【超会議2016】KORGやソニーの技術者が真空管への愛を語る!『真空管ドールズ』ものづくりMTG
2016-05-02 14:48 投稿
真空管に魅せられた男たちが徹底討論!
“ニコニコ超会議2016”のソニー・ミュージックエンタテインメントブースで開催された、“『真空管ドールズ』ものづくりミーティング”の模様をお届けする。
<タイムシフト試聴>
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各界を代表するものづくりのプロが登場!
このイベントは、『真空管ドールズ』の世界観に深く関わるモチーフ“真空管”について、『真空管ドールズ』原作者のJohn Hathway氏と各界の代表者たちがそれぞれの見地から語り合うというもの。
パネリストとして、スマホアプリ『真空管ドールズ』脚本担当の五百蔵容氏、電子楽器メーカーKORGの坂巻匡彦氏、ソニーコンピュータサイエンス研究所の吉村司氏が登壇。
原作者のJohn Hathway氏は頭に真空管を付けて登場。司会は電子工作に造詣が深いマルチアーティスト、ジュリ・ワタイが務めた。
真空管が生み出すもの
そもそも“真空管”とは何か?という問いに対し、KORGの坂巻氏は「効率だけを考えたらトランジスタを使えばいい。だが真空管にしか出せない音がある。だから、いまでもギターアンプやシンセサイザーで使われ続けている。真空管の魔法みたいなものがある」と回答。
それを受けて、John Hasway氏は「そこが『真空管ドールズ』の原点」と語る。
世界観を着想したきっかけは、UFO番組で“モントーク・プロジェクト”という戦時中の研究を知ったことだったという。これは電波によって人の精神に影響を与える実験で、現在は行われていない。
「先ほど、半導体で作った信号と真空管で作った信号は微妙に違っているという話があった。じつはモントーク・プロジェクトでは、装置に使われていた真空管によるアナログ的なゆらぎが精神に影響を与えるキーだったのではないかと考えた。その技術が発展した世界を想像した」と語った。
デジタルからアナログへの回帰現象
吉村氏は「ソニーこそ真空管を衰退させた張本人」としながらも、「真空管アンプには儀式性がある、電源を入れるとじわじわ光ってきて、おもむろに音がなる。この待ち時間がいい」と、デジタル製品にはない喜びを語る。
そのいっぽうで「デジタル時代になってハイビジョン、4K、8Kとどんどんスペックが上がっていく。だが単純に数字が上がれば感動もそのまま上がっていくのか? 数字で全部決着していては取り返しの付かないことになるのでは」と、デジタル技術の方向性に危機感を表した。
これに坂巻氏も「デジタルシンセサイザーは計算通りの音が出せるが、逆を言えば思った通りにしか鳴らない」と続く。
KORGでは一度は終焉したアナログシンセサイザーを2010年ころから再度製品展開。徐々に販路も拡大し、いまではデジタルシンセサイザーよりも販売が伸びてきているという。
司会のジュリ・ワタイからの「デジタルシンセサイザーはPCで代用できてしまう。モノとして選ぶとなると、アナログシンセサイザーがビンテージでかっこいいという要素もある気がする」との意見に対し、坂巻氏は「真空管もそうだが、モノとしての魅力がある。デジタルじゃないもので、所有感もある。レコードブームに近い」との見解を示した。
真空管の人間性
脚本を担当する五百鯉氏は、「真空管を使うと同じ規格でも違う結果が生じることがある。ひとことで言うと人間的。ここに魅力がある」と、真空管の魅力を語る。
さらにゲームにの設定面にも言及。
「登場するドールは製品として作られているため、同じキャラクターであれば同じ型番の真空管を装着している。しかし真空管のアナログ性ゆえに少しずつ違うキャラクターとなる。魅力的な設定だと思った」と、細部まで作り込まれた世界観を評価した。
ビデオゲームのアナログ回帰はあるか?
