『シノアリス』“現実篇”の少女を生み出したふたりのキーマンの制作秘話 現実篇グレーテルのデザイン画も初公開!【インタビュー】
2017-12-11 12:30 投稿
現実篇の美少女は彼らの手で描かれている。
ポケラボとスクウェア・エニックスが共同開発したスマホRPG『シノアリス』で、突如発表された新シナリオ“現実篇”。
“現実篇”では、新たにヨコオタロウ氏が書き下ろしたシナリオとともに、童話の少女たちの現実の世界をモチーフにした衣装を楽しむことができる。
そんな、これまでのデザインとは大きくテイストの異なる少女たちを描いたのは、キャラクターデザインを担当するジノ氏とポケラボのアートディレクター三浦拓也氏。今回は、『シノアリス』の魅力的な少女たちを描くふたりのキーマンにインタビューを敢行。現実篇にまつわる気になるお話をたっぷり訊くことができた。
・どこまでも現実を意識したデザインへのこだわり
・現実篇グレーテルのデザイン画を本邦初公開!
・各キャラで“もうひとつの服装”がある!?
・キャラクターに込められたジノ氏のこだわり
・ところで、おふたりの“現実”は?
・最後にユーザーの皆さんへひとこと
どこまでも現実を意識したデザインへのこだわり
──『シノアリス』の新シナリオ“現実篇”。シナリオはもちろんですが、キャラクターのデザインも、何のゲームかわからないくらい変わりましたよね。
三浦 生々しいですよね。シナリオは、現実にある目を伏せたくなる部分を寄せ集めたような内容になっています。デザイン側の話をすると、じつは今回の現実篇について、デザインに着手する初期段階では、ほとんどヨコオさんから設定をもらえていないんです。ヨコオさんも忙しかったようでして……(笑)
ジノ もらえた情報は、職業と年齢くらいですかね。
三浦 このふたつだけもらって、「後はジノさんよろしく!」みたいな感じで始まりました。信頼されている証拠ですね(笑)
──なかなか無茶ぶりのようにも聞こえるのですが……(笑)
アリスのデザインについて
三浦 たとえば、アリスであれば“学生”と書いてあるだけですからね。そこからジノさんが“どういう風にデザインするか”を考えてくれています。
──大部分は想像で作っていくのでしょうか?
ジノ もともと“衝動篇”、”憎悪篇”に登場する初期のキャラクターがいますので、そこから派生するかたちですね。初期のキャラクターを作るほどは難しくなかったかな(笑)
三浦 現実篇は、デザインをあまり盛りすぎない、と言うのが前提にあります。要は、あくまでも現実世界にある状態でなくてはいけない。アリスなら、制服だけどフリルを付けてみよう、なんていうデザインは基本NG。そういう縛りみたいなものが一応あるんです。
──たしかに。リュックやヘッドホンなんかは、本物そっくりですよね。
ジノ ちょっと個人的にほしいなと思ったものを真似して描いています。
三浦 来年あたりには商品化されているかもしれないですよ(笑)
──ちなみにアリスのシナリオですが、冒頭を読んだだけでもかなり重い話ですよね。
ジノ ヨコオさんぶっこんでくれたなって感じですね。メインキャラでこんなことをするんだって最初は思いました(笑)
三浦 シナリオは、アリスがいちばん衝撃的かもしれない。なかなか触れられない社会問題を取り上げていますからね。
ドロシーのデザインについて
三浦 “現実を意識する”という点で、髪の色などもこだわりましたよね。髪の色はできるだけ現実にあり得る色に変更しているんですよ。
ジノ それでいて、原作のキャラからはそこまでずれないような色っていう難しい落としどころに。
三浦 ドロシーはわかりやすいですね。もとは赤みがかった紫の髪から、現実にあってもおかしくない暗い紫のところまでトーンを落としています。
──たしかに。言われてみればぜんぜん髪の色が違いますね!
三浦 メガネのフレームもちょっと違うんです。
ジノ 下フレームだけにしちゃうと、髪と合わせたときに情報量が多くなってしまうので、上と下どちらも付けることにしました。初期のほうはフレームを上のほうだけにして、目が見えるようにしています。
──ドロシーのモチーフは科学者でしょうか?
