ハイパーカジュアルって儲かるの?『レスキューカット』のMarkAppとAppLovinに聞いてみた
2019-12-16 18:00 投稿
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レスキューカット
ハイパーカジュアルゲーム、その可能性
スマートフォンアプリの開発費が高騰し、大型アプリが増えてきている一方で、逆にシンプルさを追及した、いわゆる“ハイパーカジュアル”と呼ばれるゲームも近年では増加している。
ユーザーの目が日増しに肥えていくなかで、ハイパーカジュアルゲームがどのように収益を生み出し、ビジネスとして成立させているのか、というのは興味深いポイントだ。
本記事では、日本やアメリカでApp Storeの無料アプリランキングで1位を獲得した『レスキューカット』に注目し、その内容を紹介するとともに、本作を開発したITIグループと本作でユーザー獲得およびマネタイズをサポートしているAppLovinに話を伺ったインタビューを掲載していく。
手軽な頭の体操に『レスキューカット』
『レスキューカット』は、捕らわれているキャラクターを、ロープを切ることで救出するゲームだ。
操作はロープを切るためのスワイプ操作のみとなっており、1ステージのプレイ時間は数秒程度とテンポもよく、シンプルかつ手軽に遊べるハイパーカジュアルゲームらしい作品となっている。
“隙間時間で遊べる”という表現はよくあるが、本作のスピード感はまさにそれだ。
起動した瞬間にゲームがスタートするという、ファミリーコンピュータ時代のゲームを思わせる遊びまでの早さ、そしてテンポのよさのおかげで、エレベーターで数階移動する程度の時間でも遊べてしまう。
少し頭を使うゲームがしたいが、そこまでどっぷり考えるのは疲れるからちょっと……、という人にはまさにうってつけのアプリと言えるだろう。
課金要素は一切なく、数ステージごとに動画広告が表示されるのみなので、気になった人は試しにプレイしてみるといい。
ハイパーカジュアルゲーム作りは儲かるのか?
以降は、本作を制作したITIグループの三枝光星氏(文中、三枝)と本作に動画広告を提供しているAppLovinの中村裕氏(文中、中村)に行ったインタビューを掲載する。
ハイパーカジュアルゲーム制作に関する質問から動画広告による収益の話など、ユーザー視点のみならず、ハイパーカジュアルゲームの作り手の視点で見ても興味深い話を聞くことができたぞ。
アプリ製作数は月20本!
――まずはITIグループさんについて、どのような会社なのか教えてください。
三枝 弊社は、自社アプリ開発、Web受託開発をメインに、各種メディア運営、アプリに関する広告やコンサルティングなど、幅広く事業展開を行っている。自社アプリ開発については、もともとカジュアルゲームやツール系のアプリなどを製作していましたが、1年ほど前からハイパーカジュアルゲームに特化するようになりました。
――ハイパーカジュアルゲームの製作を始めることになったきっかけというのは?
三枝 もともとは日本向けのアプリ製作を行っていたのですが、2年ほど前に『おいザコ!さすがにクリアできるよな?』というアプリを作ったころから、プロモーションなどの面でも日本市場だけではむずかしいと感じるようになったんです。
ちょうど同じくらいの時期に、世界でハイパーカジュアルゲームというものが一世を風靡しているという話を聞いたこともあって、そちらに挑戦してみようか、という形でハイパーカジュアルゲーム作りを始めました。
――『レスキューカット』はどのような経緯で開発されたのでしょうか?
三枝 基本的に、ハイパーカジュアルゲームはまず数を大量に作って、そのなかで当たりとなるタイトルを探していく、という作りかたなんですよ。なので、時間をかけて特定のタイトルを考え出すというよりも、アイデアをたくさん集めて形にしていくんですね。
『レスキューカット』に関しては、紐を使ったアプリや人間を使ったアプリがヒットしていたということもあって、それをひとつのアイデアにまとめた形になります。月に20本くらいのアプリを作るのですが、『レスキューカット』はテストプロモーションの結果がよかったので、さらにプロモーションをかけていきました。
――月に20本というのはすごいですね。それだけ数が多いとアイデア出しがたいへんなのでは?