続いて議論は、ビデオゲームとアナログ性、そしてVRの話題に。ゲーム業界で長年活躍している五百鯉氏は、ビデオゲームにもアナログ的な要素が求められているという。
「同じゲームシステムの中で遊んでいても、プレイヤーの寄り道などによってプレイヤーが得られる“体験”は変わってくる。近年注目を集めるVR技術では、他人の手でカット割りされた映像ではなく、プレイヤーが見たいものに目を向けることができ、見たものがそのまま“体験”となる。これはとてもアナログ的な感覚」とし、今後はエンターテイメント全体が、この“体験”をいかにデザインするか、という方向に向かうのではないかと予測した。
また吉村氏は、かつてアーティストのライブシーンを全方位からカメラで撮影し、自分で自由に角度を切り換えながら見られるPS2用映像ソフトを制作したことがあるという。
「何万画素だからすごい、というような方向性に疑問を持ち、自由に視点を移動するというアナログ的な体験を再現するためにデジタルパワーを使用した。近年の発達したデジタル技術であれば、より自由度の高いもの、“アナログっぽいもの”を作れるのではないか」と語り、スペック競争から抜け出す鍵としてのVR技術に期待を寄せた。
未来へのメッセージ
アナログ回帰のつぎのトークテーマは、“よりよいものづくりのための、未来へのメッセージ”。
吉村氏は過去にトランジスタラジオが変革をもたらした最大の理由を、“シーン”を作っていけるようになったことだと語る。
「真空管をトランジスタに置き換えたことで、家庭用電源を使ったホームラジオだけでなく、電池で動く小さなラジオが作れるようになった。これにより、コンテンツは変わらないのに“浜辺で恋人と音楽を聴く”という新たな楽しみかたが可能になった。」
「お茶の間から浜辺に“シーン”が移動した。VRもそうだが、感性に強く訴える製品は“シーン”を変えていける」と、数字の競争ではない部分での勝負を強調した。
坂巻氏はKORGが昨年に発表した、電池で動くコンパクトなオーディオ用真空管“NuTube”について紹介。
「生活をより良くするには、変革を起こして新たな“体験”を与えるという手法以外にも、従来の“体験”の質をちょっと上げるという方法もある。真空管でしかできない体験をより多くの人に味わってもらい、“真空管の魔法”がもっと身近なものになってほしい」と語った。
脚本家である五百鯉氏は、逆に物語にはデジタル的な側面もあることを語る。
「物語は要素ごとに分解していくと決まったパターンしかない。並び換えれば物語らしきものはできるがそれだけではダメ。その根底に流れるドラマ的な部分がなくてはならない」
「ドラマをうまくデザインできれば、同じ要素が並んでいても違う感動につながる。このドラマこそアナログ的なもの」と、脚本作りにおけるアナログ的な部分の重要性を説いた。
ジュリ・ワタイからの「ストーリーの着想をどこから得ているか?」との質問に対しては「実際に起こった歴史を調べている。日本だけでなく世界各地の歴史を小国にいたるまで掘り返すと、ネタはいっぱい転がっている」と返答。
その点で『真空管ドールズ』に関しては、アナログ真空管デバイスという過去のものに未来への発想の原点を求めてつくっていく世界観に共感するものがあったという。
ドール型PCケース
John Hathway氏は、本来の研究分野ではないロボット作りに独学で挑んできた結果から、これからのものづくりにはアナログ的な感性が求められると語る。
その一例として、自身の制作した“ドール型PCケース”を取り上げた。
John Hathway氏は人間と共存するロボットを制作するにあたり、必要な要素として“人の形をしている”、“人の役に立つ”、“継続的に人と関われる”という3要素を抽出。
この3要素から人と共存するロボットのもっともミニマムな形を考え、“ドール型PCケース”に行き着いたという。
「人の形をしたドールにPCの利便性があり、さらにMini-ITX規格が存続する限り、マザーボードを交換していけば付き合っていける継続性がある。」
「動くことも何もできないが、人とロボットの関係性を最小限の形で表現した。数字の部分を無視し、アナログ的な感性を優先した作品。」と語った。
KORGと真空管
イベント中、「ちょっと話していいですか?」と坂巻氏。
「初めて『真空管ドールズ』の話を聞いたとき、完璧だと思ったんですよ。なぜなら、真空管って女の子なんです」との言葉に、会場から注目が集まる。
「真空管は女の子。壊れやすい、でかい、高い、言うことを聞いてくれない。でも楽器をやっている人間は真空管が大好きなのでついつい使っちゃう。そこに理屈はないんです」
「男の子にとっての“女の子が好き”っていう気持ちと、KORGにとっての“真空管が好き”っていう気持ちがほとんどいっしょ。理屈じゃなく、いいものだからいい」
「KORGは50年以上前の創業当時から、ずっと真空管を扱っている企業。その代表として真空管について語る機会をいただけてよかった」と、真空管に対する熱い思いを語った。