ジノ ドロシーは最初“研究者”と聞いていたので、科学系だと思っていたのですが、あがってきたシナリオのプロットを見たらまさかの工学系(笑)。それにあわせて持ち物を調整しましたね。
三浦 紙袋もありましたね。ドロシーは、大量の部品を万引きする設定だったので、万引きするにも入れるものがなきゃ、っていうことで紙袋を持たせようと。
ジノ そうですね。現実社会でも違和感が出ないようにしています。生活していて職務質問をされるような恰好はさせていません。
三浦 秋葉原だと職務質問されそうですけどね。そういう商売と勘違いされて(笑)
赤ずきんのデザインについて
ジノ 現実篇でもそのまんまのキャラもけっこういるんですよね、赤ずきんはその代表です。
三浦 もともと初期の赤ずきんも現実にいておかしくない雰囲気でしたもんね。
ジノ ちなみに、赤ずきんが今回いちばん苦労していますね。
三浦 ジノさんにしては珍しく、赤ずきんは多分2、3回描き直してますね。
ジノ 赤ずきんに関しては、ヨコオさんと自分とのあいだに性格の捉えかたにズレがあった、というのが苦労した原因です。
──具体的にどう違ったのですか?
ジノ クレイジーの方向が違ったという感じでしたね。
三浦 衝動篇と憎悪篇では、赤ずきんは快楽での殺人などがベースになっているのですが、現実篇になるとまた一変します。そこの捉えかたにズレがありましたね。
ジノ 当初は衝動篇、憎悪篇でのイメージを延長して現実篇を作ったので、もうちょっと小綺麗な恰好でした。それを見たヨコオさんから「そうじゃないよ」という指示をいただいたときは、わりとスケジュールがぎりぎりでしたね(笑)
三浦 当初イメージした私たちの思う赤ずきんは、“雨合羽を着てスコップを手に笑顔で殺してる”みたいなイメージでしたけど、ヨコオさんは「笑顔はいらないよ」と。
ジノ そっちはちょっと狂気の方向が違ったみたいなんですよね。ただ、その指示のおかげで、むしろライブラリ世界のキャラクターはもっと快活にしていいんだ、という気付きも得ました。
三浦 ただ、今回の現実篇だと、ヨコオさんがジノさんのデザインに合わせてシナリオに脚色を加える、なんてこともあったんですよ。それをはたから見ていて、「プロフェッショナル同士のかけあいっていいな〜」と思っていました。
──ジノさんのデザインがヨコオさんのシナリオに影響を与えることもあったのですね。ちなみに、とくに思い入れのあるキャラクターはいますか?
ジノ 現実篇においてだったら、赤ずきんがやっぱり。手がかかったので思い入れもありますね。
三浦 たしかに。
人魚姫のデザインについて
ジノ でも、ふだん自分が描かないような職業のキャラクターでおもしろかった、という意味では人魚姫ですね。
──人魚姫のモチーフは銀行員ですか?
ジノ OLさんですね。ぜんぜん描かないタイプの年代層だからわからなくて。うんうんと唸りながら描いていました(笑)
三浦 ヨコオさんがOL好きというのもあり、そこのこだわりは大きかったですね。いまこういうOLの方ってなかなか、カタいところじゃないといないじゃないですか。なので、最初はふつうのラフなOLさんを描いていたんですけど、ヨコオさん的には「いや、これだ!」と言われまして……。
ジノ 「短大卒ぐらいのイメージで」という注文もあったので、強いこだわりを感じましたね。
──ヨコオさんの好みが活きたデザインになっているわけですね。
現実篇グレーテルのデザイン画を本邦初公開!
──今回、まだ世に出ていないグレーテルのデザイン画を見せていただけるとお伺いしたのですが……!
三浦 はい。グレーテルはちょっと際どい感じに仕上がりました。こういうデザインになったのは、シナリオを見てもらうとわかってもらえるんじゃないかな……。
ジノ 職業“引きこもり”。
三浦 “引きこもっていても多少の生活はしなきゃいけない”とか、“どんな感じで引きこもっているのか”、そういうのがジノさんのデザインの中ではすごく考えられている部分なんです。
ジノ グレーテルはネットゲー狂いの引きこもり、年齢は30歳。最近ネットゲームにはまってる人もアグレッシブな人が多いじゃないですか。ゲーム実況している人や美人な動画配信者さんとか、その辺も参考にさせていただきました。
三浦 この恰好での配信はなかなか攻めてますよね(笑)
ジノ これだったらビジュアルで売れて小銭を稼いでそうだな、という感じで描いてみました。
──変にキャラクター感がないので親近感が湧いてきますね(笑)
現実篇では、各キャラでもうひとつの服装がある!?
三浦 じつは、各キャラクターに“差分”も用意しているんです。要は、“服装変え”を現実篇ではできないかな、と。まだどういう形で出すかは決まっていないのですが。
──非常に興味深いのですが、具体的にはどうなるのでしょうか?
三浦 たとえば赤ずきんだと、ノースリーブのパーカーになりますね。ドロシーも白衣がないバージョンがあったりとか。そこまで大きく変わってないものもありますが。
──ちなみにアリスはどう変わるのでしょうか?
三浦 アリスは差分になるとシャツになって、シャツが濡れて少し透けている感じになるんですけど、基本下着は着けていないという設定ですよね?
