対しての期待というふたつの柱を軸に、ユーザーから期待を寄せてもらえるように努めたという。

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具体的に挙げられたのは、推しキャラが活躍できるゲーム環境、好きなキャラに新しいコンテンツが追加されるという期待、『天華百剣』のさらなる発展という3つの期待をユーザーに提供してきたそうだ。

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ゲーム内の要素では、キャラゲーとしての価値を把握し、全キャラが等しく活躍できるバトル環境をつねに目指していたという。具体的な内容としては、インフレはしない、パラメータがすごいキャラを作らない、特定キャラがいないと楽しめないイベントは実施しないといったもの。

インフレや特定キャラの重要度など、挙げられた内容はいずれも一般的にユーザーが反感を持ちやすく離脱する要素となる場合が多い。プレイヤーが継続的にゲームを遊び続けられる環境を作るよう注力していることが窺える。

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バトル環境については継続的に改修・調整をくり返していたほか、Pレター(プロデューサーレター)でプレイヤーに対してもアプローチしていたという。

本作の施策で特徴的なのは、Pレターで“いい材料”だけでなく、“悪い材料”も含めてプレゼンをしていた点。当時のバトル環境の問題の原因、開発上の経緯なども詳しく説明していたとナカムラ氏は過去のPレターをいくつか取り上げながら紹介していた。その中では、開発の実情や、運営型のゲームが抱える構造的な問題まで詳しく触れられている。

ゲームに対して抱いていた不満を運営側が理解した上で改善の意志を見せるというのは、ユーザーとしては安心できる材料になったことだろう。

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また、Pレターに掲載したバトルの環境改善の進捗については、毎月ロードマップも公開していた。

改修を希望していた内容がいつごろ実装されるかわかるだけでも、未来に対しての期待を抱けるポイントになりそうだ。

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ふたつ目のアプローチは「好きなキャラに新しいコンテンツが追加されるかも?」という期待を提供するというもの。こちらについては“キャラクタースキンを毎月追加する”、という運営手法が紹介された。

『天華百剣』では毎月新たにキャラ衣装が追加されていた。つまり、いつかは推しキャラの新衣装も来るかもしれないという半永久的な期待を抱ける仕組みになっていたのだ。

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また、これら衣装はただ実装するだけでなく、5つのコンテンツを1セットとして提供されていたのも大きな特徴。

毎月の生放送で新たな衣装を発表し、それにあわせて衣装をテーマにしたキャラクターソング(キャラソン)も実装していたのだ。衣装の発表からキャラソンの追加、さらにWebラジオではキャラソンを歌ったキャストのゲスト出演と、衣装ひとつからも複数にアプローチを行い、ユーザーに対して期待を絶たせないようにコンテンツ展開をしていたということだろう。

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前項では衣装追加のおまけとしてキャラクターソングを実装したと紹介したが、キャラクターソング制作という特徴的な手法もまた、『天華百剣 -斬-』が抱える問題に対するひとつの対応策だったとナカムラ氏は明かす。

当初はシナリオなしでイベント報酬として衣装を配布していたが、それだけではやや盛り上がりに欠けていたという。しかし、コストが限られている中でのシナリオ追加は難しく、比較的工数が少なく済むキャラソン制作に舵を切ったという背景があったそうだ。

このほかにも、Pレター動画版でキャラクターのバトル性能や衣装開発の裏話、キャラソンの楽曲解説などの施策も行われた。こうした努力により、ユーザーたちは『天華百剣』に期待ができるようになり、サービスの継続に成功したのだそうだ。

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最後のIPの発展について、ナカムラ氏は未来に期待を抱けるような話題・材料を提供し続けることの重要性を語った。

認知度の向上と、多くの人の話題に上がることの2点をつねに提供することが、IPの成長につながると考えたそうだ。具体例として挙げられたのは、キャラソンやWebラジオ、マンガや書籍といったグッズ展開。また、ライブイベントの開催やコミックマーケットへの出展など、リアルイベントへの出展も積極的に実施している。

『天華百剣 -斬-』というタイトルをキャラソンや、コミックマーケットなどのイベント経由で知ったという人も多いのではないだろうか。

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ここまで挙げられた施策を実施してサービスを継続していた『天華百剣 -斬-』だが、2017年~2021年のあいだには3つの大きな時代の変化があった。

ひとつが通信容量の大幅な増加、サブスクリプションサービスが一般化したことで、あらゆる場所でスマホで動画を見れるようになった。それに応じてフリーWi-Fiの増加や、20GBを使えるプランなどをキャリアが提供したこともあり、現在ではスマホで長時間動画を見ることも珍しくなくなった。

