iOSの隠し球“Metal”って何? ゲームはどうなる? 大手メーカーにも聞いてみた

2014-08-10 12:01 投稿

よくわからないけど何となく頷いてしまうアナタに!

2014年6月に行われたAppleの開発者向け発表会WWDC(World Wide Developers Confrence) 2014。iOS8などソフトウェアに関する発表が行われたのは、ファミ通Appの読者であれば記憶に残っていることだろう。

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そのなかで“Metal”と呼ばれる新しい技術の発表が行われたことは覚えているだろうか。多くの時間を割いて行われた発表ではなかったが、おもに開発者サイドに少なからぬ驚きを与えるものであった。

多くのユーザーにとって、技術面の発表というのを意識することはあまりないと思う。だが、このMetalを利用することによって、グラフィック面においてさらに進化したゲームが登場すると聞けば、いったいどんなものなのか興味もわいてくるのではないだろうか。

そこで編集部の「Metalって何なの?」と「?」マークが浮かびまくる編集者が、アプリの開発者に取材を敢行。できるだけわかりやすく噛み砕いた形でその内容をお届けしたいと思う。

ゆっくり理解できる……はず!

Q.Metalって何なの?

A.A7チップ専用のグラフィックAPIのこと。

いきなりわかんない単語キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

というわけでざっくりと説明しよう。

まずA7チップとは、AppleがiPhone 5sで初搭載したモバイルCPU。最大の特徴は64ビット化している点で、iPhone 5に搭載されたA6チップに比べ、最大で2倍近くのパフォーマンスを発揮するというもの。

そしてグラフィックAPIとは、グラフィック表示に関する共通基盤のことだ。もっとわかりやすく言うと、「こういう絵を表示させたい」という命令を共通化させるためのシステムと考えてほしい。どのゲームでも共通した命令が使えれば楽チンだというのは、何となくわかってもらえると思う。

Q.なんでいままでMetalがなかったの?

A.iPhoneでもAndroidでも使えるオープンなAPIがあったから。

これまでこの役割は、OpenGL ESというシリコングラフィックス社の作ったものが多く利用されてきた。iOSだけでなくAndroid、Windows、MacOS、LinuxなどさまざまなOSに対応しているため多くの開発者が利用したのだ。

Q.じゃあなんでMetalが必要なの?

A.専用のものなら端末のスペックを最大限引き出せるから。

アップルが新たにMetalを作った理由のひとつは、iOS端末の性能を最大限引き出すためということで間違いないだろう。なぜなら、OpenGL ESのメリットのひとつである、“幅広い対応”はハードの性能を限界まで引き出せないというデメリットにもつながっていたからだ。

これは当然のことで、いろいろなものに対応させようとすれば、iOS端末の性能だけを限界まで引き出すことは難しくなる。

そこでMetalはA7チップ専用とすることで対応端末に限っては従来以上のパフォーマンスを発揮できるようにしたということだ。たとえば、群衆処理能力を求められるようなシーンの描画などもMetalであれば苦もなく表示できるはずだ。

Q.まだよくイメージできないんだけど……。

A.図で解説しよう!

上の図は、この取材時にアプリの開発者の方がMetalをイメージしやすいようにざっくり描いてくれたもの。スマホを操作したときの命令に対して、グラフィックが描画されるが、操作したという情報がSYS(システム)→A7CPUと流れていって、最後にMetalを通って描画されているわけだ。

A7から左に矢印が出ているが、この片方はOpenGL ESで、片方はMetalだ。OpenGL ESだとその処理に時間がかかるが、Metalだと早く処理できる、ということだ。

この図が表していることは、スマートフォンの操作に対して、どう応答するかという部分で、OpenGL ESだとほかの端末にも対応するため命令の通り道が“長い”ので時間がかかり、Metalだと専用のため“短い”ので早く描画できるということだ。

なお、“長い”“短い”というのは、あくまで概念の説明ということで、正確な表現ではないことをご了承いただきたい。

Q.じゃあすごいゲームが出まくるってこと?

A.すぐにはそうならないかもしれない。

こちらは少し期待と違う答えが返ってきたのだが、理由ははっきりしている。なぜならMetalはA7チップ専用だからだ。つまりiOSの最新端末しか対応していないのだ。さらにビジネス的なことを考えると、開発環境を所有する大手メーカーになるほどiOSとAndroidのマルチプラットフォームで出したいというのが本音だろう。しかし専用のフレームワークでとなるとその点で自由が効かないため、Metalスタート時に多くのゲームが登場するという可能性は低いかもしれない。

Q.コンシューマーの移植とかもすごいのができる?

A.そうとは限らない。

じつは移植に関してはMetalは足かせになる可能性もある。コンシューマーとはまったくべつのコンセプトのフレームワークに移植することになるので、対応するものがなければ独自に同じような機能を作らなければいけないからだ。

Q.アンリアルエンジンと何がちがうの?