ジノ どうですかねぇ。忘れちゃうこともあるよね、みたいな(笑)
三浦 差分はどんどん露出が高くなっていく可能性が高いですね。
ジノ ユーザーの皆さんの反響が良かったらスケベ方向の下心をもっと出して、バージョンを増やしていきたいです。
三浦 そうですね。欲望に実直な、欲望のアプリなので。
キャラクターに込められたジノ氏のこだわり
──話は変わりますが、ジノさんは1キャラにどれくらいの時間をかけていらっしゃるのですか?
ジノ キャラによるとしか言いようがないんですよね。スッと描きあがるときもあるば、スタッフの皆さんを困らせてしまうこともあります……。
三浦 1キャラデザインにかかる時間は、だいたい1か月ですね。
ジノ もっと早くしたいんですけどね……。
三浦 ジノさんの頭の中でキャラクターができあがっていくには、時間が必要なんですよ。初期の赤ずきんを描いてもらうとき、「ちょっと制作スピードを上げられないか」みたいなことを言って急いでもらったことがあるのですが、そのときは結局ボツになってしまったんです。本当に申し訳ないことをしてしまいました。そこで、やっぱり時間をかけることがジノさんには重要なんだな、と学びましたね。
──ユーザーの目に触れるのは、最後の成果物だけですからね。製作に1か月かかると聞くと、デザインを見る目も変わってきます。
三浦 実際に手を動かしている時間はそこまで長くないかもしれないですよね。逆に頭の中で形になるまでが長い。ファイルの名前を見ていると、これは何十回も直したんだろうな、という名残があるんですよね。
ジノ 自分が納得いくまでやりたいんです。もっと速く描きたいんですけどね……。
──実際に手を動かすまでのジノさんのこだわり的な部分を教えていただけますか?
ジノ キャラクターより小物のほうから攻めていくクセがありますね。何を着ているとか何を持っているとか。なので、わりと武器のデザインのほうが先にできあがることも多いですね。
三浦 たしかに。あれ、キャラが来てないぞ?ってことがあります(笑)。ジノさんの絵には、熟成されたお酒のような奥深さがありますよ。自分もいちユーザーですけど、ずっと記憶に残り続けるデザインだな、と思いますね。
──ジノさんは資料集めが独特なのでしょうか?
三浦 独特というか、その調べかたがどんどん細かくなっていく感じです。銃であれば、そのメーカーから製造された年月日に入っていき、構造はこれがどうなっているから、っていう風に入っていくタイプ。
ジノ いやさすがにそこまでは(笑)
三浦 いやいや、調べてるじゃないですか。
ジノ ヨコオさんからくる設定がそこまで細かくないので。
三浦 そうですね。ヨコオさんは設定の文章がだいたい3行ぐらいで終わるので……。
──逆に自由に描けるということですね。
ところで、おふたりの“現実”は?
──ここまで『シノアリス』の現実篇についてお伺いしてきましたが、おふたりの”現実篇”はいかがでしょうか?
三浦 ノーコメントです。
ジノ 自分はてっきり火の車ですって言うのかなと(笑)
三浦 本当に火の車なので、誰かいっしょに開発してくれる人、募集しています。ぜひ!
三浦 たくさんの方が『シノアリス』のファンアートを描いてくれているじゃないですか。何気にあれがうれしかったりしますよね。
ジノ これ自分より上手いんじゃないの、っていうのもありますよね。ぜひこちらまで。
三浦 ZIPファイルにまとめてもらって。
──インタビュー記事をうまく使いますね(笑)
最後にユーザーの皆さんへひとこと
──最後にユーザーのみなさんに向けて、ひとことお願い致します。
三浦 今回出てきたキャラクター以外の現実篇のデザインも、現在鋭意製作中です。きっと皆さんの欲望がいい形になっていくと思います。あとは現実篇が決して終わりではない、ということ。現実篇はあくまで通過点であるので、そこを考えてつぎはどんなのが来るんだろうな、っていう想像を膨らませながらプレイしてほしいです。
ジノ 自分としては、残りのキャラというよりは、新キャラの現実篇はどうなっていくんだろう、というのがありますね。そこも同じように楽しみにしていただけると。
──現実篇のキャラクターで注目してほしいところはどこですか?
ジノ 現実に生きる我々の写し鏡のようなキャラクターが揃っているのが現実篇です。どれかひとキャラでも自分と似たような状況にあるキャラがいたら、それはそれでまた違ったおもしろさが見えてくると思います。見た目はもちろんですが、シナリオでも現実の自分たちと照らし合わせながらお楽しみください。
三浦 いや、なかなかいないんじゃないかな、こういう境遇の人。
ジノ ここまでひどくはないけども、似たような境遇の人がどこかにいるかもしれないじゃないですか!
──これにてインタビューは終了とさせていただきます。ありがとうございました(笑)
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