もうひとつが、オタク系コンテンツのメインストリームが、スマホアプリからVTuberへと変化したことだ。これまでゲームキャラに熱を注いでいたユーザーの一部が、VTuberに流れてしまったことも大きな影響となったようだ。

これらふたつの要因により、スマホアプリが担っていた“スキマ時間を埋めるための有力なコンテンツ”という地位が、上記ふたつの登場・躍進で相対的に、劇的に低下してしまったという。この変化に対して、アプリゲーム側もこれまでとは違ったアプローチ、意識が求められることになった。

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たとえばアニメであれば、サブスクサービスに加入していれば毎週いくつもアニメを視聴でき、最新作だけでなく過去作も好きなだけ見られる。これだけで1日を消化できるほどの膨大なコンテンツ量であることは言うまでもない。VTuberも同様で、ほぼ毎日のように配信をしており、いわゆる推しがいる人はそれらを追いかけるだけでも手一杯になる。

対するアプリゲームの場合は、月に数度イベントやガチャが更新されるコンテンツであり、1ヶ月スパンで見るとほかのコンテンツよりも提供料が圧倒的に少なくなっている。

これらの状況に対してナカムラ氏は、提供量の重要性や、短期的かつ定期的に期待感を抱かせる必要性や、アプリゲームのプレイサイクル設計が時代に合わなくなってしまったとも分析している。

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とはいえ、すでに運営しているアプリのシステムを抜本的に変えるのは難しい。従来のプレイサイクルを中心にコンテンツを提供するしかないのが実情だ。

その対応策として『天華百剣 -斬-』では、ゲームの更新以外にも頻繁に生放送やPレター、動画などの情報出しをして、コンテンツ提供を短いスパンで続けていたという。ゲームの更新がない期間も何らかの関連コンテンツを提供し続けることで、継続的にユーザーが意識を向けられる仕組みを作ったのだ。

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ユーザーに対するさまざまな施策、時代の変化に対する対応をくり返してきた『天華百剣 -斬-』だが、その中でも重要視していた観点についても解説があった。

それが、期待値へのリスクヘッジ。提供する情報が、ユーザーにとって期待していたものよりも悪い意味で違ったとガッカリされるパターンは、『天華百剣 -斬-』にとって致命傷にもなりうるリスクだったという。それを避けるためにもPレターでの情報提供や今後の予定の公開、アンケートを実施し、プレイヤーが求めるものを明確に提供することを重要視していたとナカムラ氏は語った。

プレイヤーのアンケートに対するフィードバックは詳細に行っていたようで、そのボリュームも年々増していたようだ。2018年と2020年のPレターでのアンケートへのフィードバックは、20倍以上の文字数になっていることからも、どれほど重要視していたのかが窺える。

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未来へ期待を抱けるコンテンツの提供、ゲーム・IPというふたつの側面へのアプローチ、そして状況変化への対応。これら3つが、『天華百剣 -斬-』のサービスを継続させていたナカムラ氏の手法として語られた内容。

セッションの締めくくりとして、ナカムラ氏は『天華百剣 -斬-』に対するふたつの心残りについても語っていた。アプリのサービスを終了させてしまったことについては、いまでも心残りだという。どのようにユーザーとサービス終了に対してコミュニケーションを取るべきだったのか、その正しい答えはいまだに出せていないそうだ。

もうひとつ、オフライン版を残せなかったことも心残りになっているという。プレイヤーからもオフライン版を望む声は多く届いており、残す方法を模索していたものの実現には至らなかった。ネックとなったのは、サーバー側で処理していたデータ群をクライアント側で処理する形に変更するシステム改修だ。これらは基礎設計の時点で想定する必要があり、後付けで実装するには相当な費用が必要になるという。サービス終了目前ではなく、開発初期段階や、余裕のある運営中にオフライン版への移行について、具体的に想定しておくことが理想だとナカムラ氏は結論づけた。

アプリゲームはサービスが終了すればなにも残らない、ムダになってしまうという意見は時折目にすることがある。ナカムラ氏はこれを大きな課題とし、「ゲームで遊んだ時間が、ユーザーさんの中でいい思い出として残り続ける方法は、今後も継続的に考えていきたい」と意欲を見せ、本セッションは締めくくられた。

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天華百剣 -斬-

対応機種iOS/Android
価格無料(アプリ内課金あり)
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ジャンルアクションRPG
メーカーDeNA
公式サイトhttps://tenkahyakken.jp/zan/
公式Twitterhttps://twitter.com/tenka_zan
配信日配信終了
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