【CEDEC 2015】『ドリフトスピリッツ』成功の影に隠れた失敗と対策
2015-08-28 19:15 投稿
『ドリフトスピリッツ』成功のカギは美味しいごはん?
2015年8月26日から8月28日までの3日間、パシフィコ横浜で開催されるコンピュータエンターテインメント開発者向けカンファレンス“CEDEC 2015”。ファミ通Appではスマホ関連のセッションを中心にリポート!
今回はバンダイナムコスタジオの中西俊之氏が行ったセッション“ドリフトスピリッツ ~加速進化する運営の秘密~”の内容についてリポートしていこう。
『ドリフトスピリッツ』とは、バンダイナムコゲームス(現:バンダイナムコエンターテインメント)が2013年にリリースをした(Android版は2014年)ドリフトバトルを題材としたレースゲーム。“電車の中で遊べるレースゲーム”というコンセプトで開発され、国内のみで500万ダウンロードを達成した人気タイトルだ。
このセッションに先立って、中西氏は「過去、CEDECのセッションで教えてもらったことをソーシャルに生かしている。なので、今回は私の話で少しでもみなさんに恩返しができればなと。すでにスマホゲーを作っている人にはあるある話になると思うが、これからスマホゲーを作ろうとしている人のお役に立てれば幸い」と述べている。
セッションは、開発・運営時に起きたトラブルとその対策、そして成功した秘訣と思われることがいくつか説明された。
まず、『ドリフトスピリッツ』が成功した要素のひとつとして中西氏が挙げたのが、競合がほとんどいないアプリの開発であったという点。現在ファンタジーRPGの新作を出そうとすると、すさまじい競争に身を投じることになるが、当時レースゲームというのはほとんど競合がいないコンテンツであったという。中西氏はこれをラッキーとしつつも「やはり競合が少ないところを攻めただけでなく、システムをシンプルにして、レースゲームが持つ敷居を下げた結果、(リリース初期の)自然流入だけで15万人という形になったのでは」と述べている。
ごはんはシンプルに、おかずが濃い目に
開発においてのポイントは、主体の遊びをシンプルにすることだという。中西氏いわく「コンシューマーゲームとスマホゲームのいちばんの違いは、その時間だ。コンシューマーゲームは、クリアーするまで何時間プレイをするかというところがポイントになり、スマホゲームでは短いプレイを何回くり返すかがポイントとなる。なので、スマホゲームは主体となる遊びを何度もくり返すことになるため、あまり濃いものにしてしまうとすぐ飽きられてしまう。なので、主軸となる部分は、面白くしつつも、あくまでもシンプルにまとめたほうがいい。主軸となる部分をごはんとし、味の濃いおかずのようなものはイベントとして出せばいいのだ」とのこと。
しかし、中西氏は「ただシンプルなものを作ればいいわけではない。マズいごはんはNGだ」とも警鐘を鳴らしている。では、どのようにすれば、主軸をいいものにできるのか?
それは、プレイヤーに不意に変化を与えることだという。『ドリフトスピリッツ』では、単調なレースを飽きさせない工夫として、カメラワークに注力して見た目に変化を持たせているという。ただし、あまり派手にせず、ときたま「今のシーンすげぇかっこいいじゃん! あのシーンまた見たいわ」と思わせるように、激しく競り合っているシーンを頻繁に見せないような作りになるよう調節をしているそうだ。
また、この頻繁に派手なシーンを出さないというのは“スピリッツ”というシステムにも採用されている。“スピリッツ”は、車に派手なエフェクトがかかり、スピードが速くなるもの。この“スピリッツ”が発動するには、正確な操作に加え、非公開となっている特定の条件が必要となっているという。中西氏によると「正確な操作への褒美として“スピリッツ”を与えてしまうと、プレイに緊張感が生まれにくくなり、単調なものとなってしまう。“スピリッツ”は一度発生すると、その後正確な操作により連続して発生させることができるものなので、不意に訪れた“スピリッツ”にプレイヤーは緊張して臨むことになる。この刺激が重要。いいタイミングで刺激を与えられるものこそが、いいごはんになる」とのこと。
良かれと思った運営が裏目に
開発でのポイントが解説されたのち、話は運営のポイントに。
サービスが始まる前、『ドリフトスピリッツ』は課金アイテムとしてガソリン(ソーシャルゲームでいうスタミナのようなもの)を100%回復するアイテムを100円で販売する予定でいたという。しかし、『ドリフトスピリッツ』はガソリンをキレイに使い切るのが難しいゲーム。そこで、中西氏は「75円でガソリンを75%回復するものを販売しよう。そのほうがムダになる分が少ないので、お客様も喜んでくれるはずだ」と提案。デバッグ班などの反対を押し切り、この設定でサービスインをしたという。