三枝 プランナーさんが日々研究して頑張って考えてくれているので、彼らが本当に頼りになっている感じですね。『スーパーマリオブラザーズ』でたとえると、1-2面ぐらいまでを作ったら、すぐにテストしてしまうんですよ。
――かなり早いですね。
三枝 それぐらいなら、早いもので3日、長くても2週間程度で作れるので、どんどん作ってどんどんテストしていく、という感じです。スタッフがそれぞれたくさんゲームを遊んで研究しているので、おもしろいと思ったアイデアがあればどんどん形にしてしまっています。
――そしてテストの結果がよければ本格的なプロモーションを進めていく。
三枝 そうです。テストはアメリカなどで少額のプロモーションを行って、その結果で続けるかストップするかを判断しています。毎月20本程度作っていくなかで、ひとつでもヒットするタイトルが出ればいい、くらいでやっているので、もちろん大きく伸びないものもあります。
――1年前からハイパーカジュアルゲームを作られているということですが、製作のうえで心掛けていることはありますか?
三枝 ただ数を作るだけだとノウハウが溜まらないので、ある程度数を作ったら、よかったものと悪かったのも、それぞれどこがよかったか、悪かったか、というフィードバックを出す勉強会のようなものを開くようにしています。
10本中1本が当たればいいもの、というところから1本ではなく2本の当たりを出せるように、仮に悪い結果になってもそれまでよりは悪くなく、そしていい結果はそれまでよりもずっとよく、という風にできるように、データを集めていますね。
広告収入アプリのほとんどが使っているAppLovin
――『レスキューカット』は無料ランキングで1位を獲得しましたが、具体的にはどのようなプロモーションを行ったのでしょうか?
三枝 これはもう、AppLovinさんにやっていただいたという感じですね。もちろんほかの広告媒体さんも使わせていただいたのですが、AppLovinさんあってのものだと思います。最初にフェイスブックでテストをして、低いCPI(※)が出たときにAppLovinさんにお渡しして、最初にプロモーションをしていただきました。アメリカではいきなり5位に入ったのですが、そこは100%、AppLovinさんの力ですね。
※CPI:Cost Per Installの略。各種アプリストアからユーザーがアプリケーションをダウンロードし、インストール、起動するまでにかかるコストの指標。
中村 ありがとうございます。
――AppLovinさんではどのようにユーザーを集めているのでしょうか?
中村 まず、ハイパーカジュアルゲームのマネタイズは、基本的に課金要素を入れるのではなく、広告でマネタイズを行っていく仕組みなんですよ。おもしろいアプリならたくさん遊んでもらえるぶん、広告の視聴回数が増えますし、1週間、2週間と遊んでもらえるので、それだけ収益は高くなります。
それなので、得られる収益(LTV)がCPIよりも高くなる状態を維持しながら、なるべく多くの方にプロモーションをかけていきます。ターゲットユーザーをどこかに定めるというよりも、老若男女、国も問わず、全世界の人々をターゲットにしているというものですね。
――アプリのプロモーションを行ううえで、何か特別な施策などを行っているのでしょうか?
中村 動画のクリエイティブはテストをして、つねにいいものを出し続けていったり、実際に遊べるプレイアブル広告のサポートをこちらで行いました。
――アプリの広告が掲出されるのは、基本的にほかのアプリになるのでしょうか?
中村 そうですね。弊社の場合は100%アプリになっているので、広告を出していただくのも、載せていただくのもすべてアプリです。専用のSDK(※)を入れていただくだけで広告を出すことができます。
※SDK:Software Development Kitの略。ソフトウェア開発キットのこと。
――AppLovinさんのSDKを入れているタイトルはかなり多いのでしょうか?
中村 広告収入を収益の軸にしているアプリに関しては、日本のランキングトップ100に入っているタイトルは、ふたつを除けばすべて弊社のSDKが入っています。
『レスキューカット』はわずか3日で広告費を回収
――AppLovinさんとしても、『レスキューカット』はヒットしそうだという感覚はありましたか?