A.扱う領域がちがう。

アンリアルエンジンは、高レベルな3Dモデルやゲームシーンを簡単に扱えるようにした“ゲームエンジン”と呼ばれているもので、もっとハードに近い下の階層にあってOpenGL ESなどを呼び出して動いている。ちなみにWWDCで公開されたでもグラフィックのZen Gardenは、Metalに対応したアンリアルエンジンで動作しており、ほかにもUnityなども対応が可能になるだろうと予想されている。

といったところでMetalのことは理解はできただろうか。iOS8から新たに使えるようになる機能も多いようで、それを活かしたゲームは今後確実に出てくると思われる。Metalに限らず、最新の端末であるほうがゲームを快適に遊べるのは間違いないので、秋発売と噂される新型iPhoneの購入をぜひ検討してみてほしい。

Metal発表を受けて各社クリエイター陣の反応は?

上記でMetalについて何となく理解できた(と思う)が、ここからはスマホゲームの開発を手掛けるゲームメーカー各社のクリエイターはMetal発表について何を感じたか? 今後のゲーム開発にどのような影響があるのか? ストレートにMetalについてコメントをもらったので掲載しよう。

池P/コロプラ
『スリングショットブレイブズ』プロデューサー

Q.Metal発表を受けてどんな感想を持ちましたか?

まず純粋にわくわくしました!一人のプログロマーとして、ゲームクリエイターとして、ゲームの新しい世界を広げてくれるそんな技術のような気がします。「Metal」によって今まで表現することが難しかったゲームアイディアが実現できるのではないかと思うと、早くさわって色々試してみたいと思う反面、さらに気合いを入れてゲームを作らなければという焦りも感じました。コロプラは、モバイルゲームメーカーの中で早くからネイティブ、3Dと挑戦的にゲーム開発を続けてきましたが、「metal」のデモを見て、ついにハイエンドなゲームを作り続けてきたコンソールゲームメーカーと同じ土俵に立たなければいけないときが来たか、と実感しました。私たちは「Metal」を使った、コロプラらしく新しいおもしろさを探求していきたいと思います。


Q.Metalという技術に期待していることは?

一番期待しているのはGPGPUです。グラフィックスのためだけにGPUを使うのではなく、衝突判定などの計算処理にGPUを使うことで、今まで出来なかった表現が可能になります。特に大規模な物理シュミレーションや流体など、見ているだけでおもしろそうな表現がたくさんできそうです!

 

畑 圭輔氏/スクウェア・エニックス
第9BD マネージャー・テクニカルディレクター


Q.Metal発表を受けてどんな感想を持ちましたか?

Apple社は、自社ブランドチップとしてCPU,GPUを統合したAシリーズチップを開発することでパフォーマンス向上を図ってきましたが、描画命令を行うOpenGL ES API自身のボトルネックに関しては、依然として解消出来ない問題でした。しかし、WWDC 2014のMetalの発表において、このボトルネックを根本的に解消することができ、開発者は、より高い表現をiOSデバイス上で構築することができるようになりました。それはすなわち、iOSデバイスに特化したコンテンツ制作を期待しているというApple社からの強いメッセージであると感じました。


Q.Metalという技術に期待していることは?

現状Metalは、A7チップを搭載したデバイスに限られることになりますが、コンソール機に比べてどうしても制限事項、最適化テクニックを必要とし、そこに多くの時間を費やす羽目になっていた部分を打開することができる素晴らしいAPIセットだと感じています。まずは、APIセットの公開ということで今後iOS 9,10と続いていく中でMetalに特化した開発環境の改善に期待し、より開発のしやすい環境が提供されることを期待しております。

 

西村 大介氏/ガンホー・オンライン・エンターテイメント
『ケリ姫スイーツ』プロデューサー

Q.Metal発表を受けてどんな感想を持ちましたか?

スマホのゲームはコンシューマーと比べると、端末の性能に依存している部分が多く、少ないポリゴン数や小さいテクスチャでなんとかやりくりしているので、これでさらなるクオリティの向上に繋げられると思いました。と、元デザイナーとしては思いましたが、プロデューサーとしては、クオリティを上げるための期間と費用が増える……。と嬉しい反面複雑な気持ちに……。

Q.Metalという技術に期待していることは?

一番期待しているのは描画処理であるドローコールの高速化です。スマートフォンで開発するにあたり、最も気を付ける部分の一つとして、如何にドローコールを減らすかということがあります。デザイナーとプログラマーはそれを常に意識していて、完成間近にはゲームのパフォーマンスを上げるためにドローコールを必ず見直しています。ですので、それを考える時間が減り、デザイナーとプログラマーがクリエイティブな業務に集中できるのなら最高です。また、ドローコールが高速化することにより、解像度の高いテクスチャが使えるのでグラフィックのクオリティが向上します。

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