しかし、結果は中西氏の思い届かず。ユーザーからは「75%回復なんてケチな運営だ」と酷評されることになってしまったという。この反応を受けてすぐに“75円で100%回復をする仕様”に変更をしたという。この失敗について中西氏は「お客様のためにと思って100円で100%を75円で75%しても、それはあくまでも開発内での話なので、お客様に届かない。すぐに対応をして、当初より安く提供をすることにしても「最初からそうしろ」、「こんな常識もわかってないなんて、運営無能すぎ」と酷評を受けてしまった。このように、運営とお客様の気持ちが乖離してしまうことはよくあること。これに対しての簡単な対策はないので、ひたすらお客様の気持ちに立つよう意識しなければならない」と反省点をまとめている。
また、運営時の失敗として語られたのが“コンテンツの消費速度”について。スマホゲームのコンテンツは、コンシューマーのそれとは比較にならないほどの驚異的なスピードで消化されていくという。そして、その消費ペースは実際にサービスインしてみないとわからない。セッションではその具体例としてレベル上限が挙げられた。
『ドリフトスピリッツ』は、サービス開始当初、レベル上限を200に設定。これは、想定ではプレイヤーが2年間継続プレイをして到達できる域だと考えられていたが、実際にはたったの半年でそこに近づくプレイヤーが出現。急遽レベル上限を開放することになったという。
これの対策として、中西氏は「最初に公開するコンテンツを減らしてでもストックを作っておくべき」と指摘。また「パラメーターをカンストさせないように工夫するのは重要。運営タイトルは終わりに達せられたらそこで終了してしまう。予測外の事態というのは絶対に起こるものなので、非常識な想定をしておいて損はない。むしろ必要だ」ともまとめている。
課金者と無課金者の差別化
現代のスマホゲームにおいてよくテーマにのぼる話題“課金と無課金”。課金者には課金したことによる恩恵を感じてもらわなければならないが、課金者が絶対に勝つような仕組みは無課金者のモチベーションを削いでしまう。かといって課金者と無課金者の差を少なくしてしまうと、課金のメリットがなくなり、運営が立ち回らなくなってしまう。
中西氏も『ドリフトスピリッツ』の運営でこの難しい問題に悩まされたという。『ドリフトスピリッツ』運営当初は登録車種が少なかったため、課金・無課金の両ガチャで“基本的にはパーツが排出され、車が出れば大当たり”といった姿勢をとっており、課金ガチャは無課金ガチャと比べて車の排出率を3倍にすることで対応をしていたそうだ。しかし、それでも排出率はあまり高いとは言えず、課金をしても課金のメリットを感じられないものとなっていたため、ユーザーからは不満が続出。ここでも「バンナムは金の亡者」という酷評を受けることになってしまったという。
中西氏はこれに対応するため、課金ガチャでの車の排出率を大幅にアップ。これで不満はある程度解消されるものと思われたが、そこでまた新たな問題が発生。もともとの実装車種が少なかったため、有料ガチャで排出される一部の車は無料ガチャでも低確率ではあるが排出されるという結果に。それにより、課金の価値が感じにくくなってしまったそうだ。
現在は、実装車種を増やしたり、確率の面でも排出車種においても課金・無課金で差を付けたり、排出が確定されるガチャを用意したり、ステップアップガチャで課金したことがムダにならないように配慮したりとさまざまな改良を加え、ようやく不満を多少抑えられるようになったという。やはり、この“課金・無課金”というテーマには誰しもが苦しんでいるらしく、いまだこれというベストな解答は生まれていないことが明らかになった。
全体を通して、最後に中西氏は「今までいろいろやってきたが、それでもお客様が満足を得られているわけではない。今後も努力が必要だ。『ドリフトスピリッツ』が成功したのは、いくつかのラッキーと努力、ミスをしてもすぐに修正できる体制、そしてなにより何があっても諦めず前に進み続ける気持ちをスタッフみんなが持っていてくれたからだ」とまとめている。
ドリフトスピリッツ
- メーカー
- バンダイナムコエンターテインメント
- 配信日
- 配信中
- 価格
- 無料(アプリ内課金あり)
- 対応機種
- iPhone、Android
- コピーライト
- (C)BANDAI NAMCO Games Inc. All trademarks and copyrights associated with the manufacturers, vehicles,models, tradenames, brands and visual images depicted in this game are the property of their respective owners, and used with such permissions.
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