中村 フェイスブックでのテスト結果がよかったということで、弊社でもテストをしたところ、スコアはやはりすごくよく、これはいけるな、という感覚はすぐに得られました。三枝さんがおっしゃっていたように、最初は序盤のステージしか作らないので、ステージを作るあいだに広告側の設定なども決めていって、その後に本格的にプロモーションを進めていきました。
三枝 広告費が1日1000万円ぐらいになるので、リリース後はしばらく胃が痛いんですよ(笑)。
――すごい数字ですね。
中村 ハイパーカジュアルの場合、テストの段階で数千インストールはとるので、その時点で事前に収益性をかなり詳しく判断することができます。
その後に想定したLTVに基づいた利益を最大化できるCPIを設定し、そのCPIでスケールをできるだけスケールさせていきます。最初はリスクを感じますが、その後回収できてくるまでのサイクルを弊社でもサポートしています。
三枝 だんだん収益が増えていって、広告費を上回るポイントがやってくるのですが、そこにいくまではメンタルが強くないとたいへんですね。テストをしているとは言え、数が変わるとデータのブレも出てくるので、そのブレが許容範囲内かどうかなどをチェックしつつ回していく、というのがリリース後の動きですね。
――『レスキューカット』が広告費を回収できるボーダーを越えるのにはどれくらいかかりましたか?
三枝 このアプリは本当に成績がよくて、テストの予測通り3日で回収することができました。なので、最初の1、2週間だけでも相当の利益を得ることができたんですよ。
――1年ほど前からハイパーカジュアルゲームを作り始めたということですが、実際のところ売上は安定しているのでしょうか?
中村 ITIグループさんのように、早いスパンで大量にアプリを作ってテストをしている場合、結果がよかったものはもう1回くらいテストにかけるんですよ。そこでだいたいの収益が予測できますし、そこまではあまりコストもかからないので、大量生産をしつつテストを進められれば、安定してくると思います。
逆に、収益化が望めないアプリも早い段階でストップの判断を下せるので、収益化できるアプリに関して言えば、売上は安定しているのかな、と。
三枝 フェイスブックでのテストで、コストがかかりすぎると判断したものはそこで止めますし、再テストを行った場合も、リテンション(※)のパーセンテージが低ければ、そこでストップするか、もしくは小さいスケールでプロモーションを進めるかの判断を下します。アプリの製作開始からその判断を下すまでが、だいたい2週間から1ヵ月くらいですね。
※リテンション:顧客維持率。ユーザーがアプリを起動したつぎの日もアプリを起動する割合。
――テストの際のボーダーラインは、ITIグループさん独自のものになるのでしょうか?
三枝 大手メーカーのVoodooさんが公開している指標があるので、弊社も含め、多くのメーカーがその指標を参考に進めていると思います。それに加え、AppLovinさんからはテストの数値やゲーム自体に関して直接アドバイスをいただき、それも参考にさせていただきました。
広告を入れたら逆に継続率アップ!?
――広告を出すタイミングで工夫されている部分はありますか?
三枝 広告を入れると、基本的にはリテンションが下がってしまうんですよね。広告を出されてユーザーが感じるうっとうしさと、収益性の兼ね合いをデータで管理しながら調整しています。ただ、広告を見せることで逆にリテンションが上がるパターンもあるんですよ。
――広告が表示されることで逆に数字が上がる、というのはちょっと想像しにくいのですが、どういった理由なのでしょうか?