真空管と真空管ドール
続いて司会のジュリ・ワタイから坂巻氏と五百鯉氏に、「好みの真空管はあるか」、「シナリオを書くうえで気になった真空管はあるか」との質問。
坂巻氏は「会社でなじみがあるのは12AX7。プリアンプなどで使われているもので、一般に真空管と聞いて連想するものだと思う」と回答。
五百鯉氏は「アンプ用の真空管しか触ったことはないが、作中にも歌声を増幅して攻撃したり、人の神経に影響を与えるような歌を歌える子がいる。周囲へ影響を与えるアプローチの方法が歌うこと。ゲーム化されて動きや声がついたら魅力的なキャラになる」と語った。
12AX7をモチーフにしたキャラクターはカレン、KT88をモチーフにしたキャラクターはアンナとしてゲームに登場する。
また同様の質問を受けたJohn Hathway氏は、「まだゲームには出ていない」と前置きしたうえで、3CX15000Aという真空管をチョイス。
「これは送信管と呼ばれる分類のもので、巨大で高熱を持つため金属のヒートシンクで覆われている真空管。昔からこの手のものが大好き。」
「こういう攻撃的なキャラクターが今後出てくるかもしれないということで、自分でも期待しています」と真空管マニアの立場からもゲームへの期待を語った。
キャラクター作りの苦労
原作者であるJohn Hathway氏は、もともと同人作品として『真空管ドールズ』の原型となるTCGなどを作成していた。設定とイラストの両面でキャラクターを作っていくうえで、さまざまな苦労があったという。
設定面では、最初は真空管の個性ありきでキャラクターを作ろうと思っていたものの、コンテンツとしてのバランスを考えると印象を素直に投影しただけではおもしろくならないと考え、いろいろ調整しているとのこと。
たとえば坂巻氏からも名前の挙がった真空管12AX7。これをモチーフにしたキャラクター、カレンは迷彩服を着ている。じつはカレンのモチーフとなっている12AX7は音響用のものでなく、アメリカ軍の通信機に使われるシルバニア社製のものをモチーフにしているそうだ。
マニアックなネタながらも多くのキャラクターを生み出す原作者に対し、脚本担当の五百鯉氏から「ゲーム上の表現の限界や時間的制約などがあり、今回のアプリではまだマニアックな部分に深入りできているわけではない。続けるに従ってどんどんエッジを立てていきたい」と援護射撃。熱い意気込みを見せた。
John Hathway氏はキャラクターの設定のみならず、イラストも描いている。こちらについてもやはり苦しみは尽きない様子。
「真空管の単なる擬人化にならないようにしつつも、真空管が個性を作り出す装置という設定上、真空管の個性を取り入れていきたいというジレンマがある」
「真空管としてメジャーな型番のものにも、さまざまな用途のものがある。用途ごとに性格を当てはめていくと、メジャーな型番のものからどんどん使ってしまってたいへんなことになる。そのため意図してメジャーな型番を温存し、マイナーな型番のものを先に使ったりしながら考えなければならない。苦しみながらやっている」と、設定とイラスト両面からキャラクターを生み出す苦悩を語った。
最後にジュリ・ワタイから「ゲームオリジナル設定の真空管は登場するか」との質問。
これに対し、John Hathway氏は「アプリゲームとしての『真空管ドールズ』には出ていないが、以前に同人作品として作成したカードゲームではオリジナルのキャラクターも登場している。今後アプリにも登場するかもしれない」と返答。期待を匂わせた。
アナログ的精神で生まれる新たなゲーム体験に期待!
各界からものづくりのプロフェッショナルが集まった今回のディスカッション。各人とも郷愁の対象としてではなく、新しいものを作り出すための手段としてアナログ的な存在を捉えていたことが印象的だった。
『真空管ドールズ』は媒体としてはデジタルそのものであるスマホアプリだが、原作者のJohn Hathway氏、脚本担当の五百鯉容氏ともに、アナログ的なものや考えかたに対して強いこだわりを持っている。
このアナログ性がゲーム上でどのように表現され、さらに今後どのような“体験”を見せてくれるか非常に気になるところ。ゲーム本編はもちろん、今後の展開にも注目したい。
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真空管ドールズ
- ジャンル
- ドール型ロボット改造シミュレーション
- メーカー
- ソニー・ミュージックエンタテインメント
- 配信日
- Android 配信中、iOS 2016 年予定
- 価格
- 無料(アプリ内課金あり)
- 対応機種
- Android4.4 以上、iOS7.1 以上(タブレット含む)
- コピーライト
- ©Sony Music Entertainment(Japan) Inc.
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