三枝 『レスキューカット』は、最初に広告なしで出したときには、ステージが100個しかなかったんですよ。ただ、広告なしで遊べると一気に遊んでしまって、2日目、3日目のリテンションがゼロに近くなってしまっていたんです。
ふつうに考えたらそこでストップの判断が入るのですが、チームからの発案で広告を入れてみたらいいんじゃないか、となって入れてみたら、リテンションが一気に上がったんです。広告が出たタイミングでプレイを中断して、つぎの日にまた遊ぶ、というパターンになったんですよね。
――広告を入れたことでリテンションが高くなるというのはおもしろいですね。広告がある意味プレイの区切りを付ける要素になった。
三枝 1ステージが5秒、10秒くらいで遊べてしまうので、広告なしだと100ステージは10分ぐらい遊び終わってしまうんですよ(笑)。さすがにそれではステージを作るペースがたいへんすぎるので広告を入れることになったのですが、非常にいい結果になりました。
中村 日本では「広告うざい」などのレビューが書かれたりしますが、海外では広告に対するヘイトが少ないので、結構な頻度で広告を出していてもリテンションへの影響は少なかったりします。ユーザーが多いので、そういったデータを見てすぐに判断できるのもハイパーカジュアルの特徴だと思います。
ハイパーカジュアルゲームで勝負するなら、AppLovin
――アプリ内で表示される広告はどのように選択されているのでしょうか?
中村 そこに関しては、弊社のシステムがアプリと広告の相性を見て、自動的に選定しています。ハイパーカジュアルゲームの場合はユーザーが多いので、広告の最適化がすごく早いんですよ。たとえば1日1回しか広告が出なくて、1日のユーザーが2000人ぐらいしかいないと、最適化に2、3週間はかかるのですが、『レスキューカット』レベルだと3時間もしないうちに最適化されます。
――すごい早さでユーザーに合わせた広告が表示されるようになるわけですね。ITIグループさんはいつごろからAppLovinさんで広告を出すようになったのですか*?
三枝 ハイパーカジュアルゲームを出す以前からですね。AppLovinさんのような広告会社がそもそもあまり数が多くないですし、海外に強いネットワークを持つ日本に拠点のある会社となると、もう選択肢は絞られているんですよ。
――海外にも強いのがAppLovinさんの魅力。
三枝 そうですね。アメリカでもかなり強いですし、先ほどお話にもあったように、有名どころのアプリもほとんどがAppLovinさんを使っているんですよ。なぜAppLovinさんがいいか、というよりは、AppLovinさんは当然使うもの、使わない理由がない、という感じですね。
中村 ありがとうございます(笑)。
三枝 AppLovinさんはいい悪いがはっきりしているので、ダメなものはダメ、というのがはっきりわかるんですよ。本当に、AppLovinさんで成功しなければ基本的に世界市場のユーザーは獲得できない、ぐらいに考えていいと思います。
――アプリの開発を進めるか止めるかの判断を早く下せるというのは、やはり大事ですか。
三枝 そうですね。自分たちと似たようなアイデアを持っている人は世界中にいるので、いかに早く作ってユーザーの興味を引くか、というのがハイパーカジュアルゲームではとくに大事になってきます。3ヵ月、4ヵ月と開発にかかってしまうと、もうトレンドが変わっていたりしますから。
日本的な発想だと、1本を作り込んでよりよくしよう、となりがちなのですが、ハイパーカジュアルゲームの場合は早さの勝負なので、先手必勝ではないですけど、まずは早くて収益性が出るものを作るという感じです。一度上にいけば、後からアップデートでよくしていくこともできますしね。
気になる月々の売上は……?
――ちなみに、ぶっちゃけた話、月々の売上はどれくらいなのでしょうか?
三枝 月ベースで言えば、10億に届かない程度ですね。そのほとんどは広告費になってしまうんですけど(笑)。どれだけ利益が残るかはアプリ次第ですが、優秀なものであれば半分くらい、イマイチなものなら1割から3割程度という感じです。
――ありがとうございます。では、最後に読者へひとことお願いします。
三枝 そうですね、ハイパーカジュアルはノウハウさえあれば、確実に当たる宝くじを獲りにいく、というイメージですね。さまざまなデータをしっかり見ていく必要はありますけど、ハイパーカジュアルゲーム作りは夢がある仕事だと思います。興味のある方は挑戦してみてください。あ、あと『レスキューカット』ぜひ遊んでください。
――ありがとうございました。
マネタイズ、ユーザー獲得からプロダクトまで、ハイパーカジュアルに関わる全てを、中村をはじめとした専門家がサポートいたします。
ご興味のある方は jp@applovin.com までお気軽にお問い合わせください。
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Twitter: @AppLovin_JP
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